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最悪な朝

周りは暗く、何も見えない状況だ、何故俺はこんな所にいるのか分からない。

そんな風に考えながら、周囲を見渡すと、そこにはマルの姿があった。


「あぁ、マル、ここは一体何処だ?」

「・・・・・・」

「マル?」


どうしたんだ? 俺の声が聞えていないのか? それとも俺に気が付いていないのか?


「おい、マル?」

「見付けた」

「は?」

「・・・・死ね!」

「え?」


マルがいきなり懐から刃物を出したと思うと、俺の腹に突き刺してきた。

腹から血がドクドクと垂れているのが分かる・・・・な、なんで、いきなりこんな。

畜生、腹が・・・・腹が強く押されるように痛む、刺されるとこんな痛みを感じるのかよ。


「あ・・・・ぐぅ」

「これで、敵は取った」

「ケホ・・・・うぐぁ」


俺は腹を押えながら、ゆっくりとその場に倒れ込んだ・・・・視界は真っ赤に染まり始めた。

あぁ、そうか、バレてたんだな、俺がこいつの仲間を殺したことが・・・・そして、俺はこれで死ぬのか。

情けない、何かを守ると言ったのに、守る対象であるはずのマルに殺されるなんざ・・・・うぅ。


「むふ、むふ、むふふ~」


なんだ? マルの笑い声か? 随分と独特な笑い方をする。

あぁ、畜生、訳が分からない・・・・でも、そんなのはもうどうでも良い、もう、何も見えなくなって。


「は!」


視界が完全に暗くなると同時に俺は目を覚ました、生きてる?

あれは、夢・・・・だったのか? もしかして、昨日の会話のせいであんな夢を。

だが、腹が痛いのは変わらない、どうしてだ? 腹を思いっきり押えられてるような・・・・あ


「むふ、むふ、むふふ~」

「・・・・」


腹の方を見てみると、そこにはアルルの腕があった、どうやら強く抱きしめているようだ。

まさか、こんな状況だからあんな夢を見たのか? 昨日の会話のプレッシャーも相まって。

はぁ、目覚めは最悪だな、アルルの馬鹿に思いっきり抱きしめられるわ、キモい笑い声が聞えるわ。

とんでもない悪夢を見るわ・・・・最悪だ、悪夢が現実的だったのがなおさら。

実際、俺があいつの仲間を殺したなどとバレればああなる危険性が高いんだから。


「・・・・」


・・・・マルは俺の隣でグッスリと眠っている、爆睡状態という奴だ。

背中はがら空き、腹もモロに見える、一切警戒をしていない状況だ。

このままバレれば、俺はこいつに殺される、なら、俺が安心して生き残るには。


「・・・・・・」


俺はウィンチェスターを対人に変化させ、サプレッサーを付けた。

ここで殺せば、俺は安心して生き残ることが出来る、今なら楽に殺せる。

俺はウィンチェスターの銃口をマルに合わせた、後は引き金を引くだけ。


「・・・・クソ!」


しかし、俺には引き金を引くことは出来なかった、出来るわけ無い!

こんな子供を殺せるはずも無い、少しだけでも殺そうと思った自分が恐ろしい!

そんなに自分の命が大事かよ、畜生! クソ、出来ない! 出来ない!

例え殺されるかも知れないとしても、こいつを殺すなんて出来ない!


「・・・・クソ! クソ! この馬鹿! 外道!」


俺は自分で自分を罵倒しながら、ウィンチェスターを消した。

・・・・保身のために敵対してもいない奴を殺すわけにはいかない。

よりにもよって子供だぞ!? それを殺すのは俺が理想とする生き方とは違う!


