一度のチャンス
戦闘の最中だ、そりゃあ、のんびりは出来ないだろう。
だがまぁ、まさかあのいつも通りの遊びの次の日に
向こうが動いてくると言うのは、少し想定外だった。
「リオさん、急ぎましょう」
「あぁ、分かってるよ」
俺達は急いで最前線に向かい、状況を確認することにした。
どうも…この攻撃はなんというか、滅茶苦茶だな。
「…この攻撃は」
「まるで爆撃だな」
前線の拠点がまるで爆撃でも食らったかのように吹き飛んでいた。
地面には大きなクレーターが開いており、爆破の威力を物語っている。
ここまでの攻撃…正直、尋常じゃ無いと思う。
しかも、門だけどんぴしゃで狙っているという器用さだ。
この攻撃はピンポイント爆撃、と言った方が良いかな。
こんな芸当が出来るのは俺の知ってる限りではミロルだけだが。
正直、ミロル程に汎用性が高い魔法ならばわざわざここだけを狙う
なんて事はしないで、そのまま連続で攻めてくるだろう。
「…まぁ、爆撃と同時に攻撃を始めたってのは厄介だがな」
でも、この行動で分かることだが、どうやら向こうは連続使用は出来ないと言うこと。
そして、超長距離に爆撃を行なう事は不可能だと言う事だろう。
超長距離に爆撃が出来ると言うなら、首都の城を狙うはずだ。
で、意外と戦術的に立ち回るのが得意では無いと言う事も分かる。
そもそも、こんな攻撃手段があるならここでは使わない。
今までバレていなかったんだから、潜入でもして
城が射程に入る場所に移動すれば良いのに
ここで使用した…そんな事をすれば、この攻撃を警戒されて
より厳重な警備になってしまうのは間違いないだろう。
そうなれば、接近するのが困難になるのにな。
こちらとしてはありがたいが、向こうは結構な大失態だな。
「しかし、この場合はどうするべきか…拘束方法が分からん」
「まだ犯人も分かってないのに拘束方法を模索するのね」
「こんな大規模な攻撃を使える相手、拘束した後に
拘束方法を考えてたら攻撃食らっちまうしな」
もし術者が我が身に興味を持たないタイプだった場合…結構不味いからな。
自分が大事な奴なら重要拠点に拘束でもしていれば
そこに爆撃を行なう事が出来ないだろうからな。
でも、我が身に興味がない場合は躊躇なく爆撃してきそうだし。
「出来れば射程が分かれば良いんだけどな」
射程さえ分かれば…そうすれば爆撃を防ぐことは出来るだろう。
射程外の距離に隔離すれば良いだけなんだし。
「…フェミー、分かるか?」
「んー、そうだね、この魔法は爆撃魔法というのは聞いたよ。
射程だけど、確か10Kmだね」
「よく知ってるな」
「私の魔法、情報奪取だよ?」
「そう言えばそうだったな、本当、便利で厄介だな」
相手の情報を奪えるって言うのは敵に回したら本当に厄介だな。
だが、今は味方…結構心強いな。
「なら、その距離で拘束すれば良いのか、なら次は撃破だな」
「因みに、君ならどうするのかな?」
「俺だった場合、取る可能性がある行動は3つだな
1つは射程ギリギリで待機をする。
当然、そうすれば敵に攻撃を食らう可能性が下がるしな。
もうひとつは岩陰に隠れる、森ならばそこに身を潜めるが
ここは広い平原だし、岩陰に隠れるしかない。
で…もうひとつは子供達の中に紛れて戦う」
「その中で1番取る可能性がある行動はどれ?」
「勿論3つ目だよ、理由としては距離を取るだけでは
正体不明の攻撃の的になってしまう可能性が高いからだ。
目立つと言う事はよく分からない攻撃の的に自分からなりに行くのと同じだ。
岩陰に隠れるというのも同じ事、岩陰を片っ端から探されたらバレるかも知れない。
因みに、この場合だとほぼ確実に相手は敗北するな。
岩陰から出て来て2度目の爆撃を行なう際に場所が割れて終わるからな。
多分、目的地を目で見ないと攻撃が出来ないタイプだと考えられるし。
だって、そうしないとこんな平原で戦おうとは思わない」
正体不明の攻撃で仲間がやられているという情報を知っているとすれば
当然、その攻撃を警戒するだろう。
それなのに、こんなだだっ広い場所で戦うのは無謀としか言いようが無い。
だが、見た場所に爆撃するという場合なら平原では有利だからな。
そう仮定すると、拘束方法も家にぶち込んで城の方が見えない所に配置する
と言う手段で無力化できそうだが、確実にそうかは分からない。
いや、もしかしたらフェミーならそこら辺分かるかもな。
「なぁフェミー、その爆撃魔法って、見えないと撃てないタイプ?」
「そこまでは分からないかな、本人もやったことないみたいだし」
「そうか」
残念だな、でも、拘束方法は決めてるし大丈夫かな。
「えっと、話を戻すけど、あなたが3つ目を選ぶ理由は…まぁ、分かるけどね。
あれでしょ? 子供達の中に紛れていれば分かりにくいから、でしょう?
