パーティー
今回で転生幼女シリーズはひとまず終わります。
3日間の練習のせいかを見せる日がやって来た。
俺達は主賓としてパーティー会場の方まで移動した。
「・・・・今更だが、挨拶の練習って必要だったんだろうか」
そして、この土壇場で俺はそんな疑問が出て来てしまった。
理由は簡単だ、だって、今回のパーティーは子供しか来ていないんだ。
アルル達のような例外もいるが、基本は子供のみの筈。
それなのに、あんな堅苦しい挨拶なんて必要なのか疑問に思えてきた。
「知らない、あ、それと私は何も覚えてないよ!」
「それは分かってる」
俺達の挨拶はメア姫とリサ姫が考えてくれた文だ
しかし難しい言葉ばかり書かれている。
当然、フレイ達がそんな難しい言葉を教えられたところで挨拶できるはずも無い。
現に昨日の最終練習の時も、フレイは1文字たりとも覚えてなかった。
それと、俺達が覚えている文はウィングは3割、トラは5割
フランは5割、メルは1割、マルも1割だ。
俺も一応暗記したつもりなのだが
ハッキリ覚えているのは最初の5割程度だ。
絶対にあんなの3日で覚えられるわけが無い。
何行あったっけ、確か100行…いや、それ以上かも知れない。
良くもまぁ、あの2人はあんなに長い言葉を考えたなと思うよ。
「不味いよ、全く覚えてない」
「うぅ、緊張してきた」
「なんでこんな事に…」
「メル、覚えてる?」
「まさか、覚えられるわけ無いよ」
「だよね、あれは多すぎだよ・・・・」
こんなの、普通は大人だろうと小さな紙を携帯してくるほどの長い文だぞ。
それを子供が3日練習しただけで暗記できるわけが無いよな。
てか、練習してどうにか出来るレベルじゃ無いだろ、あれは。
はぁ、せめて紙くらい渡してくれても良いだろうに。
「それでは、挨拶を始めます」
あぁ、アルルの元気そうな声が会場全体に響いて来た。
明るい声なんだが、俺達からしてみれば最悪の時間を届ける声だ。
「あぁ、幕が上がっていく」
「うぅ、絶対に挨拶なんて出来ないよ…」
そんな会話をよそに、幕は非情にも上がり続け、ついにその時が来た。
「わー!」
「美味しぃ!」
「むぐぅ! それは私のだぁ!」
「えっと、皆さん、挨拶の時間ですよ」
「そうだぞ! 挨拶の時間だ! 静かにしろって!」
まぁ、幕の外は随分と賑やかだった
その状況を必死に制しようとアルル達が奮闘しているが
結果は芳しくないようだった、ただ何人かはこっちを見ている。
それにしても、子供達を制しようとしているメンバーの中にも子供がいるな。
確か、あの子供は…レギンス軍団長の隣にいた人か
じゃあ、俺達の上司だな。
髪の毛は黒く瞳は真っ赤だ
服は当然軍服みたいだが俺達のと違い黒い。
俺達の軍服なんか黄緑色にペガサスの柄が付いた帽子を被る。
でも、あの子は黒い帽子にペガサスとユニコーンの柄になっている。
もしかして、そこで地位が分かったりするのかも知れない。
あと、胸辺りにはいくつかの勲章のような物が付いている。
この事からも彼女が優秀な兵士であるという事は間違いないだろう。
他にも2人ほど暴れている子供を制しようとしている子供がいる。
ただ、その子達は俺達と同じ軍服を着ている。
1人は青髪に青い瞳の男の子、1人は白い髪の毛に赤い瞳の女の子だった。
てか、男の子もいたんだな
今まで女の子くらいしか会わなかったから意外だ。
「荒れてるね」
「そりゃあな、子供ばっかりだったらこうもなる」
さて、この状況での挨拶なんて出来るのか? いや、出来ないだろうな。
はぁ、もう良いだろう、挨拶なんてどうでも良いか。
「あはは! 皆! 楽しいかな!?」
「「「勿論!」」」
フレイの奴がこの状況を見て、何を思ったのかいきなり疑問を投げかけた。
暴れている子供達はその疑問にすぐに反応し、大きな声で答える。
「そうだよね! やっぱりパーティーは楽しくないと!」
「うん!」
はぁ、もうどうにでもなれ、これ以上悩んでもしょうが無いからな。
「そうだな、今日を国が広くなった記念日だとか
3つの人種が1つになった日だとか
そんなかたっくるしい話はどうでも良い、とにかく楽しんでくれ!」
「そうそう! 皆! このパーティーでお友達を作ろう!」
3つの人種が1つになった記念だとか
正直、人種だとかそう言うのを気にするのは大人くらいだろう。
子供達にはそんな面倒な壁はない、壁を作るのはいつだって大人だ。
子供に壁を作らせるのも大人だ、でも、こいつらはまだ幼い。
だから壁なんて作ってない、大事なのはここにこれだけいるって事だろう。
ただこの中から友達でも作ってくれればそれで良い、ただそれだけで良い。
「折角のパーティーだ! 兵士だろうと国民だろうと、そんなの関係ない!
