勉強と実習
結局あの先生はずっと子供には分からない
言葉を言うだけ言って、授業が終わった。
それは単純にあのおじさんのやり方なのか
それとも国の方針なのかは分からないがな。
だが、短い間に可能な限りの知識を叩き込もうとした感じだった。
恐らくそれだけ切羽詰まっているからなのだろう。
しかしそれでは確実に悪循環だ
子供には基礎知識が無いから訳分からない言葉を何度も言われ
噛み砕いた説明もなく、意味とかも分からないままだ。
そして、その子供が部隊の指揮官になるんなら
当然だが部隊の練度は落ちる。
元々、子供が部隊長になるって地点で結構な賭けなのに
そこにこんな不安要素があるんだよな。
まぁ、俺はFPSプレイヤーだったお陰もあり
説明していた言葉は分かった。
「これで授業は終わる、次は戦闘訓練
魔法の確認だ…ん? 聞いているのか?」
「えっと…これは、何て書いてるの? あと、どういう意味なの?」
「そうだな、作戦だ、包囲殲滅って言う
まぁ、簡単に言えば敵を囲んで一気に攻撃することだな」
「じゃあ、このふじんって何? どういう意味なの?」
「えっと、部隊の並び方だ
まぁ、これはあまり大人数じゃないなら必要は無いかな」
「大人数ってどれ位?」
「そうだな、布陣が必要になってくる人数は5人位だな
これ位なら布陣が意味をなしてくる」
「おぉ! 5人! 私達もあと1人で必要なんだね!」
「まぁ、俺達は一緒に戦わないがな
ま、必要そうになったら教えるよ、なったらね」
なんか教官っぽい人の指示を無視して
とりあえず勉強の再確認をしているが、大丈夫か?
少し不安になり、俺は少しだけ教官っぽい人の顔を見る事にした。
教官っぽい人は俺達の今の状況を見て、唖然としている様子だった。
「…子供が子供に勉強を教えている?
それに、言葉の意味も把握しているのか?」
「じゃあさ、このえんごこうどうって何?」
「戦ってる仲間を助けることだ、これはかなり大切だからな
仲間…いや、友達を見捨てるのは駄目だ、因みに、支援って言って
仲間を支えると言う意味合いの言葉もあるぞ、これも援護と同じだな」
「うん、先生にもいっつも教えて貰ってたし分かってる!
じゃあ、仲間って友達なんだね!」
「まぁ、なんだ、言い方を変えればそうなるかもな
一緒に頑張るわけだから」
「おぉ! じゃあ、頑張って助けるようにしないと!」
「うん、先生にも教わったから」
意外と子供にわかりやすく説明するのは難しいんだが、孤児院で過したお陰か
こいつらの事はよく分かってるから説明はしやすいな。
フレイは馬鹿だから噛み砕いて説明しないと理解はしないから噛み砕く
まぁ、年相応だな。
ウィングはあまり質問とかしてこないから
ちゃんと分かって無さそうな所を確認しないとな。
トラは結構頭も良いし、すぐに覚えてくれるから教えるのは楽だ。
やっぱり物を教えるとなると、各々の性格を知っているのは良いよな。
「それじゃあ、今回の授業であの教官が言ってた事はこれで終わりだ
分かったか?」
「うん!」
「凄くよく分かった!」
「ありがとう!」
「よし、それは良かった」
結局、教官の授業っぽいのが終わって、30分以上説明していたな。
だが、教官っぽい人はその間、俺達の会話を止めようとはしなかった。
その気になれば、一言で止めることが出来ただろうに
やっぱり俺の行動に興味があったの?
「あーっと、終わりました・・・はい」
「あ、あぁ、そうか、それでは付いてこい、次は実技だ」
「分かりました」
「「「はい!」」」
俺達は教官に付いていき、実技があると言う場所に移動した。
そこは案山子のような物が沢山置いてあるそこそこ広い広場だった。
「今度はここで魔法の技術と戦闘技術を学んで貰う
恐らくこちらの方が多くなるだろう
まずは魔法を使って見ろ
適性のがあれば魔法は手に力を込めれば発動する筈だ」
「えっと…手に力を入れて…む、むむ、むぅ!」
「あ、な、なんか出て来た!」
ウィングは手に力を込めると、その手元には剣のような物が出て来た。
凄いな、何もない空間にいきなりとは…
「凄い! 周りの物が浮いた!」
トラは自分の周りの物を宙に浮かせて、ものすごく喜んでいる。
どうなってんだろう、どうして浮いてるのか
よく分からない、やはり魔法は凄いとしか言えん。
「…お?」
俺が手に力を入れてみると
いきなり何もない空間から狙撃銃の様な物と手元に弾丸が出て来た。
この狙撃銃はウィンチェスターM70によく似ているな、俺が好きな狙撃銃だ。
だが、どうやら少しカスタマイズされてるようで、二脚も付いている。
さっきまで何もなかったのにこんな物が出てくるとは、これが魔法か、凄いな!
