意見はぶつかる
さて、軍の名前も決まって、部下兼アドバイザーの子も仲間になった。
まだ、問題は山積みだが…とにかく、大きな物は終わっただろう。
問題は戦争が発生したときにどうするかだな。
まぁ、俺の部隊の名前は決まったが、フレイ達は決まってないようだ。
「えっと、守る部隊!」
「まっすぐで良いけど、別の方が良いと思うよ、私はね」
少し可愛そうな子を見るような目でマナはフレイに自分の意見を言った。
しかし、フレイはマナの小さな言葉など聞いては居ないようだった。
このままだと、フレイの部隊が守る部隊などと言う
目的がよく分からない部隊名になってしまう。
「えっと…援護部隊…かな?」
「無難なお名前ですね助けるという事を最優先にして戦うのですか」
「うん! 私は戦うのは苦手だから、頑張って皆を助けるんだ!」
ウィングの部隊の名前は結構わかりやすいな、援護部隊だし。
その部隊名に、メルトも問題無さそうに頷いている。
「じゃあ、私達は…支援部隊?」
「流石にそれはないでしょう?
やはり、突撃部隊がよろしいでしょう、支援などよりも目立ちますわ」
「う、うーん、目立つのはどうでも良いかなぁ」
「何故ですの!? 目立たねば地位を上げることなど出来ませんわ!」
…うーん、シルバーは結構自分意識が高いのかも知れないな。
目立つことばかり考えていそうだ、そう言う奴は大体足下をすくわれる。
目先の功績にばかり集中して罠に気づけないタイプだ。
ゲームとかでたまに見る
功績を追いかけて殺される仲間キャラみたいな感じだな。
「私はね、皆を助ける人になりたいんだよ
自分の事だけ考えて目立っても
友達と一緒に大きくならないと楽しくないから」
「友達などと、その様なくだらない事を言っているのですか!?
あなたはもう子供じゃないのです!
立派な兵士であり、指揮官なのですよ!?」
「そうかも知れないけど、それだけは譲れないんだ
友達と一緒に頑張るのは譲れない!」
「ふん! 才能だけの人間は子供でも頑固で馬鹿なのですわね!」
「何とでも言ってよ、私は頑固でも良い
先生が教えてくれたことを守るんだから!」
「お、おい、お前ら、いきなり喧嘩は…」
「お黙りなさい! あなたもどうせ子供ですわ!」
…はぁ、全く、こう言うタイプは中々厄介だな。
だが、トラも引く様子はないし、あの気持ちは持っていて欲しい。
こうなったら、無理にでもこのシルバーの方を折らないと。
「黙るのはあなたの方だよ」
「何よ! この頑固な子供!」
「あなたはさっき言った
私達はもう子供じゃなくて立派な兵士で指揮官だって
私は子供じゃない、わがままも言わない
でも、あなたはわがままばっかり
相手の悪いところばっかり言って
自分は反省もしようとしない!
先生も相手を怒らせたら、自分が悪い所を考えて
しっかりと反省しましょうって言ってた」
「何よ! また先生? 先生、先生って、同じ事ばっかり!」
ヤバい…いきなり犬猿の仲だぞ…うぐぅ、メンバー分け失敗したな。
でも、それでも、もう選んだ以上は仕方ない。
そもそも、これは確実にシルバーが悪いんだよな。
「はぁ、シルバー、お前は本当に自分の事しか考えてないな」
「何よ! あなたまで文句を言うわけ!?
私は間違った事なんて言ってませんわ!」
「周りの事も考えないで、ただ自分の事しか言わないのは
間違いしかねぇんだよ!
戦場に立てば仲間と協力しねぇと駄目だろう?
1人で突撃しても串刺しで即終わりだ!
たった1人で戦場をひっくり返せるわけ無い!
なのに、突撃だと? 馬鹿か!?
確かに地位を上げるのも、目立つのも、出世するなら必須だろうが
別の手段で目立つことも出来る、命あっての物種だ、死んだら意味は無い!
そもそも! テメェの意見が絶対だと思って
相手の言葉を聞かない地点でクソだ!
自分の意見と食い違えば怒鳴り散らし! 否定しかしねぇ!
自分しか見てねぇ証拠だろうが!」
「こ、子供のくせに生意気よ!」
「お前見たいなわがままなのが大人なら
俺は大人になんかなりたくないね
なんせ、ちゃんと反省する辺り、子供の方が何倍もマシだ!
最優先の仲間と共に生き残ることを
完全に忘れて武勲ばっかり見てるような突撃馬鹿の間抜けが!
