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必死の訓練

新しい力を完璧に我が物にする為に、俺は次の日も訓練をすることにした。

今回の訓練の内容は非常に単純で、あの力を何度も発動させることだ。

何度も何度もこなせば、我が物に出来ると言うのならやるしか無いだろう。


「リオさん、今一度確認しますが、この訓練かなり厳しいですよ?

 何度も何度も魔力が枯渇しそうになるんですから

 その時の疲労はよく分かってるはずですよね?」

「当然だ、だが、この力を使えば強くなり、周りをまとめて助ける事が出来る

 それなら、辛かろうがやるしか無いだろう」

「分かりました、では私は止めませんよ」

「それで良い」


俺は狙撃銃を召喚し、昨日やったように目と指に力を入れた。

すると、昨日と同じ様に周囲が遅くなった。

目の前ではアルルが手を振ってくれているからよく分かる。


「…く」


しかし、しばらくすると集中が解け、周りの動きがいつも通りになる。

それと同時に俺は足下に力が入らなくなり、その場に力無く座り込んだ。


「はぁ、はぁ、く、苦しい…は、吐き気もする」


超集中状態が解けた俺は激しい吐き気とめまいに襲われる。

今にも意識を失い、その場にぶっ倒れそうなほどの不快感…激しい頭痛

クソ、世界が回って見えてくる。


「リオさん、大丈夫…では、ありませんね」

「あ、るる…クソ、く、苦しい…」

「恐らく魔力の殆どを消費したためでしょう、普通ならすぐに意識を失うほどですよ、それは」


手元にある弾丸は残り1発…これが俺に残った最後の魔力と言う事だろう。

もしこの状態でこの弾丸を使えば、最悪死ぬ…本当どんだけ魔力を消費するんだよ…

昨日は一瞬で殆どを持って行かれた、だが、あれは多分発動の時に持って行かれただけ

今回はその発動の後、少しの間使用していた、感覚的には5秒ほどだ。

なのに、俺はそのたった5秒のために昨日休んで全快したはずの魔力を全部消費した。

とんでもない燃費の悪さだ、それに、発動後の疲労は凄まじい。


「はぁ、はぁ、くぅ」

「あまりこの訓練はしない方が良いかも知れませんね」

「ば、馬鹿言うな…速く極めねぇと、何かあった時に何も出来なくなる」

「リオさんは普通に戦っても、十分強いじゃないですか」

「普通じゃどうしようも無い状況になったら、どうする?

 例えば、あの馬鹿共が同時に殺されそうになった時…俺は1人だけだ

 1人であいつらを助けるのはこのままじゃ無理だ、だが、この力を使いこなせれば

 素早い狙撃で全員守れる…失いたくないんだよ」


あいつらを守る為にも、俺はこの力を完全に極めないといけないんだ

どんだけ辛い目に遭おうとも、どんだけ死にそうな状態になろうとも

ここでめげたら、きっと俺は後悔する…だから、後悔しないためにも絶対に極める!

操ってみせる、自分の物にしてみせる、絶対に!


