捜しても見付からず
マルとアルルを捜索しても、中々見付けることが出来なかった。
だが、1つ大きな不安がある、それはマルとあのフードの子を見ないことだ。
もしかして、前線に行ってるんじゃ無いか? だとするとマルを救えない。
このままだと誰も救うことが出来ない・・・・不味い。
「な、何だ!?」
俺が結構焦っていると、基地で大きな警報音が鳴り響いた。
その後に、大きな声でその内容が告げられる。
「捕虜が脱走した! 見付け次第拘束、最悪の場合は殺せ!」
あぁ、やはりバレてしまった、流石にバレるか。
「見張りの兵士達は総動員で脱走者を探せ! 拘束した物は褒美をくれてやる!」
「褒美だと! 見付けろ! 絶対に捕まえろ!」
うーん、どうやら俺に報酬が掛るか、それだけ本気だと言う事か。
「所詮相手は1人! 数で押えろ! 褒美は個人で無く全員に与える!」
あぁ、こういう所は頭が良い、個人に与えるなら、各個撃破が楽に出来る。
むしろ、仲間割れをして兵力が減る、そうなれば拘束出来る可能性が低くなる。
ただ、今回の手を打った場合、褒美を与える相手が増え、掛る金が増えるだろう。
つまり、俺の脱出とその報酬を天秤に掛けた結果、俺を拘束する方が優先となったって事か。
いやぁ、モテる男は辛いねぇ・・・・いや、今は女か。
「探せ! 草の根を分けてでも探し出せ!」
「脱出は許すな! 良いな!」
「よっしゃ、俺達は脱出が出来そうな箇所を押えるぞ! 袋のネズミにしろ!」
「隊長! そもそも、まだ獲物は袋に入ってません!」
「くだらないつっこみは良い! さっさと探せ! この馬鹿!」
「はい!」
やっぱり、中にはああいう感じの馬鹿もいるって事だな。
何だよ、まだ袋に入ってませんって、間抜けか? この基地全体が袋って事だろ。
まぁ、そもそもだな、その袋に入ったネズミは小さな猛獣なんだけどな。
「っと」
「見付けたぞ!」
「あっちゃー」
マズったな、まさかの着地と同時に敵が角から出てくるとは、周辺警戒してれば良かった。
「取っ捕まえろ!」
「大人しく捕まるかよ!」
俺は手に持っていたVSSを対人状態のままで兵士達に向けて放った。
「うぐ!」
「な、何だ!? うわぁ!」
「はん! 2人程度で捕まえれるとでも思ったか!? 褒美が出るほどの相手だぜ? 侮るなよ!
この間抜け! 幼稚園からやり直してこいや!」
「この! う、つぅ、ガキがぁ! 舐め・・・・やがってぇ!」
かなり痛みを堪えている声で俺の言葉に反発してきたが、まぁ、ただの遠吠えだ。
俺はその間に急いで角に隠れ、別の方向に走った。
「はぁ、はぁ、っと」
俺は急いでバレないように1階の倉庫内に走って隠れる事にした、どうやら食料庫らしい。
ここなら分かりにくいはずだ、隠れることが出来そうな場所も多いしな。
「・・・・・」
「何処だ!? ここか!」
扉が開かれた、俺はその音に反応し、狙撃銃を構えながら身を隠した。
入ってきた4人の兵士達は、周囲を見ている・・・・が、俺には気が付いてない様だった。
「ここにはいない、別の場所だ!」
そう言って、兵士達は早足に部屋から出ていった。
ふぅ、どうやら俺の隠密スキルも結構な物らしい。
子供だからな、普通は隠れれない場所に身を隠せるし。
「はぁ」
俺は倉庫の棚の上に大量に置いてあった食料をどかし、音を立てないように着地した。
置いてある野菜の裏側に隠れているなんて、普通は考えないよな。
特に相手が大人だったら、普通にそんな場所に隠れれるはずも無いって思うだろうし。
しっかし、野菜が沢山あったお陰で助かった、身を隠せるほどにな。
「おい、見付かったか?」
「いいや、それと、この部屋にはいなかったぞ」
「そうか、さっさと次だ! 意地でも捕まえるぞ!」
「当然だ、くく、いたぶった後に捕まえてやる」
いやはや、怖い怖い、こりゃあ、より一層捕まるわけにはいかないな。
俺はちょっとだけ使った魔力を回復出来そうだし、俺は木箱の後ろに隠れ、少し精神集中をした。
「・・・・ん?」
俺が精神集中していると、こちらにゆっくり向かってくる2つの足音が聞えた。
この足音の間隔・・・・大人では無い、恐らく俺と同じ様な身長の人間。
「くきき・・・・くく、ふふ」
「・・・・・・」
・・・・扉が開いたとき、そこに立っていたのはフードの女の子とマルだった。
何故あの2人はここに来たんだ? さっきまで何処にいた?
