全ての決着
本当、マジで勘弁して欲しいんだけど。
接触しただけで消去出来るってだけでも嫌なのに。
「お前は…お前は!」
「くぅ!」
その消去を飛ばすことが出来るってのもヤバい。
だが、運の良いことに狙った場所にしか飛ばないようだ。
あいつの攻撃は俺を集中的に狙ってくれている。
だから、ターゲットが何処に行くかを制御しやすい。
ったく、無効化魔法だとかの方が優しいぜ。
「うわぁああ!」
「うぐ!」
ち、俺に対しての絶対的な殺意…なんて盲目的な奴だ。
一応、消去の弾道は見えるが、それでも厳しい。
しかも、理解できるのはあくまで感覚的にしか分かりゃしない。
そこの空間が消えてるような、そんな感覚。
所詮、感覚的にしか理解できないが、さっぱり分からないよりは断然マシだ。
と言うか、感覚的にも理解できなかったら、勝ち目もクソもないだろ。
こいつの攻撃は興奮しているからなのか、ランダム性が強いし。
しかし、こう言う感情が高ぶっての暴走って奴は、大体戦闘後に弱体化する。
フランのケースが良い例だ、あいつも感情的になったせいで魔法が暴走した。
「この! なんで当らない!」
「ち、仕方ない、少しは頭冷やしやがれ!」
あの子の消去魔法を後方に下がって回避し、ウィンチェスターを召喚し
引き金を引いた。
狙いはあの子じゃない、あの子に対して攻撃をしても消去魔法で消される。
だが、一応は牽制にはなるだろう、まぁ、狙いはトラップのスイッチ。
「く!」
足下から出て来た針に少し当たり、その針は消滅した。
もしかして、この消去魔法も不意打ちに…いや、違う。
多分、背後からの攻撃に弱いんだ。
その証拠に、正面の針は消ている。
でも、ダメージを受けたと言う事は恐らく後方からの針が刺さった。
背後でも一定距離に到達したから針が消えたと言う事か。
「このぉ!」
「ん?」
そしてもうひとつの違和感、その針が出て少しの間だ
消去の魔法はこちらには飛んでこなかった。
その代わり、彼女の前にあった針が1本1本消えている。
冷静になって周りを見てみると、地面も当った一部だけが消えてる。
そうつまり、貫通しない…あの消去魔法は貫通しない!
接触した場所だけを消滅させてると言う事か
でも、人体は貫通するみたいだけど…もしかして、俺に対して異常な殺意があるから
俺だけは貫通するとか、そう言う感じだったりして…何それ恐い。
「うあぁああ!」
「ち!」
足下にあった石の破片を投げてみた。
「な!」
「あぁ、こいつは良い」
やはり、この消滅魔法は俺以外は貫通しない。
完全に俺を殺す事に特化した魔法だ。
ここまで狂気的な殺意を向けられるとは、恐いな。
本当にフランだな、恐いって。
「……」
「はぁ、はぁ…おい、俺は本当の事だけを言っている。
このままじゃ、マジでフェミーが」
「それでも、私は…私は!」
「な! くぅ!」
…や、ヤバい…足が結構削られた、さっきまでとは速さが違う…
「く…ぅ」
「これで捕えた…」
「……あぁ、クソ…クソ…」
「観念しろ」
「……俺は、死ねないから…さ」
「あ?」
「…………俺の代わりに! 死ね!」
こんな手は取りたくなかった、あぁ、取りたくなかったさ!
でも、このままじゃ、俺は死ぬ…それは駄目だ。
全ての意味で、それだけは駄目だ。
そんな事になれば、この戦争は終わらない、より火が付く。
国王を生かすという手も出来なくなるし、最悪の場合
ミストラル王国とファストゲージの戦争にもなりかねない。
だから……だから、だから……
「…リオ、それは止めて」
「な」
「…ケミー」
「…カナエ、これ以上は駄目よ、駄目」
「ケミー! この、この裏切り者が!」
「…私は、あの国王に忠誠を誓っては居ないから」
「じゃあ、誰に忠誠を誓ったって言うの! 助けて貰ったのを忘れたの!?」
「…私は、あの優しい国王様に忠誠を誓った。
だから、今の国王に忠誠は誓ってない!
