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ゆっくり出来ない朝

次の日の朝、俺は激しい足音で目が覚めた。

この勇ましく、規則正しい足音は間違いない!


「まさか!」


俺は目を覚ますと同時に全力でテントの外に出た。

そして、木の陰から顔を出し、周囲を観察してみた。


「やっぱり!」


音の正体はすぐに分かった、マルの両親達の軍が一斉に動きだしている。

まだ周囲は薄暗く、時間に直すとおよそ4時程度だろう。

そんな早朝から一気に進軍を始めるとは、恐らく今日中に勝負を着ける気だ!


「くぅ! おい!」


俺は急いでテントに戻り、アルル達を起こそうと揺さぶった。

しかし、アルルもマルも起きる気配は無い、熟睡してやがる。

何で起きないんだよ! ここまでハッキリと軍靴の音が響いてるって言うのに!


「起きろや! 寝てる場合じゃ無いぞ! せめてアルルだけでも!」

「はふぅ」

「な!」


俺が起こそうと揺さぶっていると、アルルがよだれを垂らしながら俺を抱きしめてきた。

だぁ! 急がないといけない状態だって言うのにふざけた真似をしやがって!


「この! 間抜けがぁ! 府抜けてる場合じゃねーんだよ!」

「ふふふ、リオさん、抵抗は無駄ですよ、全て私の思うままに・・・・」

「だから! ふざけてる場合じゃねーんだよ! このカスが!」

「あた!」


抱きしめてきているアルルに俺は思いっきり頭突きを叩き込んだ。

流石にこの一撃は応えた様で、ようやく手を離してくれた。


「う、つぅ」


しかし、流石に全力で頭突きをしたせいで頭が凄く痛い。

やっぱり慣れないことはしない方が良いな。


「うぅ、あ、あれ? リオさん? 頭を押えてどうしたんですか?」

「や、やっと起きたか」

「どうしたんです?」

「足音が聞えるだろ!? 行軍の足音が! 動いたんだよ、マルの両親達が!」

「え!?」


俺の言葉を聞いて、アルルも凄い速度でテントから出た。

そして、周囲を素早く観察し始めた。


「あ! ほ、本当ですね! こんな早朝に、くぅ、これじゃあ、ご飯が食べられませんよ!」

「そんな心配は言い! マルを出してテントを急いでたため! 動くぞ!」

「いや、朝ご飯は1日のエネルギーですよ?」

「そんなのは良いんだよ! 急げって!」

「わ、分かってますよ」


ようやくアルルは動いてくれて、マルをテントから出し、テントをたたみ始めた。

俺はその間、狙撃銃をのぞき込み、マルの両親達の動向をみることにした。

俺の力じゃあ、テントをどうこうするのは難しいし、テントにゃ詳しくない。

だったら、動向を把握することが俺に出来る最高の行動だからな。


「・・・・マジかよ」


こんな早朝だというのに、兵士達の足並みに一切の乱れも無い。

全員が血眼になって行動している、冷静さを欠いているのかと思えるほどに目を見開いている。

だが、そんな状態でも足並みは崩れず、綺麗な隊列のままでの行軍!

もしも、ミストラル国に攻めてきた兵士達がここまで鬼気迫る勢いで

ここまで兵士が纏まっていたら・・・・負けていたかも知れない。

そんな風に思うほど、あの行軍に俺は気圧されている。


「そうだ!」


俺は、敵基地の方に照準を移した、一応どう動いているかを確認するためだ。

推測としては、まだ気が付いていないだろうと思っている。

距離は十分あるし、行軍の音は聞えていないだろう。

仮に見張りにバレていたとしても、どれだけ早かろうと、まだ軍隊は整ってないはずだ。


「よし、来たか」


しかし、俺の予想は完璧に外れていた、敵基地は完全な臨戦態勢だった。

兵士達も列を整えている、だが、小言も良く聞える、そこはマルの両親率いる兵士達とは違う。

士気の差という奴だ、だが、戦力差は一目瞭然、士気の力だけでこの戦力差は覆せないだろう。


「どうなってる?」


にしても、どうやってあいつらはあの奇襲を感知したんだろうか

流石に行軍の足音で感知したとは思えない。

あの兵士達との距離は確実に俺達の方が近い、その俺達が感知したのは今だ。

だから、敵基地が動向を把握出来るとは思えないんだが。


「やはり、君の堪は鋭いな」

「ふふ」


ディアスという男がその隣にいるフードの女の子に話しかけている。

それにしても、昨日見たときよりも鮮明に見えるな、にして、何処かで見たような・・・・

いや、そんなはずは無いか、それにしても、あの話から考えてみると

あの子の堪だけであいつらは軍を配備したというのか?

