潜入したは良いけれど
少しは苦戦するかと思った街への潜入は予想以上にあっさりと成功した。
「質問も無し、ここまであっさりと潜入できるとは思いませんでしたね」
「あぁ、ガバガバすぎるだろう」
しかし、このままこの場所でしばらくの間は滞在するとなると金を稼がないとならないな。
その稼ぎの手になりそうなのは今のところアルルくらいじゃないのか?
「なぁ、アルル」
「何ですか?」
「金を稼ぐ必要があると思うんだが、どうすれば良いと思う?」
「ここと向こうでは通貨が違いますしね、一応お金の価値は聞きましたけど」
生存していた人からここのお金の価値を聞いたという感じか。
「困りましたね、これはかなり…何処かで働かないと」
「ひとまず少しの間は持ってきた食料があるから良いが、長期的に考えると不味いな」
「そうですね…じゃあ、しばらくは仕事探しですね、任せてください」
それから何時間か経過したが、仕事は見付からなかったようだ。
そりゃあ、ほんの数時間探した程度で仕事を見付けることが出来れば苦労ない。
「はぁ、暗くなりましたね、宿も無いしどうしましょう」
「野宿だろ、まぁ、長距離移動したときによくやったから別にどうって事無いけど」
「私も大丈夫」
「そうですか、それに街ですしね、問題無いでしょう、あ、あそこの公園で休みましょうか」
しかし、街に着いて早々に野宿か、幸先悪いな、ま、大丈夫だろう。
とりあえず俺達は大きめの公園で寝る事にした。
「それじゃあ、お休みなさい、風邪引かないでくださいね」
「大丈夫だって」
……さっさと寝床に入って、眠ろうと目を瞑ってみる。
しかし、どうも落ち着かない…長距離の時はもうちょっと静かだったが
こう言う街での野宿ってのはなぁ、何か色んな音や声が聞えて眠れねぇ。
仕方ない、このまま寝るのは無理そうだし、ちょっと起きておくか。
にしても、2人はよく眠れるよな。
「……ふぅ…ん?」
俺が眠るのを諦めて空を見ていると、なにやら複数の足音が聞えてきた、こんな時間に団体様か?
「おい、ここに女が来たってのは本当か?」
「あぁ、来たぜ、子供持ち、いや、妹か? 1回入ってから全然出て来やしねえからよ
多分ここで寝てるんだぜ? まさかの野宿だ」
「女が野宿ねぇ、へへ、不用心にも程があるぜ」
「さっさと探そうぜ、見付けたらヤリ放題だ」
うわぁ、まぁ、考えてみれば街の方が危険ではあるな、アルルって無駄に美人だし
こんな場所で野宿とかしてたら、クソに目を付けられるのは当然か。
いや、マジで眠らなくって正解だったな。
「そう言や、妹とかが居るとかも言ってたが、そいつらはどうなんだ?」
「ガキだぜ、精々6歳程度じゃねーの?」
「お、俺の守備範囲内じゃねーか」
「このロリコンが」
「良いじゃねーかよ、あの何も知らねぇ純粋な感じ、穢してぇって思うだろう?」
……これは本当にヤバいぞ、いや、元々ヤバいけどよ
まさかのロリコン……しかも6歳が守備範囲とかフランが危ねぇ
まぁ、別に人の趣味をどうこうは言わないけど、リアルに手を出したら行けない奴だろ、それ。
せめて二次元だけで我慢すれば…そうか、この世界にネットなんて無かったな。
しかし、このままじゃマジでフランも不味いな、見付からないようにソーッと隠そう。
面倒ごとが起きたら厄介だしな…折角の潜入がバレて…お、そうだ。
「気持ち悪いな、本当によぉ」
「まぁ良いじゃねーかよ、趣向は何だって良い、とにかく女どもを見付けようぜ」
しかし、暗いせいで見えにくいな、よし、ここなら大丈夫だろう。
木陰に隠れて、銃口の先端をちょっとだけ出して。
「お、見ろよ、ここに女が! よし、早速、うぐ!」
あ、危ねぇ、まさかこんなにも速く2人が見付かるとは思わなかった。
「おい、どうし、ぅ」
「何だよ、何が、い!」
「何ふざけてんだよ、お前、ら…」
「眠いのか? だから眠ってから来いと、いって…」
ふぅ、これで全員眠らせたな、まさか5人も来るとは思わなかった。
本当に面倒くさいなぁ、こんな治安がクソ悪いところで野宿は駄目だな。
本当にさっさと宿を見つけ出さないと不味いっての。
「おい、アルル、フラン、起きろ」
「ふぁい…もう朝ですか?」
「朝じゃねーよ、さっさと移動するぞ」
「え? 何でですかぁ?」
「お前の隣で寝てる男を見ろよ」
「ん? おわぁ! 何ですかこの人!? 何でズボンずらして!」