それにしても狙撃銃とか俺が憧れてた奴じゃないか! 質感とか感じる。
適度な重さもある…うん! 素晴らしいじゃないか!
これで、男の姿ならもっと良いんだがな。
「おぉ! スゲー!」
「おじさん! 私、何も起らないよ!?」
「おかしいな、君は適性はSなんだろう?」
「そう言われたけど、何も起きない!」
「おかしいな、何か違和感とかないのか?」
「無い!」
「少し待っていてくれ、ちょっと調べさせて貰う」
教官は不思議そうにフレイに近寄り
肩とか色んな場所を少し探したが何もないようだ。
「おかしいな、何処にも変化がないぞ?」
「あはは! くすぐったい! 止めて~!」
「うぐふぁあ!」
「…な」
フレイがくすぐったいと言い、教官を手のひらで押したときだった。
教官はフレイの手が触れると同時にものすごい速度で吹き飛ばされて
壁に激突した、ただの5歳児にこんな力があるのか!?
「ど、どうしたの!? 何でいきなり!」
あんな小さな子供に、あんな怪力があるわけがない!
と言うか、フレイは俺達の中だと比較的力がある方だが
あそこまでな分けがない!
あんな怪力だったらフレイと遊んでた子は大体大怪我してる! てか死んでる!
主に俺が死んでる! しょっちゅう抱きしめられてた記憶があるし
まぁ結構力はあったが、あそこまでじゃない!
あそこまでだったら俺は間違いなく窒息だろう。
「う…くぅ、強烈だ…どうやら、それが君の魔法のようだな」
「え? 魔法? これが?」
「あぁ、きっと反射神経もかなり良くなっているはずだ
恐らく身体強化系の魔法だろう、私が君の力を体感して分かったことは
君の力はただの身体強化ではなく、超身体強化の部類だ
流石は適性Sだ、あの程度の力で私がここまで吹き飛ぶのだから
全力だと恐ろしい事になる」
「私だけなんか地味!」
「いや、フレイ、十分凄いから」
「そう!? やった! リオちゃんに褒められた! ありがとう!」
「わぁ! 待て! 抱きつこうとするな! がふぁ!」
やべぇ、超力強い…死ぬ! 窒息死してしまう!
「止め、死ぬから、俺が死ぬから、冗談抜きで死ぬが…」
「あぁ! 駄目ですよ! 本当に死んじゃいます!
抱きしめるのは止めてください!」
「あ、はい、分かりましたぁ」
あの教官のサポート役の女の人の言葉で
ようやくフレイが手を放してくれた
マジで意識が朦朧として死ぬかと思った…生きてて良かった。
「けほ、けほ、あ、助かりました…けほ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です…けほ、問題…あ、ありませ、けほ」
「とてもその様には見えないんですが…」
あぁ、後ちょっとでマジに昇天するところだった、意識が今でも朦朧としてる。
だが、こ、この狙撃銃を試すためにも、びょ、病院送りは嫌だ。
リアルの狙撃銃なんて持ったこと無いんだよな、エアガンも高くて買えねぇし。
そんな俺がついに本物っぽい狙撃銃を手に入れたんだから試すしかない!
「それにしてもだ…リオだったか
随分と変わった物が出て来たな、なんだそれは」
「え?」
もしかして、この世界に銃火器って存在してないのか?
まぁ、そうなんだろうな。
存在してるんなら、この形状から何かくらい分かるだろうし
「えっと、武器ですよ」
「そんな武器は初めて見た
私には使い方が分からないのだが」
「狙って引き金を引くだけです、簡単な武器ですよ、剣とかと大差ありません
攻撃出来る距離が異常に長いだけですよ、はい」
「どういうことか分からないな、試しに使って見てくれ」
「良いですけど、あの案山子っぽい奴を狙うんですか?」
「あぁ、そうだ」
案山子を狙撃して威力証明なんて出来るのかな? まぁ、試してみるか。
ん? 銃を構えて気が付いたが、この狙撃銃、射撃モードを変えられるのか?
