戦争の先
この苦い戦いは終わった。
ハッピーエンドとはとても言えた物じゃないがな。
完全なるバットエンド…俺達からして見れば
そこまで甚大な被害が出たわけでも無いが…な。
「ついに長い戦うが終わったわね!」
「そうだな」
「…浮かない顔だけど、どうしたの?」
「…いや、この後の処理をどうするかで悩んでたんだ。
スティール、ファストゲージはどうするんだ?
この戦争に勝利したことで、周辺国はお前の国にくだった。
戦力的に考えても…恐らく既にファストゲージは
ミストラル王国に勝っていると思うが」
「当然降るわよ、あなた達にね」
「本気か?」
「本気よ、私は世界の征服とか興味無いし。
そもそも、恩を仇で返すのは趣味じゃないの。
本来ならとっくにこの国はファストゲージ国では無く
ミストラル王国になっているはずだったんだから。
それを待って貰ったのに、戦力が付いたからって
あなた達に牙を剥く、なんてあり得ないわよ。
そもそも、仮に牙を剥いたとしても、簡単に制圧されちゃうわ。
まずは内側が反乱して、混乱するだろうしね。
もうすでに、あなた達はそこまでファストゲージに根を張っている。
あなた達、小さな戦士達だけで、もう既にファストゲージは落とされてるのよ」
色々な意味でスティールは既に降伏をするという考えみたいだな。
「そうか、まぁ、良いだろう…とりあえず国王に話をして
ファストゲージをどうするかを決めよう」
「お願いできる立場じゃないのは分かってるけど。
出来れば、国民達を苦しめないで欲しいわ」
「そりゃしないよ、それじゃあ、船を出してくれよ」
「ん? 転移魔法は使わないの?」
「魔法を使えば魔法がなくなるまでに時間が掛かるだろ?
戦争も終わったんだ。
俺達も可能な限り早く元の子供に戻りたい、それだけだよ」
「分かったわ、じゃあ、私も同行するわね」
「良いのかよ、まだ忙しいだろう?」
「大丈夫よ、お父様も少し元気になってきたから。
あ、お父様も降伏の件は賛成してくれてるから安心して。
後、この事に関しては私に一任するとも言ってくれたから」
「ほぅ、そりゃ良かったな」
まぁ、スティールの活躍を考えれば当然の判断だろう。
あいつの判断で、結果としてファストゲージは1大国家にのし上がった。
風前の灯火だったファストゲージが、こいつの手腕で今や大陸を支配する
国へと変化したのだから。
「そう言えば、ケミー達は?」
「…さぁ、分からない」
国王を制圧した後、すぐにケミー達に合流しようとした。
だが、そこには姿は無かった、ケミーだけじゃなく
死んでしまったはずのフェミーの姿もまだ生きていたケースの姿も無かった。
何処に行ったかを探したが、何処にも姿は無かった。
「本当…何処に行ったんだか」
「大丈夫なの? 確か…フェミーは」
「本当、何処までも皮肉な一族だよ、ミリターク家は。
父親の行動は結局、大事な娘の寿命を奪っただけで。
娘は…助けようとした子供達に…殺されたんだから」
「本当に…同情するわ」
「スティール様、同情など不要ですよ」
「メイル、なんでそう言えるのよ」
「あいつらは自分自身の行動の結果、失敗しただけです。
それはそいつらが選んだことであり、同情の余地はありません。
焦らず、長く研究をしていれば、こんな事にはならなかったでしょう。
寿命もある程度分かっていたというなら、少しくらいは気長に構えれば良かった。
フェミーもそうです、子供達を救うという行動を盲目的に取った。
その結果、洗脳魔法の存在を忘れ、命を落とした…愚かな選択をしただけですよ」
「メイル! あなた、なんでそんな風に言えるのよ!」
「過去をぼやいても仕方ないからですよ、私達が見るべきは先です」
「それでも! 過去を悔やむことくらい!」
「私達がその2人の過去を悔やんで、何が出来るのですか?
元より、過去を悔やむという行動自体無駄な行動です。
それを、更に他人の過去の選択を悔やむなど、全くの無意味です」
「あなた!」
「まぁ、落ち着けよ…両方意見はあるだろう。
そして両方正しい…あいつらの失敗を俺達が悔やんでも意味が無いのは事実だし
その過去に同情し、哀れむのもある意味では正解なのかも知れない。
でも、それで喧嘩したら、お前らもあいつらと同じ様に失敗するかも知れないぞ?
