盛り上がる訓練
アルルの成功で火が付いた兵士達は何度か森に突入した。
しかしながら、成功したのは未だにアルルのみ。
もうすでに3週目くらいになっているが、まだ1人も短刀までは行かない。
あくまでアルルが規格外だと言うだけであって、この訓練は楽では無い。
反応速度と狙撃能力を鍛えるための訓練だからな。
あまり経験が無い兵士では上手くは行かないだろう。
「こ、こんな訓練…成功するのかよ…」
「文句があるの?」
「いえ…ですが、難易度が高すぎて…」
「時間が無いのよ、分かってるでしょ? ハッキリ言うわ
このままだと、あなた達はただの足手まといよ!」
「す、すみません!」
「まぁ、肉壁にはなるでしょうから、それで良いなら帰って良いわ!
腑抜けはこの訓練に参加しない方が良いわよ?」
「いえ!」
「ならシャッキリしなさい! 死にたくないなら死ぬ気で鍛えろ!」
「はい!」
うへぇ、鬼教官だなぁ。
「ほら! さっさと次! 分かってると思うけど同じ場所に的は出ないわ!
神経をすり減らす勢いで集中しなさい!」
「はい!」
それから3往復後、ようやく1人の兵士が短刀までたどり着いた。
「やっと1人…随分と時間が掛かったわね」
「まぁ、問題はここからだがな」
「えぇ、ここまで来てようやく20%ね」
今回の訓練は本来短刀を手に入れてからが本番だ。
ここからが重要な点で、兵士達の応用力を鍛える。
アルルはそのある手を利用せずにさらっと突破しやがったが
あれはあいつが異常なだけで実際は短刀をしまった状態で
敵を発見、短刀に手を伸ばし、短刀を抜き去り、相手を排除する
なんて動作を僅か0.5秒では出来ないだろう。
更に短刀を戻し、対象を発見+狙っての狙撃を1.5秒で行なう必要がある。
アルルは対象を短刀で排除すると同時に左手で的を狙って排除してた。
なんであいつ狙撃をするとなるとあんなに震えるのに
とっさの判断ではあそこまで圧倒的な精度を誇るんだろうか。
なんというか、才能が無駄になってる気がする。
「さて、撤退戦ね、アルルは化け物じみた性能だったけどこの兵士はどうかしらね。
もうすでに2発の着弾、どうしようも無いでしょうけどね」
「無傷突破も人によっては出来るみたいだしワンチャンあるだろ」
「最初の練習であそこまで苦労してて、なおかつ2回も攻撃を受けているのに?
ノーダメージ突破は出来るのはアルルとかの規格外位よ。
なんでナイフで相手を仕留めると同時に的を発見して排除が出来るのよ」
「まぁ、あいつは何だかんだでハイスペックだからな
変な所が駄目駄目だってだけで」
あそこまでの才能がをフル活用したら相当だろうな。
でもまぁ、それが出来ないのがアルルなんだけど。
「まぁ、それは良いとして、始まったわ、さて対処出来るかしら」
兵士は目の前に現われた的に驚き、少し仰け反った後に短刀に手を伸ばした
だが、もうすでに時間は来ており、短刀を抜き去る前に撃たれた。
「3回目、瞬殺ね」
折角あそこまで行ったのに、ほんの短い間に失敗。
兵士はショックを隠せなかったが、そのまま森から抜け出した。
「あんなのどうやって…」
「まだ20%しか到達してないと言うのに全く」
「20%!?」
「そうよ、何? 半分とでも思ったの? 馬鹿ねぇ
言っておくけど短刀を手に入れるまではただの練習よ。
本番はその後」
「こ、こんな難しい訓練で我々は!」
「なら死ぬ? 言っておくけどこれ位出来ないとあなた達は死ぬわ」
「うぅ……」
「これは所詮練習だ、だからそんな事が言えるのかも知れねぇが
実戦ならお前らはもう死んでる、1回だけの着弾で死んでるんだ」
「……」
「だが、これは訓練、お前らは何度もやり直せるし何度も対策を練られる。
それはありがたいことだぞ? 例え辛くてもやるしか無いんだ」
「さっきも言ったけど、肉壁にはなれるんだから帰りたければ帰れば良いわ!
でも、死にたくないなら死ぬ気で鍛えろ! 腑抜け共!」
「はい!」
うわぁ、普段のミロルとは違ってなんか新鮮だなぁ。
意外とこいつってドS? 意外とあり得そうで恐い。
でもまぁ、こいつはこっちに来てから必死に鍛えたんだろうな。
俺は全部実戦で鍛えた感じだけど。
「ほら! 次よ! 死にたくなけりゃ動きなさい!
さっさと次! この訓練は絶対にクリア出来るわ!
アルルがクリアしたんだからあなた達にも出来るはずよ!
