久し振りの訓練
あの戦争があってから、1月ほど時間が経過した。
酷い状態だったあの街の瓦礫もようやく片付ける事が出来た。
一応、その上に街を作ることが出来る程になってはいるが
あんな惨状があった場所の上に街を作るのは少し抵抗がある。
しかし、それでもあの場所を放置するのもどうかと言う事もあり
あの場所に新しく建物を建てるという方針が固まっている。
だが、まだ建築は始まったばかりであり、殆ど出来上がってはいない。
「リオさん、そろそろ回復した頃でしょうから、訓練をしましょう」
今まで1ヶ月間殆ど訓練はしていなかった、理由は精神的にも肉体的にも追い込まれていたからな
でも、1ヶ月間の間でようやく有力な手がかりも見付かり、精神的にも少し余裕が出て来た。
体力も殆ど回復しているし、訓練するのは賛成だ。
「じゃあ、訓練するか」
「それじゃあ、やりましょうか」
俺は久し振りに訓練をすることにした、今回の訓練の内容は単純に集中力の訓練だ。
最後にやった訓練もこれだった、この訓練をする度にどうも俺は手応えを感じている
少しずつだが、確実に自分の魔法を扱えるようになって来ている感覚だ。
一応魔法適性SSだが、そんな恩恵が強い感じは無いからな。
きっと極めたらもっと凄い能力になるはず…まぁ、ただの勘だけど。
だが、この勘が当たって、強くなれればもっと被害を出さないで勝てるかも知れないから
そういう所に妥協は出来ない、自分達のためにもな。
「リオさんは集中の訓練をする度に確実に成長している気がします」
「……そうだな、これを何度もやればやるほど色々と敏感になっているんだ
きっと、このまま続ければ新しい能力が開花するはず」
「び、敏感!? ど、何処がですか!? お胸! お胸ですか!? それとも!」
「黙れ、この脳内ピンク、聴覚やら感覚が敏感になってるんだ」
本当にこいつはどうしても変な方向にばかり持っていくな。
どうしたらあの流れからそう言う方向に持って行けるんだか。
「まぁ、そんな訳で、このまま続けていりゃあ、良い結果が出るかも知れないな」
「そうですね、手応えを感じているならとことんやりましょう
ここで妙に妥協してしまったら、成長の歯止めになりますからね
手応えがあればトコトンとですよ、でも、無茶は体を壊すので適度に休んでくださいね」
「わ、分かってるよ」
何度もそれで酷い目に遭ってるからな、そりゃあちゃんと管理するけどさ。
まぁ、俺はちょっと夢中になると自分の状態に気が付けないで体を壊すことが多いんだけどさ。
本当に我ながら面倒くさい性格だよな……直したいけど、直らないんだよなぁ。
「まぁ、リオさんですし、多分夢中になって自分の事を忘れて熱中してしまうでしょうから
そこはちゃんと私が手伝ってあげますから、安心してください」
「あー、えっと、頼んだ」
流石に自分の事を少しでも知ってたら、ここで必要ないなんて言えないからな。
一応自分の事は分かってるから…熱中しすぎると自分の状態が分からなくなることとか
イライラしたらつい暴走して暴言吐き散らすこととか…うぐぐぅ、こう考えてみると
俺って本当に面倒な性格だよな…はぁ。
「それでは、頑張って精神統一行きましょう!」
「ん、分かった」
ようやく訓練に入った、訓練の内容は至って簡単だ
ただ単に目を瞑って精神を統一する…たったそれだけだ
たったそれだけなのに、今の俺の聴覚や感覚は非常に敏感になっている。
城の外から聞えてくる沢山の話し声、更に意識すればどんな内容かも分かる。
何となくこの感覚は狙撃銃で敵を狙った時に声が聞えるのと似ている
本来聞えない筈の声が耳元で聞える、それは慣れるまで結構苦労した。
「……」
今気が付いたが、その1つの会話に集中すると他の会話が聞えなくなる。
完全にその会話のみが聞える状態、雑音は殆ど無い。
そして、その会話以外を聞こうとすると沢山の声が聞えてくる。
その中で1番近い声が聞えてきた。
「リオさん、頼みますから返事してくださいよ、後、呼吸してください」
「…ん?」
「止まってましたよ、呼吸…まぁ、この集中の訓練をするといつも止まってますが」
「あ、あぁ、そう言えばそうだったな…はぁ、何か苦しい」
ふぅ、集中を解除したら一気に苦しくなった、やっぱりあの集中状態では呼吸が止まるみたいだ。
だから、絶対に長いこと使えないな、でも、集中している間は全く苦しくは無い
しかし、解除してみると非常に苦しくなっているんだよな、反動が凄い。
もしも1人で長期的に使ってたら、解除した時に異常なくらいに苦しくなって
動けなくなることだろう、凄い能力ではあるが1人では使えないな。
「本当に集中すると呼吸が止まりますよね、不便でしょう?」
「集中してる間は全然苦しくないから不便には感じない、ただ解除したら一気にって感じだ」
「そこが怖いところですね、気が付いたら呼吸を忘れてるとかゾッとしますよ
やっぱり1人では長期的に集中しない方が良いですね
狙いを定めている時もリオさん呼吸が止まりますし」
「やっぱり止まってたんだな」
「はい、でも、訓練の時の方が集中している感じがしますね」
「だな」
