危険な別行動
ちょっとだけ失敗しちまったな、あまり時間がないってのに。
しかし、あっちをメイルが防衛していると言う事は
主な人形の出所はあちら側だったと言う事なのか。
それとも、別行動であちら側を捜索しているのか。
まぁ、防衛でも捜索でも、向こうは大丈夫だろう。
「ミロル!」
「リオ!」
ようやくミロル達に合流出来たわけだが、どうも焦ってる様子だった。
「おい、どうしたんだ? 随分と焦ってるようだが」
「フェミー達が見付からないのよ、いや、正確には見付けたんだけど。
すぐに姿を消したわ、こっちには気付いていない様子だったけど」
「焦ってるのか」
「そうね、でも、何処に行ったかの大体見当は付いてる。
あの子の目的は父親、移動先は間違いなく上階よ」
「……どうかな、子供達の解放を狙ってたみたいだし地下に向った可能性も」
「うぅ、それもそうね…やっぱり、別行動が良いかしら」
ミロルは別行動を取るかどうするかで悩んでいたみたいだった。
まぁ、確かにどうするかを決めるのに悩むのは分かる。
戦える戦力が少ないこの状況かでメンバーを分けるのは危険だ。
だが、魔法が再使用可能になった時の為にメンバーを集めておきたい。
一応、大人達は全員ファストゲージの銃を持っているから戦えるんだけど。
ミロルも持っているし、戦闘は可能だ、俺も一応は渡されてる。
まぁ、それはアルルに管理させてるけど。
だから、戦闘要員は8人くらいか
「リオはどうする? どう言うメンバー分けにする?」
「…そうだな、まずはマナが上階に移動するメンバーの護衛をするんだ。
地下の方は4人、結構危険なメンバー分けではあるが
正直、地下の方が確実に危険だからな、戦えるメンバーは欲しい。
上階はフレイ、マナが戦闘要員としてミロルが仕切ってくれ。
フランも上階へ行った方が良いだろう、魔法が使えるようになった時
国王を催眠魔法で操って、動きを止めたり、降伏勧告させれば良い。
後はミロルの判断でメンバーをそっちに持っていってくれ」
「じゃあ、メル、マル、マーシャね、魔法が使用可能になったときに
メルの魔法で一気に仕掛けることが出来るし、マルが居てくれたら
安全な場所で周囲の敵を把握できる、あなた達にも共有可能だしね。
マーシャが居てくれれば、いざと言う時に本当に頼りになるわ」
「分かった、じゃあ、残りは俺と一緒に地下だ」
「うん!」
「ウィンは何かあったとき、瞬時に離脱できるように用意していてくれ。
もし地下にフェミーが居た場合、魔法が使用可能になったら
そいつを保護して転移だ、分かったな?」
「うん…でも、すぐに逃げられるんじゃ」
「だからずっと抱きしめててくれよ、そうすりゃ多分逃げられないから」
「……お姉ちゃん以外にずっと抱きつくのって、なんか恥ずかしいけど…」
「まぁ、恥ずかしいのは分かるが、大事な役目だ、頼むぞ」
「分かった」
俺にはずっと抱きついても恥ずかしく無いって言ってるように聞えたが
聞かなかったことにして流そう、それが良い。
これ以上、無駄な会話で時間を削るわけにはいかないし。
「よし、行くぞ」
「はい!」
「リオ」
「なんだ?」
「この戦いが終わったら、あなたに伝えることがあるわ」
「……なぁ、ツッコんで欲しいのか? ボケてるのか?
それともマジで言ってるのか? どっちだよ」
「…え? 私、何か変な事を言ったかしら」
「マジだったのかよ…お前、死ぬぞそれ
なんかそんな雰囲気があるセリフを吐きやがって」
「…あ、あはは、いやはや、確かにこりゃ死亡フラグね
じゃあ改めて、この戦いが終わったら、私結婚するの」
「あり得ない事実を捏ち上げてまでフラグを立てるなボケ」
「ふふ、良いリラックスになったわ、ありがとう。
それじゃ、行くわよ!」
「勝手にリラックスしやがって…まぁいい、俺達も行くぞ!」
「はい!」
俺達は一気に階段を下り、勝負を着けに行った。
国王の方はミロル達に任せるとして、こっちは確実に制圧するぞ。
「っと、ん? あまり人形が」
しかし、俺の予想と反して、人形の姿はあまり無かった。
こんな事があり得るのか? もしかして、本命は上?