だから出世しないんだよ!」
「こ、この! 言わせておけば!」
「どんだけお前がほざこうと、トラはしっかりと仲間を見ている!
自分しか見えちゃいねぇ
自己中のお間抜けお嬢様にゃ分からないかも知れねぇがな!」
「う…うぅ、う…く!」
シルバーは俺の暴言を全部聞いた後に
目に涙を溜めて何処かに走ってしまった…
ヤバい、これは言いすぎた…どうしよう、感情を制御しようとしたが
どうしても口が止まらなかった
長い間一緒に居たトラを馬鹿にされて、頭にきちゃったからか…?
「あちゃぁ…言い過ぎちまった…すまないな、トラ」
「良いんだよ、代わりに言ってくれてありがとう
でも、やっぱり言いすぎだよね、あれは」
「いやぁ、その、悪い…」
「先生にも注意されてるのになんで直せないの?」
「く、クセだからかな…」
分かっちゃ居るが直すことが出来ないからクセという物は恐ろしい…
それにしても、シルバーは大丈夫か?
確実に言い過ぎた…でも、謝りには行けないな…
俺がそんな風にちょっとどうしようか迷っていたとき
後ろから恐ろしい寒気がした。
「―!」
「うふふ…は! あ、ど、どうしました?」
「あ、いや、その、何か寒気がしたから…」
うーん、気のせいだったのか?
背後から恐ろしい気配がした気がするのに…
こう、全身を舌で舐められているかのような奇妙な感覚が…嫌悪感?
「どうするかな…」
「私の意見ですけど、多分放置で大丈夫だと思います
きっと、リオさんに言われたことを反省してると思いますよ
シルバーさんはそう言う人です」
「知り合いなのか?」
「はい、かなりの良家のお嬢様です
昔は有名だったんですが、最近はすっかり寂れて」
「そうか、だからあんなに武勲を…はぁ、すまない、ちょっと謝ってくる」
「あ、私も行くよ」
俺達は急いで走って行ったシルバーを探しに部屋を出た。
そして、シルバーはすぐに見付かった
部屋に出て、すぐの場所で泣いていたんだ。
「シルバ-、その、さっきはあんな風に言っちまって…
お前の事情も知らないで…」
「……良いのですわ、私自身、一切の自覚が無かった訳ではありませんから
自分でも少しだけ分かってたのです
でも、今までの生き方を否定するのが怖くって…」
「…大丈夫だよ、安心して、何か辛いことがあったら私が話を聞くよ
分からないこととか、怖いことがあっても、私がお話を聞いてあげる
こんな小さな私だけど、それ位の事はしてあげられるから、お友達だからね」
トラはゆっくりとシルバーに近寄り
通路の隅っこで泣いているシルバーを優しく抱きしめた。
そして、子供をあやすようにゆっくりと頭をさすった。
「私はあなたのお友達、大丈夫だよ
いつでも私はこうやってシルバーを抱きしめてあげるから」
「…こ、子供に、あやされるなど…
は、恥でしかありませんが…でも、ありがとうございます
私、あなたの元でなら、きっと変われる気がしますわ
…ありがとうございます」
「うんうん、そうだよ、今が駄目だって思ったら変われば良いんだよ
大丈夫だからね、シルバーがどんな風に変わっても
私はあなたを受入れるよ」
「はい…」
な、何だか良く分からないが
とりあえず、シルバーとトラは和解できたようだな。
しかし、大人をあやす子供か…トラって、本当に5歳なんだろうか?
その割には随分と大人びてるよな、先生みたいだ。
しかるときは強くしかって
慰めるときは本当に優しく慰め所とかそっくりだな。
「それじゃあ、シルバー、涙を拭いて立ち上がって
立ち止まってたら先には進めないよ?」
「はい、分かりました…すみません、お見苦しいところを見せてしまい…
ですが、スッキリしましたわ! リオさんもありがとうございます」
「いや、俺は暴言を吐いただけだから…
感謝されることは…謝ることはあるけど」
「良いんです、思いっきり怒ってくださったお陰で
自分に足りない物が分かりましたわ
それに誰かに強く叱られるという貴重な体験も出来ましたわ」
「そ、そうか、なら良かった…とりあえず、もう1人で突っ込むとか言うなよ?
