皮肉な真実
適性がS以上の魔法使いは5歳で成長が停止する。
先天性の魔法使いでも、5歳で身体の成長が止まってる。
フレイもそうだし、メルやウィンもそうだ。
それなのに、この子はS以上が成長しないことを知らなかっただと!?
成長が止まれば、すぐに分かるだろうに!
「私は普通に成長しました、一時期成長が止まって
お父様に心配を掛けたんですけど、次の歳の誕生日からは成長が再会して。
そのまま大きくなりました、5歳の時に成長がいきなりピタッと止まったのに
2年経ったらドンドン背も伸びたんです」
「…なん」
どう言うことだよ、それ…奴隷じゃ無くなって栄養が取れるようになったから
成長するようになった…と、言う訳じゃ無いだろうから…
…この子にあって、俺達に無いのはなんだ?
俺達とこの子の違いは? この子は先天性だったから成長が再会した?
いや、それは無い、フランは確か先天性だった、それなのに成長はしてない。
じゃあ、どうして…何が違う…何が。
……俺達は兵士で、彼女は一般人だという違いか?
いや待て、話を思い出せ…話を、よく…思い出せ。
彼女の魔法は適性がSだった、本来なら成長はしないはず。
そして、彼女の魔法は転移魔法…それは、ウィンと同じ…で。
いや、違う! ウィンと同じタイプではあるが、ウィンとは汎用性が違う!
あの子の転移魔法は自分1人しか移動させることが出来なかった。
だから、使い勝手が悪く、魔法を…使わ……なかった!
「……もしかして、ま、魔法が…魔法を捨てる理由って…まさか…」
「そう、本当に単純で、誰でも出来る行動…本当に簡単で誰でも可能な方法」
「魔法を…捨てるためには…ただ…魔法を使わなきゃ良かった…だけかよ…」
「恐らく、5年間ね」
そんな…馬鹿な…じゃあ、何か? フェミーの父さんは無駄な事をしてた?
大事な娘を助けるためにした行動が…本当は娘の為にならない行動だった?
むしろ、娘が助かる可能性を自分で否定してたって事か?
他の子供達を助けるために頑張ってた行動も
それは結局、その子供達を苦しめていただけだった…?
そんなの…そんな事…今、始めてる戦争だって…
ただ…大事な娘を…苦しめてただけ…だった?
「……それって…そんな事実…なんで、そんな簡単な事に…
今まで、誰も…誰も気付けなかったんだよ……」
「このままだと大事な娘が死んでしまうと…焦ってしまったんですよ。
焦って、焦って、悠長に構えることが出来なかったんですよ。
こんな事、本当なら気付けたはずです、ゆっくりと構えて居れば。
でも、その前に…このままだと大事な娘が死んでしまうと言う
事実に気が付いてしまったんですよ…だから、焦って…焦って…
こんな簡単で、単純な発想に至らなかった、いや、至りそうになっても
その焦りが邪魔をして…行動に移せなかったんでしょう」
「……あぁ、そうか」
そうか、引きこもってたときの俺と…同じ状態に陥ったのか。
時間が無い、このままだと大事な仲間達が死んじまうって。
俺はそう思って、焦っちまった。
フェミーの父さんの場合は、このままだと大事な1人娘が死んでしまう。
そう考えちまって…こんな簡単な解決方法に目が移っても行動出来なかった。
「…は、はは、心を壊してやる…そんな事を思ったが。
あぁ、間違いないよ、間違いない…こんな事実を知りゃあ
確実に心が壊れちまうよ…良かれと思った行動全てが
本当はただ娘を苦しめてただけの愚行だったんだから。
そのせいで、国民を捨てて、大事な同盟も捨てて
あげく、助けようと頑張ってる娘にも刃を向けられて……
でも、まだ救い程度はあるだろ…まだ、救える。
だって、その大事な娘は…そんな愚かな父親を捨てちゃいない」
「でも、このままだと…」
「分かってるよ、急いで俺達も攻め込む…ここで勝負を焦るのは
得策では無いかも知れないが、今以上のチャンスも無い筈だ。
ミリターク国はフェミー達の行動で混乱してるだろう。
混乱をしていなかったとしたら、俺達が混乱させないと」
混乱してないって事は、フェミーは自分の父親を暗殺するつもりだと言う事だ。