今までの戦闘の情報を集めれば、向こうは私達が
子供達の命を奪わないと言う事も把握しているだろうしね」
「その通り、だから子供達の中に紛れておけばバレにくいと言う事だ。
それに、子供達に紛れて敵重要拠点の射程内にまで移動できれば
重要拠点を爆撃することだって出来る、まさに一石二鳥だな」
「ほうほう、なる程ね」
「と言う事で、フェミー、この魔法使いは男と女、どっちだ?
子供達の中からその相手を見付けるなら男女の区別は付けたい」
「あぁ、男の子だよ」
「ありがとう、これで少しは見付けやすくなったな」
魔法使いは全体的に女が多いみたいだし、男だと言うのは非常にありがたい。
「よし、じゃあ、俺達は交戦中の子供達の中からその子を見付け、撃破を狙う。
ミロルはフレイ達と一緒に前線に向って
俺達の動きを悟られないようにしてくれ」
「分かったわ」
「アルルは言わなくても分かるよな?」
「はい、リオさんと一緒に探せば良いんですね」
「あぁ、じゃあ、頼んだぞ」
「はい!」
と言っても、俺達もその子に場所がバレたら大変だからな。
俺が敵サイドなら正体不明の攻撃の原因を把握して
そいつを潰すようにけしかけると思う。
向こうもピンポイント爆撃、遠距離攻撃型の魔法だ。
俺の位置を把握した後、爆撃を食らわして撃破も狙える。
自分を囮に本命を誘い出し、それを撃破すると言う感じだ。
俺という厄介な存在を潰す事が出来れば向こうも攻めやすくなるからな。
だから、場所がバレるというのはこっちにとっても危険性が大きい。
「よし、ここから狙撃をするか」
「かなり複雑な場所ですね」
「バレたら不味いからな」
「なる程、だから街の外に出たと」
「そう言う事だ」
そうしないと存在がバレたとき、街が被害を被るからな。
だから、被害を受けない場所から狙撃するしかない。
「まぁ、ハッキリ言うけど、失敗したらお前も死ぬからな」
「ふふふ、リオさんと死ぬならば本望です!」
「…正直、俺はお前と死にたくないから全力で生き残る術を探すが」
「まぁ、私も一緒に死ぬより一緒に長生きする方が良いので生き残る術を模索します」
ま、こいつの性格は分かってるからな、死ぬ方を選ぶはずもないか。
それより今は早急に敵の位置を把握することだな。
そうしないと向こうの攻撃が飛んで来ちまう。
重要拠点まで接近されれば、間違いなく飛んで来るだろうしな。
だから、そうなる前に発見し、撃破しないと駄目だ。
「アルル、フェミーの情報を信じるしか無いからな、現状は。
だから、魔法使いの中から男を捜せ、分かってるよな?」
「勿論ですよ、私は目だけは良いですからね」
「不審な動きをする男の魔法使いを発見したら俺に言え。
会話を聞き取る…最悪、何も喋らない場合もある。
その時は……お前に任せるよ」
「どう言う意味ですか?」
「何も喋らない場合、俺が判断を下すのは難しい。
だから、お前がこいつが怪しいと思う奴を指定してくれ。
俺はそいつを狙撃する…観察眼や行動の不審さが分かるのはお前くらいだ。
俺がやる場合だと、その1人を長く監視して不審な動きを探さないといけない。
当然、時間も掛かる…だが、お前の場合は全体を見ることが出来る。
だから、その中で怪しいと思う奴を見付けてくれ。
あくまで最終手段だが、最終手段は言わば最後の砦。
最初からそうなると言う事を想定して色々と指示をくれ」
「…了解しました」
子供達の中から不審な子供を見付ける。
そう言う観察眼はきっと俺の方が優れているだろう。
だが、俺はあいつと違って1人の子供を重点的に見る。
当然時間も掛かる、それでは接近されてしまう可能性がある。
時間との勝負であるこの場面で時間が掛かる手段は危険だ。
とにかく、俺はアルルに言われた子供を見た。
しかしながら、子供達はまるで会話をしない。
考えてみれば子供達同士魔法の事は知ってないはずだ。
だから、会話をしても読み解けるとも思えない。
