自分の選択
ケミーが残したかも知れないサインを必死に探した。
だが、やはり露骨には置いていないと言う事だろう。
「はぁ、見付からないな」
「はい」
これだとフェミーが何処に行ったかを見つけ出すことが出来ない。
恐らく移動したのは自分達が拠点としている場所だろう。
「しかしフェミーの奴、色々と隠しすぎだろ」
あいつは1箇所に移動場所を設置して転移できると言っていたが
一瞬の間にケミーが警備をしている拠点まで移動した。
この事から出てくる可能性は2つ。
1つはフェミーが移動して居る拠点がその近場にあった。
一応、微粒子レベルの可能性で移動ポイントをそこに変えたという事も
あるかも知れないが、まぁ、それはほぼ無いだろう。
すぐに姿を消したって事はな。
で、もうひとつの可能性、俺はこっちが濃厚だと思うが
実は1つ場所だけでは無く、複数の点に移動場所を選べるという可能性。
何故嘘を吐いたのか…と言うのは、まぁ、俺達の信頼を得るためだろう。
そりゃあ、複数に拠点を設置できると分かれば
自身の拠点に移動するだけで無く、敵国にポイントを設置していると
まず間違いなく疑われる。
それじゃあ、信頼は勝ち得ないしな、だから嘘を吐いたと。
さて、次の問題は複数箇所を設置出来るとすれば何カ所設置出来るか、だな。
2つならまだ良い、だが、3つなら…結構危険な事態になるな。
「…まぁ、まず間違いなくあいつは内通者では無かった。
あいつが内通者だったら、ここまで順調に事が運んでいないし
そもそも俺達を置いて何処かに消えると言う事は…まず無い」
「それは分かってるわよ、そんな庇護する様な事を言わなくても」
「…でも、それがなんで内通者じゃ無いと言えるのですか?」
「分かるだろ、メイル…あいつが内通者なら、厄介な2人を行かしちゃ居ない」
「厄介な2人というのが誰のことかというのはすぐに分かりました」
「…ケミーのコピー魔法もあるんだ、俺達を殺した後に移動も出来る。
当然、ノーリスクで暗殺することが出来る。
警備が厳重だからスティールを暗殺する事は出来ないとしても
俺達なら可能だったはずだ…だが、それをしてない」
「それが内通者では無いと言う証拠と」
「そうだ」
だから、3つ以上に転移場所を設定できるとすれば…
恐らく1箇所は向こう、ミリターク国の本国に設定してる。
…だから、最悪、一気に本国を潰そうと動くかも知れない。
その案を俺達に言わなかったのは、信用してくれるはずが無いと判断したからだ。
そりゃあ、普通ならそんな都合のいい話、罠だと考えて受入れやしないし
複数設定できると露見し、俺達に裏切り者だと判断され排除される可能性が高い。
だから言えなかった…と、言う事だろう。
それに、あいつ自身もその手は最終手段と言うのは間違いない。
敵の懐に自分から入るのは非常に危険だからな。
「クソ…時間が無いな」
「そうですね、私達の前から消えたと言う事は
向こうは精神的に追い詰められていると言う事です」
「いくら頭が良くても、あいつは子供…感情的になって暴走する可能性は十分ある。
そりゃあ、最善で確実な手である俺達との共闘を捨てたんだからよ」
このままの勢いで攻めていけば、多少時間が掛かったとしても確実に倒せただろう。
だが、あいつはその手段を自分で捨てた…なら、次に何をするかなんて…決ってる!
