早急に合流を
「はぁ、蜂って嫌いなんだけどな」
蜂は本当に嫌いだ、あの羽音を聞くだけで鳥肌が立つ。
あのどれだけ距離があっても、耳元を通っているみたいな羽音。
まぁ、実際に至近距離から聞いたらあんな音の比では無いのだろうが。
「ゴキブリは大丈夫なのに、蜂は駄目なのね」
「俺は危害を加えてくる虫は大っ嫌いなんだよ、ムカデとか毛虫とか」
「大して酷くは無いと思うけど? そいつらは」
「だろうな、今上空を制圧してる、あの蜂共と比べりゃな」
あの蜂に刺されたら最悪死ぬ。
俺が今まで見てきた危害を加えてくる虫の中で最高に危険な虫だ。
世界には危険な虫はわんさか居るんだろうがな。
でも、あの虫は操作可能で、完全に戦争特化の虫。
下手すれば意図的な大量殺戮だって可能な虫だ。
一応、治療をする手立てがあるにしても、危険すぎる。
「本当、まさか生物兵器まで出てくるとか思わなかった」
「B・O・Wね! ハンターとか出てないだけましよ!」
「いや、それは違うだろ」
「じゃあ、タイラントかしら、もしくはリッカーとか」
「お前、これから死ぬかも知れない場所に行くってのに、随分と余裕だな」
「余裕かましてないとやってられないからね」
それはあり得るかも知れないな。
「まぁ、あれだな、出てくるとしたらキメラかリーパーかな」
「インビジブルグリムリーパーが何か言ってるわ」
「なんで無駄に英語だよ」
「ノリよ、と言うか、そうしないとリーパーと絡められないし」
「そこまでして絡めようとするなよ」
本当、これから危険地帯に向う奴らの会話じゃないよな、これは。
しかし、あの蜂の群れ、本当にどうしようか。
何故この段階で最終兵器である殺人蜂を投下したのか。
当然、厄介な相手と戦闘になったと考えるのが自然だが
あそこまで大量の蜂を投入した理由はなんだ?
数匹での攻撃では効果が薄かったから、一気に投下したのか?
現状、考えられる最も有力な説がこれだろうな。
最初は数匹だけでの攻撃だったから使用が分からなかった。
だが、このままだと不味いと判断したから大量に投下した。
その結果、蜂が俺達でも見えるほどになったという流れだ。
「視認した感じ、もう少し奥になるのかしら」
「木があると分かりにくくて嫌ですね」
「ん? なんか飛びついてる」
軽く周りを見ると、大量のヒルみたいなのが戦車に引っ付いていた。
なる程、このヒル達は防衛役、突破されたときに攻撃を仕掛けるためか。
意外と頭を使うな、結構厄介なのかも知れない、あの相手は。
ここまでトラップを仕掛けていたと、ミロルが居てくれて助かった。
密閉空間は虫による攻撃には結構な防御になる。
「トラップとしてヒルを設置していたと、ふーん、やるじゃないの。
と言うか、本当にことごとく血を吸わせたいのね」
「めっちゃ小さな虫で人間に攻撃しかけてきそうな虫の殆どが
人間の体液目当てだからだろう」
「人間の血って栄養あるってのが分かるわね」
「そりゃあ、栄養を運んでるんだから当然だろう」
「うーん、血って美味しいのかな?」
「美味しいわけないだろ」
「いや、分からないわよ、魚の血は人によっては美味しいみたいだし」
「魚の血と人の血を一緒にするな!」
「でも、吸血鬼ってのが居るくらいだし、案外美味しかったりするんじゃ?」
「おぉ! 美味しいの!? ジュースみたいな感じなのかな!?」
「美味しいわけないから!」
「ねぇ、リオちゃん!」
「なんだよ!」
「味見させて!」
「ふざけんな! てか、何で俺!?」
「怪我してるのリオちゃんだけだし」
…あ、本当だ、怪我してた、いつ怪我したんだろうか。
俺は蚊に吸われた記憶しか無いんだけど…飛び乗ったときか?
「味見させて! あむ!」
「了承を得る前に飲むな! 汚いぞ!?」
「…んー、そこまで美味しくない?」
「そりゃそうだよ!」
「量が少なかったのかな? 舐めちゃおう」
「止めろ、不味い物は不味いんだから」
「むー、分かったよ」
「ったく、ミロル! フレイに変な事言うなよ!」
「ちょっと嬉しかったりするんじゃないの?」
「嬉しいわけあるかよ!」
ったく、ミロルめ、人を散々からかいやがって。
そもそも、なんでフレイに舐められて嬉しいと感じると思う。
俺はロリコンじゃないし。
(リオさん、何だか凄く楽しそうですね!
私もリオさんの血をペロペロしたいです!)
