希望の4人
さっきまで絶望的だった眼前には、一瞬の間に希望が見えた。
目の前には3機の魔道兵を瞬間で倒した3人の俺の友人達。
その中で、1人は白い歯を見せた満面の笑みで俺の方に向けて力強いピースを向けている。
「待たせちゃったね! 今助けるから!」
「お、お前ら・・・・どうして」
「そこのフードの女の子! リオから離れて!」
「ぐぐぐ!」
トラは大きな声を上げたと思うと、周囲に散らばった魔道兵の破片を集め
後ろに居たフードの女のこの方に飛ばしてきた。
「あり得ない、あり得ない! 何で!? どうなってる!?」
「うっりゃぁ!」
「ぐ!」
フードの女の子が酷く動揺している隙を突き、凄い速度でフレイが突っ込んできた。
フードの女の子はその攻撃を辛うじて回避したが、フレイの一撃が彼女の後ろにあった
壁を粉砕する時の風圧でフードがまた取れた。
「逃げ足が速い・・・・へ?」
「邪魔を、邪魔を! 許さない!」
何故か彼女はフレイに催眠術を掛けようとはせず、後ろを振り向いて走って逃げていった。
「この! う、くぅ・・・・」
俺は急いで追跡をしようとしたのだが、足の痛みと腕の痛みで走ることが出来なかった。
「・・・・な、なんで? あの子」
「どうしたの!? フレイ! 追撃は!」
「追いかけないならこっちを手伝って、流石に2人でこれは辛いから!」
「あ、うん、あ、リオちゃんはここにいて」
フレイはかなり疑問を抱いているようだが、2人の呼びかけに答え魔道兵の対応に向った。
あの反応から察するに、フレイの奴もあの子の顔を見て、疑問を抱いたらしい。
なんせ、顔立ちがかなりウィングに似ていたんだからな、友人としてあの姿を見たら固まる。
「だりゃぁぁ!」
だが、フレイは一瞬疑問に抱いただけだったようで、魔道兵の対応に向った後は動揺は無い。
とにかく、俺としても魔道兵の対応をあいつらだけに任せるわけにはいかない。
急いでバレットを召喚して、壁を背にして、右足で銃身を包むようにして押え着け
対物での支援攻撃を始めた。
「この!」
流石に奇妙な体勢だからな、反動が変な風に伝わってくるが、この体勢なら一応狙うことも出来るし
反動で銃から手が離れることも無い、これなら攻撃を継続することが出来る。
「やっぱり、私達が4人揃っちゃったら、魔道兵なんて弱いよね!」
「フレイは全力で殴ってるだけだからそう思うんだろうけど、私達は違うって、ウィング!」
「任せて、はい!」
フレイはひたすらに眼前の魔道兵を攻撃して倒し、トラはウィングが召喚した剣を操り
性格に接続部に向けて攻撃を放っている、良い連携だな。
で、俺の仕事って奴は、猪のフレイの背後を取った魔道兵の狙撃だ。
「それにしても、マナ達遅くない?」
「私達が早すぎたんだと思う、フレイに運ばれて私達は近道したし」
もしかして、え? フレイがこいつら全員運んできたのか? 流石怪力。
「そうかもね!」
「フレイ! 何度も言うが後ろを見ろ!」
「おっとと、あ、倒しちゃったの? さっすがぁ!」
相変わらず能力は高いのに注意力が散漫な奴だ、そこが直ればヤバいくらい強いのに。
「いけぇ!」
それから、殆ど時間も経っていないのに10機の魔道兵は壊滅した。
たった4人で10もの魔道兵を容易に殲滅できるとはな。
「いやぁ、何とかなったね、流石私達!」
「はは、そうだ」
「動かないことだね」
俺達が勝利に浮かれていると、俺の隣で女の人の声が聞え、刃物が俺の首元に当てられていた。
この声・・・・何処かで聞き覚えがある、そう、幹部の1人パルスだ。
「リオちゃん!」
「動くなと言っているんだよ、子供達?」
「う、つぅ」
クソ、やらかした・・・・魔道兵ばかりに気を取られていた。
まさか気が付かない間に、ここまで接近されていたなんて。
「しっかし、よくもここまで荒らしてくれたね、壁はボロボロ、魔道兵も壊滅なんてね
それも、この状況を見る限り、あんたら4人でやったんだろう? 末恐ろしいよ」
「うぅ・・・・」
「まぁ、所詮は子供、こう言うときに仲間を切り捨てることが出来ない、そこが最大の弱さだよ
この状況、普通ならこの子を犠牲にして、私に攻撃をするべきだからね」
「私達はあなた達みたいな大人と違って、友達を、家族を見捨てるわけが無い!」
「そうそう、そういう所が甘ちゃんなのさ、足を引っ張る奴を捨てられないなんて愚の骨頂ってね」
・・・・好き放題行ってくれるな、実際その通りかも知れないのだが
俺が足を引っ張ってるなんて言うのはな。
「くく、ふざけやがって、俺がこいつらの足を引っ張ってるだと? 心外だな」
「ふふ、口答えが出来る余裕があるなんてね、肝が据わってるのか、それとも状況が分かってないのか」
「そうだな・・・・状況は分かっちゃい無い、だが、それはお前の方だぞ、パルスさんよ」
「何処で私の名を」
「はん、俺は耳が良いからな!」
「は?」
俺はその声と同時に刃を思いっきり握りしめた。
「な!」
パルスは当然、その行動を感知し、無理矢理引き剥がし、剣を振り上げた。
「抵抗したね! 死にな!」
俺としては、一瞬でも俺の首元から刃が離れてくれればそれで良かった。
「まぁまぁ、子供がやったことですから」
「な!」
パルスが剣を振り上げると同時に、後ろまで足音を立てずに近寄っていた誰かがその剣を止めた。
それにしても、さっきの声・・・・あの声は、間違いない!
