奇策の代償
だがまぁ、向こうは休むつもりはないらしい。
あの子を拘束されるのは不味いと言う事だろう。
そりゃあ、遠方から一撃で重要拠点を沈めることが出来る
そんな圧倒的な魔法だからな、コピー魔法も相当だが
奪還を目指しているわけではないのは分かる。
そりゃあ、あの子は失踪という形で姿を消してるんだ
更にあの実力、向こうも俺達が撃破したとは思っちゃいない。
だから、奪還に血眼になってはいなかった。
だが、今回ばかりは意地でもあの男の子を奪い返したいみたいだ。
つまり、この段階では圧倒的な優位性を持っていると言う事だ。
「向こうは血眼になってこの子を取り返しに来るだろう。
そろそろ身体も限界で、出来れば連戦は避けたいがな」
「そうですね、かなり集中しましたし、出来れば避けたいですね」
だが、攻略するしか生き残る方法は無い。
「さて、来たな…アルル、こっから見える感じ、数は?」
「そうですね…5万程度ですかね」
「程度って…尋常じゃ無いだろ」
やれやれ、この数は困るな…流石に連戦でこっちも疲れてるしな。
まぁ、俺はそこまで疲れてはいないがな、精神的には結構キツいが。
「で、もうひとつ大事な情報だが…敵影に子供達は?」
「居ませんね、恐らく、いや、ほぼ確実にこれ以上子供達を奪われるのは
不味いという判断でしょう、実際、その通りだと思います。
現状、私達は攻め込んできた魔法使いの子供達を捕縛しています。
魔法使いの子供達を送り出すと言う事は、相手の戦力を増強させる事になってる。
当然、再利用が不可能である人形兵を投入し、襲わせるのが無難です」
「…まぁ、残念ながらその人形達も再利用させて貰ってるがな」
破損させた人形を回収し、修理することでこっちの子供達の戦力としている。
戦力に限りがある俺達がこの戦力に対抗するには
相手の戦力を再利用させるしか方法が無いだろう。
「ですがまぁ、その選択は大きな間違いですけどね」
「あぁ、全くだ…ミロル、報告だ、前線に子供達は居ない」
(ふーん、今まで子供を交えていたのにね、どう考えても失策ね)
「向こうもこれ以上戦力を奪われたくないんだろう。
ま、それはお前の言うとおり失策だがな」
(えぇ、だってその行動は鎖に繋がれた野獣を起すことになるからね)
「自分を野獣というとは、また随分と自虐的だなぁ、ミロルさんよ」
(例えよ! 後、私の事じゃ無くて、私が召喚する銃器の事よ!)
ミロルがガトリングガンを召喚し、目の前の人形兵達に放った。
「よし、狙撃部隊も行くぞ! 今は敵を撃ち抜け!」
「はい!」
更に俺達狙撃部隊の援護射撃も加わる。
正面の人形達はミロルの火力に手も足も出ない。
更に後方は俺達の狙撃により、軒並み潰れていく。
子供達というのは俺達からして見ればブレーキだからな。
戦力を奪われたくないのは分かるが、子供達を入れないのは大失敗だ。
「……リオさん!」
「なんだ?」
「攻撃の手を止めてください! ミロルさんにも急いでそう指示を!」
「は? あ、あぁ、分かった! ミロル! 攻撃を止めろ!」
(は? なんで?)
「俺もよくは分からないが、アルルがそうしろって言ってるんだ
だから、急いで止めてくれ!」
(分かったわ、アルルがそうしろって言うなら分かったわ)
ミロルの攻撃の手を止め、狙撃部隊も攻撃を停止させた。
「で、なんで止めさせた?」
「…すぐに分かります」
(リオ! 一般人よ!)
「は!?」
人形兵に追われている一般人が俺達の視界に入った。
「く! まさか…」
「これは…なんて厄介で容赦の無い」
(ち、あの一般人の保護を優先させるわ! フレイ!
あなたは人形兵達の足止め!)
「あぁ、確かに効率的な枷だな、戦力を奪われる危険も無い
何とも効率的な方法だ…人の心があればまずできないがな」
「く! 胸くそ悪いわね!」
「狙撃部隊は後方の狙撃を再開する!
少しでも攻撃部隊の負担を減らす!」
「了解です!」
「フェミーは防御魔法で一般人に流れ弾が当らないようにしてくれ」
「……なんで、なんでこんな…」
「フェミー! 聞いてるのか!?」
「あ…あぁ、ごめん、分かったよ」
俺達狙撃部隊はなんとか敵人形兵だけを狙撃した。
流れ弾はなんとかフェミーに押さえて貰っている。
しかし本当、何ともいやらしい戦術を考えやがる。
戦争に一般市民を巻き込むとか正気かよ。
「しかも…恐らくあの一般人達はあいつらの味方側だろ!」
「う、うん…ここからは元々ミリターク国の領土だからね」
「最悪の戦術を選びやがるな! 正気じゃねぇだろ!」
「そうですね…本当、酷い、国王は正気なんですか?」
「……分からないけど」
だが、ぼやいていても仕方ないだろう。
今は攻撃部隊に危険が及ばないように可能な限り殲滅するしか無いだろう。
「とにかく撃つしか無いな、やれ!」
「はい!」
何発も何発も銃声は響く、だが、的の数は減らない。
最大の殲滅力を誇るミロルが動けないのだから仕方ないだろう。
(…このままだと押されるわ、リオ)
「なんだ?」
(攻撃の許可が欲しいの)
「は? お前、一般人が居る中で」
(一般人は前線しか居ない…だったら、そこさえ避ければ良いだけよ)
「…アルル、一般人達は前線だけか?」
「はい、前線だけしか居ません」
「…分かった、ミロル。お前を信じよう」
(ありがとう、ウィング、トラ、私を浮かせて)
(分かった)
会話の後、ミロルがウィングが召喚した大量の剣を
トラが操り、浮遊させた。
「なる程、そこから撃つのか」
(えぇ、任せなさい!)