何度も何度も当って砕けて鍛え抜け!」
「はい!」
アルルを引き合いに出しても…とは思うが
あいつの異常な能力を知らない兵士達には良い刺激かも知れない。
「ふぅ、全く、男のくせに腑抜けが多くて困るわ、少しはリオを見習って欲しいわ」
「何で俺なんだよ」
「体調不良でもここまで来てるしね、しかも重体だったみたいだし。
それに、何度も窮地から根性で脱してるんだし、当然だと思うわ」
「嬉しい限りだが、あまり大きな声で言うなよ?」
「分かってるわよ」
「しかしあれだよな、端から見たらこの光景、相当異様だよな。
大人の兵士達が子供に活を入れられて訓練に向ってる光景って」
「それを言うなら、あなたとアルルの日常も相当よ?」
「それは知ってる」
あいつは俺に抱きつこうとして、俺はそいつを返り討ちだからな。
大人が子供に負ける光景ってのは本来なら見られるもんじゃないだろ。
「ま、その話はここまでとして…経過を見ようかしら」
「そうだな」
その後、しばらくして兵士達は全員、第1段階を突破できるようになった。
だが、やはり第2段階を突破できる兵士は居ない。
で、全員まだ応用の事に気付いてなかった。
正直、あの手を使わないで突破できるのはアルルとかメイルとかの
規格外位なんじゃねぇかな。
でも、シルバーとかメルトとかマナも出来そうだけど。
ノエは…ちょっと無理かも知れないけど。
でも、そのメンバーよりも格上のクリークも居るんだよな。
あいつなら銃器が無くても余裕で突破できそうだ。
「よし、とりあえずは全員第1段階を突破だな」
「えぇ、でも時間も結構良い時間ね、そろそろ夜よ」
「…よし、兵士達! 聞いてくれ!」
「は、はい!」
「今回の訓練は一時ストップだ」
「え!?」
「ちょっと、どう言うことよ…」
「そりゃおめぇ、このままだとまともな訓練は出来ない。
だから、仮眠を取らせて再開しよう」
「…でも、時間はあまり」
「休む時間も大事だ、特に考えをまとめる場合はな。
とりあえず、銃はこっちで預かる」
「は、はい…」
「再開は深夜の1時、夜間訓練を行なう」
「え!?」
「実戦で夜戦なんてざらにあるからな、その訓練だ。
当然、集中できない状態でクリア出来るほど簡単な訓練じゃ無い。
だから仮眠を取れ、言っておくけど遅刻は無しだ。
寝坊するなよ? 飯もちゃんと食え、風呂も入っておけ。
後は何をしても良いが、寝るのは忘れるなよ?」
「は、はい…」
1度クールダウンだ、このままだと何も進まないだろうからな。
兵士達は俺の指示通り、全員城の方に戻っていった。
「…リオ、なんの真似よ」
「さっきも言っただろ? 詰め込みすぎても分からないしな。
それに、クールダウンは大事だ」
「分かってるけど…でも、それなら銃は渡しても良かったんじゃないの?」
「は、実物が目の前にあったら気付いちゃうだろ?
こう言うのはやってる最中に気付くか何もない状態で考えて気付くべきだ。
後は相談するのも良いかもな、仲間意識も生まれるだろうし」
「…まぁ、私も少しお腹が空いてはいたけどね。
ま、あなたの判断なら従うわ、私は鞭、あなたは飴だから」
「飴と鞭って奴か? お前は随分と過酷な方を選ぶんだな」
「兵士達から鬼教官と言われようとも、私は私を知ってる人がいるだけで満足よ。
そんな人達が居るんだから、私は喜んで仮面を被るわ」
「意外と楽しんでるんじゃねぇか?」
「ニヤニヤすんな」
「いて、ちょんと殴るな」
「強く殴った方が良い?」
「良いわけ無いだろ、そう言うのはアルルにしろ」
「アルルはドLだから私が殴っても喜ばないわよ?」
「嬉しくないな、と言うか、お前もその名称使うのかよ」
とりあえず俺達はそのまま城に戻り、風呂に入ったり飯を食ったりした。
そして、アルルに任せて生理痛を抑える方法を再び実践して貰った。
いやぁ、意外と楽になる物だな、処方って大事だって分かるな。
何だかんだでアルルって便利で良いな…なんで変態なんだろう。
「……んー」
「あ、リオさんお目覚めですか?」
「んぁ…あぁ、寝てたか」
「はい、マッサージの最中に眠ってしまいました」
「そうか…」
「いやぁしかし、私がマッサージをしてるのに眠るって無防備ですねぇ」
「何もしないだろ?」
「いえ、色々と堪能させて貰いました」
「な! お前!」
「じょ、冗談ですよ!? 堪能したのは寝顔くらいです!」
「うっせ! 笑えねぇ冗談言うな!」
「えっと、ご、ごめんなさい、でも、信頼されてるって事は間違いありませんね!」
「…まぁ、一応は信頼してるからな」
「あれ? デレました!?」
「黙れ!」
「はい!」
ったく…やっぱり起きる度に騒がしくなるな。
なんというか、毎度毎度こいつがうるさいから眠気が覚める。
…意外とそれが狙いだったりして…アルルってそこまで気が利いてたっけ?
まぁいいや、あいつは素っ気ないサポートが多いし…意外と気が利くのも当然か。
「っと、今何時だ?」
「0時10分です」
「後50分か」
「服を着替えて、髪の毛を整えてとすると
私の予想だと20分です、ここから訓練場はゆっくり歩いて10分。
到着時間は0時40分になると思います。
なので、ゆっくりする余裕は十分あるかと」
「ふーん、分かった、とりあえず髪の毛を整えるのは…帽子で隠せば良いか」
「駄目です」
「何でだよ」
「女の子なんですから髪の毛は大事にしないと!」
「お前、男だって髪の毛は大事だぞ?」
「まぁ、そうですけど、ちゃんと髪の毛は整えてください。
髪の毛を整えるのは私がします、服もう用意してます」
「変な服じゃねぇだろうな」
「軍服ですよ、流石に」
「そりゃそうか」
これから訓練に行くのに変な服ってのは場違い感半端ないし。
とりあえず身の回りはアルルに任せて…さて、訓練に行くかな。