「狙われてたんだよ変な連中に」
「う、うへぇ、じゃあ、私はリオさんが起きてなかったあらぬ事になってたんですね
知らない間に貞操の危機とか怖すぎるんですけど」
「んぁ? お前に貞操なんてあったのか?」
「ありますよ、私、処女ですよ?」
「そうなのか? 変態発言ばかりしてるくせに?」
「それとこれとは関係ないですよ…」
まぁ、別に無駄に言及する必要は無いか、とりあえずさっさと移動しないと面倒だ。
目が覚めたときに俺達の顔を見られたりしたら大変だからな。
「それじゃあ、フランさんを背負って移動しますね」
「分かった、さっさと行くぞ」
アルルはフランを背負い、軽く急ぎ足でこの公園を後にした。
はぁ、しかし、こんな風にキモいのが湧くような治安か、まぁ、何処でも湧くだろうけどさ。
「しかし、なんであんな面倒な人達に目を付けられたんでしょうね?」
「公園に入るときに見られていたみたいだな、後はお前が無駄に美人だからだろう」
「び、美人!? 美人ですか!? 美人ですかね? わたしって美人ですか?!」
「しつこいな! 何回言ってるんだよ!」
「い、いやぁ、リオさんにそんな事を言われたのは初めてでしたから、その、凄く動揺して」
「動揺する必要ないだろうが」
「だって、好きな人に言われるとドキッとしません?」
「しない」
経験したことねぇし、いや、言われたことはあったけど
その言った人は好きと言えば好きだが、普通の好きじゃ無い人だし
まぁ、あの時は、正直は? と思ったけどな。
「まぁ、リオさんはまだ7歳ですし、当然と言えば当然ですね
むしろそんな事をリオさんに言った人が居たとすれば、私はその人に殴り込みを」
「美人と言われたことはある、カナン先生がたまにいってたな」
「…私には手出しできませんね」
流石に先生に対して敵対心なんて向けないよな、俺達に取っての母親みたいな物だし。
そんな人に対して殴り込みなんてしたら、流石に俺達が黙っちゃいねーからな。
「ま、まぁ、良いですよ、とにかく」
「おい、そこのお姉さん、美人さんだねぇ、妹を連れて大変じゃねぇの?
と言うわけで、俺達とちょっと遊ばね? 良いところ知ってんだ」
「ほら、美人さんって言われてるぞ? 嬉しいんじゃねぇの?」
「こんな気色の悪い人達に言われても全く嬉しくありませんよ」
「意外とイケメンって部類に入るんじゃね? 知らねぇけど」
「気安く知らない人に話しかけたあげく、くだらない事を言う人の何処に魅力を感じろと?」
うーん、本当にここ治安悪いな、いや、年頃の女がこんな時間出歩いてりゃ、目も付けられるか。
「おい、お姉さん」
「近寄らないでくれます? 気持ち悪いんで」
「あぁ!?」
「本当に嫌ですね、本当の事を言われて怒るなんて」
「テメェ! 下手にでてりゃあ、いい気になりやがって! ぶっ殺すぞ!」
「出来もしないことを」
「へ!」
アルルの挑発に切れたのか、あの男は自分の懐から折りたたみのナイフを出した。
何でこんな物を携帯してるんだ? いや、まぁ、戦争してる訳だし、刃物はめちゃくちゃあるだろうが。
「ナイフですか」
「どうやらビビったみたいだな、殺されたくなけりゃ、大人しく俺の言う事を聞け
その可愛い妹たちも殺されたいのか? んん?」
「抵抗しても死ぬし、抵抗しなければ死ぬより辛い目に遭いますよね?
それにこの子達が無事であるという保証だって無い、それなのに言う事を聞くとでも?」
「へ、じゃあ、お望み通りに殺してやるよ!」
「リオさん、フランさんお願いします」
アルルは背負っているフランを下ろし、突撃してきた男のナイフによる突きを回避。
すぐにその男の腕を掴んで軽く捻り、刃物を落とさせた後に
足を払い、その男を地面に叩き付けた。
「ぐは!」
「武器があれば勝てる、なんて勘違いしてる地点であなたは私には勝てないんですよ」
「この…あま!」
あの男はすぐに動き、落としたナイフを取り、俺の方に走ってきた。
「不味い!」
「このガキさえ捕まえれば!」
「……アホだな」
俺はウィンチェスターを召喚して攻撃をしようとしたが、嫌なタイミングで
あの男が動きを変え…俺のウィンチェスターが最悪な場所に当たった。
「あぐあぁあ!」
いや、狙ってないぞ? 狙ってないんだけど、何か召喚したらこいつが体勢変えるから…
や、ヤバい、自分でやっておいて……あれ、ぜってぇ痛ぇよ、ありゃかなり悶えるぞ?