大事な親友、ただの口喧嘩で捨てたくはないだろう?」
「うぅ…」
「くぅ…」
「さぁ出発しよう、メイル、お前は来るのか?」
「…そうですね、私もお供しましょう」
「リオ達がまだ不安?」
「いえ、先を見るためですよ」
「…そう、分かったわ」
俺達は全員、スティールが呼んだ船に乗り、ファストゲージを出発した。
船の上というのはこれで2回目か、いや、3回目かな?
だがまぁ、これからの課題は多く見えるだろう。
「…うーん、これからファストゲージとミストラル王国を行き来するとしたら。
この船はあまりにも小さいし、速度が遅いわね…銃器の研究はちょっと停止して
ひとまずは船の研究に移るべきね」
「そうだろうな、まず間違いなく物資が行き来するはずだからな。
時間が掛かるのは非効率だし、当然積める荷が少ないのも非効率だ」
「そうね、とりあえずまずは人の行き来が激しくなるでしょうし
まずは船の速度を強化した方が良さそうね。
その後は荷だから、素早く沢山詰める船を研究するとか」
「両方を追及するのは難しいのでは? 前の銃器の時でも
リオ様は連射性を捨て、精度を追求しましたし
両方ではなく、片方を追及するのが現状では正しい判断かと」
「確かにそうね、でも、どっちが良いかしら」
「私の考えだと、荷を沢山積める方をお勧めするわよ」
「ミロル様はそう思うのですか?」
「えぇ、沢山の荷物を運べるのは大きいもの」
「ただその場合、生物が死ぬぞ? 冷凍技術もなんとか見付けねぇと」
「冷凍技術ね、確かに現状ではちょっと腐りやすい気がするし。
そこも追及の余地ありね」
「あぁ、そうだそうだ、そっちの技術、ミストラル王国にも流してくれよ」
「最初からそのつもりよ、だって降ってるんだし」
「お、そりゃありがたいね」
ミストラル王国は現状、ミロルの魔法で持っている部分が大きい。
「そう言えば、ミロルの魔法はどうなんだろうか。
あれ全部消さないと魔法を使ってる扱いなのか?」
「多分関係ないわよ、魔力とか使ってないし」
「でも、それがどうかを判断できるのは5年後だぞ?」
「大丈夫よ、仮に駄目なら全部戻して5年待てば良いのよ」
「俺達は結構成長してることになるが」
「大丈夫だって、あなた達が突き放さなけりゃ私は余裕よ」
「突き放すわけ無いだろう?」
「知ってる、だから大丈夫なのよ」
結構賭けに近いが…本人が大丈夫だというなら大丈夫だろう。
「それにしても、今回の船旅で色々な課題が見えてくるわね」
「はい、これからどのような方針で行くかは大事です」
「でもまぁ、私はあと少しで姫でも無くなるんだから
考えるのは無駄かも知れないけど」
「おいおい、お前ほどの人財を捨てるほど、俺達は馬鹿じゃないぞ」
「お? 何? 私の新しい就職先を探してくれるの?」
「そりゃそうだろ、当然だよ、1国の姫様が降った後はただの無職とか
なんか、色々と酷いし、国民に殺されかねないし」
「私、そこまで力強くないと」
「…馬鹿ですか? 自覚してください」
「え!? 何? そんなに言われるほどに私、力あったっけ?」
「お前…鈍感というか、色々と」
「な、何よ…」
「影響力、考えてください…そもそもですよ?
追い込まれたときに国民達が戦意を失わなかったのは
あなたの存在が大きかったんですよ? それなのに自覚無しですか?
本当に馬鹿ですかね? 馬鹿ですよね、スティール様」
「ちょっとメイル! なんか最近、私に対して散々言うわね
い、今まで馬鹿とか言わなかったのに、だ、誰の影響よ!」
「…リオ様でしょうか」
「いや、お前は最初から俺に対して悪口全開だったろうが」
「では、本来の私です」
「むぅ! 本来のあなたが私に対して解放されたって言うのは
何だか嬉しいところではあるけど、全力で貶すってどうよ!
