理由
勝負は着いた、だがその時の代償はかなり大きな物になった。
「メル」
メルはあの後からずっと動いていない、それはフランもそうだ。
かくいう俺もろくに動ける状態じゃ無いらしい。
こっちに援軍に来ていたミストラル国の衛生兵がそう言っていた。
下手したら死んでたらしいな、そんなに重症だったのかよ。
「状況は随分と酷いらしいですよ、ミストラル国兵士の3割は戦死、オーム国の残存兵士の7割は戦死
それと、ディーアス国の兵士達の9割は戦死、残りは重軽傷者が多数です」
「どうしてそんな事になったんだ?」
「味方同士で殺し合ったらしいですよ、特にディーアス国とオーム国の兵士達は」
「なんでその2つなんだ?」
「分かりません、ただその2つが異常な程に仲間内で殺し合ったという情報しか」
もしかして、フランの復讐か? 自分を捨てた国対する報復?
だが、あいつはそこにどの国がいたのか分かったとでも言うのか?
そんな千里眼みたいな能力も持っていたって言う事か、とんでもない奴だな。
「それと、マルさんのご両親は無事です」
「そうか、それは良い報告だな」
元々その両親を助けるために戦いになったんだからな。
でも、その戦いでこれだけの負傷者と死者が出るとは・・・・
これが戦争か、その動機が善意だろうと犠牲は付いてくる。
「それと、ディーアス国の国民達からは感謝の声が大きいです」
「どうしてだ?」
「どうやら、ディーアス国の帝王ディーアスの圧政が嫌だったらしいです
少しだけ不満を言えばすぐに兵士に殺され、兵士の道を阻んだだけで即処刑
そんな状況が嫌だったらしいですよ」
「それは当然だね、そんなの反発したくなるよ」
「じゃあ、マルの両親はレジスタンスみたいな物だったのか?」
「はい、そうですよ、自分達で言ってましたから」
こいつはいつの間にマルの両親とそんな話を・・・・そうだ、思い出した。
前から聞こうと思っていたが状況が状況だから聞くことが出来なかったんだ。
「所でお前ら・・・・どうしてここに?」
「そりゃあ、リオのお見舞いをするためだけど?」
「そうじゃない、どうしてお前らがこの国に来たのかって事だ」
「そうだなぁ、志願したからかな」
ん? 志願ってどういうことだ? もしかして、こいつらが引き連れてきたのか?
「それについては私達から話そう、リオ殿」
丁度見舞いに来たのか、マルの母親が部屋にやって来た。
「今回ミストラル国と私達レジスタンスが共闘した理由がそこのアルル殿が理由だ」
「わ、私は別に何もしてませんよ」
「何を馬鹿な事を、今回の作戦の功労者じゃないか」
「どういうことだ? 何でアルルが」
「・・・・えっとですね、リオさんが意識を失った後の話です」
私はあの後、拘束していたもう1人の兵士の事が気になったんですよ。
あんな無残な死を見た以上、もう1人も同じ事になってないか心配で戻りました。
・・・・しかし、残念なことにもう1人拘束していた兵士も死んでいました。
このまま木に拘束しているのも可愛そうだったので、私は彼の縄を解き
もう1人の兵士の亡骸と共に墓を作りました。
「そんな事をしていたのか」
「はい、可愛そうだったので」
「・・・・・・」
そして、墓を作って埋葬した後、私はリオさん達と合流するために戻ったんです。
すると、丁度そのタイミングにリオさんとマルさんが兵士達に攫われている光景を見ました。
リオさんはその時お腹から血を流していて、私は衝動的に兵士達を倒そうとしたのですが
泣いているマルさんを見て、その気が一気に失せ、その場で奪還することを止めたんです。
「なんでマルは泣いていたんだ?」
「・・・・私なの、その時リオを刺したのは」
「は?」
「・・・・・・言われたんだ、兵士達にお前が俺達の敵じゃ無いと言う証明をするために
そこで寝ているガキの腹を刺せって、そうすればお前は助けてやる。
まぁ、そこのガキが生きてたら、同じ様に助けてやるよ、って
だから、リオを助けるためにも・・・・刺したの、危なくない場所を」
あぁ、そのお陰で俺は生きていたのか、致命傷を受けていなかったのもこいつが外してくれたから。
「そんな事があったんですね、ありがとうございます、リオさんを守ってくれて」
「なんでお前がお礼を言ってるんだ? ここは俺が礼を言うところだろう」
「リオさんの代弁ですよ」
「はぁ・・・・とりあえずマル、ありがとう」
「いや、お礼を言うのは私・・・・お父さんとお母さんを助けてくれて・・・・ありがとう」
・・・・これで少しは罪滅ぼしになったかな、まぁ、こんなんで滅ぼせるほど小さな罪じゃ無いがな。
「マルは勇敢だな、流石は私とあいつの子供だ」
「お母さん・・・・」
「さて、アルル殿、話の続きをどうぞ」
「はい」
その後、私は考えました、リオさんを助けるためにはどうすればいいか。
そこで出て来た1つの答え、それがオーム国の兵士達との共闘でした。
しかし、戦力差は歴然、仮に共闘をお願いしてもリオさんを奪還できないのは明白でした。