ヤバい、何かゾッとする…うぅ、絶対に食らいたくないな。
「り、リオさん、流石ですけど…あの人、凄く悶えてるんですが」
「あ、あれは…分かる奴にしか分からない激痛だ…あんな風にやるつもりは無かったんだ
だが、最悪のタイミングであいつが動きを変えたからこんな事に…」
あんな目に遭っちまったら、俺なら多分1時間は動けないと思う。
「うぐ…うあぐぅあ!」
「えっと、とにかくリオさん、逃げましょ?」
「そ、そうだな」
俺達はその場から逃げだした、しかしまぁ、逃げるあてなんて無いし
とりあえず、適当に動き回ることしか出来ないな。
こんなんじゃ、ろくに寝る事も出来ないぞ…それにこれ以上は目立つ。
「そこのお姉さん、妹を連れて夜の街を散歩なんて随分と危ない事をしてるじゃない」
必死に走り回っている俺達に声を掛けてきたのは何処かのお姉さんだった。
黒色の長い髪の毛で、右に三つ編みをしていて、黒い瞳、服装は正直言って露出がかなりあり
ヘソが見えるし、胸元もかなり開いてる…開きすぎだろ、これ。
足には薄黒いストッキングがあり、靴は大きめの黒いヒールだ。
「あなたは?」
「そう警戒しないで良いよ、何て事は無い、ただの飲み屋の店主さ」
「飲み屋?」
「あぁ、ここのね」
お姉さんは後ろにあるコスモスと書いてある店を指差した。
「ここが飲み屋さん…ですか?」
「そうだよ、私の店さ、客足もそこそこあるんだ」
「そうですか、ですが、良いんですか? 休んでて」
「バイトの子が1人居るから平気さ、それよりどうだい、うちで働かないかい?」
「何でです?」
「こんな時間にウロウロしてるって事は金が無いんだろう? うちも人手が足りなくてね
働いてくれるんなら、あんたら3人分の食事、3食と寝床は用意してやるよ
給料は1時間で500だ、あまり無いけどその中から宿代、食事代を引いたりはしない
まぁ、ベビーシッターまでは出来ないけど、お互い、悪い話じゃ無いだろう?」
至れり尽くせりって感じだな、上手い話しすぎて逆に怖い。
「それではあなたにプラスはあまり無いと思うんですけど?」
「新しい看板娘が手に入るんだ、それだけで客足は伸びるさ」
「言っておきますけど、私は絶対にいかがわしい事なんてごめんですよ」
「そんな店じゃ無いって」
「その格好で言っても説得力はありませんよ」
アルルの言うとおり、この人の格好を見たら、この店がいかがわしい店だとは思うな。
「私が客寄せの為に着てるだけさ、この店に制服なんてありゃしないしね」
それでも露出が多すぎる気がするが、だが、この話はかなりいい話だ。
情報収集のためにも酒場は重宝するし、向こうは俺達に
3人とも3食宿屋付き…ハッキリ言って、とんでもない好条件だ。
「アルル、この話、乗った方が良いぞ、情報収集にもなるし」
「…分かりました」
「で? どうすんだい?」
「……分かりました、私、あなたの店で働きます、ですが、いかがわしいことは絶対にしませんよ?
もし私に触れようとする人が居たら、容赦なく投げ飛ばしますよ?」
「それで良いさ、それじゃ、今日からよろしく頼むよ、おっと、自己紹介しないとね
私はエナだ、あんたは?」
「私はアルルです、この子はリオ…この子はフランです」
呼び捨てか、初めてだな、まぁ、向こうは俺達の事をこいつの妹として考えているんだし
ここで俺達の事をさん付けで呼べば疑われるか。
なら、俺達はこいつの妹として振る舞えば…い、妹!?
だ、大丈夫だ、普通は難しいかも知れないが、一応、ほら
2年前にメアと入れ替わったときに妹の振りならやったことがあるし、問題無いはず。
「そうかい、ねぇ、リオちゃん、お姉さんのことは好きかい?」
「え、えっと…お、お姉ちゃんはすぐに無茶苦茶するから、あまり好きじゃ無い」
「そ、そんな!」
アルルがあからさまに動揺した、きっとこの流れなら好きと言って貰えると思ったんだろう。
「はは、妹には嫌われてるみたいだね、姉の方は妹が大好きなんだろうに」
「は、はい、そうですね、リオは私にとって天使ですから」
「とんだシスコンだね、あ、そうだ、リオちゃん」
「な、何?」
「あんた、大きくなったら絶対にべっぴんさんになるよ、その時はうちで働きな
間違いなく話題の看板娘になるから」
「私の可愛い可愛いリオさ…リオを巻込まないでくれます?」
「はいはい、分かったよ、ま、先の話さね、とりあえず、この子達は部屋に連れて行こうか」
俺達はエナに案内され、コスモスの2階に連れて行って貰った。
その部屋は結構大きく、3人くらいなら容易に過ごせる程だ。
これだけの部屋で世話してくれるのは、かなり嬉しいな。
「本当に、どうしてここまで?」
「良い人材は絶対に確保したいからだよ、ほら、アルル、店に行くよ」
「あ、はい」
よく分からないが、何か裏がるかも知れないし、一応あの人の事も調べた方が良いかもな。
ま、信じていないわけじゃ無いが、不安は拭いたいしよ。




