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最悪の状況

「絶対に、倒す!」


やはりこの部屋に移動してきてから、彼女の雰囲気は変った。

いや、もうこの際、フランとしよう、フードの女の子とかいちいち面倒だ!


「お父様、絶対に私が守るから!」

「そうか、期待しているぞ」


あの帝王は妙な笑顔を見せている、確実に含み笑いだろう。

良くは分からないが、確実に嫌な性格なんだろう。


「ぎぎぎ!」

「うぉ!」


魔道兵の攻撃が来たが、そんなに勢いが無かった。

だから、怪我をしていても、結構あっさり回避が出来るどう考えても弱ってるのは明白だ。


「やれ!」

「・・・・」

「リオちゃん! 危ない!」

「は?」


ヤバい、マルの友達が俺の方に殴りかかってきた!

無表情なのが恐ろしい・・・・いや、よくよく見ると無表情とは違う。

汗をかいている、こりゃあ、かなり疲れている証拠だな。


「はぁ!」

「・・・・・・」


俺がそんな事を分析していると、ウィングが武器を投げてきて、彼女の魔道兵に変化した腕をぶつけた。

威力は十分、その攻撃で彼女は大きく振られ、バランスを崩した。


「まだまだ!」

「あぁ、クソ!」


今度は彼女の後ろにスタンバイしていたマルがこちらに走ってくる。

やはり無表情・・・・あれ? 違う、無表情じゃ無い、少し辛そうにしている。

それに、思い違いかも知れないが、少し目の近くに光る物が見えた。

まさか、こいつ・・・・泣いてるのか? だとすると、催眠術の効果が薄くなってるのか?

いや、そんな事はどうでも良い、反撃するしか無い!


「この!」

「あぅ・・・・」


俺は最初に2人から逃げたように、下手くそな投げでマルをこかした。

その時、小さくマルが声を上げた、最初は声を出さなかったのに。


「マル!」


きっとチャンスだ、もしかしたらこのまま呼べば催眠術が解けるはず!


「マル、意識をしっかり持ってくれ! お前なら、催眠術なんて!」

「・・・・こ、ころ・・・・う、殺す!」

「くぅ! いっつ!」


急いで飛び退いたのは良いのだが、その時に無理をしていた左足が痛んだ。

その時の激痛は堪える事が出来ず、その場に座り込んだ。


「や、ヤバい」

「殺す!」


俺が座り込んでいると、マルが起き上がり、凄い速度で走ってきた。

不味いぞ、この足だと、とてもじゃないが避けれない。

このまま、マルが持っているナイフの餌食にでもなるのか?

クソ! 洒落にならない、これは・・・・動いてくれ!


「く・・・・ぅ」


駄目だ、動かない! とてもじゃないが、こんな状態で回避は不可能だ。


「殺す!」

「リオちゃん! きゃぅ!」

「くぅ!」


マルの刃物が俺を突き刺そうとした直前、俺は目を強く瞑った。

・・・・しかし、痛みは無い、理由は分からないが、俺はゆっくりと目を開けてみた。


「・・・・こ、ころ・・・・う、う」


俺が目を開けると、目の前には顔を真っ赤にして涙を流しているマルがいた。

そして、マルが手に持っていたナイフは俺の腹の直前で止まっている。


「ま、マル?」

「・・・・い、や、だ・・・・わ、たしは・・・・もう、無くしたく、ないから」


そう、小さく呟いた後、マルが手に持っていたナイフが落ち、マルは俺の方に倒れてきた。


「私の恩人を殺した人でも、それでも・・・・私は、もう、復讐に飲まれたりしないから

 だから、見捨てないで、私を捨てないで・・・・リオ」


もしかして、こいつは・・・・俺が居場所を奪ったってことに気が付いていたのか・・・・

俺が自分の居場所を奪ったクソ野郎だって気付いていたのに、それなのに。


「マル、罪は償う・・・・お前の居場所を奪ってしまったが、今度はお前の居場所を守ってやる

 お前の家族も、お前の友達も、お前自身も、絶対に守り抜いてやるから・・・・だから」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


震えた声でマルはひたすらに謝り始めた、どうやら、まだ昏睡しているようだ。

じゃあ、さっきの言葉は・・・・朦朧とした意識の中での寝言か?


