最終決戦
11人の魔法使い達は姿を見せず、そのまま行軍は進んだ。
途中途中の拠点達は既に放棄され、向こうも本国でケリを付けるつもりなのだろう。
現状、周辺に奇妙な動きも無く、フェミー達の姿も見えない。
だがしかし、遠方から国内を見たとき、どうも騒がしいのは分かった。
「…やってるみたいだな」
あの3人が暴れているのだろう、兵士達は軒並み崩れてる。
少し騒がしい状況でもあるし、向こうに攻めていったのは間違いない。
だが、状況は結構よろしくないというのは分かる。
何せ、戦闘をしているのは国の端っこなのだから。
あいつが転移できる場所は恐らく城内だった。
だが、兵士達が交戦をしているのは国の端っこ。
と言う事は、あいつらも国の端っこに追いやられていると。
城内の警備が厳重だったから、城外に脱出し追撃を受けている。
そう考えるのが自然だろう。
「なんであの3人は外で戦ってるんだ?」
「……分かりません」
「そしてもうひとつ…あの城はなんだよ」
ミリターク国の城は…そうだな、まるで要塞だった。
それも、現代の要塞とかよりも、明らかに頑丈そうな要塞。
戦術兵器でも使わなきゃ、あの要塞に傷1つすら付けられないかも知れない。
しかも、環境はごちゃごちゃだった、同じ国だとは思えないくらいに
この国は環境が至るところで変化している。
しかも、地形が自然の要塞…おかしいな、あり得ないぞ、あれは。
国と言っても、家は殆ど無いが、点々と置いてある感じだ。
そこ以外は全て要塞…これは国の中に入ったとしても
城内に…いや、要塞内かな、そこに入るのだって一苦労だろう。
「おかしいわよ、これ、自然にこんな事態になるはずが無いわ!」
「雪、雨、恐らく強風、本当に環境が変わってるな」
しかも、一定時間でその環境は切り替わっている。
「…精神と時の部屋かよ」
「また分かりにくい物を持ってきたわね、重力とかも大きいのかしら」
「いや、重力は…無いと思いたい」
「そのよく分からない会話に参加したい気持ちはありますが
今はそれより、ここをどう突破するか、ですよ」
城壁も厳重すぎる警備だし、正面突破はまず不可能だ。
まともに対策を考えないで進もう物なら
地形が全く分からない俺達は間違いなく迷う。
…本当に意味が分からないな、なんでここだけこんなにも鉄壁なんだよ。
「空からいけば良いんじゃ無いの?」
「ありっちゃ、ありだが、ここまで厳重なのに空ががら空きとかあるか?」
「空からの奇襲なんて考えてないはずでしょう?
でも、確かにちょっと恐いわね、無人偵察機でも出してみましょうか」
「あぁ、そうしてくれ」
ミロルがドローンを召喚し、ドローンの操縦を始めた。
俺達の前には大きめの画面が出て来て、状況がよく見れる。
「はぁ、便利ですね~」
「これが私の魔法よ!」
「何これすごーい! え!? 空飛んでる-!
これがお空の画面なの!? わぁ! わぁあ!、すごいよぉ!」
「フレイ、落ち着け」
「ミロルすごい!」
「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけど、揺すらないで! 事故するから!」
「あ、ごめんなさい」
「いや、良いわよ、とにかく見てなさい」
「うん!」
暴れるフレイが画面に釘付けになり、ワクワクしながらジッと見ている。
本当に見ているだけで、こいつがどれだけ嬉しいのかが分かるよ。
嬉しそうにしているのはフレイだけでは無く、ウィン達全員だけど。
空高くから景色を見るのは良くやるが、いつもは余裕が無いからな。
だが、今回は魔法の操作も必要ないしで、余裕を持ってみられる。
だから、普段よく空を飛ぶトラとウィングも楽しそうなんだろう。
「さて、そろそろね、サイズ的には発見されるとは思えないけど、警戒して」
ドローンが門の上を通り過ぎようとしたときだった。
「何!?」
何処からかの攻撃で、ドローンは撃墜されてしまった。
その攻撃が何処から来たかはよく分からなかったが
俺が見たときの曖昧な感覚では、城壁から飛んで来ていた。
何も無い城壁からの攻撃…そんな馬鹿な事があるのか!?
