攻勢を掛けろ
状況は動き始めた、相手国の更なる敵、敵対しなければ状況はこちらの有利になるかも知れない。
下手に姿を見せてあの敵にも向こうの敵にもバレないようにしないとな。
しかし、困ったな、両方の軍の名前分からないじゃ無いか、こんがらがるって。
下手に指示には使えないし、あー、どうせならもう少し情報が欲しかったな。
「さて、俺達は両方にとっても正体不明の部隊だ、どっちにも気が付かれないように行動しよう」
「分かりました、確かにバレたら厄介そうですよね」
「・・・・・・」
何故か俺の言葉にマルは答えてくれなかった、どうしたんだ?
「どうしたんだ?」
「・・・・私、知ってる」
「は?」
「私、あの兵士達を知ってる、いや違う、あの軍服に見覚えがある」
どういうことだ? もしかしてあの兵士達を知っているというのか?
「どういうことだ?」
「あの服、軍服、あの兵士達は私がいた国の兵士!」
じゃあ、あいつらは完全にあの国の敵か? なら、上手くいけば協力してくれるかも知れない!
問題はどうやってあの兵士達の指揮官に会いに行けるかという物だな。
「じゃあ、上手くいけば協力してくれるかも知れないな」
「ねぇ! 双眼鏡で見せて!」
「え? あ、はい」
アルルはマルの言葉通り双眼鏡を渡した、マルはそれを奪うように取り双眼鏡を覗いた。
「えっと、えっと、あ! い、いた! お父さん! お母さん!」
どうやら、本当にあの兵士達はマルがいた国の兵士達だったのか。
全滅したと聞いていたが、まだ残っていた兵士達があれだけいたのか。
「本当ですか!? じゃあ、もしかしたら!」
「いかせてください! 私もお父さん達と戦いたい!」
「いかせてやりたいのは山々なんだが、あそこは危険だぞ」
「それでも行きたい! 例え1人でも私は行く!」
そう言ってマルは双眼鏡を持ったまま走りだろうとした。
しかし、双眼鏡はアルルの首に掛っている、その状態で走れば。
「あ!」
双眼鏡がアルルの首に引っ掛かって思いっきり転けてしまった。
そのまま後頭部を強打、その結果、当然ながら気絶をしてしまった。
「あぁ! もう! そんな焦るから!」
しかし困ったな、このままだと合流なんて出来ない
なんせ気絶をしたマルを連れていったりなんかしたら誤解さてしまう。
出来ることなら合流してみたいが、仕方ない、ここは避けるか。
「仕方ない、マルが起きるまで下手に動かずにいるぞ」
「動けば良いのではないのですか?」
「いや、こいつを抱えて移動しているところを見られるのは不味いって」
そんな所をマルの国の兵士に見られてしまったら敵と勘違いされそうだしな。
特に両親に見られたりしたら確実に目の敵にされてしまう。
そんな事になればお互い消耗して本来の敵にダメージを与えられなくなってしまう。
それだけは避けたい、それだけは避けないと俺達はお互いにやばい状態になる。
「そうですね、では、バレないように静かに移動しましょう、それ位なら良いのでは?
少しでも進まなければマルさんが目覚めたときに合流が遅れます」
「それもそうだな、周囲に警戒しながら進むぞ」
アルルは気絶したマルを抱き、俺が先行して移動をすることにした。
出来る限り素早く、出来る限りバレずに移動しないとな。
「ちぃ、あの行軍速度、どうなってるんだよ! あれだけ人数がいるのに、隊列を崩さないで
あんな速度で移動できるとか、どんだけだよ!」
流石にあの行軍速度にこんなゆっくりとした移動では追いつけそうにない。
バレずに移動しないといけないというのに、このままだと引き離される一方だ!