「そんな、そんな、そんな! どうして! どうして殺さないの!? どうして!」

「良くは分からないが、マルの奴がお前の催眠術を破ったらしいな」

「うぐぐ、うぎぎぎ! そんな、そんな! そんな! あり得ない! あり得ない! は!」


そして、さっきまでウィングが戦っていた女の子がいきなり倒れた。

あいつの攻撃が当たったわけじゃ無い、いきなり倒れ、魔道兵が砕けた。


「どうして・・・・どうして!」

「いきなり、倒れた?」


倒れた女の子は、かなり呼吸が荒い、魔道兵が砕けた所を考えてみると

恐らく魔力が限界だったんだろう、それだけ厳しい消費だったと言う事だ。

そう言えば、今までずっと魔道兵を操っていたんだよな。

今日は知らないが、恐らく今までの併用から考えてみて、オーバーワークだったのだろう。

魔法を扱いすぎると動けなくなるからな、俺は何度も枯渇してたから分かる。


「どうやら、無理をさせすぎたようだな」

「立ってよ! 戦ってよ! 何で動かないの!? お父様の前で、こんなの!」

「・・・・ふん、所詮はこんな物か」


帝王の方から、そんな小さな声が聞えてきた。


「お、お父様、待って! まだ、私が戦うから!」

「役に立たない奴は下がれ、それに、もうお父様などと言うな、無能め」

「そ、そんな・・・・わ、私は」

「2度も言わせるな」


今まで自分の為に戦ってくれた奴に対して使う言葉じゃねぇよな。

こりゃあ、敵だとしても、フランに同情するな。

今まで慕ってきた父親に裏切られ、あんなことを言われてさ。


「このクソ野郎が、それが今まで命張ってくれた子供に対する言葉か!?」

「くく、何だ? 今まで殺されそうになっていた相手に同情するなんて

 随分と余裕がある様だな、そう言う奴は早死にするのさ」

「黙れ! このカスが! そもそも、てめえ1人相手なら雑魚なんだよ!」

「馬鹿だな、帝王が1人で座っていると思っているのか?」


そう言って、あいつが指を鳴らすと、周囲から数十人の兵士が姿を現し俺達を包囲した。

今まで、気配なんて感じなかったのに、一体、いつの間に!


「く!」

「リオちゃん、ど、どうするの!?」


急いでウィングが俺の方に近寄ってきた、こいつはこの状況が不味いと悟っているようで

涙を流しながら聞いてくる、だが、聞かれたところで対策を言える状況じゃ無い。


「分かっているだろうが、この兵達は精鋭だ、帝王を守る近衛兵だからな

 子供が2人だけで制圧できるような、ヤワな連中じゃ無い」

「この!」

「さて、ここで取引と行こう、貴様ら2人の能力が高いのはよく分かっている

 だからこそ、君達に権利を与える、我々に組みするか、死ぬか、それだけだ」


この状況で、取引を持ちかけてくるのか、子供相手にすることじゃ無いよな。

意外と馬鹿なのだろうか、てか、この状況でそんな分析をしてる場合じゃ無い。

どうする、こいつらを守る為にはこの取引に乗るしか無い。

2人でこの数を制圧することは出来そうに無い。


「10秒だけ時間をやる、それ以上はタイムアップだ」


10秒・・・・どうする、この状況で勝つ手は1つ、瞬間で狙撃銃を召喚して撃ち抜くこと。

だが、あの帝王の周りにも兵士はいる、狙撃銃を召喚した直後に射線を塞がれる可能性もある。

そうなったら、俺達は全員殺される・・・・ウィング1人じゃこの数は捌ききれない。

フレイみたいな身体強化じゃ無いんだ、まだこいつは下手な剣術しか扱えない。


「10」


俺も全方位からの襲撃に対処できる魔法じゃ無い、VSSを召喚できたとしても

四方八方を包囲されている状況だと、制圧する前に殺される未来しか見えない。

そもそも、俺の魔力も枯渇寸前、精々撃てても対人10発が限度だろう。

どう考えても敵の数の方が多い、制圧は確実に不可能!


