報告書
敵勢力は撤退という判断は出来ず、更には士気も最悪であり
自軍の戦意は最高潮であったため
此度の前哨戦は殆どの被害を出さず
我々ミストラル王国勢の勝利となりました。
その間に行なった情報収集によると
敵国には切り札となる部隊がいると言うことが分かりました。
その部隊の勢力や能力等は一切不明ですが
この部隊だけで数々の国を制するほどの実力とのことですので
此度の戦争、前半戦は優勢だったとしても後半に巻き返される可能性は十分あります。
なので、そちらの兵士にも重々この事を教えておいてください
最後まで油断をするなと。
これで、トロピカル地方、前哨戦の報告を終えます。
小さな戦士達、隊長、リオ
「うしっと!」
うん、こんなもんだろう、一応報告する書類は書いた
こんな長ったるい字を書くのはしんどい。
まぁ、かなり少ない字数ではあるのだろうが
得た情報はこれ位だしこんなもんだろう。
しっかし、こんな感じにひたすらに字を書く仕事があったとすれば
かなり退屈だろうな。
どう考えても俺と相性は悪い
俺は字を書くのも字を読むのも苦手だからな。
どうせなら文の全部をフルボイスで音読して貰いたいくらいだ。
まぁ、お呼びが掛かることも無いだろうし
どうでも良いことなんだろうが。
「リオちゃん!」
「あぁ? フレイ、今はまだ仕事中だから、部屋に入ってくるなよ」
「いやほー! リオちゃんが居なかったから結構退屈だったよ!」
「おい馬鹿! 飛びつく、あが!」
いきなり部屋に入ってきて
いきなり飛び込んできたフレイに押され机に強く体があった。
……その時、う、後ろの方から、瓶が倒れるような音と
液体が流れ出るような…い、嫌な音が。
ヤバい、振り向きたくない! いや! 振り向けよ俺! 今ならまだ間に合う!
「うわぁぁ!」
だが…振り向いたとき、もう遅かった……ぶっ倒れた羽根ペンのインクが
俺が必死に考えて書き記した書類の文字を完全にブラックホールが包んでいた。
「あぁ……そ、そんな…」
お、俺の3時間が…どう報告するか悩んだり
使い慣れない羽根ペンに苦しんだ3時間が…
こんな一瞬、瞬きもする時間が無いほどの一瞬で全てが水の泡になるとは…
必死に作り上げた1個の特大花火が打ち上げたとき
ぽふんと力無い煙しか出さなかった言う
いい知れない絶望感が俺を包んだ……あぁ、じ、地獄だ…戦場の何倍も苦行だ…
「あっと…その…ご、ごめん」
「…ふ、フレイ! お前! お前のせいでぇ!
俺の、俺の3時間……3時間がぁ!」
「えっと! わ、悪気は、悪気は無かったんだよ!
全然! その、だからその怖い顔止めて! 何か背景に炎が見えるよ!
それに大きな鎌を持ったドクロとかも見えるんだけど!?」
「ぶ、ぶちのめしてやる! 覚悟しろや! この単細胞がぁ!」
「待った! 何でそれだしてるの!? それ当たったら死ぬ奴じゃん!
待って、謝った! 私、謝った! だから…」
「今度こそ更生させてやらぁ!」
「怒らないでーーー!!」
あんにゃろう! 逃げやがった! クソ!
逃がすかボケ! 絶対に後悔させてやらぁ!
「逃がすかぁ! 風穴開けてやらぁ!」
「ひぃー!!」
「あ、リオさん、さっきフレイさんが出て来」
「どけやぁ!」
「あだ!」
「待ちゃーがれ! フレイ!」
「うぅ…ぜ、全力で殴られた……今日はまだ何もしてないのに
でも、倒れたときにリオさんのパンツが見えたし、問題ありません
純白の白! ぎゃー!!」
「クソ! 無駄な時間食った! 姫様に言われたからって
スカートなんか履くんじゃ無かった!
クソ! 何処じゃ-! フレイ!」
あいつ、本当に逃げ足はクソ速いな…まぁ、きっとどっかに隠れたはずだ。
あの単細胞が最初に隠れそうな場所なんて大概決まってるし、そっち行くか。
多分あいつは自分達の部屋に居るはず、絶対にそこで隠れてるだろう。
あそこならトラ達もいるし、あいつにとって安心出来そうな場所だからな。
「何処じゃ!」
「むぐ!」
扉を強く開けると
明らかに動揺してキョロキョロと周りを見渡しているウィングの姿と
少し呆れた表情で二段ベットで下を見ているトラの姿があった。
「絶対にここに居るな! 何処に隠した!」
「い、いや、来てない! 来てないよ!