と言うわけで、最高に楽しめ! 今までで1番楽しい1日を作れ!」
「「「おーー!!」」」
「美味しい物はドンドン食べろ! 仲良くなりたい奴にはガンガン話しかけろ!
全員で楽しいパーティーにしろ!」
「いやっほー! 1番パーティーを楽しんだ人が優勝だよ!」
「私が優勝する!」
「俺が優勝する!」
「あ、美味しい!」
そんな感じの挨拶で子供達は更にテンションが上がったのか盛り上がり始めた。
パーティーならやっぱこういう感じが良いだろう、大丈夫かは知らないがな。
まぁ、そんなの知らないし、俺たちゃ子供だ
後の面倒なことは大人がやってくれるだろうよ。
「あらら、リオさんとフレイさんのせいで更に賑やかに
これは私達は楽しめる余裕がありませんね」
「子供達のお世話は私たちのお仕事ですわ、さぁ、頑張りますわよ」
「あぁ、美味しい料理が遠のいていく」
「残しといて貰えるって、ほら頑張ろう、多分疲れて食べたご飯の方が美味しいさ」
「はぁ、私が考えた挨拶が無意味でしたわ」
「良いじゃないの、パーティーは参加者が楽しめる方が優先なのよ」
「…そうですわね、こんなパーティー、私も初めてですし
リオ達が言ってたとおり最高に楽しんで見せますわ!
今回のパーティーの優勝者は私ですわよ!」
そんな挨拶で国中の子供達が集まったパーティーが始まった。
至る所に美味しそうなご飯が列んでいる。
しかし、全ての料理が豪勢という訳では無く、質素な物も入っている。
だが、その質素な物もまた美味い、家庭の味だな。
有志の人達が頑張って料理を作ってくれていると言う証拠だろう。
「よし、じゃあ、俺はこのチキンを食うか、最後の1つみたいだ、ラッキー」
「リオ-!」
俺がチキンを手に取ると、後ろから走ってきたフランが俺を掴んだ。
「な、なんだ!?」
「リオ、ここは凄い、子供ばっかり、私の楽園!」
「そ、そうか、で、何で俺にそんな事を伝えに来たんだ?」
「リオを手に入れるため、今ならアルルもいないから
催眠術を掛けることが出来る」
催眠術って…あ、そうか
考えてみれば俺1人に催眠術を掛けるくらいなら出来るのか。
あれ? それってヤバくないか?
普段はアルルが止めてくれるが、今はアルル居ないし。
「な、お前! 何を考えてやがる!」
「さぁ、私の目を見て、きひひ」
「ちょ、待てって!」
ヤバい! 目を少しだけ見ちまった!
…あれ? 前みたいに力が抜ける感覚が無いぞ。
「…冗談、こんな時にそんな事をするわけが無い」
「…は?」
…何がしたかったんだ? え? 何で催眠術の真似事をしたんだ。
理解は出来ないが、冗談なら良い、にしても、迫真の演技すぎてビビった。
「…もしかしてフラン」
「な、何?」
「チキン…欲しいのか?」
俺は手に持っているチキンをフランに見せてみた。
「い、要らない」
等と言っているが、フランの目はチキンをジッと見ている。
ちょっと動かしたりしても、ただひたすらにチキンを見ている。
それに、少しだけよだれも出て来ている。
「…食うか?」
「い、要らない!」
必死に目を背けようとしているが、どうやら釘付け状態らしく
ずっと横目で俺が持っているチキンの方を見ている。
「そうか、じゃあ俺が食うか」
「あ、あぁ…」
俺が食おうとすると、フランの視線がチキンによってきた。
それに、よだれの量も明らかに増えている。
「…要るならやるよ」
「い、いや、それはリオのチキンだから、私は奪ったりしない」
「はぁ、変に強情なんだから」
俺はその言葉を聞いた後、軽くチキンを食った。
その間、フランの視線はかなり痛かった。
「ふぅ、ほら」
「え?」
俺はチキンを少しだけ食った後、フランにそれを渡した。
「後はやるよ」
「で、でも」
「正直、チキンよりも向こうのステーキの方が美味そうだしな、ほら」
「あ、う、うん」
フランに半ば強引にチキンを渡した後
俺はフレイ達が集まっているステーキの場所に移動した。
「あ、リオちゃんもステーキ?」
「そうだ、美味そうだしな」
「うん、美味しそうだよね! 初めて見たから食べたいって思ったの!」
「そうだな、ステーキは初めて食うか」
今までステーキなんか食ったことないしな。
あれ? そう言えば、フレイは何でこれがステーキだって知ってるんだ?