私は、あの時の国王を取り戻す! フェミー達と一緒に!
だから、例えあの人に刃を向けようとも、絶対に元に戻す!
それが、リオ達と過ごして決めた事だから!」
「お前は…お前はぁ!」
「……もう、終り」
「…なんで…何も出ない…」
「……もう、勝負は着いていた、私があなたの前に立ったとき、既に」
「……そんな、もしかして」
「あなたの魔法をコピーした、そして、あなたの魔法を無効化した。
ブレーキとして使っていたあなたの魔法は。
全てを解放した、あなたさえも捕えた」
「……ぐ、ぐぅううう! うわぁああ!」
「…もう、諦めて!」
飛びかかってきたカナエを捕え、地面に叩き付けた。
「あぐぁ…」
「……あなたがあの人に恩を感じているのは分かる。
でも、その行動はあの人を苦しめているだけ。
本当に皮肉で哀れだよ、私達は。
だって誰1人として…その行動が大事な人の救いになってないんだから」
「……ごめんなさい…国王…様…」
そうつぶやき、彼女は意識を失った。
「…リオ」
「……んだよ」
「待ってくれて…ありがとう、足、大丈夫?」
「大丈夫に見えるか? 絶対にこれ、1人じゃ歩けないぞ」
「…肩貸そうか? それとも、転移魔法で移動する?」
「いや、復帰できないからこのままで大丈夫だ」
「…手当てしたいけど、道具がない、アルル達と合流しよう」
「そう…だな、で、場所は分かるのか?」
「うん、マルの魔法を応用して」
「ほぅ、便利良いな」
「ん」
俺はケミーに肩を貸して貰って、アルル達の場所へ移動した。
そこには…
「……リオ…さん、その怪我…」
「ど、どうしたんだ? 雰囲気が…」
「……ごめんなさい…ごめんなさい…遅かった、間に合わなかった…」
「……まさか!」
「……」
アルル達がどいた先には、呼吸をしていないフェミーが倒れていた。
俺は急いでフェミーの呼吸を聞いたり、心音を調べた。
だが…結果は分かりきってた、だって、この場には…アルル達が居たんだ。
あいつらが…短絡的に判断するわけがない。
当然、心音も調べて、呼吸も調べて…その上での判断だったはずだ。
「そんな…なんで…そんな事って…私は…」
「……私達が、もっと早く見付けて居れば…」
「…………」
なんで、あんなに必死になったのに。
「……これ以上、悲劇は起させない…急いで国王を止めるぞ」
「……はい」
「…ケミー」
「…………私は…ここにいる」
「…そうか、分かった……行こう」
「リオさん…どうぞ」
「背負ってくれるのか?」
「はい」
「…ありがとう」
俺はアルルの背中に乗って、上階へ移動した。
そして、ミロル達と合流、この事を伝えた。
「……そう」
「…そっちは?」
「天候操作魔法、城壁の魔法、洗脳魔法を制圧したわ」
「じゃあ、後は」
「…えぇ、何とも皮肉な…そんな哀れな国王を止めるだけよ」
俺達は目の前にある大きな扉をゆっくりと開けた。
その奥には玉座に座っている国王がいた。
だが、その姿には…一切の覇気が無かった。
今まで戦ってきた敵対国の国王は
大体狂ってたりクズ野郎だった…だが、こいつは。
こいつは一切の覇気も無く…戦っていた理由も、なんとも皮肉な理由だ。
「……力で全てを制圧する…それは、更に強い力で滅ぼされるだけだったか」
「…よぅ、悲劇の国王様……本当に…哀れな奴だ」
「……その言い草では、私の目的は…知っていたと言う事か?」
「あぁ、お前が必死に守ろうとしてた、大事な娘様から聞かせて貰ったよ」
