ハプニング
今日から戦争が始まる……予定だったのだが、不測の事態が発生した。
まさかアルルの馬鹿が風邪を引くとは、昨日から調子は悪そうだったが、やっぱり体調を崩したか
…流石にこの戦いで結構重要な立ち位置に居るこいつが病気となると戦争を仕掛ける訳にはいかない。
本来の予定を変え、アルルの病気が治ったら出発することになった。
「はぁ、はぁ、す、すみません…体調を崩すなんて」
「ったく、大人しく休んでりゃ良いんだよ、ほれおかゆ」
「た、食べさせてくれるんですか!? リオさんなら私が食べさせてくださいっていっても
うっさい、自分で食べろ馬鹿とか言いそうなのに!」
「流石にめちゃくちゃ調子悪そうな奴を突き放したりはしねぇよ…ほれ、食うのか? 食わないのか?」
「食べます! いただきま、ごふぁ!」
「あ、あっちゃぁぁぁ!!」
な、何て最悪なタイミングで咳してやがるんだぁ! 服に! 服にクソ熱いおかゆがぁ!
ちょ! 不味い! 首もとから少し服の中にも入ったぁ! 熱い熱い! ちょ! ヤバい!
さ、さっさと脱いで! あっちゃぁ!
「ご、ごめんなさ、は、ふぁぁ! り、リオさんが服をぉぉ!」
「く、クソ、まさか服の中まで! クソあちぃ! 絶対火傷しただろこれ!」
「む、むむ、むぅ! お、おむ」
「あー?」
何か知らんがアルルが妙にソワソワしてるな、何だよ。
「んー!!」
「なぁ!」
俺がアルルの方を向くと、何か知らないがアルルが鼻血を吹きだした!
ちょ! はぁ!? 待って! どうなってる!? はぁ!?
「お、おい! こ、今度は何だよ! 鼻に何かあったのか!? 風邪じゃねーのか!」
「あぁ…リオさんの可愛らしいお胸がぁ…」
「……は?」
そうか、そう言えば服に入ったおかゆを急いで取るために服脱いだな…シャツも着てないし
モロに胸が見えるのか、まぁ、ガキの胸なんぞ男の胸と変わらねぇだろうが。
もしかして、あれか? それを見て興奮して鼻血を拭きだしたのか? この馬鹿は。
「はぁ、何だよ、無駄に焦ったじゃ無いか」
俺は取りあえず服を着て、アルルの方に近寄って見た。
「……あははぁ」
「気絶してやがる」
はぁ、やっぱり訳が分からないな、こいつ…もう良いか、とりあえず俺が看病するのは駄目だな。
何かあったらすぐにこんな風になって風邪直らないだろう。
とりあえず俺はシルバーにアルルの看病を任せて時間を潰す事にした。
しかし、フレイ達はどっかで遊んでるからやることが無いな。
「どうすっかな」
こう言う不意に出来た暇な時間というのは結構迷うな、仕事をやるか?
でも、やることは全部やってるからやることは無い。
訓練でもするか? いや、俺1人で訓練なんかしたら無茶して体を壊しそうだ
ただでさえアルルの体調不良で動けなくなってるのに、今度は俺がってなったら
兵士達に申し訳ないし、士気が更に落ちるだろう。
「仕方ない」
やることが思いつかなかった俺は取りあえず国を散歩する事にした。
「あら、リオちゃんじゃないの、今日は1人?」
散歩を始めると、八百屋のおばちゃんが俺に気が付いて声を掛けてくれた。
普段はアルルと一緒に歩いているから1人の俺は珍しいみたいだ。
「えっと、たまには1人で散歩も良いかなと」
「そだね、新しい事をやるのは良いことよぉ、あ、そうだ、おばちゃんからプレゼントを上げるわ」
そう言って八百屋のおばちゃんは店の方に歩いて行き、バナナを一房渡してくれた。
「こ、これは?」
「美味しいバナナよ、お世話になってるからそのお返し」
「いえ! でも!」
「良いのよ、頑張ってくれてるんだからそのお返し、まだまだ足りない気はするけどねぇ」
「ですが、普段の買い物の時も何度もまけて貰って」
「いいのいいの、私が好きでやってることだからねぇ」
「は、はぁ」
これはこのまま拒否しても意味無さそうだな、ここはおばちゃんの優しさを受け取っておこう。
「分かりました、それじゃあ、いただきますね」
「うんうん、それじゃあ、お散歩楽しんでね」
「あ、はい!」
俺はおばちゃんから貰ったバナナを持ったまま散歩を再開した。
少し腹も減るかも知れないと思ってたから、このバナナはありがたいな。
バナナって1本でも十分腹の足しになるから嬉しい。
「うん、美味いな」
バナナを貰った俺は早速そのバナナを食べながらゆっくりと街を散歩していた。
普段は通らない道も何度も通って、結構新鮮な気分になった。
やっぱりたまに散歩するくらいなら面白…
「クゥーン」
そ、そんな事を考えながら細い道に入ると、そこにはし、死神の化身である犬が倒れていた。
「い、犬!?」
や、ヤベぇ! に、逃げないとまた死ぬ!
「クゥーン…」
「うわ! く、来るな!」
犬はフラフラとした足取りでゆっくりとこちらに歩いてくる!
な、何だよ、なんでこっちに来るんだよ! ふ、普通は逃げるだろ!?
ちょっと待って! これマジやばい! 逃げないと…でも、足動かねぇ!
「うぉあ!」
動かない足を無理矢理動かして逃げようとしたが、つまずいてしまい尻餅をついてしまった。
こ、これは…も、もう一回死ぬ! 死んでしまう!