名称なんて書いてないし、普通ならステーキじゃなく、分厚い肉って良いそうだが。
「なぁフレイ、なんでこれがステーキだって知ってたんだ?」
「え!? あ、えっと…先生達と一緒に居たとき、買い物に出た街で
このお肉にチーズが沢山あった料理を見たの
美味しそうだったから食べたいって思ったんだけど
先生におねだりなんか出来なかったから我慢して帰ったんだ
その時のお店での名前がロイヤルステーキだったんだよ
だから、お肉だけならステーキなのかなって」
ふーん、そんな事が、なるほどな、だから名前を知っていたのか。
「そうか、じゃあ、今日は遠慮しないで食べろ、食い放題だからな」
「うん! だから、お肉を全部食べるの!」
「よしよし、ガンガン食え! 今日は生まれて初めての贅沢だ!」
「いえーい! 食べまくるよ-!」
フレイは俺の言葉でテンションが上がったのか、ステーキをせっせと貰い
凄い速度で食事を始めた、そして、俺の順番が来そうになった。
とりあえず、ステーキを頼むとするか。
「リオ」
「へ?」
俺が列に並んでいると後ろから聞き慣れない声が聞えてきた。
俺が後ろを振り向くと、そこには黒い軍服の幼女が立っている。
「こっちに」
「あ、はい」
一応上司みたいだし、俺は敬語で答えて彼女に付いていった。
「えっと、なんのご用で?」
「…君は小さな戦士達を背負う覚悟はあるのか?」
「何でいきなり?」
「今回の挨拶、非常に残念だった、あれではまるで子供だ
お前は兵士で指揮官だ、少しはそれを自覚しろ」
「…まぁ、そうですね、ですがこのパーティーに来ているのは子供ばかりです
堅苦しい挨拶をしてもまるで意味は無い。パーティーは楽しませるためにある
どうせ真剣にやっても飽きられるだけです。だったらすぐに終わらせて
子供達の気分を向上させる方が良いでしょう?」
「だけど」
「ほら、周りの子供達、もう仲良さそうですよ?
さっきまで他人だっただろうにね
それに、あなたも少しウズウズしていますよね?
見て分かります」
彼女は明らかにウズウズしている、落ち着きがあまり無い様子だからな。
真剣な話をしているのに、足が上下に動いたり、少し震えたりしている。
他にも周りを少しウロウロしたりしているからな。
「そんな事、私はレギンス軍団長のお付きでもある
これ位で冷静さを欠く物か」
「兵士である前に、指揮官である前に、俺達はまだ子供
我慢しないでも良いでしょう? こう言う華やかな時位」
「…そうだな、こう言う時くらい、解放しても良いだろう!」
我慢の限界が来たのか、彼女は凄い速度でパーティーに参加をした。
さっきまでの真剣な眼差しは無くなり、非常に楽しそうな笑顔になる。
やはり子供なんだな。
それから、パーティーは続いた、子供達は盛大に騒ぎ
食料は凄い速度で減ったりした。
「あの、好きです! 結婚して下さい!」
「…は?」
俺がパーティー会場を回っていると、何処かの男子が告白してきた。
「お前、何言ってんの?」
「ほ、本気なんです! 格好いいし!」
あれかな、子供特有の優秀な女子に憧れる感情とかかな。
それは正直恋とは違う気がするが、子供には分からないんだろう。
「お前は馬鹿か? もう少し冷静になれ、憧れと恋は違うぞ」
「そんな事は」
「…お前は」
「ひぃ! うわぁぁ!」
「あ? …フラン、いつの間に」
いつの間にか俺の後ろにフランが立っていた。
どうやら、さっきの男の子はフランに睨まれて逃げだしたらしい。
「リオは私の物」
「俺は誰の物でも無いっての」
「リオちゃん! このご飯美味しいよ! 一緒に食べよ!」
「じゃあ、それと一緒に私が見付けたジュースを飲んで! 美味しいから」
「だったら、フレイがくれたご飯を食べた後にデザートでこれを食べよう。
多分ウィングが持ってきてるジュースとも合うと思う」
「そうだな、食うか」
それからパーティーの最終日、俺達は国王様に呼ばれて直接勲章を貰った。
こんなサプライズは予想もしていなかったせいで、フレイ達は固まっていた。
そして、小さな戦士達が正式に結成、人数に変動は無いが
一応、国が正式に認めたと国民達も知ることとなった。
恐らくこれが勲章授与の1番の目的だったんだろうな。
「これで正式に部隊か」
「11人ですか、少ないですけど戦力は十分ですね」
「だな」
そして、パーティーから1週間後…新しい戦争が始まった。
長い休暇は終わりを告げ、忙しく働く時が来た。
とりあえず、第1部はこれで終わりとなります。
第2部は気が向いたら書こうと思っていますが、しばらく更新はありません。
更新を再開したら活動報告で報告します。