それとも、もう戦力があまりないのか?
この事実を伝えたいところではあるが、無線機もない。
この状況では、伝達する手段がない。
大声で伝達しようとしても、あまり…
「……ノエ」
「は、はい」
「ちょっと不安だから、上の方に行ってくれ
そんで、ミロル達に下の状況を伝えてきてくれ。
予想していた以上に敵が少ないって」
「分かりました」
こうなったら、古風な方法で伝令と行こうか。
これが1番確実だろう、あまり距離もないしな。
ノエを向わせたのは簡単で、上が本命だった場合の即戦力を送っただけだ。
ノエが帰ってこなかった場合、上が本命だったと分かる。
だが、帰ってきた場合は…有利に運んでいると言う証拠かな。
「よし、急ごう」
「ノエさんは待たないのですか?」
「時間が無いからな、急ぐしかない」
「分かりました」
どっちがどうであれ、地下を制圧するのは大きなポイントだからな。
俺達は急いで階段を降りる…ん? なんか沈んで。
「リオさん!」
「な! うわ!!」
や、矢が飛んできた、危うく当るところだったが
なんとかミロルから渡されたセキュリティシックスで弾けた。
あ、危ねぇ、地下って罠だらけなのか?
「…ふぅ、ぞ、ゾッとしたぜ」
「怪我とかはしてませんか?」
「あぁ、大丈夫だ、かすり傷1つ無い」
「…それは良かったです、あの矢、毒が塗ってありました」
「……ありがとう、ミロル」
セキュリティシックスが無かったら、俺死んでたんじゃね?
とにかく、警戒して進まないと駄目っぽいな。
「ぜ、全員、足下にあるスイッチを踏まないようにしてくれ」
「分かってますって」
「う、うん」
なんとか俺以外の全員は罠を踏まずに回避出来た。
だが、これでちょっとヤバいと言う事が分かったな。
もしもこれ、ノエが戻ってきたらスイッチ踏むんじゃね?
「…どうするかな」
「そうですね、ノエさんが戻ってきたら、これ踏んじゃいますよ」
ノエもまさか地下が罠だらけとは思わないはずだ。
思っていれば警戒をするだろうが、思わなければ踏んじまう。
さっきの俺みたいに、今回、俺は臨戦態勢で
銃を抜いていたから辛うじて弾けたが、ノエはどうだろう。
俺達が先に突入していると言う事は、周囲をなぎ倒していると思うはず。
それなら、臨戦態勢すら取らない…となれば、警戒もしていない状態だから。
「……この罠その物を破壊しましょう」
「出来るのか?」
「はい、さっきの矢が飛んできた場所は見てました」
そう言って、アルルは罠が飛んで来たという場所に移動する。
そこには暗がりの中にある、小さめの穴があった。
「これを…破壊します!」
「いや無理だろ、フレイなら出来るだろうが」
「うーん、ハンマーとかがあれば…あ、この銃で」
一応、ファストゲージの銃を穴の中にぶち込んで、引金を引いた。
銃声の直後に何かがぶっ壊れたような音が聞えた。
「これで多分…試しにやってみましょうか」
「誰が踏む?」
「私が」
「大丈夫なのか?」
「警戒してますし…多分大丈夫です」
そう言って、アルルは俺が最初に踏んだスイッチを恐る恐る踏む。
だが、矢は飛んでこなかった、ぶっ壊れたようだな。
「ふぅ、これで成功ですね」
「だな、よし、急ごう」
「はい!」
俺達は地下の探索を再開する。
足下や壁などに警戒してゆっくりと移動を続けた。
押すと天井が降ってくる罠とか、針が飛び出す罠とか。
もう、ダンジョンかって程に罠が張り巡らされていた。
所々に血の後があり…子供か誰かが死んでいるのは分かった。
間違いなくこの罠は子供達の脱走を阻むための罠だ。
国王はそこまでして子供達を束縛していたと言う事か。
「ち、国王め、結構散々やってるな…」
「…いや、あの人じゃないよ」
「誰だ!」
「…こんにちは、私が無効化魔法使いよ」
まさかターゲットから来てくれるとは思わなかったな。
「この罠は私が作らせたの、子供達が逃げないように…ね」
「そうかい、子供が子供をね」
「そりゃそうよ、あの人が単独でこんな判断が出来る訳がないって」
「まぁなんにせよ、お前が死ねば、俺達は解放されるわけだ」
「出来ないでしょう? お人好しには」
「…もう、意識を奪う手段は殺すしかないんだ、恨むなら自分の魔法を恨め。
俺達の魔法が使える状況なら、ただ気絶させる方法もあったがな」
「ねぇ、あなた達」
「あ?」
「この場所に、なんで人形兵が居ないか、分かる?」
「…罠が多いから、人形兵を配置してると誤作動するからだろう?