「……これって、どう言うことよ!
向こうに小さなドローンを撃ち抜けるほどの技術がある!?
それに、どう見ても何も無い所から攻撃が飛んで来たわよ!?」
「……誰か1人、弓矢で城壁を撃て! 狙撃部隊も誰か1人が城壁へ攻撃だ!」
「え? あ、はい!」
兵士達に指示を出し、距離を取った場所から遠距離武器で攻撃をした。
すると、山なりに飛んだ矢は簡単に撃ち落とされ
狙撃部隊の弾丸も一瞬火花が見えたと思ったら落下していた。
2発目では超集中状態を発動させ、何があったかを確認。
その結果、城壁の小石一粒が自動で射出され弾丸を撃ち抜いたことが分かった。
「城壁が弾丸を攻撃した!?」
「はぁ!? どう言うことよ! 頭いかれたの!?」
「本当だ! 確かに超集中状態で確認した…間違いなくそうだ、見間違える筈が無い」
城壁自体が自動で危険物を排除するとは…こんなふざけた魔法があるのか。
完全自動迎撃システム。それは現代でもかなり難しい技術じゃ無いのか?
それをこの城壁は行なった、どんな特殊な資源でも無く、ただの石ころで。
だが、他の国ではそんな物は無かったと考えると、この城壁はここ限定で
この謎の城壁は恐らく11人の魔法使いのうち、誰かが用意した物だ。
そうじゃねぇと、ここまでぶっ壊れた城壁は用意できないだろ。
「……これは不味いな」
正面から挑んでもまず間違いなく全滅だろう。
恐らく接近すれば矢を弾き飛ばした石が飛んでくるだろう。
推測だが、弾丸ほどの威力は間違いないだろう。
しかも、弾丸を正確に撃ち抜いたわけだから、まず回避は不可能に等しい。
正確な弾丸がバンバン飛んでくるとか機関砲を叩き込まれる並にキツいぞ。
「…大佐、ど、どうしましょう…このままだと」
「あぁ、接近も出来ないからな…」
「狙撃をしても厳しいからね、城壁の上を通ろうとしたら撃ち落とされたわ。
恐らくだけど、その上を通過しようとする弾丸も撃ち抜いてくるはず…
手の打ち用が無いわ」
「ったく、こんなにも鉄壁な拠点を用意できるなら…そりゃ撤退して戦うよな」
その方が有利に立ち回れるし、損失も出ないだろうしよ。
「本当にあいつらの戦力馬鹿に出来ない」
最後の最後にとんでもない魔法を用意してきた物だな。
このままだと潜入はおろか突入すら不可能だろう。
どうすれば突破をする事が出来る?
方法は…まぁ、パッと出てくるだけで3つだな。
1つはフェミーがやったように転移魔法での突入。
2つ目は敵が城から出てくる隙を突いての侵入。
だがまぁ、この両方は不可能だというのは間違いない。
転移魔法を使えるのはウィンだけだが、そのウィンは敵地に突入は出来ない。
1夜を過ごした場所に距離関係ないしに移動することが出来る転移魔法だ。
簡単に言えばルーラの強化版になるのかも知れない。
2つ目はそもそも向こうが籠城状態なんだから不可能だろう。
それに魔法の発動条件が国に危害を加える物を排除するって可能性も高い。
だから、国にダメージがある可能性がある弾丸や矢を迎撃したと。
「…なら」
もうひとつ、最後の手段、この魔法を使ってる術者を狙撃する。
「狙撃しか無いか」
「さっきも言ったけど、狙撃は」
「…あぁ、狙撃といっても、俺の狙撃しか無い」
「…ん? 何でよ」
「忘れたのか? 俺の狙撃魔法は対象に接触するまで姿を見せないんだ。
つまり、対象への瞬間狙撃、転移狙撃とでも言うのかな。
俺の狙撃魔法なら狙撃することが出来る」
「逆に言えば、あなたの狙撃以外に打つ手が無いと言う事ね」
「他にも手はあるにはあるけどな、ウィングとトラの連携で
飛んで来る石つぶてを防ぎながら進行したり。
戦車でぶっ込んでいくとか、魔道兵を先行させて
攻撃全てを受けさせたり、フランの催眠魔法で対象の意識を奪う。
方法は色々とあるが、俺が狙撃するという手が最も確実だ。
