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寝ぼけ眼に

……ん、んー、何だろうか、ほっぺが…折角久々に眠ったのに、何だ?


「……ん?」

「あん!」

「……」


……なんだ犬か…い、犬!?


「うおわぁぁあ!」

「あん!」

「ちょ、ちょちょ! 待て! 来るな!」

「あん!」

「うわぁあ!」


俺は為す術無く、寝床の奥まで追い込まれてしまった、も、もう駄目だ。


「に、煮るなり焼くなり好きにしやがれ! こんちくしょう!」

「あん!」

「ちょ! 今の無し! やっぱり死ぬのは怖! うわぁ!」


俺に飛びついてきた犬はそのまま俺の頬を舐め始めた。

な、何でだ? 殺すつもりじゃないのか? いや、と言うか冷静に考えてみれば

この犬、俺を助けてくれた、あの子犬じゃ無いか。


「……な、何だ、お、お前だったのか」

「あん!」

「な、舐めるな!」


うぅ、なんでこいつは俺にこんなに絡んでくるんだ? 少し飯をあげた程度なのに。

でもまぁ、こいつのお陰で助かったわけだし、無理に引き剥がすわけにも。

でも、少し舐めすぎだろう、さっきっからスゲー舐められて、右頬がべとべとなんだけど。


「や、止めろって、少し舐めすぎだろ」


俺の言葉をようやく聞いてくれたのか、子犬は俺の頬を舐めるのを止めた後

俺の腹に体をすり合わせてきた、な、何だか可愛いな。


「…ん? あぁ、リオ、起きちゃったの?」

「あ、はい、この犬に起されましてね」

「そう、本当に懐いてるわね、ねぇ、知ってる? この子のお陰であなたは生きてるのよ?」

「知ってますよ…意識を失う前に見えてました、本当に無事で良かった

 それにしても、どうしてこの部屋にこの犬が?」

「この子の手当が終わった後、どうしようか考えて、逃がすことになったのよ

 でも、それだと可哀想でしょ? だから、この部屋で飼ったらどうかと思ってね」

「な、なんでですか!?」

「あなたに懐いてるし、良いと思ってね、それにフレイ達も喜ぶんじゃ無いの?