「俺は負けねぇぞ、使いこなしてやる、この力を!」

「……本当に、下手したら死にますよ?」

「それは無いだろう? お前が居るんだ、俺が死にそうなほどの無茶をしたときは

 お前が止めてくれよ、俺はお前の事をろくでもない変態だと思ってるが」

「酷いですね」

「お前の事は信頼してる、だから、俺が死にそうなほどの無茶をしていると判断した時は

 力尽くでも止めてくれ、今まで通りな、俺が死んだらあいつらを守れない」

「…分かりました、リオさんがそれ程の無茶をしている時は止めますよ」

「頼むぞ、アルル」


とりあえず魔力の殆どを消費しているため、今日は長い休みを取った。

魔力がある程度回復したら、もう一度やってみるつもりだ。

どれ位の時間が空くかは分からないが、無茶して死んだら元も子もないし

どれだけ時間がかかろうと、安心出来るほどに回復しないと発動はしない。


「リオさん、私には分からないんですけど、魔力を使い果たしたときはどんな辛さなんですか?」

「あー?」


この長い空き時間で退屈していたのか、アルルが質問を投げかけてきた。


「そうだな、全身から力が抜けて、意識が朦朧とする、当然足には力が入らないから立てやしない

 本当に一瞬でも気を抜けば意識を失いそうになる、更に追い打ちで吐き気と激しい頭痛

 下手な病気よりも気持ちが悪い、休めば治るが、治るまでが地獄だな」

「それでも必死にやるんですね、フレイさん達の為ですか?」


そんな辛い思いをしてまで、この訓練をする理由か…当然、あいつらの為ってのはある。

だが、それ以上に…俺がここまで必死になって訓練している理由は。


「…自分の為だよ」

「自分の為?」

「あぁ、そうさ、あいつらを失えば、俺は絶対に立ち直れないし、一生後悔することになる

 何であそこで踏ん張らなかったのか? とか、なんで自分はここまで弱いのか、とかな

 俺はもう…そんな思いはしたくないんだ、それにそんな事になったら先生に合わせる顔が無い」


必死になって鍛えるのも、結局は自分の為、友のためと言うのが嘘というわけでは無い

先生のためというのも嘘じゃ無い、でも、やっぱりその根本には俺自身の執着がある。

あいつらと一緒に居たい、だからあいつらを守る

自分が帰る場所を守りたい、だから先生達を守る、そんなもんだ。


「結局自分の為、デカい志なんかを俺が持てるわけが無いからな

 国の為に戦うのも居場所のため、あいつらを守るのも俺がただあいつらと一緒に笑ってたいから

 やっぱり俺はどんな姿になっても、自分の事ばかりを考えてるのかもな」

「リオさん」

「だが、完全に自分の事しか考えてなかった頃と比べれば…ま、成長したかな」


辛い思いをしても必死に歯を食いしばって粘り続ける、そんな行動、ここに来るまでは出来なかった

あの頃なら、ちょっと辛い思いをしただけで逃げだしていただろう。

それが今や例え死にかけようとも、自分が決めた信念のために踏ん張っていられる。

それはきっと、辛い思いを何度もしてそれを乗り越えたから得られた俺の強みなんだろう。


「だからさ、俺はまだまだ成長する、堕落してた自分をここまで変えられたんだ

 それが出来たんなら俺はもっと強くなれる、体が弱かろうが、魔力量が少なかろうが

 それを乗り越えて、絶対にあいつらを、あの場所を守り抜く

 ま、ついでにお前も守ってやるから手伝ってくれよ?」

「リオさん格好いい!」

「だ、抱きつくなぁ!」


うぐぐぅ! な、何か! 何か今更だけどスゲー恥ずかしい!

凄く恥ずかしい! 絶対にあいつらには言えねぇ! と言うか!

このアホに聞かれただけでも何か! きっとまだフラフラしてるからこんな事を話しちまったんだぁ!


「いやぁ、リオさんに守って貰えるなら、私は安全ですね

 ですがリオさん? あなたは誰に守って貰うんですか?」

「うっさい! 何か恥ずかしいから言わん!」

「ふふふ~、いやぁ、それってつまり分かってるって事ですよね~?」

「う、うるさい!」

「ふふ、なら何も言う必要はありませんね、ちゃんと皆さんにも頼ってくださいね?