「早すぎだろ! あれ!」
「本当ですね、あの移動速度はかなり洗練されてなければ不可能です」
「本当に誰が指揮してるんだ!? ありゃかなりの手練れだぞ!」
「そうですね、でも慎重に行くべきですよね、無理をしてバレたら困りますから」
「確かにそうだが・・・・だが、早く移動しないとこいつの両親が」
「心配しているんですね、ですが無理をして私達が全滅してしまえば意味がありませんよ」
確かにそうだな、少し動揺しすぎたせいで冷静な判断が出来なかったか。
・・・・はぁ、駄目だ駄目だ、すぐに感情的になってしまう悪い癖が出てしまった。
こんなんじゃ駄目だな、大切な所を見誤れば崩壊しか残ってない。
「悪い、ゆっくりで良いから確実に行くとしよう」
「それが1番です」
俺達は仕方なくゆっくりと移動をすることにした。
そんなゆっくりとした動きであの素早い行軍に付いていける筈も無く
距離は離れていく一方だった、これじゃあ確実に追いつけない。
「くぅ、やっぱりこの速度じゃとてもじゃないが追いつけないか」
「仕方ありませんよ、そんな事・・・・あ! 正面! あの行軍の先です!」
「え!?」
いきなり大きな声で叫ぶから、俺はその方向をスコープを使い見てみた。
そこには、魔道兵と思われる機械が見えた、やっぱり完璧に魔道兵を使っているな。
まさか、自分の国の兵士に攻撃を仕掛けてくるとは。
「ちぃ!」
俺は急いでバレットM95を召喚し、その魔道兵の方に照準を会わせた。
「リオさん!」
「な!」
しかし、照準を合わせるとほぼ同時にアルルが俺の行動を止めた。
「何しやがる!」
「駄目ですよ、ここで攻撃をすれば警戒をされます」
「じゃあ見捨てろと!?」
「違います、恐らくですがあの軍勢ならあの魔道兵程度なら押しつぶせるはずです
そこで勝利し、指揮を高める事も出来ます」
「そうか」
あぁ、浅はかだったか、考えてみれば俺が攻撃を仕掛けてしまえば
あの軍は士気が落ちるだろう、なんせ理解不能の攻撃が後方から飛んでくるわけだしな。
それも、たった一撃で強力な魔道兵が一撃で沈む、そりゃあ警戒もするだろう。
なんせ、そんな現象がここで起これば、ミストラル国の誰かがいると割れる。
あの魔道兵が正体不明の一撃で沈んだのはミストラル国攻略戦の時だけだからだ。
あの魔道兵は元はあいつらの兵器、それを動員し、あんな感じに返り討ちに遭ったのは
ミストラル国攻略戦の時だけだろうからな。
「ちぃ、また」
「本当にどうしたんですか? 普段のリオさんならこんなミスを連続で犯すなんて事は」
「・・・・多分、あれだ、疲れてるから」
「まぁ、予想は出来ますけど、マルさんのご両親がいるから、ですね」
「な! 何を言って!」
「私が分からないとでも? 観察力には自信があるんですから」
うぅ、やっぱり侮れないな、こいつの観察能力って奴は。
「はぁ、そうだよ、良いじゃないか、罪滅ぼしをしたいんだ、無意味だろうがな」
「はぁ、だったらマルさんを守ることを優先してください」
「・・・・分かったよ」
俺は召喚した狙撃銃を消し、再びゆっくりと進む事にした。
はぁ、やだやだ、こいつに説教されるなんてよ。
それから観察を続けながらも進軍をしていった。
アルルの予想通り、あの軍達は魔道兵を撃破した。
その後、更に戦意が上昇したのか行軍速度も上昇していった。
「予想通りでしたね、やはり突破しました」
「被害とかは分かるのか?」
「そうですね、正確には分かりませんが、負傷者が10名程度でした」
「なんで見えるんだよ」
「目が良いですから」
マジかよ、やっぱり化け物染みた視力を持ってるな。
「まぁ、お前の情報を信頼するとすると、僅かその程度の被害で倒せたのか」
「そう言う事になりますね、流石は魔道兵を扱っていただけはありますね
弱点を把握しているのかも?」
「だろうな、流石に自分達の兵器の弱点を把握してない奴は居ないだろう」
なんせ、そこを把握して運営しないと適切な運用が出来なくなるからな。
無駄に運用して攻め込んだのにそこが弱点の地形で全滅とか洒落にならないし。
どんな時だろうと運用する立場にいるなら弱点は把握しないとな。
「っと」
「リオさん、なんで狙撃銃を? 必要ないじゃないですか」
「情報収集だ、少し移動が止まるかも知れないが行動を読むためには必要だろう?