あいつの立場なら、それは可能だろう。
もし、あいつが国王にこの事実を話せば、国王の戦意は失われ
大人しく降伏を選択する可能性もあるが、これに賭けるのは危険だろう。
恐らく、全面でぶつかる事になるだろうな。
まだ11人の魔法使いはまだ5人も残っているが
これ以上、ジリ貧な戦いをしてたら取り返しの付かないことになる。
「急いで兵士を集めていくぞ! これ以上は不味い!」
「その通りね、急いで仕掛けるわ! 優勢なうちに叩き込む!」
「だが、残り5人の厄介な連中が居るのは間違いないだろう。
少なくとも無効化魔法と洗脳魔法は残ってる」
「洗脳魔法はかなり厄介である事は間違いないわ。
それに、あの3人が戦いを挑むとしたら、かなり劣勢ね」
「あぁ、無効化魔法の範囲内に入っているんだからな。
だが、明確に分かることは、無効化魔法の打破方法だ」
「え? 分かるんですか?」
「あぁ…向こうが魔法を使わざるおえない状況に追い込めば良い。
指定した子供の魔法だけを無効化出来るわけじゃないだろ。
一定範囲の魔法を無効にするって話しだしな」
だが、不確定な要素は多いんだよな。
無効化魔法を発動させれば、人形を操る憑依魔法使い達はどうなる?
当然、魔法を使うことが出来なくなるはず…
なら、指定した対象の魔法を奪えるのかも知れない。
もしくは指定した範囲だけは魔法無効化の影響がないのかも知れない。
「正直、攻略法は分からないが、遠距離狙撃しか無いかな。
無効化魔法の弱点や戦い方もよく分からないし
範囲についてもあまり明確になってはいないしな」
「かといって、ダラダラと考えていても対策は出来ないしね
いや、冷静に考えていけば、きっと発見も可能かも知れないけど。
考える時間なんて、私達には無いでしょう?」
「そうだな、動くしか無いか」
この場にフェミー達がいれば、残り5人の情報が分かるかも知れない。
だが、フェミーは今、この場にはいない、だからどうしようも無い。
情報を集める時間も無い…時間が経てば、最悪フェミー達も拘束されるかも知れない。
そうなりゃ、向こう側に俺達の魔法が筒抜けになってしまう。
まぁ、例え俺達の魔法を知っていたとしても、対策は中々出来ないだろうが。
だから、このまま一気に決着を着けるしか無い。
どっちにしても、時間は無い。
「召集を急ぐしか無いな、スティールの説得は俺がする」
「えぇ、私達はミストラル王国の兵士達を集めておくわ。
最悪、スティールが戦闘を渋っても、私達で決着を着けるわ」
「時間が無いからな…まぁ、なんとか説得するから信じてくれ」
「最初から信じてるわよ」
「そりゃどうも、ミリア、貴重な情報をありがとう。
お前達はもう戻ってくれてもいい、ここは危険だからな。
これ以上、ここにいたら戦争に巻き込まれるぞ」
「…ごめんなさい、力になれなくて」
「いやいや、お前は俺達の力になってくれたさ。
はは、お前が無事だって分かって、安心した」
「…ありがとう、ねぇ、リオさん…あ、いや、ご主人様」
「おいおい、そんな事を言うなよ」
「…えへへ、また会いに来てね? 今度は私の両親と妹も紹介するよ
それと、皆にご主人様の事も紹介したいから」
「だからご主人様と言うなよ、背徳感半端ないから」
「ありがとうね、私に、こんな幸せを与えてくれて、英雄様!」
「だから…まぁ良い、安心しろ、今度は新しい英雄譚を残して
その話をお前らにしてやるから」
「えいゆうたんって?」
「…まぁ、なんか凄い話し」
「そうなんだ! 楽しみにしてるよ!」
「…ありがとうございます、英雄様、私の妹達を助けてくれて」
「そう言うのマジで恥ずかしいから、年上に言われると余計に…
だから、気にしないでくれよ」
「私も一緒に待ってますから」
「あぁ、楽しみにしててくれ、よし、急ぐぞ!」
俺達は別れ、別々に行動を開始した。
まずは自分で言ったとおり、スティールの元に移動する。
「あら、何か用かしら?」
「あぁ、ちょっと事情が変わってな、一気に仕掛けようと思うんだ」
「マジで言ってるの!? 向こうはまだいくつかの拠点を持ってるのよ?