「さっさと探さないとあいつ、特攻しかけるぞ!」
「分かってますよ、でも、場所が…」
「恐らく、特攻自体は少しの間だなら、ケミーとケースで止められるはずだ。
最大戦力である2人を説得しないと無駄死にになるだけだからな。
だから、あの2人が渋れば出発が遅れるのは間違いない。
でも、最悪の場合、1人で特攻という可能性もあるし
強制的に2人を転移させることだって出来る…切羽詰まれば、最悪」
「その心配は限りなく低いとは思うけど…分からないわよね」
「あぁ、俺もあり得ないとは思うが、今、あいつは暴走してる。
何であそこまで感情的になったのかは分からない。
そりゃあ、一般人を巻き込んだのは確かに許せねぇ。
だが、それであそこまで我を失うか? 最善の手を捨てるほどに」
「……えぇ、私もおかしいと思うわ」
我を失うほどでは無い筈…いや、確かに怒りを感じないはずは無い。
だが、あいつは結構聡明だったし、我を失うなんてよっぽどだ。
「…とにかく、あまり時間が無いのは間違いないわね」
「あぁ、さっさとサインを見付けないと…だが、無い可能性もある。
だから、通常の調査も混ぜたいが…ここで戦力を割きすぎるのは…」
「無線を使えば…いや、駄目ね」
「あぁ、無線機を持ってるのはフェミーだからな」
「でも、試してみる価値はあるんじゃ無い?
もしもフェミーが無線機を捨てていたら、それをケミーが回収してるかも」
「だが、それなら向こうから連絡してきそうだが」
「連絡方法が分からないんじゃ?」
「フェミーの経験をコピーすれば分かると思うが…」
「うーん、確かにそうよね」
「……もしかしたらコピーできないとか?」
「なんでよ」
「…うーん、そこは分からないな、コピーできれば地図を転移できそうだが」
「そうよね! 自分自身が移動できなくても、地図だけを移動させることは出来る」
「そうだ、ま、地図が無いと駄目だし、そもそもコピー出来ないのかも知れない。
無線が来ない理由はフェミーが無線機を置いていないと言う可能性が高いが」
と言っても、ケミーの動きを待つだけって言うのは時間の問題もある。
「…だがまぁ、無線はして見よう」
「なんで?」
「説得できるかも知れないしな、ま、出るか分からないが」
俺は無線機を動かし、フェミーに連絡をしてみた。
だが、流れるのはノイズのみ…出る気が最初から無いのか
もしくは破壊したのか…もしくは、悩んでいるのか。
一番最後である事を祈るしか出来ないか。
「……」
ノイズは止まない…やっぱり応答するつもりは無いか。
(……私に連絡をする何てさ)
「フェミー! 出たか!」
(…大方、私の説得をしようとしてるって感じかな)
「そうだ、お前も分かってるだろう? 勝負を急いでも勝てない」
(……それでも、私はもう待てないんだ、これ以上…あの横暴は見たく無い)
「お前がなんでそんなに感情的になってるかは分からない
だが! このままだとそもそも勝つことすら出来ないぞ!
急いで勝負を決めようとしないでくれ、確実に勝てる方を選ぶべきだ」
(時間を掛けた結果、もっと酷い犠牲が出たらどうするつもり?
これ以上、国王の暴走は見てられない!)
「……もしお前らが死ねば、戦争は更に長期化する。
分かってるのか!? そうなりゃ、確実に勝つ方を選ぶよりも
酷い犠牲が出るかも知れないんだぞ!?」
(分かってる! でも、でもこれ以上は待てない! 見たく無い!)
「フェミー! なんで分からない!?」
(効率的で確実な手段を常に選べるわけじゃ無いんだ!
私は…私は! もう、これ以上は…これ以上は我慢できない!)
「頼む! 戻ってきてくれ! フェミー!」
(私はもう…あんなお父さんの姿は…見たく無いんだ!)