「それ!」
「あ、アルル!」
パルスを投げたのは確実にアルルだった。
「どうして、お前が!?」
「いやぁ、リオさんが助けを呼ぶ声が聞えたので、急いできました」
俺の言葉でこっちを振り向いたアルルは元気な笑顔だった。
だが、その元気そうな顔とは裏腹に腹には包帯が巻いてあった。
「アルル、お前・・・・その腹は?」
「あはは、色々ありまして、それにしても、リオさんも同じ場所に巻いてるんですね」
「俺は怪我したんだ」
「凄い偶然ですね、同じ様な場所を怪我をするなんて、運命ですかね?」
「ふざけてる場合か、状況を考えろ」
あぁ、こんな奴と同じ場所を怪我するなんて全く求めてもいない偶然だっての。
こんなの、無駄にこいつを調子付かせるだけだ。
「アルル! え? じゃあ、マナは?」
「マナさん達と私は別行動しました、私はリオさんの位置が予想できたので」
「なんで一緒に来なかったんだ?」
「確信が無かったので、まぁ、予想は当たってましたね、これも運命がなせる技!」
「お前みたいな変態が運命の相手とか世界が滅んでも嫌だね」
「うぅ、命を救ってあげたのにこの仕打ち、まぁ、そこもリオさんは可愛いのでセーフです!」
「はぁ、ぶれないな」
「と言うか、大丈夫ですか? 足からも腕からも血が出てませんか?」
あぁ、こいつが出てきた時の衝撃で怪我のことを忘れていた。
で、こう言うときは大体、それを思い出したときに痛みが走る。
「あぁ、忘れてたのに・・・・いっつぅ」
「仕方ありません、えっと、包帯、包帯・・・・あ、流石に持ってきてませんでした、あ、良い物が」
そう言って、アルルは自分の服を刃物で剥ぎ取り、俺の腕と足に巻いた。
「汚いのですが、無いよりはマシでしょう、裏側は綺麗ですからね」
「お前、折角の服を」
「大丈夫ですよ、私はいつでもリオさん最優先です」
「あぁ、そうかい」
俺がアルルを見ていると、妙な影が差し、あいつの後ろを向いてみた。
そこにはさっきアルルが投げ飛ばしたパルスが立っている。
「アルル! 後ろだ!」
「死にな!」
「わわ!」
俺の声でパルスの存在を察知したアルルが急いで後ろを振り向き
パルスが振り下ろした剣を真剣白刃取りで止めた。
「この女、よくも楽しい処刑タイムを邪魔をしてくれたね」
「処刑を楽しむのはどうかと思いますよ? 特に子供の処刑を楽しむって何ですか?
完全にカスですよね・・・・そんな奴相手に、私は容赦しませんよ」
「安心しな、1番楽しいのは戦いだからね!」
パルスはアルルが掴んでいる刃を振りほどき、素早く追撃を仕掛ける。
しかし、それはアルルも予想していたようで、その攻撃を回避。
「アルル! 私も戦う!」
「ありがたいのですが、お三方にはリオさんを守って貰わないと
本当は私の仕事ですが、この状況ではね、なので、急いでシルバーさん達と合流してください!」
「でも!」
「念の為ですって、今のリオさんはフラフラですから」
「うぅ・・・・わ、分かった」
アルルの説得に応じ、フレイが俺を持ち上げて、結構な速さで逃走した。
「アルル!」
「リオさん、待っててくださいね」
「ふふ、子供を先に行かせるね、でも、1人で私とやろうってのかい?」
「そうですよ」
「格好いいね、まるで子供を逃がす親みたいじゃないか」
「いやぁ、ちょっと違いますね、私はリオさんの旦那さんなのです!」
「・・・・は?」
「そこだぁ!」
「なぁ!」
・・・・あいつ、この状況でも軽い冗談と不意打ちって、結構エグいことをするな。
でも、状況を見れたのはこの一連の会話と戦闘のみ、すぐにアルルは視界から消えた。
「・・・・前言撤回だ! あんたはかっこよさの欠片も無い!」
「隙を見せたのが悪いんですよ! 私はリオさん最優先! かっこよさも何も2の次の次なのです!」
「粉微塵にしてやるよ!」
一応会話は聞えるが、戦闘している姿は見えない、しっかし、あれだな
真剣な状況だって言うのにあいつは基本的にぶれないな・・・・
「アルル、大丈夫かな?」
「どうだろう、手合わせした事が無いから分からない」
「まぁ、あいつ1人じゃ厳しいだろう、急いで支援を」
「ふん、4人か・・・・だが、所詮は無能なガキ、貴様らを全て駆逐して、ディーアス様に捧げよう」
あぁ、今度は逃げている場所に男が姿を見せた、あの姿はディアスか!