「ん? どうしたんですか? リオさん、大声出して」

「アルル・・・・起きたか」

「あれ? どうして少し泣いてるんですか? 悪い夢でも見たんですか? 顔色も悪いし」

「・・・・あぁ、悪い夢を見た、とんでもなく恐ろしく残酷な夢を」

「・・・・どんな夢だったかは聞きません、でも、これだけは言いますよ? それは夢です

 どんな悪い夢であってもそれは夢、現実じゃありません」

「夢なら・・・・良いんだがな」

「どういう意味ですか?」

「お前は知らないで良いことだ」

「ん?」


アルルは俺の顔を心配そうに見ている、しかし、俺はこいつに目を合わせることが出来なかった。

なんせ、俺はあんなクズみたいな考えを・・・・クソ。


「何があったかは分かりませんが、大丈夫ですよ、私はあなたの隣に居ますから」

「・・・・そうかい」

「本当に元気がありませんね、でも安心してください! そう言う時は

 美味しい朝ご飯を食べれば元気になります! 待っててくださいね!」


アルルの奴は俺に力強くそう言い放つと、かなりの勢いでテントから出て行った。

・・・・正直、この状況で俺とマルを2人きりにして欲しくない。

俺はこいつへの恐怖とこいつへの罪悪感を同時に持っているんだから。

もし、もしも俺がこの状況でどっちかに押しつぶされれば、俺は。


「はぅ・・・・あ! りり、リオさん!? お、おはようございます」

「マル! あ、あぁ、おはよう」


マルは目を覚ますと同時にすぐに後ろに仰け反り、動揺している。


「どど、どうしたんですか?」

「な、何でも無い、そ、それよりお前も随分とビビってるな」

「それは、その・・・・」


ま、まさか動揺しているマルにも見透かされるほどに俺も動揺しているとは・・・・ぽ、ポーカーフェイス

こう言う時こそ冷静に、ポーカーフェイスだ、落ち着くんだ俺。


「と、所で、アルルさんは何処でしょう?」

「え、えっと、外だ、テントの外、食事の用意をしてる」

「そうなんですか」

「そ、そうだ」

「じゃ、じゃあ! 私も出ます! 狭いところは苦手だから!」

「あぁ、分かった」


マルの奴はゆっくりとテントの外に出て行った・・・・何をするつもりだ?

武器でも研ぐのか? それとも暗殺の作戦でも練るのか?

ちょ、ちょっと待て、俺の思考がおかしい! そんな事する筈も無いだろう!?

なんせ、マルはまだ俺があいつの仲間の敵だとは気付かれていないんだから!

いや、も、もしかしたら、俺がウィンチェスターの銃口を向けたときに起きてたんじゃ?

それで、俺から逃げる為にテントから出たのか!? だとすると敵対心を抱いてるに違いない!

だったら、俺が敵だとバレるのも時間の問題じゃ・・・・いや、駄目だ! 悪い方向に考えるな!

大丈夫だ、あいつは俺の事を敵だと思ってない・・・・筈だ。


「はぁ、考えすぎだ」


俺は自分にそう言い聞かせ、テントの外に出た。

そしてすぐに分かった、マルは武器を研いでいたわけでも無いし、何かを考えているわけでも無く

ただ単に外で飯を作っているアルルの手伝いをしているだけだった。


「あ、リオさん、出てくるの遅かったですね」

「そ、そんなに遅かったか?」

「はい、マルさんが出て来て、20分くらいは出て来なかったので」

「20分!?」


俺の感覚では、あの時間は1分も経ってないように感じたのに、実際は20分も時間が経ってたのか?