ここにフレイちゃんが来てるわけ無いじゃん、あはは!」
「ほう、ウィング…良くお前、俺があの馬鹿を探してるって分かったな」
「あ!」
「すぐにボロが出たね…ウィングらしい」
そんなウィングの態度を見たトラが更に呆れた笑顔で、首を振っている。
「で、何処だ? あの馬鹿は? 言え」
「い、いや……そ、そのぉ」
「隠してもろくな事にならないぞ」
「……あ、あっち」
俺の威圧に負けたのか、ウィングはクローゼットの方を指差した。
……そのクローゼットはこの一箇所だけ半開きであり
明らかに隠れてるというのが分かった。
と言うか、隠れるつもりがあるのだろうか、いや、隠れるつもり無いよなこれ。
「う、裏切りものぉ!」
クローゼットから引きずり出されたフレイはすぐに2人を裏切り者呼ばわりしたが
正直言ってあの2人が言わなかったとしても、ちょっと部屋を見て回れば
このクローゼットだけ明らかにおかしいし
どう足掻いても見付かっていたことだろう。
「さーて、フレイ…散々手を焼かしてくれたな」
「あ、あわわ…」
「今度こそ! その自分勝手な行動、粛清してしてやらぁ!」
「いーやーぁぁ!!」
「ま、まぁまぁ、ほらほら、お、落ち着いて、ね?」
俺がフレイへ怒りをぶつけようとすると、その姿を見ていたトラが止めに入った。
「トラ、邪魔するのか?」
「い、いやいや、その、ほら、フレイも反省してるようだし、ほら」
「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないよぉ、何でもするから許してー…」
フレイは少し半泣き状態で必死に土下座をして謝っている…す、少しやりすぎたか。
うぅ、ちょっとの事で怒りすぎたな…考えてみればこいつもまだ7才
やんちゃな年頃なんだろう……ちょっと怒りすぎた。
「…わ、分かったよ、ちょっとやり過ぎた…ごめん」
「わぁぁー! リオちゃん、ありがとうー!」
「うわぁ! 泣きじゃくった顔で抱きつくなぁ!」
うぅ…ふ、服に涙や鼻水が……な、何もこんなに泣くことは無いだろうに。
「…こいつがこんなになる位…その、俺って怖かったか?」
「う、うん、追われてるわけじゃ無いのに怖かったくらいだからね
あれで追われてる立場なら…私も絶対泣いてたよ」
「リオは怒ると怖いから、少しくらい自覚した方が良いよ」
「そ、そうなのか…う、うーん、自重しないと駄目だな」
「うわぁぁーーん!」
「でもよ、怖いなら俺に絡まなきゃ良いのに
どうしてこいつはこんなに絡んでくるんだか」
「友達だからだよ。フレイちゃん、
昨日もリオちゃんと遊びたいって言ってたし」
「……そ、そうか、そうなのか…悪い事したな」
「多分、フレイにとって、リオは居なくてはならない存在なんだと思うよ
何度も怖い目に遭ってるのに、それでも絡むって事はさ」
そ、そうなのか…何か小っ恥ずかしいな、とりあえず反省もかねて慰めてやるか
こんな風に泣かしたのは俺だし、その責任くらいは取らないと。
「ごめんな、フレイ、ちょっと怒りすぎてたわ、もう大丈夫だから」
「うぅ、リオちゃん…ほ、本当にもう怒ってない?」
「怒ってないって、怒ってたらお前がこうやって俺に抱きつけてる訳ないだろう?」
「あはは、そうだね、怒ってたら殴られちゃってるね」
「いや、殴るつもりは…まぁ、拳骨くらいは叩き込もうかとは思ってたけど」
「殴るつもりだったんじゃんか」
「そ、そうだな、ごめんな」
「ふふ、良いよ、許してくれたなら……私はそれだけで良い」
少しずつだが泣き止んできてくれたみたいだな、はぁ、一安心だ。
「うーん、フレイさんを抱きしめて優しい表情をするリオさん! レアですね!」
「仲直り出来て良かった、喧嘩したままだったらどうしようかと」
「あの4人なら大丈夫だって言ったじゃん、仲良しなんだし」
「そんな事を言っておきながら、心配でここまで来たのは何処の誰ですの?」
「あ、あはは…そ、そうだね、内心では心配だったのかも」
「所でアルルさん、その痣は何処で?
前に見た時はその様な傷ありませんでしたのに
お肌にシミが、ストレスでも溜まっていますの?」
「まぁ、あれですね、事故です事故
よくあることなので気にしないでください
今回のこれは…運が悪かっただけです、普段は私が悪いけど」
「そ、そうですか…そうですね
アルルさんはそろそろ自重という言葉を覚えた方が良いと思いますわ」
「私に自重という文字は無いんですよ、シルバーさん」
「…この様子では反省する気配なありませんね」
いつの間にかあいつらもここに来てる……結構大規模な感じだったのかも知れない。
う、うーん、本当に反省しないとな…まぁ、反省しても頭に血が上ると暴走しちまうが
これが悪いクセだって分かってるが、やっぱり中々直らないな、当面の課題だ。
「…さて、フレイ、そろそろ落ち着いたか?」
「うん…ごめんね、リオちゃん、私のせいで」
「大丈夫だ、気にするな…た、たかが…さ、3時間の苦労が…く、苦労が」
だ、駄目だぁ! お、思い出したらやっぱりこ、心が折れる!