一気に仕掛けるって言っても!」
「あまり時間が無くなった、フェミー達が動揺して勝負を急いている。
あの3人を見捨てるのは、俺達に取っては自殺行為だ。
あいつらの魔法は敵には回したくないだろう?
情報を奪還され、転移で情報の共有も瞬時に出来る。
あいつほど厄介な斥候は居ないぞ、それに、ここも転移対象だ。
となれば、奇襲も容易に出来るし、防衛はまるで意味が無い。
内側から崩される、あいつは魔法で対象を瞬時に転移させることが出来る。
転移させる場所は最大でも3箇所までだが、容易に転移が出来るのは大きい。
それに、当然だがあいつらが落ちれば、あのコピー魔法敵になる。
前は俺が辛うじて勝てたが、正面からやり合って勝つのは困難だ。
少なくとも、最大戦力を動かす必要がある、俺かミロルだ。
そして、敗北する可能性も極めて高く、戦力を失う可能性が高い。
場所によっては、俺とミロルが同時に敵になると言う事になる。
そいつが内側から来るんだ…守り切れると思うか?」
「……無理ね」
敵最大戦力が内側から来る、味方の最大戦力を全て引き連れてな。
あのコピー魔法は非常に厄介だ…だからこそ、味方のままでいてくれないと困る。
「あぁ、あいつらが敵になるのは危険すぎる。
それに、あいつらはあの指定爆破魔法の位置も知ってる。
あいつらが敵に渡れば、戦況は大きく変わっちまう
例え今が有利でも、あの3人が落ちれば、一気に敗色濃厚になるぞ」
「でも…あの3人が敵に情報を渡す可能性は」
「洗脳魔法が居る、捕まればそれでアウトだ」
「くぅ…そう言えばそうね……でも、このまま一気にせめて
カウンターを食らったら…だけど、このまま放置だと…
分かったわ、私達も参加しましょう」
「理解してくれてありがとよ」
「あの3人、後で覚えてなさいよ!」
「あいつらが暴走するのも分かる…特にフェミーには辛すぎる真実だった」
「え? どう言うこと?」
「フェミーの父親がミリターク国の王だと言うのは話したな」
「えぇ、衝撃的だったわ、それに、屑だと思ってた国王が
実は大事な娘の為に必死になってたって言う事を知って、驚いたわよ」
「…あぁ、そして、魔法を捨てる方法…それは」
「わ、分かったの!? どうすれば良いかって!」
「あぁ…ただ、魔法を5年間使わなければ良いという、単純な方法さ」
「…は!? じゃあ、あの子のお父さんは…」
「皮肉な物だよ、娘の為にやろうとしたことが
本当は娘の寿命を削っていたって事なんだから」
「…そんな事を知れば、その娘も…やるしか無いわね!」
「あぁ、これ以上の負の連鎖は止めるぞ!」
「えぇ!」
最大戦力を投下しての、一斉攻撃…最大の全力攻撃だ。
これが最後の攻撃になるだろう…だが、やるしかない!