「お前、なんで聞えてんの!?」
(いえ、無線しようと思ったら丁度)
「タイミング悪すぎだろ!」
(まぁまぁ、とにかく報告です、蜂の数ですが明らかに減ってますよ)
「え? マジで?」
(はい、目に見えてと言う程ではありませんが、確実に減ってます)
「なんで分かるんだ?」
(カウントをしているからです。
なので、ちょっとずつ減っているのが分かりました。
恐らくあの蜂と戦ってる人が、蜂を何匹も倒していると言う事でしょう)
「それって、相当やばくないか? 魔法と言う訳でも無さそうなのに」
(えぇ、そしてです、私の予想では、そんな事が出来るのは)
「開けました!」
森を抜けると、そこは敵地のど真ん中だったのだろう。
大量の人形が転がっており、正面で子供が1人の男に顔を捕まれていた。
周囲から蜂の姿は消え、大量のヒルも、蚊も姿を消した。
「……なん!」
俺は急いで戦車から飛び出し、状況を整理しようとする。
だが、整理が完了する前に状況は進んだ。
「…はん、クソガキか、新手が来たのかと思って少し嬉しかったが
なんて言う肩すかしだ、ったく」
「あんたは、クリーク…なんで」
「なんでだと? こいつらを潰すためだ」
「うわ!」
クリークは引っ捕まえていた子供を俺の方に投げた。
俺はその子供をキャッチすると同時に尻餅をつく。
「一応、そのガキは死んじゃいねぇ、テメェの好きにしやがれ」
「お、おい、どう言う風の吹き回しだ? 戦闘狂のあんたが」
「俺は戦えりゃそれで良いんだよ」
…クリークの話はテキールから聞いた。
悲劇の英雄…その話は本当の話だろう。
だが、今は仮面を被って戦ってる、そんな奴が情を掛けるか。
もしかしたら、フレイや死んじまった自分の子供が重なったか。
「…あんた、何処も刺されちゃいないのか」
「刺されてねぇよ、蜂なんぞに遅れを取るか」
「流石、最強の兵士」
「くだらねぇ肩書きは良い、で、どうするんだ? クソガキ。
このまま進んでも俺は構わねぇが?」
「っと、ひとまずは」
「ぷはぁ! お外って良いね!」
「……な」
クリークが戦車から出て来たフレイの姿を見た。
明らかに動揺しているのが分かった。
「あ、おじさん! 怪我ない? 助けに来たよ!」
「…ふん、怪我なんてしてねぇよ」
「そうなの? 良かった!」
「…じゃあな、俺はもう行く」
「おい! 待てって!」
「指図を受ける義理は無いだろ、立場的には同じ権力だ」
俺の方を振り向いてそう言い放ったクリーク。
その表情は僅かにほぐれ、ちょっとだけ微笑んでいるように見えた。
だが、何かを決意したような表情にも見える。
「…気付いたんだよな、フレイの事」
「フレイ? 知らないな、そんなクソガキ」
「…そうかよ」
「じゃあな、ガキ共、俺には構わねぇ方が身のためだぞ」
そう言い残し、クリークは俺達の視界から姿を消した。
あいつ、せめて次は何をするかを聞いてから消えりゃ良いのに。
「この後は一旦撤退して戦力を再招集した後に攻めるからな!
聞えてることを祈ってるよ! おっさん!」
「どうする?」
「さっき叫んだときに言ったろ、戦力を再招集させる。
まずはメイル達と合流して被害を調べた後に再び進行開始だ」
「この子はどうするの?」
「そうだな、このままだと不味いし、1度牢にぶち込んだ方が良いか」
ひとまずは彼女を拘束し、戦車に乗り込み、メイル達を回収した。
その後、アルル達と合流をする。
「っと、アルル、ひとまずは戦力を再招集しないと」
「そうですね…あ、リオさん!」
「お? 痛!」
「不味い! 目を覚ましたの!?」
「うぅ、ま、まだ…私は!」
「寝てなさいよ!」
「うあ…」
「…った、ま、まさかあの短期間で目覚めるなんて…」
「いや、余裕そうな事言ってられないよ!? あれは殺人蜂だよね!」
「うぅ…こ、こいつの拘束…マジでどうしようかな…厄介だぞ、かなり」
「り、リオさん!」
あぁ、痛い…クソ、まさか起きるとは…もうちょっと強く気絶させといてくれよ。
と言うか、目隠しをして、がっちがっちに固めたはずなのに
魔法の発動には差し支えないのか…厄介極まりない。
このままだと牢にぶち込んでも、蜂でもなんでも召喚されたら手の打ち用がない。
病の場合は進行速度や影響力から考えて対処が出来る。
絶対命令は魔法を掛ける人形がないと操作ができない。
だから拘束が出来る…でも、こいつの場合は難しい。
いつでも召喚出来るし、瞬時に影響を与える蜂も召喚出来る。
大量に召喚して、自分を対象外にすれば牢の中の密閉空間でも戦える。
地下牢にでも突っ込んでたら、何とかなるのか?