「ここにいるのは分かっている、くきき、無駄な事はしない方が良い
抵抗も無意味、大人しく出て来て、私の人形になってよ、くきき」
「・・・・・・こ、ろ」
・・・・まさか、マルの魔法で俺の位置を・・・・ヤバいな、これは。
「そこでしょう? 聞えているんでしょう? くきき」
はぁ、ごまかしは効かない、隠れることも不可能だ。
だが、脱出が出来ないわけじゃ無い、足音はあの2人の分しか聞えなかった。
つまり、今、倉庫にいるのは俺とあの2人だ、上手くやれば逃げ切れる。
だが、フードの女の子の魔法は分からない、下手に出るのも不味い。
「まぁ、良いよ、嫌なら出て来なくっても、このままここで待ってるだけだから
下手に近づいて制圧されたくも無いしね、ふふ、これが1番嫌でしょう?」
あぁ、全くもってその通りなんだよな、近寄ってくれれば瞬間で制圧できるのだが
距離があるから瞬間で制圧は無理、でも、俺の能力で位置は分かる。
狙撃銃も扱える、瞬間出て頭を撃ち抜けば俺の勝ちだ。
だが、立ち位置からして、射線上にはマルが立っている。
瞬間に出て、マルを避け、後ろのフードの女の子を撃ち抜く、それは難しい。
・・・・なら、俺が出来ることは・・・・例え一撃で仕留められないだろうが、威嚇は出来る。
「確かに1番嫌だな、でも、嫌だからこそ対策はあるもんだぜ?」
「くきき、妙な脅しは良い、さぁ、顔を出して? 楽にしてあげるから」
「安心しろ、今も割と楽しいから」
俺はウィンチェスターを後方にある壁に構え、斜角35.28°の角度で引き金を引いた。
それと同時に周囲に大きな銃声が反響する、これは確実に位置が割れる。
本来ならサイレンサーを付けたいのだが、この狙撃でそれは計算が狂うからな。
肉を切らせて骨を断つ、この2人から逃げ切れれば良い!