だとすると、かなり信頼されていると言う事か。

・・・・ん? いや、でも、それだと違和感が。


「・・・・・・」


俺は何となく少しだけ嫌な予感がして、体勢を低くしてみた。

これなら、照準がぶれる事は無いし、周囲の音も拾いやすい。

そして、その行動を取って、少しすると足音が増えたことが分かった。

本来、近くで響いている足音は1つだけ、しかし、今聞えてくる足音は3つ。

1つはアルル、もう一つは・・・・マルとしても足音が1つ多い。


「・・・・・・な!」


俺がその足音に違和感を感じ、後ろを振り向いたとき、テントを片付けているアルルの後ろで

何か2つほど動いた、そして、その何かは剣を大きく振りかぶっている、ヤバい!


「アルル! 後ろだ!」

「へ? な!」

「ふん!」


ヤバい、照準を合わせようにもアルルが影になって撃ち抜くのが困難だ!

もう少し時間があれば正確に狙えるというのに、そんな時間は無い!

そんな事をしていたら、あいつが致命傷を受けちまう!


「っとと!」

「く!」


危うく攻撃が当たりそうになった時、あいつはその一撃を受け止め

敵兵の攻撃を軽く受け止め、手首を捻り、剣を落とさせた。

更に腕をそのまま掴んだ状態で、少しだけ後ろに下がり、その兵士を叩き付けた。


「食らえ!」

「え!?」


だが、後方にももう1人兵士がいたようで、兵士を1人投げ、背中がモロに見えているアルルに

攻撃が飛んできそうになっている、しかしだ、時間は十分あった、それに、アルルと言う壁もない。


「させるかよ!」

「ぐは!」


俺は素早く照準を合わせて、その兵士の剣を手を撃ち抜いた。

そして、すぐに次の弾を装弾、その兵士の眉間に狙いを定めた・・・・

ここで引き金を引けばこの男を一撃で沈めることが出来る。

だが・・・・ちぃ! 狙いを変えるか、俺は眉間から狙いを外し、肩を狙い、引き金を引いた。


「ぐは!」

「・・・・あ」


俺の一撃は無事に敵の兵士の肩を撃ち抜き、その兵士は無力化できた。

もう1人の兵士はアルルが押え、手首を捻り、首を絞めて意識を奪った。

はぁ、何とかなって良かったな。


「はぁ、何とかなったか」

「いやぁ、よく分かりましたね」

「嫌な予感がしたからな」


ただ、状況は悪化したって事になるかな、これであいつらが戻ってこないってなると

俺達がいることがバレてしまう可能性がデカくなってしまったか。


「しかし、アルル、お前って接近戦出来たんだな」

「侮らないでくださいよ? 視力だけが取り柄では無いのです

 これでも、兵士としての訓練は一通りやっているんですから

 格闘技術、炊事洗濯、サバイバル訓練と、兵士に必須な能力はかね揃えているのです」

「上官に対する態度は絶望的なほどになってないがな」

「あ、大丈夫ですよ、本能を解放する相手はリオさんだけなので」


やっぱりこいつは抹殺するべきなのかも知れない。


「はぁ、もう良い、とりあえず情報を得ないと」

「そうですね、まぁ、リオさんが撃ち抜いた兵士さんの方は意識がありますし」

「く!」

「さて、色々と教えてくれないか?」


俺が撃ち抜いた兵士は意識を失ってはいない、痛みで悶えてはいるがな。

こんな状況では逃げるという手も取れないし、抵抗もあり得ないだろう。

アルルは気絶させた兵士をロープで木に括り付け、逃げないようにして尋問を開始した。


「まぁ、大人しく教えてくれれば命は取りませんよ」

「ほ、本当か!? に、逃がしてくれるのか!?」

「そうですよ、正し自国に戻ろうとすれば流石にね」

「へへ、に、逃がしてくれればそれで良いさ、あんな国に未練は無い、それに、逃げるチャンスだしよ」


忠誠心の欠片も無いな、やはり恐怖で縛りすぎると出てくるよな。

まぁ、こっちとしては好都合だ。


「じゃあ、話すぜ、な、何が知りたいんだ?」

「そうだな、まずはお前達の国の見張りの配置、基地の部屋割り、お前らの国の階級だな」

「その程度で良いのか? 良いぞ、お、俺達ディーアス国の階級は

 帝王のディーアス、その側近のディアス、テール、パルス、そして最近はガキのフ」


男が最後の子供の名前を言おうとしたときに、兵士は目を見開いた。


「あ、あぁ・・・・」

「な、何だ?」


何だ? 明らかに雰囲気がおかしい・・・・どうなってるんだ?