 あの子達って結構子犬とか好きそうじゃない、だから、あなた達で面倒見れば良いかなと」

「いや、俺は犬は嫌いで」

「あん!」


…‥な、なんでジッとこっちを見ているんだ? え? 何? その潤んだ瞳で見ないで欲しい。

だ、駄目だぞ? そんな目で見ても、俺は……


「くぅん」

「……」

「お互い無事だったんだし、良いとお思うわよ? 食べ物の事なら私達で面倒見るし

 散歩はあなたに任せるけど、忙しいときは私達でやっておくわよ」

「だ、だったら別に俺達が面倒見る必要ないでしょ? 城で飼うとかにすれば」

「この子はあなたに懐いてるのだし、あなたの近くに居た方が良いと思うからね」

「あん!」


うぅ、ま、また頬を舐められた…ま、まぁ、こいつのお陰で助かったし

いや、でもさ、やっぱりまだ犬は…目が覚めたらこいつが居たら絶対ビビるぞ。

さっきだって目が覚めたらこいつが居たから、かなり大きな声が出たし。


「いや、でも」

「まぁまぁ、大丈夫よ、その内慣れるから」

「う、うぅ」

「くぅん」


ち、畜生、何かまた体を擦り寄せてきた…う、うぐ、うぐぐぅ…

し、仕方ない、犬嫌いを克服するために、飼ってみようかな。

ま、まぁ、子犬なら、子犬ならまだ大丈夫な気がするし。


「わ、分かりましたよ、こ、子犬なら、ま、まぁ…」

「よしよし、そうそう、子犬に怯えてたら駄目よね」

「あん!」


あぁ、また頬を舐められた…何か右頬がベトベトだ。


「いやぁ、良かったわね、それじゃあ、ご飯よ」

「もうすでに持ってきてたんですか?」

「えぇ、ちゃんと犬が食べても良い物を集めてきたわ」


リサ姫が持ってきた食べ物は、正直子犬にあげるような料理じゃ無かった。

とんでもなく豪華な肉だ、これ、普通に人が喰っても良いだろう。

と言うか、外で食べるとすれば、1万以上はかかりそうだろ。


「この肉は天然物よ、トロピカル地方の高級お肉だからね

 なにぶん、この城に納められるほどの超一品、絶対に美味しいわ!」


絶対に俺達が普段喰ってる飯よりも豪華だよな。

俺達は結構質素な料理を食べてるし、いや、だってさ、高い物を沢山食ったら腹が痛くなるし。

あれだろう、ここに入るまで質素な飯ばかりだったから、高い物が体に合わないんだろうな。

まぁ、美味しいから良いんだけど。


「ほら、お食べなさい」


あの子犬は差し出されたお肉の匂いを軽く嗅いでいるが、少し嗅いだ後

プイッとそっぽを向き、俺の方に歩いてきた。


「あ、あれ!? お、美味しいのよ!? 何で食べないの!?」

「あん!」


…ん? この子犬が俺の部屋に置いてあった果物カゴを見ている。

あ、もしかして…こいつが欲しいのって。


「ど、どうしたの?」

「えっと、この果物カゴは誰が?」

「あ、それは私よ、お見舞いできたのよ、美味しい果物を沢山持ってきてたの」

「あ、お気遣いありがとうございます、じゃあ、えっと、俺の自由にしても良いんですか?」

「そりゃそうよ、あなたの為に持ってきたんだから」

「じゃあ」


俺はその果物カゴからバナナを1本取り出し、皮を剥いてあの子犬の前に出した。


「あん!」


子犬はすぐにバナナに食い付き、美味しそうに食べ出した。


「え!? な、なんでバナナ!? お肉よりもバナナなの!?」

「こいつが死にかけてた時、俺が食べさせてあげたのがバナナなんですよ」

「な、なんでバナナ!?」

「いやぁ、こいつが死にかけてるときに手元にあったのが、八百屋のおばちゃんから

 貰ったこのバナナしか無かったんで」

「へぇ、そうなの、もしかしたら、その時に気に入ったのかしらね」


何か美味しそうにバナナを食べてるこいつを見ると、少し癒やされる。

嫌いだった筈の犬だが、こいつだけは結構…大丈夫かも知れない。


「うーん、美味しそうに食べるわね、その子」

「そうですね」

「所でリオ、ずっとこの子の事をこの犬とか、子犬じゃ不便でしょう?

 名前を考えたらどうかしら」

「な、名前ですか!?」


ま、まぁ、確かにずっとこの犬とか、この子犬とかじゃ不便だとは思うけど。

…い、いきなり名前を考えろと言われてもすぐに出て来ない。


「じゃ、じゃあ…柴田さんで」

「何その名前、犬に付ける名前じゃ無いでしょう?」

「仕方ないじゃ無いですか! すぐに考えろって言われても無理ですよ!」


う、うぐぐ…やっぱり名字っぽいのは駄目か、柴犬っぽいから柴田で良いと思ったんだけどなぁ。

いや、でもそうだな、この子犬の名前が柴田…って言うのは、何か可哀想か。


「しょうが無いわね、なら、私が考えてあげるわ! 茶色だしブローちゃんよ!」

「……」

「ね、ブローちゃん?」

「……」

「あ、あら? 何で反応しないの?」

「気に入らないんじゃ無いですかね?」

「えぇ! 可愛いと思ったんだけど」


う、うーん、何でこの犬はずっと俺の方を見ているんだ?