でも、足が止まるのは面倒だし、アルル、抱いてくれないか?」
「え!? あ、はい!」
かなり嬉しかったのか、アルルはすごい勢いで俺に抱きついてきた。
「ちょ! 違う! 抱きしめてどうする!」
「もう放しませんよ!」
「馬鹿か! 時間がないんだ、ふざけてんじゃねぇって!」
「あ、そうでしたね、分かりました」
状況を思い出してくれたお陰で、アルルは俺を左手で支えて立った。
片腕で子供を抱き上げるなんて相当だな、バランス崩したらヤバそうだ。
しかし、アルルの足取りはかなり安定感もあり、バランスは崩しそうにない。
「バランス感覚凄いな、殆ど揺れがない」
「静かな足取りは色々と便利ですから」
「そうだな、それじゃあ」
俺はスコープを覗き、情報を集めることにした。
最初はそうだな、マルの国の兵士達だ、どう動くか確認しておこう。
「皆! 聞け! 敵の本拠地はもう近いぞ! 俺達は祖国を取り戻す!」
「おぉー!」
「良いか! 敵は我々に勝ったつもりでいるが、それは違うと言うことを教えてやれ!
我々が団結し、戦ったとき、敵う物などいないという事実を教えるのだ!」
「おぉー!!」
「今度こそ、我々は1つに団結し、共通の敵を潰す! ゆくぞ!」
「祖国のためだ! 行くぞ!」
・・・・話の内容から考えて、マルの国は内戦状態だったのかも知れないな。
団結し戦ったときに敵うもの等ない、と言う言葉から考えてな。
多分内戦状態で脆くなっていた所を叩かれたという所か。
それじゃあ、次はあの国の方だ、どう動く?
俺はスコープの照準を基地の近くに向けた。
「ふむ、やはり魔道兵一機では敵わぬか、予想は出来ていたがな」
「ディアス様、次はどうしますか?」
「魔道兵を総動員だ、総力を挙げて奴らを仕留めろ」
「は!」
魔道兵総動員だと!? 流石にそんな総動員で攻めてくればあの手勢では敵わないだろう!
一機相手にも10の負傷を出したのに、それが多数になれば勝つのは困難だろう。
どうする? このままだと・・・・仕方ない、やるしか無いか。
「アルル、行軍の足止めをするぞ」
「な、何故ですか!? そんな事をすれば、警戒されて!」
「このままあの軍が先行すれば・・・・総動員してきた魔道兵に潰されるからな」
「どうしてそんな事が分かるんですか?」
「遠距離の会話を聞けるんだ、で、話を聞いた結果、このままだとあの軍が潰されると判断した」
「・・・・ですが、下手なことをすれば」
「やらなきゃマルの両親もろごと軍が壊滅だ、そうなれば抜け穴も塞がれる」
「・・・・私達の役割はあくまで偵察、殲滅ではありませんよ」
「分かってるがこいつの両親まで奪うわけにはいかないんだ、分かってくれ」
「リオさん・・・・はぁ、仕方ありませんね」
「感謝する」
俺はバレットM95を召喚し、素早くあの行軍の近くにあった木に狙いを定めた。
そして、引き金を引き、その木を狙撃する。
「何だ!? 木が倒れてくるぞ!」
「く、何かの攻撃か!? 下がるぞ!」
俺が狙撃した木は倒れ、マルの国の兵士達の前に倒れ込んだ。
その不自然な現象に直面した兵士達は固まっている。
「く、どんな攻撃だ!? 仕方ない、一旦下がるぞ」
「しかし、敵国は目前!」
「理解不能の攻撃が来たときは下がるべきだ、状況が分からないんだからな」
「・・・・分かりました」
その不可解な現象を受け兵士達は撤退を始めた。
その動向を確認した後、俺はスコープを移動させた。
「何だ? 奴らが撤退しているぞ? 何をした?」
「分かりませんが、木が倒れたらしく」
「それで撤退か、ふん、運の良い奴らだ、そのまま先行してくれば
魔道兵で踏みつぶしてやったと言うのに」
「全くですね、そのまま殲滅できたのに」
「仕方ない、魔道兵はそのまま基地付近に配備だ、奴らが再び来たときに動かせるようにな、以上だ」
「は!」
どうやら追撃は仕掛けないようだな、助かった。
もし追撃されたら、木を倒した意味が殆ど無くなっていただろうし。
「撤退しましたね」
「そうだな、だがこっちの存在は気付かれていない、今のうちに接近するとしよう」
「そうですね」
俺達はそのままゆっくりと移動を開始した、さて、協力して貰えれば良いが。