「5」


なら、あいつに組みする? いや、そんな事をしたら、俺達は人質になるだろう。

この状況下で人質を取られるのは不味いんだ、それなら死んだ方がマシだ。

自分の失態で、フレイ達を巻込むことになる・・・・だが、このままだとウィングを巻込む。


「3」


せめて、ウィングだけでも逃がさないと! そうしないと不味い!


「・・・・ウィング、お前だけでも逃げてくれ」

「え? な、何を言ってるの!?」

「何とか扉までの兵士達は制圧する、お前はひたすらに扉に向って走れ」

「でも、リオちゃんは!」

「自分の失敗は自分でケジメを付ける」


マルは意識を失っていて、抵抗はしないはずだ、なら、あいつらが殺すのは俺だけだろう。

兵力を失っている以上、魔法を扱えるマルを仲間に引き入れるはずだ。

時間稼ぎにしかならなくっても、全員を救うためにはこれしか手が無い。


「2」

「でも!」

「良いから、時間は稼ぐ、あと、無理だろうが余裕があればマルも頼む」

「1」

「そんな、リオちゃん!」

「行け! 精々稼げても、数秒だぞ!」

「0」


俺がウィンチェスターを構えた直後だった、この部屋の壁が砕けた!


「な!?」

「うりゃぁぁぁ!!!」


壁を砕いて出て来たのはフレイだった、服はボロボロ、色んな箇所が斬られていて、血も出ている。

だが、一切弱っているような素振りを見せていない。


「フレイ!?」

「だりゃぁ!」


フレイの身体強化魔法は、例え相手が精鋭だろうと、それを容易に蹴散らすほどの能力だった。

精鋭さん達はまるで嵐に突っ込んだかの様に四方八方に吹き飛ばされている。


「死ねい!」


だが、フレイは周囲に対する警戒がなっていない! 背後を取られたぞ!

このままだと、あいつは殺される! 急いで撃ち込んで!


「フレイ、もう少し周りを見て! 何度言えば分かってくれるの!?」


だが、後方から走ってきたマナが突進馬鹿を攻撃しようとした兵士を制圧した。

その制圧は、ただ力任せに暴れているフレイとは違い

軽い防御からの反撃という、かなり鮮やかな物だった。


「ガキ共! 死ね!」

「やっぱ、こっちも来るのか」

「安心して、フレイがここにいるって事は当然、私も居る」


そんな声が聞えると同時に、複数の石が俺達に攻撃を仕掛けてきた兵士をぶち抜いた。


「トラ! お前も無事・・・・には、見えないな」


トラはフレイ以上にボロボロだった、服も何カ所も斬られてるし、当然血も出ている。

腹からもまるで刺されたかのように血が垂れている、こんな状況で動けるってどうなってるんだ?