 あ、勿論私にも、いつでも隣に居ますよ? 言われれば全裸にだって」

「じゃあ、とりあえず手を離せ、そんでその後、街中全裸で歩きやがれ」

「まぁ! なんて破廉恥な! ですが、それがリオさんの趣味だというなら」

「やらねぇよ!? 冗談だぞ!?」

「じゃあ、このまま」

「いや! 手は離しやがれぇ!」


畜生、何かどうしてもこいつには勝てないな…とんでもない精神だよ。

何でこんな奴が……ま、良いか、もう慣れたし。


「はぁ、本当にいい加減にしろよな」

「安心して下さい、平常運転です」

「お前本当に凄い精神力だよな、と言うか、成長してんのか?」

「してますよ? 最初に比べるとリオさんの扱いには慣れてますし

 リオさんの限界もよく分かってきました、後、りおさんの」

「何で俺の事ばかりなんだよ!?」

「そこが重要ですから」

「重要じゃねーだろうが!」

「いえいえ、リオさんが私の中心です」


何でドヤ顔でこんなふざけた事を言ってやがるんだよ、この馬鹿は。

あー、何か真剣な雰囲気だったのが完全に崩壊した。


「もう良い」

「あはは、あ、そうだ、リオさん、もうひとつ質問良いですか?」

「あぁ?」

「リオさんがよく言う先生ってどんな人だったんですか? 詳しく聞いてなかったんですが」


カナン先生についてそこまで詳しく話してなかったっけ、まぁ、話すか。


「そうだな、カナン先生は怒りっぽくて、良く転けたりするドジでな

 よく失敗して孤児院の子供達に笑われて、全員の笑い声を聞いたら恥ずかしそうにした後笑う

 そんな結構何処にでも居そうな普通の人だ…でも、誰よりも優しく

 誰よりも俺達捨てられたガキ達を愛してくれて、誰よりも強い人だ」


少なくとも、俺はあの人のお陰で全てが変わった、生まれ変わって、すぐに捨てられて

死にそうになった俺を助けてくれて、生きる術も教えてくれて

俺を強くしてくれて、そして家族の温かさを思い出させてくれた人だった。


「あんな最悪の状態でも優しさを保てるのはあの人が根本的にそう言う人間だからだろう

 ま、何にせよ俺達にとってあの人は本当の母親の様な物だ

 何でも出来るわけじゃ無い、むしろ殆ど何も出来ない人だったけど

 俺達を本気で愛してくれた、俺達ガキにとってはそれだけで嬉しいんだ

 本気で愛してくれさえすれば、どんだけ駄目だとしてもな」


飯は質素で美味しくなかった、孤児院だって汚くてボロボロ、部屋も汚い

風呂だって狭く、欲しい物も満足に買えず、病気になっても病院には行けない

服もボロボロで、いっつも同じ服ばかり着ていた、それでも…

それでもあの場所は笑顔で溢れていた、それだけで満足だった、金が無くても笑って過ごせだけで。


「そうですね、やはり愛が無い人は駄目ですね」

「そうだな、だから俺達ガキは基本ある程度の家事はこなせる

 俺達はあの人が必死に何でも上手にこなそうと頑張っている姿も見て、手伝ってたしな

 因みに俺は料理はあまり得意じゃ無いが、片付けはよくやってたぞ、フレイは編み物

 ウィングは料理、トラは全体に指示を出してた」

「フレイさんが編み物!?」


あぁ、やっぱりそこに驚くんだな、まぁ、そりゃあ、普段のあいつを見てたらそうなるよな。

だって、あいつなんか編み物をしている様なイメージ出来ないし。

でも、一応編み物は出来る、服にたまにある刺繍はあいつがやった物もあるからな。


「まぁ、そりゃあ、普段のあいつを見てたら、そうもなるか」

「そ、想像できませんね」

「でも、出来るんだ、先生の教育の賜物かな」

「そうですね、本当に凄い」

「…あて、アルル、何か昔話してたら元気になった、もう一回やるぞ」

「大丈夫ですか? 残りの魔力の確認もして下さい」


俺は取りあえず狙撃銃を出して残弾数を確認した、弾丸は150発以上は確保できてる

これなら、すぐに発動して解除すれば問題無いだろう。

俺は銃を構え、さっきと同じ様に強制発動させた。

しかし、やはりすぐに体力の限界が来て、アルルに強制的に切り上げさせられた。

部屋に戻り、なにやら少し服にしわが寄っている軍服に目が行き、その軍服を調べてみた。


「……あいつ、いつの間にこんなサプライズを用意してたんだ?」

「可愛いですね」


軍服の裏に猫の刺繍、トラの刺繍、犬の刺繍、リスの刺繍が4つ列んでおり

その中心に大きな兎の刺繍があった、その構図は真ん中の兎の周りの動物が飛びかかってるようだ

だが、狩りでは無いだろう、全員の動物がにこにこと笑ってるんだから。

手の込んだことをしたな、しかしこれは多分、俺の軍服以外にも細工してるだろうな。


「…やっぱり、仲が良いですね、皆さん」

「ん? 当たり前だろう? 仲良くなけりゃ、お互いを守ろうなんざ思わない」

「そうですね」


……少しだけ、嬉しい気持ちになったよ、ありがとうな、フレイ。

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