「あぅ」
「また死ぬなんて…」
俺の目の前に犬が…もう逃げられない、また殺されてしまう!
だが、子犬は俺を襲うことは無く、頬を軽く舐めてきた。
「ひゅわぁ!」
舐められた感覚で体が反射的に反応し、すぐに立ち上がった。
その時、俺の膝に乗っていた犬は転けた。
い、今なら逃げられる! 良かった! 死なずにすんだ!
「く、クゥーン…」
……な、何だ? おってこない? 倒れたまま?
な、なんで? 追ってきそうだけど、それに明らかに何か死にかけてる感じだし。
「……えっと、あれ?」
犬に近寄るのは正直言って鳥肌物だが、何だか明らかにヤバそうだし。
そ、それにろくに動けない犬なんて別に大した脅威でも無いし。
と言う事で、ゆっくりとだが俺はその子犬に近寄って見た。
「……う、動かない?」
とりあえずぶっ倒れている犬を軽くつっついてみたが、反応は無い。
その代わり今にも死にそうな目で俺の方をジッと見ている。
ど、どうなってる? け、怪我でもしてるのか? でも、何処も怪我してない
じゃあ、なんで? もしかして腹でも減ってんのか?
でも、今餌になりそうな物なんて…あ、バナナがあった。
「え、えっと」
俺はバナナを剥いて、恐る恐る子犬の方に伸ばしてみた。
子犬はそのバナナの匂いを少し嗅いだ後、すぐにバナナに食い付いた。
それからすごい勢いでバナナを1本丸々食べきり、尻尾を振り始める。
「やっぱ腹減ってたのか」
何だか可哀想に思い、俺は貰ったバナナを全部この子犬に食べさせてみた。
子犬はバナナを全部美味しそうに食べた後、俺に近寄ってきた。
「な、何だよ! く、来るなって!」
バナナを渡したとは言え、やっぱり近寄られると怖い!
あの目玉が死神の目にしか見えない! 何か寿命を奪われそう!
そ、それになんか凄く匂い嗅がれてる! 何か嫌だ!
「あん!」
「ひわぁ!」
うわぁ! 舐められた! また顔を舐められたぁ! や、やっぱり何か怖い!
も、もうこの犬の腹も膨れただろうし! もう俺は逃げる!
「つ、付いてくるなよ!」
俺はすぐにその場を走って逃げだしたやっぱり犬は怖い。
そりゃあ、俺を殺したのは犬だからな、自分を殺した奴を好きになるわけが。
「あん!」
「なぁ! く、来るなって言っただろう!? つ、付いてくるなぁ!」
何か付いてくるから俺は急いでその場から逃げだして城の方まで走った。
「はぁ、はぁ」
さ、流石にここまでは来ないよな…と、思いながら後ろを振り向いて見る。
「あん!」
「……な、なぁ!」
後ろを振り向くとそこには犬がいた、それを見て軽く固まっていると
この犬が俺に飛びついてきたぁ! ヤバい! ヤバいぃ! く、喰われる!
「リオさん、可愛い子犬ですね、拾ってきたんですか?」
「ち、違う! な、何か付いてきたんだぁ! 頼む! この犬を離してくれぇ!」
「ひ、必死ですね、もしかして犬は嫌いなのですか?」
「そうだよ! 死神を好きになるわけが無い!」
「あはは、子犬が死神何て事はあり得ませんよ、大げさですねぇ」
門番の兵士が俺の上に居た犬を笑いながら引き離した。
は、はぁ、こ、これで何とか解放された…あ、安心だ。
「はぁ、はぁ、よ、よかった…」
「あん!」
「い、痛い! ちょっ!」
俺から犬を引き剥がした兵士が子犬に噛まれた、しかし血は出ていない、まだ子犬だからな。
「や、やっぱりヤバいだろ?」
「そうでもありませんよ、大した事無いですし
しかし、この子は危険ですね、森に逃がしておきます」
「そうしてくれ…あ、でも、一応飯くらいはやってくれ、死なれても後味悪いし」
「嫌っているのに優しいですね」
「死なれちゃ面倒だし、後味悪いからな、どうせ自分の為だ」
門番が少し笑い、この子犬を森の方まで連れていった。
はぁ、焦ったぁ、まさか犬に襲われるとは思わなかった。
本当にゾッとした…もう散歩とかしない方が良いんじゃ無いか?
「はぁ」
「リオちゃん! 今まで何処に居たの!?」
「…散歩行ってた、まぁ、もう行かない」
「じゃあ、一緒に遊ぼう!」
「だからさ外で騒ぐのは止めろよ、トランプとか室内遊びじゃ無いと」
「むー」
フレイはやっぱり不服そうな表情をしたが、俺の言うとおり大人しく室内遊びをすることになった。
そのついでに一応アルルの調子を確認しにあいつが寝ている部屋に入ってみた。
アルルはあれから目を覚ましたらしく、丁度シルバーに昼飯を食べさせて貰っている。
とりあえずあれから目を覚ましてくれたなら良かった、あのまま死なれたら流石にな。
「起きたか、まぁ、良かった」
「そうだね、あ! 速く病気を治してね!」
「あ、はい、すぐに治しますね」
「そうですわね、その為にもご飯を沢山食べないと行けませんわ、はい、お口を開けてください」
「う、うん…へ、へ、くしゅ!」
「きゃぁー! あ、熱いですわぁ!」
「あぁ! ご、ごめんなさい!」
……何で飯を食べさせて貰おうとするタイミングにあいつ咳やらくしゃみが出るんだ?
狙ってんのか? それとも嫌な偶然? どちらにしてももうあいつ自分で食った方が良いな。
あいつに飯を食わせようとすると服が汚れるし。