上空から流星群みたいに飛んで来るミロルの弾丸。
人形兵達はその弾丸を避けられるはずも無く撃たれ続ける。
そりゃな、最大の盾である一般人を避けて飛んで来るわけだしな。
そもそも、この攻撃を防ぐ手段は早々無い。
防御魔法でもあれば別だろうが、それがあるのはフェミーくらいだ。
ま、メルの魔道兵なら盾にすることは出来るけどな。
他にもトラ、ウィングの剣による盾もある。
考えてみりゃ、俺達サイドは防御手段は豊富だな。
「よし、俺達もこのまま攻撃だ!」
この攻撃で人形兵達の数も減り、一般人の救助も余裕を持って出来た。
そのまま一般人を保護し、攻撃を再開した。
人形兵達は仕方なく撤退を開始する。
「…あの奇策には驚いたが、なんとか撃退が出来たな」
「もうただの人形兵だけなら容易に撃破が出来るようになりましたね」
「戦力差がかなり縮まったからな、最大の戦力である
魔法使い達の大半も捕縛、頼みの綱である11人の魔法使いも殆ど壊滅状態だ」
「…私達は圧倒的に有利、しかしどうします? 一気に攻めます?」
「いや、しばらくは様子をみ」
「いや、一気に勝負を決めた方が良いよ」
「は? 何言ってるんだよ、フェミー、そんな深刻そうな表情をして」
「今回の攻撃…自分の国の民を壁にしての攻めをしたんだ。
きっとそんな指示をしたのは国王だ…もう、向こうも後が無い」
「だから、一気に攻めて叩こうってのか? だが、そんなに急ぐ必要は」
「冷静になってよ…向こうはあんな手段を用いてきたんだよ。
つまり、もう完全に後が無い…何をするか分からない!
これ以上、野放しには出来ないんだ…急いで決着を着けないと!」
「急ぎすぎるな、勝負を急いても」
「君には分からないよ! 手を貸してくれないならそれでも良い。
例え私達だけでも攻め潰す!」
「待て! フェミー! いくら相手が手負いでも!」
ち! 転移魔法で移動したか…なんであんなに感情的になってるんだ!?
確かに自分の母国であんな事態になっているなら焦るのも分かるが…
でも、あの焦り方は異常だろ。
「ち、流石に少数では厳しいだろ…どうする」
「……リオさん、ひとまずこの事態を全員で共有しましょう」
「…そうだな」
俺達はフェミーが少数でミリターク国に戦いを挑んだことを告げた。
状況はかなり不味いと言えるだろう。
あいつが裏切るとは思わないが、相手には洗脳魔法がある。
もしも捕獲されて洗脳魔法を食らえば…流石にどうしようも無い。
この事態をどうにかして打破したいが、どうやって攻める気かも分からない。
今はあいつらの行動先を特定し、なんとか保護しないと。
「…まさかここに来て暴走をするとは思わなかったわ」
「どうやら、あの奇策が応えたらしい」
「あの一般人を巻き込んだ…あの戦術が原因?」
「あぁ、十中八九そうだろう」
あの戦いの後に暴走した…移動するときだってそう言ってたからな。
だから、あの行動が非常に応えたというのは間違いない。
しかし、何故あそこまで感情的になったのかは分からない。
あいつはかなり冷静なタイプだ…そんな奴が我を忘れるなんて事…
「とにかく今はあの子達を発見することが最優先ね」
「あぁ、かといって防御を疎かにするわけにはいかないし…
そう言えば、ケミーはどうしたんだ?」
「ケミーも姿を消したそうよ、で、捕獲していた虫召喚操作魔法の子もね」
「何!?」
「ただ書き置くがあったわ。
フードは私達が保護するよ。
えっと、理由を書くとすれば
みんなに迷惑を掛けたくないからかな。
とりあえず、この子は危ないから。
メルなら止められるかも知れないけど
てを煩わせたくないから、私達のわがままを許して」
…これは、隠す気があるんだろうか、無いよな、ったく。
「やれやれ、隠すつもりならもう少し上手く隠せば良いのに」
「所詮子供の発想だ、でも、こんなにも目立つメッセージを
スルーしてたって事は、それだけフェミーは切羽詰まってたって事だな」
「冷静な判断が出来ないと言うことかしら。
ったく、大事な友達に心配を掛けるなんてね」
「ねーねー、なんの話し? メッセージって何?」
「フレイ、この手紙、1文1文が短いだろ?」
「明らかに不自然よね、字のチョイスも違和感があるし
文の切り方も少し違和感がある」
「ん、んー?」
「…縦に読め」
「縦? …あ、あぁ! フえみとメて!」
「わざわざメルをチョイスするのも不自然だしな」
「そう、これはケミーからフェミーを止めて欲しいというサインだ」
フェミーを止めて、と、そう書きたかったんだろうな。
恐らく何処かに場所を書いてるはずだ、それを探すしか無いだろう。
「よし、ケミーのサインを探すぞ! 多分、地図かなんかがある!」
「分かりました! 捜索を始めます!」
早く連れ戻さないと厄介な事になるからな。