「フェミーから…と言う事は、そうか…どうだった? 私の娘は…元気か?」
「……もう、死んだよ」
「な!」
国王は自分の席を派手に倒し、立ち上がった。
その瞳からは僅かに残っていた生気さえも消えていた。
「……な、何故…何故!」
「お前が操り人形にしてた子供が殺したよ、お前の…指示通りに」
「…………そんな」
国王の目からは大粒の涙が流れ、その場に膝を付いた。
ただでさえ、戦う気力など無かった国王。
だが、この真実を知り…もはや戦う意思所か…生きる意思も失っただろう。
「…ただでさえ傷心のお前に…こんな事を言うのは同情するが…
お前は知らなきゃいけない事だ…だから、伝えてやる。
…お前が今まで、娘の為と考えて行なってた研究。
その全ては……全くの無意味だった」
「あぁ、そうだろうな…あぁ、そうだ。
あの子が死んでしまったのなら、もはや全て無意味だ…」
「そう言う意味じゃない…本当に皮肉な事実だ、皮肉すぎて皮肉すぎて。
哀れな事実…悲劇的な事実…魔法を捨てる方法…それは。
ただ……魔法を使わなきゃ良かっただけだ」
「な…なん…そんな…では、私が今までして居たことは…す、全て…
ただ…あの子の寿命を奪っていただけ…いや、あの子だけじゃない。
他の…子供達全てを…」
「そうだ」
国王はもはや動くことすら出来ない程に…
もはや、生きる気力すら無いほどに。
「……殺してくれ」
「なん…」
「私を…殺してくれ」
国王は生きる意思すらない、このまま生きていても…
もう、こいつが生きる理由もない。
ただ絶望を生きるよりは…それよりは…いっその事…
「リオさん、何を!」
「……見て分かるだろう? こいつを…殺す」
「待ってくださいリオさん! それは!」
「こいつは散々な事をした…当然、許されることじゃない。
もはやこいつを生かしていても、意味は無い」
「待ってくださいリオさん! 駄目ですよ!」
「離せって!」
「リオさん、分かってるでしょう? フェミーさんだって
そんな事は望んでませんよ!」
「えぇ、間違いないわ、それにリオ…あなたいつも言ってたじゃ無いの。
最小限の犠牲で最大の戦果を残せって…ハッキリ言うけど
この国王の命を奪うのは無駄な行動よ!」
「そうだよリオちゃん! 殺すのは良くないよ!」
「でも…」
「同情で殺すのは駄目、殺すならハッキリした意思で殺す」
「お姉ちゃん…自分が辛い思いをする方を…選ばないでよ」
「…でも、きっとこれが1番正しいんだ、だから」
「リオさん、もしもその判断を強行しようというのなら
私を倒してからしてください!」
「はぁ!?」
「…私は絶対にリオさんを止めますから
その意見が間違ってると思ったら、絶対に」
「……分かったよ」
「何故だ…何故私を…殺さない!」
「国王、あんたは大事な娘に…悪いと思ってるのよね」
「あぁ、そうだ…あの子を苦しめた、だから、私は!」
「だったら、余計にあの子を苦しめようと思わない事ね。
あなたの死を…あなたの娘は望んじゃいない。
フェミーに…悪いと思うなら…あなたはその辛さを背負って生きるべきよ」
「う、うぅ…うぅううう!」
国王はその場で泣き続けた…俺達が国王を拘束している最中も。
初めてだ…こんな奴は…本当に…本来は良い奴だったんだろう。
何処かで道を踏み外した…優しすぎたゆえに道を踏み外した父親。
本当に…何処までも…皮肉で、悲劇的な奴だ。