はは、こうなると、本当にアルル頼みになるか。
「…アルル」
まさかこんな早い段階で最終手段とはね。
元々、子供達の会話から正体を曝くってのは賭けみたいな物だったしよ。
仕方ないと言えば仕方ないのかも知れないが、結構痛い。
「……」
「この選択をお前に任せるってのは、ちょっと申し訳ないな。
分かってると思うが、俺の狙撃に関する危険性を説明するぞ。
もし、一撃で相手を仕留められなかった場合、対象の子供が逃げる
と言う可能性だって生じてしまう。
場合によっては俺達の位置が発見され、爆撃を食らう可能性もある。
そうなればお互いに死ぬ事になる、だから、出来れば一撃で仕留めたい」
「分かってます、慎重にかつ素早く」
接近された場合、重要拠点の爆撃が発生する。
その時に敵を発見するという事も可能かも知れないが
完全に手遅れで、まるで意味が無い。
だから、爆撃を食らうより前に狙撃をしないと駄目だ。
その為にはしっかりと敵の動きを見て、確実に仕留めないと駄目。
…沢山居る子供達の中から…かなり危険な賭けだ。
「…………」
「ふぅ…」
俺がその子供の立場なら、まず前線には出ない。
前線の子供達や人形兵達が敵を押している間に射程内に入るようにする。
かといって、後方に下がりすぎると正体がバレやすい。
なら、中腹にいるのが1番堅実で1番確実…
沢山の子供達が居るからカモフラージュも確実に出来るからな。
「…………中腹、黒髪の男の子」
「中腹、黒髪の男の子…」
見付けた、他の数少ない男子は茶髪だったり、金髪だったりだな。
…で、黒髪はあの男の子しかいない。
「それで…良いんだな」
「はい」
「…よし、信じよう、責任は俺が取るとしようか」
「どっちが取ろうと、罰はお互いが受けることになりますけどね」
「違いないな…当っててくれよ!」
指先が震え、手に大量の汗をかいている。
今までかなりの死闘を繰り広げては来た。
何度も大怪我をした…だが、ここまで緊張したのはミロルとやり合った時以来だ。
アルルの事は信頼しているが、これは言わば賭けのような物だ。
賭けるのは俺達2人の命、兵士達、街の国民達…そしてフレイ達の命。
……だが、信じるしか無いだろう、もう時間もあまりない。
恐らく、あの男の子が本当に爆撃魔法使いだとすれば
後数百メートル程度で重要拠点の射程内。
これ、本当に色々と状況が不味いんだよな。
沢山の子供達の中でフランに1人だけ見続けさせるのは困難だから
フランの催眠術は使う事が出来ない。
ケミーは動くことも出来ず、フェミーの情報奪取でも
容姿までは分からなかったみたいだし。
マナの魔法でも敵しか識別出来ない。
だから、この手しかない…この手に賭けるしかない。
この指先には全員の命が乗ってる…重い物だ。
だが、今更だな! 今まで、何度もこの指先には
あいつらの命を乗せてきた…だから、今回も乗り越えるまでだ!
「アルル…信じてるからな!」
「お任せください、私はリオさんの目、誤りはありません!」
「OK、良い自信だ、それでこそ、俺の相棒だな!」
俺は重い、重い引き金を引いた。
俺の放った弾丸は無事にその対象を撃ち抜いた。
「なん…で……」
そんな、小さな声が聞え、俺が撃ち抜いた子供はぶっ倒れる。
子供達は慌てふためき、急いでその男の子を抱えて逃げようとする。
俺は急いで無線機を取りだし、ミロルに連絡を始めた。
「ミロル! 一気に追え! ぶっ倒れた男の子を絶対に逃がすなぁ!」
(任せなさい!)
俺の指示はミロルを通し、小さな戦士達全員に伝わった。
撤退を始めている子供達にすぐに追いつき
小さな戦士達は無事に意識を失った男の子を拘束した。
その後、爆撃はなく、男の子を奪い返そうとする子供達を全員拘束出来た。
「…は、はぁ…成功…だな」
「え、えぇ」
俺とアルルはお互いに背中合わせに座り込んで、大きなため息をついた。
緊張から解き放たれた安堵感…あぁ、なんか体中が軽くなった気分だよ。




