狙撃部隊の訓練
「目的の時間まであまりないから、今回は俺が銃を教えよう」
「はい!」
俺はひとまず狙撃部隊を運用可能にするために狙撃の稽古を付ける事にした。
銃の精度は確かに上がったが、まだ狙撃部隊の腕が伴っていない。
今回は長距離における狙撃という物を教えないといけない。
今の銃器がどのような弾道で動くかはもう検証している。
「さて、まずは手本を俺が見せよう。
今回は1kmの相手を狙撃する所を見せよう」
俺の狙撃魔法なら10Km離れていても狙撃は容易に出来るが
流石に一般の銃器を使う以上、超長距離というのは難しい。
今はまずはリハビリとして1Kmの狙撃をすることにした。
ずっと狙撃魔法で戦っていたからな。
まぁ、もう練習はしてあるし、問題は無いんだけども。
「まずは重力の計算をする、大体どれ位落ちるかは感覚で覚える」
「え?」
「風力もこの場で確認し、感覚で狙撃する」
「…え、えっと」
「と言っても、正直これは何度も練習しないと難しいだろうな。
ここに銃の癖も計算に入れないといけないし、ひとまずは練習だろう。
とりあえず、重力の計算だが、この銃の場合、100mで1cm落ちる」
これも検証して分かったことなんだけどな。
大体感覚で俺は覚えてるから、これが良いのか悪いのかは分からないが。
「で、風が1mで0.1mm動く、まぁ、参考までに覚えておけ」
まぁ、これはアルルの計算で分かったことなんだけどな。
正直、あいつ目が良すぎると思う…何でこんなに目も良いのに狙撃が駄目なんだよ。
「それじゃあ、始めるぞ、よく見ておけ」
俺はスコープを覗いた、あまり倍率が良いわけじゃ無いが狙えるな。
で、風力計算と重力計算をして…相手は案山子だしっと。
「お!」
「ん、当ったな」
よし、なんとか頭に当てる事が出来た。
正直、これで外したら恥ずかしいし、成功して良かった。
「凄い、あんな距離から…」
「これでも狙撃で今まで戦ってきたからな。
ここで外したら恥ずかしいし、なんか精神的に傷付く」
今までどうやって生き残ってきたんだよってなるしな。
そうなれば、魔法で生き抜いてきたとしか言えなくなる。
それはなんか恥ずかしいしダサいしなぁ。
「一応、手本はこんな感じだ、狙撃は基本的に頭を狙え。
だが、なれるまでは胴を狙っての狙撃をした方が良い。
まずは当てる事を第1に考えてみろ」
「はい!」
兵士達は同じ様に狙撃ポイントに移動しての狙撃を始めた。
中々当てる事は出来ていないみたいだな。
で、弾が弾けているところを考えて、どうやら真ん中に狙ってる。
相手に照準を正確に合わせて引き金を引いているんだ。
それではこの距離での狙撃は当らない。
俺の狙撃魔法なら当るのかも知れないが…
いや、多分当ってないな、照準もちょくちょくズレている。
「ふむふむ、見た感じ、真ん中に捉えたわけじゃありませんね。
私の予想だと左に3ミリズレてます」
「3ミリ…ですか」
「はい」
「アルル、お前本当に目が良いよな、なんで狙撃が出来ないんだよ」
「で、出来ますよ多分! ちょっと貸してください! やってみます!」
アルルは銃を借りて案山子に狙いを定めた。
そして、引き金を引いた…が、的外れも良いとこだ。
「うぅ! なんで当らないんですかぁ!」
「お前、手が震えてるじゃん」
「緊張しますもん!」
震えるというか、揺れているのほうが近いのかも知れない。
あんなに目も良いのに手が震えて上手く当てる事が出来ていないのか。
「緊張って…おいおい、所詮練習だぞ?」
「いやぁ、だって恐いじゃ無いですか、反動って言うのがあって
あれで顔に当ったら…」
「お前ドMなんだから良いだろ?」
「私はドLです! リオさんに攻撃されるならまだしも
自分で攻撃を食らうなんていやに決まってますよ!」
「もう訳が分からん…でも、とっさの時は撃てるんだろう?」
「はい、その時は緊張も何もありませんしね」
「じゃあ、その時みたいにやれよ」
「無理です!」
「笑顔で言うな!」
全く…能力は高いのに何でここまで何処か残念かな。
性格もだが、最大の長所を生かすための狙撃も出来ないなんて。
なんとかその弱点を克服して欲しいんだけど…
うーん、多分難しいんだろうなぁ。
「まぁいいや、今は狙撃兵達指導か、そうだな、あと少し右にずらしてみろ」
「はい!」
うーん、今度はずらし過ぎたな。
微調整が難しいのは仕方ないが、やって貰わないと困る。
「ふーむ、えっと、次は」
そのまましばらく狙撃兵達の指導を行ない
ようやく5発に1発は当るほどにまでには成長してくれた。
まさか何時間も指導をする事になるとは。
だが、もっと精度を上げて欲しいな。
何てったって今の練習台はあくまで止まっている案山子なんだから。
戦争になれば相手は動くんだ、その相手を狙撃しないと駄目なんだし
このままだと不味いというのは間違いない。
「んー、少し速い気もするが、次のステップだ。
今度はあの案山子を動かすから、狙撃してくれ」
俺はミロルから預かっていたスイッチを起動し、案山子を動かした。
「今度はあれだ、手本は動きを予想する事だな。