え? 俺が付けないと駄目なの? え? ど、どうしよう。


「どうやら、リオに名前を付けて欲しいみたいね、ほら、頑張って考えなさい」

「じゃ、じゃあ……ナナとか?」

「ナナ? 何でそんな名前にしたの?」

「えっと、バナナが好きだから、バナナから取って、ナナって感じです」

「へぇ、良いじゃ無いの」

「あん!」


あの子犬も気に入ってくれたようで、俺の方にやって来て、頬を舐めた。

うぅ、やっぱり舐めるんだな、ま、まぁ、気に入ってくれたんなら良いか、今日からこいつはナナだ。


「じゃあ、ナナ」

「あん!」

「おぉ、反応したわね」


どうやらナナもこの名前を自分の名前だと認識したようで、名前を呼んだら反応してくれた。

まさか犬のペットを飼うことになろうとは…考えもしなかった。


「うぅ…ただいま戻りました」


ナナの名前が決まってすぐ位にアルルの声が聞え、泥まみれのアルル達が帰ってきた。


「お、お前らどうしたんだ!? 何かスゲー泥まみれなんだけど!?」

「あ、リオさん、目を覚ましたんですね、グッスリ眠れましたか?」

「まぁな、でも、この子犬、名前はナナってなった、このナナのせいで起されたけど」

「へぇ、ナナちゃんですか、可愛い名前ですね、まるでバナナです」

「ま、まぁ、バナナから取った名前だからそうなんだけど」

「え? 何故バナナから?」

「こいつの好物だからだ」

「へぇ、そうなんですか、変わったワンちゃんですね」


アルルはナナをワンちゃんと言ったが、ナナはワンと鳴かず、アンと鳴くから

その言い方は間違っていて、そんな風に呼びたければアンちゃんってなるな。

何だろう、人命みたいだ…それと兄ちゃんとも聞えるな、はは。


「おぉ! ナナちゃん! やっふぅ! 可愛いワンちゃんだぁ!」

「あはは、あ、そうだ、フレイさん、確かリオさんに見せたい物があるんでしたよね」

「あ! そうだった! じゃあ、アルル! あれ頂戴!」

「はい」


アルルが鞄に手を入れて、何かを取りだし、フレイにそれを渡した。


「リオちゃん! 見てよこれ! 面白いおもちゃだよ! 私が見付けたの! はい!」

「え? あ、あぁ、うん」


フレイが俺に壊れたスイッチの様な物を渡してきた。

何でスイッチ? 何でだ? ゴミじゃ無いか。


「えっと、こ、これは?」

「凄いでしょ! ここが動くんだよ! カチカチって! 凄いでしょ!」


そりゃあスイッチだし、カチカチするだろうな。

でも、スライド式か、結構珍しい気がする、ん? あ、何か書いてる。

えっと…L? 反対はD? 何かのイニシャルか? 結構小さいしよく見えないな。


「どうしたの? ほら、カチカチしてみて!」

「あ、あぁ」


俺は取りあえずカチカチとして見た、うん、やっぱりスイッチだな。


「どう!? 凄いでしょ!」

「まぁ、そうだな…スイッチなんて久々に見て…ん?」


…スイッチが今まで当たり前だったから、最初違和感は感じなかった。

だけど、冷静に考えてみればこれはおかしい。


「すいっちって何?」


…普通なら常識だろうと説明するが、このフレイの疑問は正しい

いや、だってこの世界に電気は無いはずだし、一応多少の家電とかはある

でも、それは確か使用者の魔力でまかなってるって聞いた気がする

原理は確か魔力適性を計った道具と似ているらしいが、確か詳しくは知りはしない。

でも確か殆どの人にある少々の魔力はあるが、そこから魔法を使えるかどうかは人によるらしい

で、使えるのは子供だけ、しかも殆どは女子だ、大人になっても使えるかは知らない。


「…まぁ、動かすか止めるかを選ぶ道具だな」

「ふーん…道具って触ったら動くんじゃ無いの?」

「まぁ、そうだな」


しかし…どうしてこんな道具が? こんな道具はこの世界には不要だろう。

魔力に反応する道具が一般的なんだからスイッチはいらないはず。

家具のオンオフは自分の意思で自由自在なんだから。


「だから、この道具があるのはあり得ないんだよ」

「へぇ…じゃあ、どうしてリオちゃんはその道具の事を知ってるの?」

「……ま、まぁ、その…だな、ほら、俺の魔法は色々特殊だし

 その…えっと…ま、まぁ、あれだ、とにかく何か知ってた!」

「…? まぁ、何でもいいや、取り合えず凄い道具なんだね!」

「まぁ、そうだな」


う、うーん、転生者だと言う事を教えてないせいで、色々と話が難しいな。

こんな風に突っ込まれたら言い訳が全く思いつかないし、相手がフレイで良かった。


「本当に大発見だ、きっとこれは答えを見つけ出す糸口になる」

「お、おぉ! 私大発見! やっふぅ!」

「フレイさん、随分と嬉しそうですね、リオさんに何か言われたんですか?」

「これ凄い道具だったんだって! 私大発見!」

「そうなんですか!? 凄いですね!」

「この道具、もしかしたら答えを見つけ出す糸口になるかも知れない、良く見つけてくれたな」

「見つけたのはフレイさんですよ、褒めるならフレイさんを褒めてあげてください

 具体的には頭をなでなでしてあげたり」


アルルの言葉でフレイは嬉しそうにこちらに頭を向けてきた…撫でろと?

まぁ、かなりの道具を見付けてくれたし、撫でて欲しいなら撫でてやるか。


「よし、分かったよ、ほら、良く見付けてくれたな」

「いやっふぅ! リオちゃんに褒められたぁ! やったね!」


ちょっと撫でてやっただけなのに、随分と嬉しそうにするな。

何だかこっちが恥ずかしくなってくる。

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