「よ、良く動けるな」

「大丈夫、見た目だけだって、正直リオの怪我の方が酷いと思う」

「そうか?」


俺は自分の足と腕をチラリと見てみたが、そんなに酷くはない。

なんせ、たかが石が当たったところが真っ青になって血が出ているだけだ。


「私の見立てだと、リオさんは骨にヒビが入っていると思いますわ」

「シルバーも、なんでだ?」

「合流したんだよ、私達が戦っていたときに合流してくれて、何とか勝てたんだよ」

「まぁ、私たちがいないでも、トラさん達は勝てていたと思いますわ」

「で、ここでへたれ込んでるフードの女の子はどうしたの?」

「あ・・・・あはは」


フランの目は完全に死んでいる、この目はまるで、生きながら死んでいる感じだ。

それだけ、慕っていた人に裏切られたことがショックだったんだろう、まぁ、当然か。


「馬鹿が!」

「げ、まだ来るのか!?」

「このままじゃ! リオちゃん!」


また後ろから奇襲を仕掛けてきた兵士達。

それに気が付いたウィングが、俺を庇うように抱きしめてきた。


「まぁ、この流れだと当然、私達もいるんだよね」

「そうですよ、リオさん、安心してくださいね」


だが、ウィングがそんな行動を取った直後、アルルとメルトがその兵士達を薙ぎ倒した。


「お前らも」

「当然ですよ、大丈夫そうで良かった」

「お前は全然大丈夫そうじゃ無いがな」


アルルの怪我はどう見ても重症だった、口から軽く血も流してるし。

何カ所か切り傷を受けているし、良く動けるな、本当に。


「まぁ、これも見た目だけで、ごふぁぁ!」

「あぁ、もう、結構酷い怪我なんだから、動かないでと言ったのに」

「い、いやいや、リオさん達を守るのが私の役目ですから、これくらい問題ないです」

「いや、でも」

「それに、あんなシチュエーションで動かないなんて、無理です

 きっと、さっきの行動でリオさんは私に惚れ、ごふ」


俺が突っ込むまでも無く、アルルはメルトにもたれ掛かって倒れた。

こりゃあ、かなりの重症だったんだろうな、良く動けた物だ。

てか、下手したら死ぬんじゃね?


「お、おい、アルルは大丈夫なのか?」

「うん、何とか大丈夫だと思うかな、実際、見た目ほど酷くないから」

「あぁ、そうか、てか、お前達だけなのか?」

「まさか、外ではミストラル国の兵士達とこの国の兵士達が戦闘中

 で、この周辺では」

「私達が指揮する兵士達が戦ってる」


トラの話しにマルの両親が割って入ってきた。


「え? 何であんたらが」

「協力してるんだ、目的は同じだから」

「まぁ、私達はそこで意識を失ってる女に説得されたんだ」

「え?」

「まぁ、細かい話は後だ、今は憎きディーアスを仕留めることを考えよう」

「そうだな」


俺がその言葉を聞いて、ディーアスの方を向いたとき、状況はこちらの優勢だった。

当然だよな、戦力差が違う、数的には相手方が有利なのだろうが、質ではこちらが圧倒的だ。


「よし、このまま!」

「あ、あはは、あはははは!」

「な、何だ?」


俺達が勝利を確信したときだった、さっきまで戦意を喪失していたフランが大きく笑い始めた。


「な、何?」

「もう良い! もう良い! 全部、全部、全部、全部! 全部壊す!

 お父様も、皆私が壊すんだ! 私を裏切った奴らを全員壊す!」

「お、おい、何を!」

「あははははは! 皆、壊れちゃえ! あはははははは!」


彼女がそんな叫び声を上げると、周囲に黒い衝撃波の様な物が走った。

その時、俺の心の中には、異常な程の憎しみが支配しそうになった、そんな感覚が走る。

ヤバい、これはヤバい!


「・・・・あ、ぅ」

「お、おい、ウィング、ど、どうした?」


ウィングは苦しそうに頭を抱えている。


「憎い、全部」

「ヤバい、これはあの!」


以上はウィングだけじゃ無い、フレイだってそうだった。

さっきまで異常な程に暴れていたのに、ピタリと止まり、頭を抱えている。


「これは・・・・」

「うぅ、は! リオさん!」

「な!」


さっきの衝撃で目を覚ましたのか、アルルが俺を抱き、ウィングから引き離した。

それとほぼ同時に、ウィングが召喚したであろう剣が俺がいた場所を貫いていた。


「ど、どういう!」

「よ、よく分かりませんが、最悪な状況なのは確かです」

「てか、アルル、お前、う、動けるのか?」

「この状況でいたいとか言ってる場合じゃ、って、わぁ!」


今度はさっきまで普通に立っていた筈のマルの両親が攻撃してくる。


「くぅ、ど、どうなって!」

「よく分からないけど、急いでこっちに来て! ここから離れないと!」

「トラ? シルバー? お前らは大丈夫なのか!?」

「頭が凄く痛いけど、それだけかな、とにかく離れよう! ここは不味い!」

「コワレナイ、コワレナイ、うふ、うふふ、絶対に私のニンギョウニする」

「こ、怖いっての!」


よく分からないが、どうやら俺は、またフランに目を付けられたらしい。

・・・・だがそれは、全てを壊すというイカれた精神以外を持っていると言う事だ。

なら・・・・まだ、救えるかも知れない・・・・だが、今は逃げることしか出来ない。

流石に暴走している状況で戦えるわけが無い!

戦えるわけが無い・・・・あいつらは、俺の・・・・クソ! 絶対にまとめて救ってやる!

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