「う、ぐ、あ・・・・」

「は!?」


小さくうめいたと思うと、目と鼻と口から血が流れてきた。

ど、どうなってるんだ!? どうなって!


「あ、あ、そ、か、あの・・・・ごめ」

「つ!」


その兵士はいきなりそんな事を呟くと、く、首が変な風に素早く1回転した。

そ、そして、その首が・・・・


「駄目!」


そのなれの果てが見えそうになった時、俺の視界は真っ暗になった。

だが、生暖かい液体が肌に掛る感覚はある・・・・そうだ、死んだ。

明らかに不自然な死に方をした、あり得ない。


「な、何があった・・・・」

「駄目です、リオさんは見てはいけない・・・・駄目です」

「・・・・何で・・・・何であの男は死んだんだ?」

「そんなの・・・・わ、私が知るはずが・・・・ありませんよ・・・・こんな無残な死に方をするなんて・・・・」


普段からふざけているアルルの声が確実に震えているのが分かった。

そう、あのアルルが怯えるほどに無残な死、どうなってるんだ?

それに、最後に言ってた言葉、あの・・・・と言う言葉、何か心当たりがあったはずだ。

だが、その心当たりが何だったのか、それはもう分からない。

いや、もう一つ聞くチャンスはある、もう1人いるからだ。

だが、こんな姿になるかも知れないと言うのに、聞けるはずも無い。


「リオさん、目を瞑っててくださいね・・・・お願いしますから」

「わ、分かった」


真剣なあいつの言葉、俺はその言葉に従い目を開けないように閉じた。

その間、何かを引きずる様な音が聞えた・・・・多分、隠しているのだろう。

俺としても、そんなおぞましい亡骸なんて見たくはない。


「もう、良いですよ」

「・・・・アルル、お前」


目を開けると、服が血まみれの状態でアルルが立っていた。

その顔は顔面蒼白だ、地面は赤い線のように血が続いている。

何処に隠したか、それがすぐに分かる位ハッキリだ。

それだけ大量の出血・・・・あぁ、見なくて良かった。


「・・・・リオさん、あれは・・・・魔法だと思いますか?」

「あぁ、そうとしか考えられない・・・・」

「でも、だとすると誰が? どうやってあんな恐ろしい魔法を?」

「分かるわけ・・・・無いだろ?」


俺が今確認した中で魔法を扱えるような奴はあのフードの女の子だけだ。

それに、魔法は子供くらいしか扱えないんだよな、大人で魔法を扱ってる奴は見たことがない。

いや、それっぽい奴はいたんだが、多分あれは素の能力だと思うし。

だったら・・・・あんな残酷な魔法を使ったのは子供だと言う事だ。

それはそれでゾッとする・・・・考えたくも無いが。


「・・・・・・・・」


後ろの方で何かが動いた音が聞え、俺はその方向を振り向いて見た・・・・

そこには完全に思考が停止している様子のマルが立っている・・・・


「ま、マルさん!?」

「・・・・・・」

「マルさん!」


アルルの呼びかけにマルは一切反応しない・・・・立ったまま意識を失っている。

それだけ衝撃的な様を見てしまったと言うことか。

とにかく、急いでメンタルクリーニングをしないと、最悪発狂の可能性もある!


「ま、マル!?」

「・・・・・・」

「うぉ!」


俺が声を掛けると、マルは俺の方にもたれ掛かってきた。

そして、小さな声で泣いているのが分かった。


「・・・・酷いよ、酷いよ・・・・こんなの、こんなの・・・・」

「マル・・・・」


俺は何も掛ける言葉が無かった、俺が出来ることはもう、撫でる事しか無い。

こうやって、慰めてやることしか出来ない・・・・それ位しか今の俺には出来ないからだ。


「うぅ・・・・うぅ、どうして・・・・こんな」

「マルさん、すみません、気が付かなかったばっかりに」

「うぅ・・・・」


マルは長い間泣き続けた、俺はその間、ただ慰めることしか出来ない。

その間に、いつの間にか戦闘が始まっているのは分かった。

だが、おぞましい死に直面した直後に戦争に介入なんて

いくら何でも残酷すぎるだろう・・・・こいつは子供だからな。


「・・・・移動しましょう、ここにいたら・・・・気が滅入ってしまいます」

「・・・・そうだな、マル、俺の手をちゃんと握っていろよ、移動するから」

「・・・・うん」


俺はマルの手を引きながら、その場所から移動した。

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