長いこと何かを考えていると、実の時間よりも短く感じるんだな。


「いやぁ、やはり寝起きは時間の感覚が鈍りますよね、リオさんもそのタイプだったんですか」

「え? あ、あぁ、そうだな」

「似てますね、私もですよ、朝起きてボーッとしてると10分ほど時間が経ってる事はよくあります

 やはり、朝起きて明確な目的が無いと時間って経つの早いですよね

 最近はリオさんの為に愛情たっぷりの朝ご飯を作るって言う確固たる目標があるんで

 すぐに動けるんですけどね」

「お前の歪んだ愛など要らん」

「私が捧げたいだけです!」

「そうかい」


もう、強くこいつの言葉を否定する気にもなれないな。


「あれ? 今日は随分とあっさり引き下がりますね、やっぱり悪い夢のダメージですか?」

「・・・・そうかもな」

「悪い夢を見たんですか? 実は私もなんですよ」

「どういうことだ?」

「実は、今日はリオさんに殺される夢を見まして」

「え?」


そうか、だからこいつも寝起きであそこまで動揺していたのか。

銃口を向けていたのがバレてたわけじゃ無いのか。


「こう、リオさんに小さな刃物で刺される夢でした」

「どうしてそんな夢を?」

「分かりません」

「多分、あれですね、リオさんに対するトラウマがまだ完全に拭い切れていないからでしょう」

「そ、そうなんですかね?」

「そうですよ、因みに今日私が見た夢は、リオさんの匂いを嗅いでいたら全力で顔を殴られるという

 とっても幸せな夢でした、いやぁ、リオさん抱き枕最高です!」

「この! クソ変態女がぁ! 夢でも馬鹿やってんじゃねーぞ!」

「あぶふぁ!」


あいつのクソみたいな言葉を聞いて、俺はすぐに反応し、アルルの顔を全力で殴った。


「あぁ、正夢になりましたぁ~」


アルルの奴は殴られて、すぐに立ち直り、緩んだ顔でそんな言葉を呟きやがった。

もうやだこいつ、でも、少しだけ、ほんの少しだけこいつのこの姿を見て不思議と安心した。

何故か分からないが、何処からか出てくる安心感がある。

こいつはいつも通り、それだけで何故か安心出来た、訳が分からない。


「あの、リオさんはどんな夢を見たんですか?」

「え? あ、あぁ、俺か」


ここで正直に答えるわけにはいかないな、理由は2つ、1つはこいつに舐められるからだ

夢でこいつに殺される夢を見た、なんて言うと俺がこいつに恐怖していると思われる。

もう1つは、こいつに恐怖している事がバレる事、最悪の場合、そこから何故恐怖しているのか

分かってしまう可能性がある、それだけは避けたい、こいつに殺されないためにも

・・・・こいつを殺さないためにも。


「えっとだな、アルルの群れに追いかけ回される夢だ」

「それはもしや! 私に追いかけ回されたいと言う事ですかね!?」

「追いかけ回されたくないんだよ! 悪い夢って言っただろ!?」

「あぁ、少し期待したのに」

「やっぱり、アルルさんの事怖がってるんですね」

「こいつは俺にとって悪魔だし」

「相変わらず手厳しぃ! 私にとってはリオさんは天使なんですけどね」

「黙れ変態女」

「酷い!」


はぁ、こいつは相変わらずぶれないな、どんな時だろうとこいつはこいつかよ。

もう少し自重して欲しい・・・・マジで。


「まぁ、この話は良いですよ、はい、食事が用意できました!」

「あぁ、ありがとう」

「そして、これはアル茶です、ほかほか暖かいですよ?」

「アル茶?」


え? 何それ、なんか訳分からない物を用意しやがって。


「アル茶ってなんだ?」

「私特製のお茶です、美味しいですよ」


黄色い・・・・このお茶、黄色いぞ? 紅茶じゃ無いのか?

それに、生暖かいんだけど・・・・少し怖いが、飲んでみるか。


「それじゃあ、飯を食いながら飲むか」

「どうぞ!」

「ん」


・・・・あ、なんか普通に美味しい、あっさりとした飲み心地だ。


「美味しいな、なんだこれ」

「うん、美味しい」

「実はそのお茶、私のおしっこです!」

「ぶふぁぁあ!!」

「ば、ばっちぃ!」


俺とマルは同時に反応し、全力でお茶を吐き出した。


「お、お、おお、おま! お前ぇ!」

「な、何て物を飲ますの!?」

「あはは、冗談ですよ、冗談、おしっこなんて入れるわけ無いじゃないですか、騙されるなんて可愛い」

「この! お前が言うと冗談に聞えないんだよ!」

「因みにお茶はこれです、茶葉を特別にブレンドして、あっさりとした飲み心地と

 眠気覚ましにピッタリなお茶に仕上げていますよ、いやぁ、この色を出すのは苦労しました」

「い、意図的なのか?」

「そりゃもう、さっきみたいに冗談を言って誰かをからかおうと頑張って」

「うらぁ!」

「あぴゃー!」


なんか無駄に嬉しそうに笑っているあいつの顔が腹立ち、全力で顔面を殴った。


「あまり乙女の顔を殴る物じゃありませんよ・・・・ちょっと痛いじゃないですか」

「全てお前が悪い! 馬鹿ばっかりやってるお前が悪いんだ!」

「まぁ、そうですね、でも馬鹿ばっかりやりますよ」

「この!」

「酷いよ!」

「うふふ」

「な、なんだ? 何がおかしい!」

「いやぁ、何でも無いですよ、ただ、ようやく2人ともいつも通りになりましたね」

「・・・・え?」


まさか、こいつは俺達を元気づけるためにこんな事をやったのか?


「やっぱり、元気が1番です、沈んだ顔はあなた達には似合いません」

「アルルさん、私達を元気づけるために?」

「はい、3割は、7割は反応が見たかっただけです」


折角少しだけ、ほんの少しだけ見直したのに。


「おらぁ!」

「ひゃぐぅ! や、やっぱりこれがリオさんですよね!」


畜生、こいつにもてあそばれたって言うのが、どうにも嫌だ。

あぁもう! もう最悪だし!


「もう最悪だ! ふん! 変態女め、だが・・・・なんだ、一応は感謝してる」

「あ、可愛いです! ツンデレ風にお願いします! 別に嬉しくなんか無いんだからね! 的な感じに!」

「黙れこの変態!」

「ぎえぴー!」


ふぅ、4回もこいつの面を殴ったら、スッキリしたぞ。

やっぱりこいつは良いサンドバックだ・・・・でも、感謝するかな・・・・あくまで! サンドバックとして!

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