狙撃の時は呼吸停止、狙い安定、引き金を引いて撃破、集中解除と良い感じのサイクルが出来ているが
訓練の時は集中だけだからどうしても長期的に呼吸が止まってしまう。
きっと癖なんだろう、集中している間は呼吸が止まってしまうのは。
「まぁ、訓練だから良いんですが、戦場では厳しいでしょうね
状況によっては集中を解除できない状況もあるでしょうし、その時は不味いでしょう」
「あぁ、それはそう思うが、こればっかりは無意識にやってる事だから変えるのは難しいな」
それに、その無意識を変えてしまうと今まで通りの感覚で狙撃が出来なくなってしまう。
それだといざと言うときに外したりと、精度が落ちる、それは不味い。
だから、俺がやるべき事はこの癖を直すのでは無く、肺活量を上げることだな。
「まぁ、対策としては肺活量を上げることだな、それさえすれば問題無いだろう」
「確かにそうでしょうけど」
「でもまぁ、今しばらくは集中するのを繰り返すことにするさ、何か掴めるかも知れないし」
「ふーむ、では、そうですね、じゃあ今度は目を開けた状態で極限まで集中してみましょう」
「何でだ?」
「狙撃の時は目を開けてますし、実用性がある方が良いでしょう?」
まぁ、そうだな、目を閉じて集中するのも良いが、普段は狙いを定めて集中するんだし
その時に集中することも考えれば、目を開けた状態での精神統一の方が効果的か。
「よし、じゃあ、やってみるか」
「はい、今回は継続的に集中してくださいね、あ、呼吸は忘れないでくださいよ?」
「それは…忘れるかも知れない」
「…じゃあ、ある程度時間が経った場合、集中を止めるように言いますよ」
「頼む」
俺は取りあえずウィンチェスターを召喚し、案山子に狙いを定めて集中した。
本当は目を開けた状態で集中するだけで良いんだろうが
やっぱり気分的にも狙撃銃を構えてやった方がしっくりくる。
「それじゃあ、スタートです!」
アルルの合図と同時に俺は完全に集中状態に入った。
周囲の音はゆっくりと消えていき、ゆっくりと覗いているスコープが
ゆっくりとターゲットに近づいて行く感覚を覚えた。
より精密に、より正確に狙いを定める事が出来る、微々たる調整もこの状態なら容易だろう。
これが狙撃銃を構え、継続的に精神統一をした時の状態か。
「……?」
そのまま継続的に集中を続けていくと、少しずつだが周りの色が変わっていくような感覚になる。
そして、目の前の案山子の色が少しずつ青くなってくる。
「リオさん、そろそろ」
俺の前にアルルが姿を出したが、その一瞬、妙な感覚になった。
アルルの動きが遅く感じ、なおかつアルルの体はオレンジ色。
この視界は…もしかして、サーモグラフィ-!?
「まさか!」
「り、リオさん? どうしたんですか?」
…オレンジ色に変化したアルルの体、青色に変化した案山子…
妙にスローに見えたアルルの動き…ど、どうなってるんだよ、マジで…
あ、何か苦しくなってきた、集中が解除されたからかな、呼吸がしづらい。
「……あ、アルル」
「はい」
「た、試したいことがあるんだけど」
「はい? まぁ、私に出来る事なら手伝いますが」
「じゃ、じゃあ、ある程度時間が経ったら、俺の前を走って横切ってくれ」
「え? あ、分かりました」
とりあえずスローに見えたのがどういうことかを確認するためにアルルに手伝って貰おう。
俺は狙撃銃を召喚し、さっきと同じ様に極限まで精神を集中した。
そして、ある程度時間が経ってから、アルルが俺のスコープの中に入った。
「…やっぱり」
アルルがスコープの中に入ると、動きが非常にスローに見えた。
体の挙動が全て遅く、走っている筈なのに歩いてるよりも遅い。
そんなゆっくりとした中でスコープを動かしてみると、普段通りに動く
つまりこの状態ならゆっくりに動いている相手に狙いを定めて撃つことが出来ると言う事だ。
「……凄いな」
俺はその事を確認したことで満足できて、、集中を解除、少しだけ苦しくなった。
「リオさん、言われたとおりにやりましたけど」
「ありがとう、これで確信が持てた」
「確信?」
「あぁ、俺のもうひとつの能力」
「もうひとつの能力!? どんな物ですか!?」
「どうやらスコープを覗いている間に集中すると周りが遅く見えるらしい
その中でも狙撃銃は普通に動かせるから、動き回ってる奴を狙うことも出来るし
引き金を引いた後も継続的に集中すれば、複数の相手を素早く沈めることも出来るだろう」
「そうなんですか!? 凄いですね! 続けて練習した甲斐がありました!」
「だな」
複数の相手を短い間に連続して倒せる、正直これはかなり便利だ。
後はこの超集中状態をどうすれば意図的に発生させる事が出来るかを考えよう
今のままでは長期間集中したら無条件で発動だから使い勝手が悪いからな
だから、何とか意図的に発生させる事が出来るように鍛えないと。
新しい能力が分かっても、課題は多いな。
「じゃあ、後はどうすればこの能力を安定して出せるかを考えないとな」
「お任せください、絶対にリオさんの能力を安定発動させる方法を探し出しますからね」
「頼りにしてるぞ」
こんなんでも、一応俺をここまで鍛えてくれた奴だ、信頼はしている。
まぁ、当然俺自身でも方法を探すけどな。