お前さんが死んだら、悲しむ人が居るんだからな」
「はい、分かりましたわ…もう、武勲は焦りません」
何というか、戦場で喧嘩にならなくって良かったな。
シルバーの中にあった結構しつこいモヤがすぐに晴らせて良かった。
しっかし、俺が最後に言った言葉
あれ確実に無茶をして戦場から戻ってきた
仲間を叱る言葉だよな…でも、危険を冒す前に言っても良いだろう。
危険な行動をした後なんて、死ぬ可能性の方が高いんだから。
「さて、それじゃあ、俺達の部隊の名前は決まったし
今度は部隊の部屋だな、何処だ?」
「皆さんのお部屋は別々です、なので、各々の指揮下に入る人が案内します」
「そうか、じゃあ頼む」
「はい、それでは、リオさんはこちらです」
俺はアルルに案内され俺の部隊の部屋となる場所に案内された。
しかし、何だ…あいつらから離れて行くたびに
何だか体の中の危険信号が反応してる気が…
いや、何に反応するってんだよ
あ、アルルが近くに居るんだ、何の問題も…
あれ? そういえば、ここに居るのは俺とアルルだけだよな。
何でこんな妙に嫌な予感が…気のせいだ、考えすぎだ。
きっと、あれだ、緊張とかだよ、
自分の部隊の部屋とか見る前の緊張的な奴だよ。
「こちらになります」
「あ、あぁ」
俺は部隊の部屋の中に入った
そこはかなり誇りがたまった感じの作業部屋という風だった。
しかし、ソファーは多いし、指揮官用の椅子と思われる物も正面にある。
結構大きめの部屋だった…ここが今度から俺の作業部屋になるのか。
「ふふふ、広いですよね」
「あぁ……!」
俺は扉の音が響くと同時に背中がものすごくゾクゾクし始めた…
こう、幽霊でも居るんじゃないかという、そんな強烈な気配…
俺はその気配を受け、ゆっくりと後ろを見てみた。
「あぁ……」
後ろを見てみると、アルルは妙にうっとりとしている。
何だ? 何なんだ? あの妙な表情…
「え、あの、アルル? ど、どうしたんだ?
顔がものすごく緩んでるぞ?」
「は! いけないいけない! すみません!」
「え? あ、うん」
もしかして…いや、ほぼ確実にあの気配はアルルの物だ…
だが、あの表情は俺を殺そうとしている訳ではないのは分かった。
もしも俺を殺そうとしてたなら、もっと悪い顔だろうしな
…あんな緩みきった表情はあり得ないよな。
しかしだ、あいつから感じた物が殺意じゃないなら、一体あの気配は何だ?
「うふ、うふ、うふふ…今度からこの子と1つ屋根の下で…うふふふふ」
「お、おい、な、何だよ、その気味の悪い笑いは…」
「いえ、私は幸せ者だなって思っただけです
ワイルド系、激カワ幼女と1つ屋根の下…うふふ」
…これ、俺が感じてたのって、貞操のピンチなんじゃないか?
いや、いやいや、そ、そんなわけ無いよ、相手は女だぞ?
俺も今は幼い女の子、同性だ…そんな襲ってくるとか無いよな?
あ、あるわけないよ、そんな事…ある分けねぇよ…マジで。
「えっと、1つ報告がありまして」
「な、何だ?」
「確かにここはリオさんの執務室なんですが
食事はフレイさん、ウィングさん、トラさん達と
その部下兼アドバイザーの8人で食事を取ることになります」
「そ、そうなのか!」
「はい、それと、寝室はリオさん、フレイさん、ウィングさん、トラさんの4名
私達アドバイザーはその左右の部屋で2人で寝ることになります
執務室に寝室がないので、仕方のない事なのです」
「そうか! それは仕方ないな! うん!」
やったぞ! 寝るときまでこの気配を感じることはないんだな!
これなら、俺の貞操も守られる! いやぁ、良かった、安心した!
「はい、仕方ないのです…はぁ、ですが、お仕事はここでこなして貰います
しかし、あなたは幼いので、書類など分からないでしょうから、
私があなたのお勉強と、戦闘技術、体の基礎訓練の指導を行ないます
そう言う役回りですので」
「あ、あぁ、そ、そうか…」
まぁ、四六時中一緒に居るわけじゃないんなら、問題ないな。
…それにしても…何かものすごく眠い…
「ふわーぅ」
「もしかして、眠たいのですか!?」
「あぁ、そうだ…今日はかなり疲れたしな」
とりあえず、俺はソファーの埃を払い、座れる状態にした。
「…うぅ」
「は! このままでは、リオさんの髪の毛が埃まみれに!」
うぐぅ、座ったら、余計に眠たくなった
丁度アルルがソファーを掃除してくれたし
少しだけ寝るとしよう…あ、でも、て、貞操の…ぴん…
「お、おぉ! リオさんが私のお膝で!」
「うぅ、柔らかい…」
俺は柔らかく、暖かい枕で眠ることにした…気持ちいい…な……