でも、食事とかの問題を考えると、かなり不味いと思う。
そんなの食事を与える事が出来ず、最悪死んじまうかも。
それなら、いっその事この場で殺した方が一瞬で終わるし楽かも…
だけど、それは流石に出来ないし…なんとか拘束方法を…考えて。
「リオさん! 大丈夫ですか!?」
「んぁ…あぁ、だ、大丈夫…」
うぅ、け、結構キツい…最初の痛みは意外と大したことないのに。
「し、しかし…は、蜂に刺されるって、案外た、大して痛く無いんだな…
大怪我したときと比べれば、ぜ、全然痛くねぇや」
「いや、弾丸で腹を抉られたりするのと比べられるレベルじゃないでしょ!?
と言うか、何だか顔が青くなってるわよ!? ちょっと!」
「うぅ、し、しんどい…死ぬかも知れない」
「いや、死ぬよ!? 放置してたら普通に死ぬよそれ!」
「え、えっと、ど、どうすれば良いのでしょうか!?
え? どうすれば良いんですか!? どうすれば!」
「き、きき、キスよ! キスすれば良いのよ! キス!」
「キス!? リオさんとキスですか!? キス!? キス!?」
あ、意識が…け、結構ヤバいかもしれない。
1回刺されてこれは正直勘弁して欲しい。
ま、まぁ、そ、それは良いけど、ひとまずは、こ、拘束方法を…か、考えて。
「あぅ…ど、どうすれば…拘束、が…うぅ」
「今はそれどころじゃないよ!? キス! 誰かキス!」
「え、えあ、あ、え、えっと、じゃ、じゃあ、わ、わ、わ!」
「いや、わ、私がリオとキスする!」
「キスってこうすれば良いんだっけ? えっと、むちゅー!」
「むぐぅ!」
「あぁぁあ!! フレイさん!?」
「あぅ…」
「ん-、ちょっと具合が悪くなった気がするけど
これでリオちゃんが助かるならいいや!」
「そんなぁ! せ、折角のチャンスが!」
「は、判断が遅すぎたわ…せ、積極性が足りない…うぅ…」
「何で…うぅ、アルルなら殴れたのに」
「と言うか、フレイだっけ、一切躊躇いがなかったね…」
「キスって好きな人とするって聞いた!
私はリオちゃんが好きだから大丈夫!」
「フレイ…普通キスって女の子同士でする事じゃない…」
「そうなの?」
「う、うん…」
…ま、まさかフレイのファーストキスを奪うことになるなんて…
最悪だ…家族として失格だ…あぁ、なんてこった。
「て言うか、あまりキツくない?」
「え? ちょっとだけしか」
「…でも、リオは」
「……」
「そこまで回復してない?」
「もしかして、結構キスしないと駄目とか?」
「あ? い、いや、俺は…大丈夫…だから」
「顔を真っ青にしていっても」
「…え、えっと、なら私が!」
「ちょ、ちょっと待って! リオがこんな事になったのは
私が原因だし、私がちゃんと責任を取るわ!」
「い、いえ! リオさんは私が一生を掛けて介抱を!」
「いや、どっちでも良いから早くした方が良いんじゃないかな?
何だか酷くなってるような気がするし」
「わ、私が!」
「私が!」
「今度こそ私がする!」
「…えい!」
「うぅ」
こ、今度はウィンだと…な、なんか涙出て来た。
「ウィンさん!? そんなぁ!」
「し、姉妹だから、だ、大丈夫!」
「そ、そんなぁ!」
「ま、またしても…」
「うぅ、アルルなら殴った」
「なんか…もう精神的に辛い…」
「い、嫌だった!?」
「いや…大事だからこそ、そいつの大事な物を奪ったのが辛い…」
「だ、大丈夫だよ! お姉ちゃんの為なら、私はなんでも!」
「え? 大事な物ってなーに? 私、リオちゃんに何か渡したっけ?」
あ、あはは…フレイはぶれないな、ちょっと罪悪感が薄れた気がする…
でも、楽にはなった…な、なんか眠気みたいなのが…
「リオさん! 答えてください! リオさん、リオさーん!」
「いや、寝てるだけだと思うけど…」
「ほ、本当!?」
「大丈夫だと思うけど」
「えっと…はい、呼吸も心音も正常です!」
「はぁ、あ、安心したわ」
「多分疲れが出たんだろうね」
「今は眠って貰いましょう、攻撃の指揮はどうします?」
「狙撃部隊の指揮は私が引き継ぐわ、他は通常通りね」
「はい、私はリオさんの看病をします!」
「えぇ、目覚めたら連絡お願い」
「はい!」