まぁ、その時はオーム国の兵士達と合流してから考えることにして捜索
そこそこの時間は掛りましたが、結構早く隠れ家を見付けました。
「あの時は驚いた、まさか私達の隠れ家が見付かるとは思わなかったから
それに、1人だけで来たんだ、本当に驚愕したよ」
「受入れてくれてあの時は助かりましたよ」
「1人だからな、敵意などは無いのは明白だったんだ」
「なる程」
ふーん、アルルがオーム国の兵士達の根城を見付けたのか、やっぱり凄い観察力だ。
本当にこいつは偵察に向いているな。
「それじゃあ、続きを話します」
私は必死にオーム国の皆さんを説得しようとしたのですが、返事は芳しくありませんでした。
1人の少女の為に命を賭ける兵士達なんていませんからね。
当然、マルさんの事も話したのですが、ハルさん達は信じてくれませんでした。
「ハルって誰だ?」
「マルさんのお母様です、そこにいるじゃないですか」
「そうだ、私の本名はハル・スプリンス・ローズ」
「じゃあ、マルの本名も」
「うん、マル・スプリンス・ローズ、でも長いからマルって自己紹介してるの」
やっぱり長いんだな、いちいち自己紹介の時も面倒だし、それなら俺は短い名前で良い。
「続き行きます」
ハルさん達を信じさせる事が出来なかった私は途方に暮れましたよ、えぇ
このままだとリオさんもマルさんも救えない、単身で挑んでもすぐに押えられるのは明白です。
だから私は色々と考えましたよ・・・・その結果、かなりの賭けですが1つの答えに行き着きました。
その答えは私がミストラル国の兵士だと言う事を言い、共闘をお願いすることです。
「あの時はかなり驚いた、いきなり私はミストラル国の兵士といい、その証明まで見せたんだ
ミストラル国は私達と敵対していた国、私達の空気は一気に変った
だが、こいつが言う言葉はずっと同じ、リオさんとマルさんを助けたい! と土下座をしていたんだ」
「必死でしたから」
「私もその熱意に少し負けた、だからチャンスをあげたんだ
自らをその刃物で刺せと、もし刺せば協力してやろうと
そしたら、一切の躊躇いも無く自らの腹を刺したんだ」
「大丈夫ですよ、急所は外していますからね」
あぁ、そうか、だからあの時あんな怪我をしていたのか。
「私は驚いたと同時にこいつの熱意が本物だと理解した、だから協力を承諾したんだ」
「で、私は自分の筆跡でこの旨を書いた書状を作って、オーム国の伝令さんに送って貰いました
返事が返ってくるまで10日は掛りましたね、でも帰ってきたときは安心しました」
流石は伝令、あの距離を10日程度で往復するなんてな。
そういう所を極めているだけはある、本当に驚いた。
「でね、ミストラル国はその伝令さんが来て会議をしてね、出さないって事になったらしいの」
「え!?」
「でも、お姫様達の命令で兵士を出すことになって、私達は大喜び!」
「メア姫は恩を返すためだっていってたよ、それとリサ姫はもう1人の妹を助けたいからって」
「なんでそんな話をお前が知ってるんだ?」
「私も説得に行ったから、まぁ、要らなかったけど」
・・・・リサ姫とメア姫かあぁ、命を張ったお返しで命を救って貰えるとはね。
「そうか、そんな事があったのか」
「で、後は私達が全力で移動して目的の場所に来たんだよ
その後、私が2人を抱き上げて崖をぴょんぴょーんと」
簡単にいってるが、かなりキツいよな絶対に。
身体強化魔法の使い手だから出来たことなんだろうが、普通は崖の上に登れないっての。
「中々刺激的なお散歩だったよ」
「お散歩って・・・・はぁ、もう良い」
やっぱりこいつの思考は色々とぶっ飛んでいる、崖を登る行動が散歩とかあり得ないっての。
「ま、お前のお陰で俺は助かったんだ、感謝するよ」
「感謝とかどうでも良いからさ、怪我が治ったら一緒に遊んでよ」
「分かってるよ、そもそも仮に断ったとしてもお前の事だ、強引に引っ張り回すだろう?」
「勿論!」
やはり否定はしないか、まぁ、こいつが否定する方がおかしい気がするけどな。
「まぁ、これが今回私達がリオさんを救出しに来たときの全貌です」
「あぁ・・・・とりあえずありがとうな、アルル」
「り、りり、り、リオさん! 止めてください! そんな眩しい笑顔で私を見ないで!
そんな顔を見てしまったら、抱きつきたくなるじゃないですか!」
「そう言う反応、相変わらずキモいよな」
「あぁ、何という・・・・私は嬉しいです!」
何で貶されたのにこいつは・・・・はぁ、何だか最近こいつの暴走が酷くなってきている気がする。
なんせ、人前だろうとこんな反応を見せるようになって来てるからな。
「うーん、アルル殿はもしやリオ殿が好きなのか?」
「勿論です! この人のためなら、私は何の躊躇いも無く命を捧げることが出来る位に好きです!」
「あ、私も大好き! リオちゃんといると楽しいからね!」
「わ、私も」
「・・・・私は別にそこまで好きじゃないかな、でも、死んだら困る」
トラの奴は顔を背けながらそう言っている、もしかしてこいつってツンデレ?