「くぅ、正面って!」
「何でも良いさ、殺せば同じ事だろ!?」
今度は目が血走っている女が姿を見せた、パルスはさっきの女。
と言う事は、この女はテールか、何処の国にも狂ってる奴はいるんだな。
「2人!?」
「くはは! ぶっ殺してやる!」
「し、仕方ない! ウィング!」
「う、うん!」
トラの言葉の後にウィングが剣を複数召喚し大量に攻撃を仕掛けた。
しかし、突進してきたテールはその攻撃を弾いたり回避したりと容易に捌いている。
「そんな!」
「死ねぇ!」
「ウィング! リオちゃんを!」
「え?」
「「いった!」」
「だりゃぁ!」
俺はフレイに投げられ、ウィングの上に落下した。
それと同時にフレイは凄い速度でテールに反撃。
その一撃は確実に当たったはずなのだが、防がれてしまう。
普通の奴相手ならこれで勝負は付いたはずだ・・・・だが、テールは違った。
「面白いじゃないか!」
「これは強いかも」
「ふん!」
「え?」
フレイの一撃が入ると同時にディアスが刃物を持ち攻撃を仕掛けてきた!
体勢的に回避は難しい! これはヤバいぞ!
「やらせない!」
それに素早く反応したトラが周囲に刺さった剣を魔法で引き抜き、ディアスに向けて放った。
「む!」
だが、ディアスはその攻撃を回避、どうやらこいつも結構な手練れらしい。
「ふむ、これが魔法か、厄介だな」
「ウィング、急いでフレイを連れて逃げて!」
「で、でも!」
「そうだ! お前ら2人じゃ!」
「信じて、私達は大丈夫、今はリオを助けることを優先して!」
「・・・・だけど」
「お願い」
「・・・・分かった」
トラの説得でウィングが俺の腕を引っ張り逃げだし、2人の横をすり抜けた。
当然、ディアスは俺達を狙ったのだが、それはトラが制圧してくれた。
「逃がさないよ、あなたの相手はこの私、馬鹿にした子供に倒される屈辱、味合わせてあげる」
「ガキがぁ! 邪魔をするなら容赦しない! 貴様になど用は無いのだ!」
「最高じゃないか、命のやり取り、生きるか死ぬか、たったそれだけの勝負!」
「最高だよね、全力で戦える相手って、でも、その相手に戦う以外の目的がないなら面白くないけど!」
あぁ、こんな状況だというのに、動くこともままならない俺ってどうなんだろうか。
「・・・・はぁ、足引っ張ってばかりだな」
「こう言うときはお互い様だから、気にしないで」
「そうは言っても、もし、あいつらに何かあったら、俺は・・・・」
「大丈夫、皆なら大丈夫だから」
・・・・そうだと良いのだが、相手は魔法が扱えないとは言え歴戦の戦士だぞ
魔法が使えるだかで、その差をひっくり返せるのかどうか・・・・そこが問題だ。
「・・・・何事も無ければ良いが」
「くきき!」
「な!」
俺達が必死に逃げていると、横から気味の悪い笑い声と同時に、側面から攻撃が来た。
「くぅ!」
「きゃぁ!」
その時の勢いで俺達は隣の扉に激突、扉が破損して中に吹き飛ばされてしまった。
「くきき、捕まえた・・・・2人とも一緒に遊んできて」
「・・・・な」
急いで体勢を立て直し、フードの女の子の方を見てみると、そこには彼女以外に
マルともう1人少女の姿があった、この子は見たことがない。
だが、この子の腕は少し変っていて、何だか知らないが機械の様に見えた。
まるで魔道兵の腕のような・・・・あぁ、理解した。
「・・・・殺す」
「・・・・・・」
「うぅ、何だか怖い」
「あはははははは! ぶっ壊して2人まとめて私の人形にしてやる!」
「騒がしいぞ、フラン・ミューズ」
「・・・・こ、この声・・・・お、お義父様」
「何!?」
急いで部屋を見渡してみると、そこは確実に他の部屋とは違った。
まるで空気が違い、この部屋だけは豪華絢爛だ。
そう、つまりあそこの大きな赤い椅子にふんぞり返っているのは、帝王。
「・・・・お、お前が、ディーアス」
「そうだ、初めてだよ、君たちの様に騒がしい来訪は」
「帝王自ら戦線に来た、自分を恨め!」
「やらせない!」
俺がディーアスに攻撃を仕掛けようとすると、目の前に魔道兵が現われた。
「私のお義父様には手は出させない!」
・・・・何だか知らないが、彼女から出て来ていた異常な程の狂気が声から消えた。
よく分からないが、親父さんの前では狂気が無くなるようだ。
もう逃走は出来ないのなら、やるしか無い! ここからが本番となりそうだな。