まぁ、今回は同じ動きしかしないから、何度か見ていれば大丈夫だ。
で、着弾するまでの時間を考えて狙撃する。
これも正直感覚が大事だから、練習するしか無いんだけどな。
ひとまずは俺が狙撃をして見るから見ておいてくれ」
俺は狙撃銃を構え、対象の動く速度と動きを予想して引き金を引いた。
「おぉ!」
「よし、上手く行った」
これも少し不安だったが、狙撃することが出来て良かった。
ちゃんと頭を撃ち抜いたしな…正確には顔面なんだけど。
まぁ、相手が人形だとすれば頭を狙おうと顔を狙おうと同じだろう。
「何回か狙撃をして見て、着弾までの時間を感覚で覚えてくれ。
まぁ、そうだな、リズムとかの方が良いのかも知れないけど」
「り、リズムですか」
「まぁ、別にリズムじゃ無くても良いんだけどな。
各々が覚えやすい感覚に結びつけてやってみてくれ」
「分かりました!」
その狙撃も細かく指示を与えながら訓練をさせた。
だが、まだ駄目だな、10発に1発が何処かに当れば良いと言う感じか。
「ふーむ、まぁ、今回はここまでだな、時間も良いし」
「はい」
「次は中距離での戦闘をして貰うから、覚悟しておけよ」
「はい、分かりました」
ひとまず城に戻って色々と考えないと駄目かな。
「うーん」
どうすればあの兵士達が実力を上げてくれるかな。
こんな事を考えてたら、今日は徹夜になりそうだが
時間もあまりないんだ、時間は一瞬でも無駄にはしたくない。
「……」
銃の精度は及第点、一応射程や銃の癖も伝えたが
まだ感覚を手に入れるのは難しいのか。
ずっとひたすらにゲームをやって、いつの間にか手に入れた感覚だからな。
この感覚というのを誰かに伝えると言うのは正直難しい。
「リズムも分かりにくいとすれば、やっぱり感覚…
でも、感覚を伝えるというのは難しい。
あの感覚を文字に例えたらどうなるかな…
引き金を引いて、どれ程落ちるかというのも感覚だ。
一応、スコープに落下を表示する物もあるにはあるが
それを製造するのも難しいし…」
一番例えやすいのがリズム…銃声からどれ程で着弾するまでのリズム。
「だけど、それは難しいから」
……うーん、うーん…うーん、うーん、こ、言葉が出て来ない…
「だぁ! 駄目だ! 例える方法が分からん!」
椅子に背を乗せ、そのまま大きく仰け反った。
視線の先には暗闇の部屋と眠ってるフレイ達がいた。
あんなに大声を出したのに誰1人起きる気配が無い。
まぁ、俺が夜更かしをして上手く行かず大声を出すのはよくあるしな。
悪いとは思うが夜更かしをしないといけない状態では仕方ないだろう。
はぁ、明日は中距離戦の練習でミロルに協力して貰うとして
いやまぁ、中距離戦は遠距離戦よりもやりやすいだろうから良いけどさ。
やっぱり遠距離戦闘をどう教えるかだよ。
はぁ…ん? げ! よく見たらもう4時じゃねぇか!
7時間もずっと考え事をしてたって事か!?
しまったぁ! そ、そろそろ寝ないと…でもなぁ。
「……はぁ」
「リオさん」
「アルル!? お前寝てなかったのか!?」
「えぇ、リオさんが起きてるなら私も起きてますよ」
「…寝ておけば良いのに」
「私はリオさんの護衛ですからね。
因みにリオさんが寝ている時も大体起きてます」
「いつ寝てるんだよ」
「この時間です」
「いつも4時に寝てるのか!? それなのに毎日早起き!?」
「はい」
「…そんなんだから胸が育たないんじゃね?」
「なぁ! いや、あまり騒がしくはしてはいけませんね。
とにかく付いてきてください、息抜きは大事ですよ?」
「はぁ…そうか…分かったよ」
まぁ、アルルの言うとおり行き詰まったら息抜きが大事かな。
「…良い匂いだ」
「やぁ、アルルの言うとおり寝てたんだね」
「リリスさん!?」
「またフルネームで呼んで、リリスで良いよ」
「は、はぁ…いや、でも呼び捨てはやっぱり」
「いやぁ、確かに面倒な名前だからね。
とりあえずはい、うどんを用意したよ」
「うどん…通りで良い匂いだと思いました」
「まぁ、食べてよ! アルルと一緒に作ったんだ」
「あ、ありがとうございます…でも、なんでリリスさんも起きてたんですか?」
「いやぁ、新作を作ろうかなって思って色々と考えてたんだ。
そしたら、いつの間にかこんな時間になっちゃってね。
で、アルルにお願いされてうどんを作ったんだ。
新作の試作品だけど、はい、月見うどん~」
「……見慣れたうどんですね」
「そうなんだよね、これを改良しようかなって思ったんだけど
中々良いのが出来なかったんだ、ちょっと味付けを変えてはいるよ?
でも、やっぱりね、まだまだあまり進行してないというか」
「でも、なんで月見うどんなんですか?」
「そりゃね、アルルが好きなうどんだし、改良したいなーと」
アルルが好きなうどんだから改良したかったのか。
やっぱりアルルの事が大事だと言う事が分かるな。
「まぁ食べちゃってよ、少しは美味しくなってると思うから」
「じゃあ、いただきます」
「うん! 食べちゃって」
…やっぱりリリスさんのうどんは美味しいな、良い息抜きになる。
よし、この後も頑張ろうか。