「へ? うわ!」
「良し!」
俺はその悲鳴と同時に木箱から顔を出した。
俺の計算通り、フードの少女のギリギリに銃弾が入り、彼女は驚愕のあまり腰を抜かしている。
流石に角度的に当てるのは不可能だったからな、これ位だろう。
「殺す!」
マルは素早く俺の前に立ち、掴みかかってきた。
「マル! どけぇ! 罪は償う! だが、今はその時じゃ無い!」
「こ、ろ・・・・」
俺がそう叫ぶと、マルの動きが少し止まったように見えた。
俺はその一瞬で、マルの腕を掴み下手くそな投げをした。
本来なら殆ど鍛えていない俺よりもマルの方が接近は強いはずなのだが
今回は何故かあっさりと投げることが出来た。
「・・・・く!」
一瞬それを疑問に思ったが、今はその時じゃ無い、俺は急いでそのまま走り抜けた。
その一瞬・・・・フードの少女の方を見てみた、その時、彼女はフードが動いていて、顔が見えた。
「・・・・嘘、だろ?」
その顔は緑色の髪の毛・・・・そして、真っ黒い瞳・・・・
そして、この顔立ちは、ウィングに非常に似ている。
「・・・・どうしてあいつに似て」
「見たね、くきき!」
俺がその顔を見ていると、彼女はこちらに気が付き、目を見開いた。
その瞳は、まるで吸い込まれるようだ・・・・何だよ、この不思議な魅力は
「・・・・つ!」
俺の体は危うくその瞳に吸い込まれるところだったが、俺の理性がそれは不味いと反射的に顔を背けた。
「え?」
目を離すと同時に、体中を掴まれるような感覚と同時に解放される感覚になった。
そのせいか知らないが、異常な程なめまいと、異常な程の脱力感に見舞われ、倒れそうになった。
だが、俺は意地で体勢を立て直し、急いで後ろを向いて走った。
「・・・・見たのに、く、くく、くき、くきき! 面白い! 面白い!
私の物にする、絶対に私の物にする! 私専用のお人形にしてあげる! くきき!」
じょ、冗談じゃ無い! 姿はウィングに似ているって言うのに、性格は全く違う!
完全に狂った感じの異常な程に甲高い声が後ろから響いてくる。
この声だけで、軽く気力が削がれるような、そんな声だ。
「あははははははははは!」
「ち、畜生! 何かマジでやばい!」
後ろから恐ろしい笑い声を響かせながら、こちらに走ってくる!
姿は見えていないが、声と足音だけでそれが理解できる!
一体、どんな表情で追いかけてきているんだ? 気になるが見る余裕は無いし!
そもそも、あの子の姿を見たりしたら催眠術を食らう!
「はぁ、はぁ、怖いっての!」
後ろからは笑い声と恐ろしい足音が聞える、そう、それだけだ。
後ろから何か攻撃が飛んできていても、かなり怖いのだろうが
それが無いのがなお不気味に感じてしまう。
「と、とにかく、あそこを曲がるしか」
俺が突き当たりの曲がり角を曲がろうとしたとき、その方向から異様な音が聞えた。
その音が聞えてくると、ほぼ同時に目の前の壁が砕ける!
「な、何だと!?」
「ぎぎぎ!」
そこから出て来たのは魔道兵だった! 何で魔道兵!?
更に登場と同時に思いっきり攻撃しようと腕を振り上げている。
「うぉぉ!」
俺はそれに反応し、辛うじて左に飛び込み、回避することに成功したのだが。
飛び込むと同時に、俺の足に強烈な痛みが走った。
「う・・・・」
しかし、その足に何かあるわけじゃなかった、その代わり足が赤くなり、血が出ている。
・・・・そうか、あの魔道兵が壁を砕いたとき、左足に妙な感覚が走ったが
まさか、砕けた壁が足に当たったのか!?
あの時は目の前の状況を理解することで頭がいっぱいだったから分からなかったんだ!
「ぎぎぎ」
「こ、この!」
魔道兵はゆっくりと腕を上げた、畜生! この足じゃあ、素早く立って逃げるなんて出来ない!
こんな状況下で出来る方法なんて、ただ1つしか無い!