その結果、俺達は大した消耗もしないままお前の前に立ってる」
「…10%正解、でも、殆ど外れ、本当の理由は
ここに防衛をおく必要が無いから置いてないのよ」
「ん?」
「私が1人、無計画であなた達の前に姿を現すとでも?
はい、これを見なさいな」
「な!」
彼女が指を動かすと、人形兵がフェミーとケースを連れてきた。
2人とも重傷だ…特に、フェミーは!
「お前!」
「これを、そこに投げればどうなるかしらね。
そこには針が飛び出す罠が仕掛けてあるわ。
重量を感知して、飛び出す罠が。
一応、この2人はまだ生きてる、もう虫の息だけど。
ふふ、解放しようとした子供に刺されてね、馬鹿な子よ。
ここの子供達は洗脳魔法でもうすでに完全に掌握されてるのにね!」
「そ、そうだ…そもそも、子供達は洗脳魔法で…
なら、この罠は何の意味も」
「そう、この罠はフェイクよ、まぁ良いわ、それがどう言うことかは
すぐに分かる、とにかく、この人形を動かして
罠にフェミーを置くわ、あの人の娘だったとしても
あの人に仇をなすなら…殺すだけ」
「く! させるか!」
「待ってください! リオさ!」
「もう遅い!」
俺が少し動き出した瞬間、隣の壁が吹き飛んだ。
「うぐ!」
勢いで吹き飛ばされ、俺は壁に叩き付けられる。
激しい埃の中、僅かに見えた人影。
「やっと僕の出番か、待ちわびたよ」
「ミリターク国、最後の攻撃魔法、破壊魔法。
最初から、こいつが居るから防衛は必要無いのよ。
それに、この2人を手放すつもりは毛頭無いんだ。
だって、大事な人質だからね。
さぁ、残り7人、頑張りなさいな」
「そんな、り、リオさん…」
瓦礫に完全に潰された…勢いよく。
「さて、残り7人、少しは楽しませてね、お姉さ」
「バーカ、まだ8人だよ、ボケ!」
「な! うぁ!」
ったく、ビックリさせやがって…危うく死んじまうところだった。
運の良いことに俺は軽傷だ。
「そんな…」
「ふふん、幸運って奴か、勤勉だったのが幸いしたのか
はたまた、フレイ達に振り回されたのが原因か知らねぇが」
「ち、運の良い!」
「運は良いんだ、こう言う、土壇場での運は。
後、これ位の衝撃なら結構食らってるからな。
子供の遊びって、かなり大変なんだぜ?」
最初から潰されるような勢いでは無かったからな。
ちょっと怪我をする程度だ、この程度の重量や勢いなら軽い軽い。
一応、大きなダメージを受ける瞬間の軽減術だって学んだ。
フレイに散々振り回されて、何度危ない目に遭ったか分からねぇ。
その時と比べりゃ、まぁ、比較的軽い方だ。
そりゃあ、軽減も出来ない状況だったら死んでたかもしれないが
俺はこれでも勤勉なんだ、そこら辺はしっかり学んでる。
命の危機に瀕することが多いし、自然と学ぶって。
「リオさんって、幸運というか、不運が何周も回って
ちょっとやそっとの不運じゃビクともしないだけなんじゃ…」
「いや運が良いだけだから! 不運とかじゃないから!」
「あ、強がってるリオさん可愛いです!」
「なんなんだよお前ら! 何でこの状況でのろけてるんだよお前ら!
馬鹿なの!? 馬鹿なの!? 強敵に狙われてるんだよ!?」
「標的? こいつはびっくりだぁね」
「くぅ! ぶっ壊してやるんだから!」
「でも、その破壊魔法…近付かなきゃ発動できないだろ」
「な、うぐぅ!」
さて、接近されないように立ち回らないと駄目っぽいな。
と言っても、俺達の攻撃手段は銃撃、最初から遠距離で戦うスタイルだがな。