「トラちゃんは素直じゃないなぁ」
「リオは私のライバルだから」
「いつの間にそんな事になったんだ?」
「トラさんは負けず嫌いですからね、リオさんに負けることが多いのでライバル視してるのですわ」
そうだったか? イマイチそんな風には見えないんだけどな。
いや、シルバーと口喧嘩してたのを考えてみるとそうなのかも知れない。
普通は大人しく答えるだろうにな。
「でも、ライバル視してるって言う割には、リオちゃんを怪我させちゃったときに泣いてたよね」
「わぁ! フレイの馬鹿! それは関係ないだろ!」
「あはは! トラちゃんの力じゃ、私には勝てないよ!」
「この! いい加減にしろ!」
「いたい! ちょっと! 魔法は反則だよ! でも、そっちがその気なら私だって!」
「待てお前ら! ここ病室だぞ!? 暴れるんじゃねーよ!」
「だってフレイが!」
「トラちゃんが先に!」
「黙れ! お前ら自分の魔法がどれだけヤバいか自覚しろ! また怪我人が増えたらどうするんだよ!
大体お前らはすぐそうやって喧嘩して、その度に周りを巻込んでいるんだぞ!?
分かってるのか!? あぁ!?」
「「ごめんなさい」」
怒鳴りすぎた・・・・まぁ、腹の怪我は治ってるからさほど痛くはないんだけどな。
「やっぱりリオさんが2人を制するには強いですわね」
「同い年なのにお姉さんって感じですよね・・・・いや、お兄さん?」
「やっぱりリオは起ると怖いや」
「はぁ、全く先生にも怒られてたのに、お前らは」
「全部フレイが悪い」
「先に手を出したお前が悪いんだよ、普段は冷静なくせに何かあるとすぐこれだ」
「うぅ、ごめんなさい」
とりあえず、これで落ち着いてくれたなら良かった。
「あの、リオさん・・・・あなたは自分の状況理解してるんですか? そんなに怒鳴っちゃって」
「え?」
俺が怒鳴り散らした声が聞えたのか、俺の看病をしてくれた衛生兵の人がやって来た。
「言いましたよね? 下手したら死んじゃうくらいの怪我だって
今は大丈夫かも知れませんが、病み上がりの状態で怒鳴るのは止めてください」
「え、えっと」
「何ですか? 死にたいのですか? あなたはもう少し自分の状態を理解して
衝動的な行動じゃなく、考えて行動してください。
貧血とかで倒れたら迷惑なんですよ、私の仕事が増えちゃうじゃないですか
ただでさえ重傷者が多いのに本来大丈夫な人が倒れるのは労力と時間の無駄なんですよ」
「あっと、ごめんなさい」
「分かったら大人しく安静にしていてください、怒鳴るのは御法度ですよ」
「はい」
何で俺がお説教を食らわないと行けないんだろうか。
そもそも、俺の怪我って打撲と骨折と軽い切り傷に治りかけの刺し傷じゃないか
怒鳴っても別に怪我が酷くなるとは思えないんだけど。
「何だか不服そうな顔をしていますね」
「え? いや、そんな事は」
「良い機会です、あなたの状態を軽く教えてあげましょう」
「いや、そんな別に」
「まず骨折です、足が動いたりしたら変にくっついて面倒でしょう
次に切り傷、今はある程度収まっていますけど出血が酷かったので貧血を起す可能性もあります
次に刺し傷、これは殆ど治っていて怪我も致命傷じゃありません、ですが今開けば出血死でしょうね
まだ完全に治っていない以上、興奮して傷が開く可能性はあります、自覚してください
最後に打撲ですね、これは大した事はありませんが骨にヒビが入っています、興奮したりして
下手に動かせば骨折、また時間が掛ります、分かりましたか? 興奮すると、下手したら死にます」
「え、えっと」
「ですので、興奮をするのは止めてください、今度怒鳴ったら全身をがんじがらめにして
口を紐で押さえつけて喋れなくしますのであしからず」
何か怖い! この人なんか怖いぞ!? それに目がマジだし!
うぐぅ、かなりヤバそうな衛生兵に当たってしまったな。
まぁ、言ってることは正論なんだろうから反論できないけど。
「あなた達も病室で喧嘩は止めてください、耳障りで煩わしいので」
「「は、はい」」
「それでは、お大事に・・・・次が無い事を祈りますよ」
そう言い残して衛生兵の人は病室から出て行った。
何かおっかない人だったな・・・・あはは。
「えっと、まぁ、リオさん・・・・早く怪我を治してくださいね」
「あぁ、努力するよ」
その後もフレイ達は病室で寝泊まりして俺の看病をしてくれた。
フレイとトラはたまに喧嘩しそうになったりしたが
あの衛生兵の人のお陰か喧嘩はしなくなった。
 