何で文章自体はあんなに短かったのに、3時間も…てか、ヤバい!
ど、どんな文だっけ!? 俺、どんな報告書を書いてたっけ!?
フレイを追いかけ回してる間に、完全に忘れちまってる!
「り、リオちゃん、か、顔色が悪いよ?」
「え? あ、いや、その…えっと」
「じゃあ、手伝うよ!」
「ほ、本当か!?」
「リオ、止めておいた方が良い…フレイに手伝わせたら」
「……よ、余計に終わらなくなるな」
「ど、どうして!?」
「お前、字はろくに書けないし
文字も殆ど読めないだろう…俺がやるのは字を書く仕事だし」
「あ、私には無理だね!」
うん、分かってたが、一切の躊躇いも無く即答って言うね。
まぁ、正直ろくに勉強が出来てない7歳児が字を読み書きできるのって至難の業だし
そんな事が出来るのは、俺みたいに記憶を持って転生した奴か
トラみたいな天才肌くらいか。
「ま、まぁ…それじゃあ、その……報告書、書いてくる」
「あ、う、うん」
俺が自分の部屋に戻ると
そこには俺が書いていた文がそのまま残っている書類であった!
お、おかしい、ここに置いてあるべきなのは
インクで黒く塗りつぶされた書類の筈!
「どうして…あ」
その書類をよくよく見てみると
どこぞで見慣れた字であると言う事が分かった。
その字は……いつも俺を見てる、あの変態女の物だった。
「まさか…あ、あいつ…」
俺はその書類を見て、何かの気配を感じ、背後を見てみると
そこには扉の隙間からこちらを見ているアルルの姿があった。
「あ、アルル! こ、この書類はお前が!?」
「な、何のことでしょう? きっと、あれですよ
素敵な小人さんの仕業ですよ」
「……顔と手にインク付けてる奴が言っても何も隠せてねーよ」
「げ! あ、洗うつもりだったのに忘れてた!」
「まさか、俺が仕事をしてる間、終始隠れてみてたって事だよな」
「あ、えっと、その…え、えっと」
「本来ならぶちのめす所だが……まぁ、その、何だ
こ、今回は良い結果になった訳だし
……その…あ、ありがとうな、アルル」
「は!! つ、ツンデレ! それにナチュラルスマイル!
更に照れ隠しで顔を背ける!
あ、あぁ! 駄目ですリオさん! わ、私が! 私がキュン死にします!
可愛い! 可愛いです! 抱いて! いや、抱かせてください!」
「……やっぱり、死んでろ、この馬鹿」
「いだ! や、やっぱりこれが私の定めですか…悪くはありませんけどね~」
「はぁ、折角人が感謝してやったのに…ぶれないな、お前って言う馬鹿は」
こいつに感謝の言葉を言うのは、やっぱり無意味だし恥ずかしい。
と言うか、別にいつも通りの対応で喜んでるんだし、お礼とか言う必要ないんじゃ無いか?
ま、それは良いか、とにかくこれで何とか仕事は終わった。
俺はこの書類を伝令に渡し、レギンス軍団長に渡して欲しいと告げ、仕事を終えた。
そして、あいつらが待ってる寝室に向う道中でメア姫を抱きしめている
リサ姫を見付け、少しだけ笑みがこぼれた。
…さて、いつまでこんな平和が続くか知らないが、とりあえず今日はあいつらと遊んでやるか。
「あ、リオちゃん! お仕事終わったの!?」
「あぁ、アルルのお陰で何とかな」
「良かった! じゃあ、遊ぼう! 何して遊ぶ!?」
「おままごとが良いと思う」
「お外でかけっこ!」
「えっと…おえか…い、いや、何でも良い」
「リオちゃんは!?」
「狙撃ゲーム」
「リオちゃんしか出来ないじゃん!
じゃあ、こうしよう! おままごとをした後
かけっこして! その後、お絵かきしよう!」
「お、お絵かきなんか!」
「可愛いトラさんを一緒に書こうね! トラちゃん!」
「……う、うん」
「あはは! トラちゃん顔真っ赤っか!」
「う、うるさい!」
「なぁ、狙撃ゲームは無いのか?」
「リオちゃんしか出来ないじゃん!」
「そうだな、もし出来たとしても俺の完勝だろう」
「むー、確かにそうだろうけど、何か負けた気分!
皆で出来る方法を見付けたら勝負だ!
リオちゃんをぎゃふんと言わせてあげるよ!」
「ほう、面白い、その時が来たら格の違いを見せてやろう」
ふ、ガキの遊びなんざ楽しくないと思ってはいたが、こいつらが一緒なら楽しいんだよな。
友達って奴は不思議なもんだ。