相手の魔法のレベルが分からないから、あの弾丸では効果が無い場合は
もっと強力な攻撃が飛んで来る可能性もある。
フランの催眠術も視界が悪い中でしばらく見続けるのは難しい。
だが、俺の場合は引金を引けばそれで決着が着く」
「……時間は掛かるの?」
「目標を見付けるまでは時間が掛かる、狙撃が終わった後に報告をする」
「…でも、狙撃をすると一撃で仕留めないといけない…窓もあるのよ。
狙撃をするとなると、その窓を撃ち抜かないといけない。
つまり、殺傷での狙撃…それは」
「……大丈夫だ、覚悟はした」
このままだと不味い、だから…確実に仕留めないといけない。
「…良いの?」
「あぁ、任せろ、アルル」
「えぇ、分かりました」
「マルは敵をスポットしてくれ、俺達はそれを基準に行動する」
「分かった」
「よし」
俺達はスポットを基準にし、一緒に移動を始めた。
恐らく、この重要な役割を与えられているんだ。
周りはしっかりとガードを固めているはずだ。
だから、そこを観察すれば。
「リオさん! あそこ! 窓から姿が見えますよ!」
「あぁ、そうだな」
しかし、あの少女は派手に動いているな、結構動いている。
多動という感じか、何処かで止まったりする様子がなかった。
しかも、窓と言うか鉄格子は本当にギリギリで通せるという感じだ。
少しでも照準がズレたら当らない…しかし。
「くぅ…寒いな」
ここは寒い、四季がぐっちゃになっているからな。
狙えるのはここだけだし…
「うぅ…」
「私の服を着ますか?」
「お前が凍えるだろ…」
「しかし、寒いままでは狙撃は難しいのでは?
手が震えていますし…流石に厳しいんじゃ」
「大丈夫だ…なんとかする…だが、出来ればもう少し温かい何かが欲しいな…」
「私の体温で暖めます?」
「お前、ふざけてるのか?」
「いえ、割とマジで」
「ふざけんなっての!」
照準が震えてブレる…狙撃はあの隙間を通し、中の子供を撃たないといけないんだ。
だが…やるしか無いんだ、落ち着け、冷静に観察し、引金に指を掛けろ。
「……ふぅ」
息は真っ白なんだろうが、地面が雪で真っ白だから分かりゃしないな。
指にも雪が積もり、中々に冷たい。
恐らくだが、髪の毛にも服にも雪が積もっているだろう。
あの子は一定の間隔で部屋を移動して居る…いや、一定じゃ無いかもな。
結構ランダムか…ふぅ、よし、やるか。
「………」
超集中状態を発動させる…あの鉄格子に窓とかは無い。
非殺傷でもぶち抜くことが出来るだろう。
だから…このチャンスは逃せない。
1歩、2歩、3歩…あぁ、鉄格子から離れた、駄目だ、落ち着け。
チャンスを待て……
「……よし!」
30分待って、ようやくその時が来た、俺はすぐに引金を引く。
「あ」
俺の狙撃はしっかりとあの子供に当り、動きが止まった。
同時に、要塞の見た目が大きく変わり、要塞から城に変化した。
どうやら、あの要塞もあの子の魔法だったようだ。
そして、城壁も無効化!
「ここからが本番だぞ! 攻撃開始!」
(流石! で? 殺したの?)
「運良く鉄格子でな、大丈夫だ、死んじゃいない」
(そりゃあ、運もこっちに向いてるわね、いくわよ!)
「よし、俺達も…くしゅん!」
「雪だらけじゃないですか! 指先も凍傷気味ですし!」
「まぁ、狙撃はこう言う物だ…よし、急ごう…と、思ったけど。
ちょっと眠たいから寝て良い?」
「駄目です! 死にますよ!」
「あ! 待って! 眠たいんだよぉ!」
「もぅ! わがまま言わないでくださいよ! 死にますよ!」
「うぅ、寒いのは苦手だ…」
だが、四季が滅茶苦茶になっているのはあの魔法使いが原因では無いのか。
倒した後も、風が変な風になってたり、雪が降ってたりしてるしな。
しかし、あー、寒いって、もう12月程だし、当たり前か。