い、一応、私はあなたのご主人様なのよ!」
「いやほら、主人とメイドの関係のままでは親友では居られないかなーと。
だからですね、私は全力でスティール様を貶したという形です」
「よ、喜んで良いのか…どうなのか分からない微妙な答えね」
「喜んでください」
「ま、まぁ、あなたに激辛ラーメンを食べさせられて~、とかよりはマシね」
「お前も食えば? 死ぬよ、マジで」
「目が死んでるんだけど!? 絶対嫌よ、私は!」
「では、少々お待ちを、今から作って来ますから」
「待って! 待ってくださいお願いします! 激辛ラーメンは嫌よ! メイル!」
そそくさと厨房に向ったメイルをスティールは叫びながら追いかけた。
そして、この場には俺とミロルの2人だけになった。
「…やれやれ、あ、そうだミロル」
「何?」
「別れるとき、確かなんか言ってなかったっけ、死亡フラグになりそうな事」
「な、なんの事かしら…」
「確か、この戦いが終わったら、俺に伝えることがあるとかなんとか」
「うぅ、お、覚えてたのね」
「戦争も終わって、お互いこうして生き残ったんだから……折角、生き残ったんだから」
「……そ、そうね! い、意を決して言うわよ!」
「お、おぅ」
「はぁ…ふぅ、あなたって鈍感だから、私が言わないといけないというのは…
まぁ良いわ、もう良いわ、良いわよ、やってやるわよ!
何度か伝えようとしたんだし、今度こそ、このタイミングで言うわよ私!
ふぅ…え、えっと、えっと、えっと…りり、リオ、いや、こ、光輝さん!」
「……」
「あ、あの…わ」
「リオちゃーん! 見て見て! こっち来て!」
「フレイ! 何処から! お前! 今なんか重要そうな話を!」
「もぅ! フレイさん! 駄目ですよ! 折角のシーンを台無しにして!」
「アルル!? あんた何処から!」
「ずっと見てました!」
「はぁああ! こ、この! この馬鹿女!」
「痛い! い、良いじゃ無いですか! 見てただけですよ!?
ほら、ミロルさんも私とリオさんのラブラブシーンを見ていたわけですし」
「ぐぅうぅう!」
「ちょ、フレイ!」
「見てよあれ! あの可愛いお魚さん!」
「あ、い、イルカだな、へぇ、居るんだ」
「可愛い!」
「まぁ、可愛いな、でもフレイ、あれ、実は魚じゃないんだぞ?」
「え!? そうなの!?」
「あぁ、分類的には俺達と同じ哺乳類だ」
「え!? 私達と同じなの!? 哺乳類って何!?」
「えぇ!? あ、えっと、あ、あれだ、乳で子供を育てる生き物だ」
「父? お父さんで子供を育てるの?」
「あ、いや、おっぱいで…」
「おっぱいで子供って育つんだ!」
「いやえっと、おっぱいから出てくる液体というか、ほら、あれだ
牛乳とかあるじゃん、あんなので育てる奴だ!」
「牛乳で育つんだね!」
「違う違う、牛乳と同じ様な物が人間のおっぱいから出て来て
それで子供を育てるんだよ、人間の場合は」
「出るの!? ちょっと試して」
「止めろ! 止めろ止めろ! お前からはまだ出ねぇよ!」
「えー、いつになったら出るの-?」
「あ…えっと、お、お前が子供を生んだら…かな」
「子供! どうやったら生まれるの!? あ! キスをすればだっけ?
じゃあ、子供欲しいからリオちゃんとキスをする!」
「ふぁ!? え、あ、え、え、いや、それは…」
「私も子供欲しい! お姉ちゃんとキスするの!」
「馬鹿! 違う! 止めろ!」
「え? キスをしたら生まれないの?」
「そうそう! お、男の子と女の子でキスすればであって」
「リオちゃんは中が男の子だし、きっと!」
「無理無理! 無理だってばぁ! もう試しただろうがぁ!」
うぅ! なんで今日も走り回る事になるんだよぉ!
「…リオさん、いつも通り大変そうですね」
「そ、そろそろ、あの子達に正しい知識を与えた方がいい気が…」
「いえ、まだ早いと思いますけど…」
「うーん、それもそうね」
一応、まだ足の怪我が完治してないのになんで走ることになるんだよ!
痛いんだけど!? 一歩一歩超痛いんだけどぉ!?
「待ってー!」
「来るなってばぁ! 無理だから! 女の子同士でキスしても意味ないから!
それに、もう試しただろ!? キスしただろ!? 子供出来てないだろ!?
うわぁあ!」
うわ! 押し倒された!
「あ、そう言えば私達、もうリオちゃんとキスしてた!」
「や、やっと思いだしたか…もうやったろうが、子供出来てないだろうが。
だから、女の子同士でキスしても意味は無いんだって」
「…むー」
「うぅ…」
「わ、分かったら、俺の上からどいてくれ」
「…うぅ、残念」
「はぁ…」
な、なんとか助かった…はぁ、こりゃ、この船旅も散々な事になりそうだな。