普通は狙撃銃には付いてないと思うが…セミオートじゃ無さそうだし。
完全に形状はボルトアクションだ、と言うかそもそも、なんで手元に弾丸が?
マガジンで出てくるんじゃ無くて?
もしかして、ボルト引いて弾丸入れて戻す感じ?
手間が掛るな、じゃあ、このマガジンを出すためのボタンはなんだ?
なんで付いてんだ? マガジンがないんなら必要ないと思うが…
いや、よくよく見てみたらこの銃、マガジンを入れる箇所はあるのか。
もしかして魔法を上手く扱っていけば、マガジンが出て来たり?
よく分からないがとりあえずこの射撃モードの場所をいじるか
1番上にしてっと…あ、射撃モードを上にしたら弾丸が少し減った
これで弾丸の量とか変わるのか? まあ良いか。
とりあえず距離的に二脚はいらないから、使わないで
…あれ? 二脚が消えたぞ?
「あれ?」
さっきまであったはずの二脚が使わないと決めたときに消えた。
もしかしてこれってカスタマイズは自分自身の意思で自由自在なのか!?
知識が結構ある俺からしてみればかなりありがたいじゃないか!
とにかくこの状態でちょっとぶっ放してみるかな、耳当てがないと耳がヤバいけど
無い物を作るのは難しいし…1発だけなら問題も無いだろう。
「それじゃあ、行きますよ」
俺は狙撃銃に弾丸を装弾し、案山子に狙いを定め、引き金を引いた。
「うお!」
それと同時にものすごい反動が俺を襲い、かなりの轟音が響いた。
俺はその衝撃で銃を押えることは出来ずに後方に投げ飛ばしてしまった。
俺が手を離すと同時にその狙撃銃は姿を消す、手に持っていた弾丸もだ。
それに耳鳴りもしない…そして、子供ならこの反動で腕くらいもげそうだが
そんな事は一切なかった、魔法で出来た銃だから
自分の体にダメージはないのか?
その代わり1発撃った後、少しだけ疲労感を覚えた。
「な、何と言う威力だ…」
「は?」
教官の言葉で俺は狙った案山子の方を見てみた
…案山子は粉々になっていた。
木っ端みじんだ、それはもう原型が残らないほどに。
「な、なん…威力がこんなにあるはず…」
いくら狙撃銃とは言え、あそこまでの威力は無いはずだ!
いくら何でも対物ライフルでも無い限り、あそこまでぶっ飛ばすこと何て!
…そういえば、俺はさっき不自然な行動をしたな
確か本来あり得ない射撃モードの切り替えをした、もしかしてそれが理由?
俺は再び狙撃銃を出し、狙撃銃のセーフティーを掛け
射撃モードだと思っていた場所を見た。
「……マジかよ」
その射撃モード切替だと思っていた場所に書いてあったのは
対物、対人、非殺傷という文字だった。
もしかして、この狙撃銃はこの3つに切り替えることが出来るのか?
で、さっきは対物でぶっ放した。
通りで凄まじすぎる反動だと思った、重量があまり無い形状のこの銃で
そんな超火力を出せば、そりゃあ、凄まじい反動を受けるよな
大人でも耐えきれないのに、子供の体だと
確実に押えることは出来ないだろう
魔法が自分の体に影響をしないようで助かった。
だって、影響してたら、確実に俺はさっきので死んでたし。
「魔法で良かった…」
まぁ、随分と現代兵器チックな魔法だが、問題は無いだろう。
基本的にはこの対人で戦うしかないな…対物は不味い。
「リオちゃんの魔法、凄いよ…」
「私の魔法が凄く地味に感じた」
「いや、ほら、お前らの魔法も凄いから、俺の魔法?
は、あまり多数の相手と戦えないし」
「そうなの?」
「あぁ、1発1発に時間が掛るから、近寄られたら勝ち目は薄い
だから、お前らの方が複数相手なら強いって」
「そうなんだ、よく分からないけど私達も強いって事?」
「まぁ、そうだな、とりあえず、戦闘技術を磨こう
あっと、教官、お願いします」
「あ、あぁ、分かった」
その後、俺達はとりあえず戦闘技術を学ぶ事になった。