俺は手に持っているウィンチェスターを対物に変えた。
「怯め!」
俺はこのギリギリの状況で、魔道兵が振り上げた腕に狙いを定め引き金を引いた。
それと同時に、周囲には恐ろしく巨大な銃声が響き渡り
その銃声の直後、機械が砕けるような馬鹿でかい音が目の前から聞え、強烈な反動が俺を襲った。
「ぎぎ」
その時にウィンチェスターは俺の手から離れ、後方に飛び消滅した。
その代わり、魔道兵の左腕は消滅している。
「う・・・・ぐらぁ!」
俺は足の痛みを堪えながら、急いで立ちがり、足を引きずりながらも逃げだした。
「本当に・・・・か、勘弁して欲しい」
とりあえずバレットM95を召喚して対物にしているが、重いな。
やはり対物ライフルを持ち運ぶのは少ししんどいな。
まぁ、魔法だからまだ軽い方なんだろうけど。
「はぁ、はぁ」
「ぎぎぎ」
とにかく急いで走っていると、目の前からまた大きな音が聞え、壁が砕けた。
それと同時に大きな腕が出て来て、更に側面の壁を破壊する。
「ま、また! うぐ!」
壊れると同時に、俺は顔に瓦礫が当たらないように防いだ
しかし、防御のために前に出した左腕に砕けた石が直撃・・・・超痛い。
「ぎぎぎ!」
反動がどうした! この状態で反撃しない方がヤバい!
「はぁ、はぁ、な、舐めるなぁ!」
俺はバレットM95を右手だけで持ち、狙いを定めて引き金を引いた。
当然、反動は凄まじく、右腕だけで押えることがで来るわけも無く
凄まじい速度で後方にバレットと俺が飛んだ、だが、目の前の魔道兵もお陀仏だ。
「うつぅ」
「くきき、逃がさない・・・・あなたは私だけの人形にする」
「はぁ、はぁ、はは、色々と狂ってる女の子の人形にはなりたくないな」
「大丈夫、かわいがってあげる・・・・壊れるほどに」
「・・・・あぁ、そうだな、女の子にかわいがってもらって壊れるのも悪くないかも知れない
元々、そんな感じの願いだったしな」
俺があのテカテカジジイに願ったのは、どうせ死ぬなら女の子とイチャイチャしながら死にたかったか。
この状況、女の子と追いかけっこして死にそうって言う状況なんだが。
「だが、悪いな、俺はまだ死ねない!」
俺は激痛が走る足を無理矢理動かし、目の前で魔道兵が破壊した穴の方に全力疾走した。
眩しい光、そんな光に包まれて敵基地から出た俺の前に待っていたのは
「ぎぎぎ」
10機程の魔道兵だった・・・・あぁ、何て可愛い歓迎だ、可愛い犬のロボットのお出迎えなんて。
これで装備とか、装甲がゴテゴテしてなかったらもっと可愛かっただろうに。
「くきき、逃げ道があると思ったの?」
「は、はは・・・・じょ、冗談だろ? せめて、一瞬くらい希望をくれても良いじゃないか」
「希望は邪魔だから、さぁ、これでもうあなたは私のお・に・ん・ぎょ・う」
手が伸びてきているのが分かる・・・・避けることが出来ない手が。
この状況で動いても目の前の魔道兵に制圧されるだけだ。
後ろを振り向いたら催眠術で抗うことも出来ない・・・・八方塞がりだ。
「あはは!」
俺が絶望していると、突如目の前で魔道兵が一体砕け散った。
「「・・・・は?」」
「私を舐めないでね!」
激しい爆発の後、その場に立っていた人影が見えた。
その姿は・・・・どう見てもフレイだった。
「ぎぎぎ!」
フレイが一体の魔道兵を撃破すると同時に、周辺にいた魔道兵がフレイを狙って拳を振り上げた。
だが、魔道兵が腕を上げると同時に、大量の剣が魔道兵の接続部と思われる部分を貫き
同時に魔道兵が2体爆発した。
「フレイはもう少し考えて行動した方が良いって」
「うん」
そんな小さな声と共に、奥の方からトラとウィングが姿を現す。
「いやぁ、早く助けたかったから・・・・と、言う訳で! リオちゃん! 助けに来たよ!」
・・・・嘘だろ? 何で・・・・こいつらがここにいるんだ? 一体、どういう意味だ?
そんな一瞬で理由が分かるはずも無く、俺の思考回路は固まってしまった。