「お父さん…」
(ぁう)
「ふぇ、フェミー? おい、どう言う!」
(……もう決めた…無理矢理でも連れ帰る…無理矢理でも)
そんな小さな声が聞えた後…無線が切れた。
「……どうなってる、どう言うことだ」
確かに所々引っ掛かった点は多々あった。
あいつが俺の質問に答える度に感じた違和感。
あいつは…どうも至るところで一般人では無く
国王の方を心配していたように感じた。
これ以上、あんな国王の姿は見たく無いと。
「……リオ、さっきの会話」
「…あぁ、だからあんなにも感情的になったのか」
最初からフェミーは国民の為に戦ってなんか居なかった。
最初から、子供達の為に戦ってたわけじゃ無かった。
最初から、子供達の為に反旗を翻したわけじゃ無かった。
あいつは最初から…自分の父親のために戦ってた。
「これは、直接本人から詳しい話を聞かないと駄目ね」
「あぁ、そんれ、ケミー達からも話を聞いた方が良いだろう。
恐らく、あいつもフェミーの事は分かってたはず。
その上で、フェミーに協力してた…まずはあいつから話を聞こう」
そして、しばらくしてからケミー達が戻ってきたという話が届いた。
俺達は急いでケミーが戻ってきたという拠点に移動した。
「…なんで気が変わったんだ? ケミー」
「私は最初から…フェミーを止めるつもりで…」
「いや、なんでケミーを気絶させてまで連れてきたのかって話だ。
そんな事が出来るなら、最初からすれば良かったんじゃないか?
それなのに、お前は無線の後にあいつの意識を奪った」
「……怒るなら、私を怒って欲しい、フェミーは…悪くない」
「怒るか怒らないかは話を聞いた後だ」
フェミーの話は出来ればフェミーから直接聞きたい。
俺が今、聞きたいのはなんでフェミーを今、気絶させたかだ。
最初からすれば良いのに最初からしなかった理由を知りたい。
「だが、あいつが何で暴走したかってのは本人から聞きたい。
今知りたいのは、なんでお前が今、あいつを気絶させたかだ」
「……出来なかったから、いや、やりたくなかったから」
「ん?」
「私もケースも、フェミーの生い立ちをよく知ってる。
特に私はフェミーの経験を見ている…だから、よく知ってる。
だから、護りたいと思った、だから一緒に戦った。
初めて見た…綺麗で確かな覚悟…私はそれを信じたかった」
「…で、気絶させたのは?」
「最初は恐かったんだ、フェミーに嫌われたくなかったから。
だから、駄目だと分かってたのに…付いていった」
「でも、出来れば助けたかった、だから、サインを残したんだろ?
この縦読み、あからさますぎて謎解きにもならなかったよ。
これなら、たぬきの問題とかの方が難しいっての」
「…やっぱり、バレるよね」
ケミーは少しだけ笑った後、俯いた。
「……うん、本当は分かってる、ただ止める勇気が無かっただけだって。
絶対に護りたいと思ったのに…それなのに…私はそれさえ出来なかった。
本当に、1度だって…きっと私は1度だって…自分の意思で動いてない。
私はずっと…誰かの経験だけで生きてただけだった…それに気付いた。
あなたが必死にフェミーを止めようとしてるのを聞いて。
ずっと真っ直ぐだったフェミーが涙を流してた姿を見て。
私は…初めて自分の意思で……やっと、決めることが出来た」
「…そうか……ありがとうな」
「……ありがとう」
「お前がお礼を言うってどう言うことだよ」
「私が私の意思を手に入れたのは、あなたのお陰だから。
あなたの経験を見て、あなたに憧れたから…
だから、私はやっと私になれた…初めて、自分で選べた。
だから、ありがとう…このお礼も私の意思、受け取って」
「あぁ、分かったよ、受け取ってやる…これからも頼むぞ?」
「うん、任せて」
「ケース、お前も頼むぞ? 大事な姉がやっと自分になったんだ。
ちゃんと護れよ? 男ならよ」
「…うん」
「ただ付いていって護るだけってのも駄目だからな?
お前もちゃんと自分で考えて自分で選べ。
自分の為に、友達の為に、そして、大事な姉の為に」
「うん、ありがとう、お兄ちゃ、あ、お姉ちゃん」
「…男に言われても嬉しくねぇなぁ、男には兄貴と言って貰いたい」
「変な事言うな!」
「て! ミロルってめ!」
「あはは、うん、頑張る」
「僕も頑張るよ、姉ちゃん」
…後はフェミー、あいつにも全部話して貰わないとな。
隠してたこと…全部。




