襲撃への対策
襲撃の話は真実だと俺達3人は考えた。
どんな時でも最悪の事態を想定して動いた方が良いからな。
その方が、素早く手も打てるわけだから。
「しかし、意外な物だな、もう国は残ってないって聞いてたのに」
「同盟国が壊滅しただけだったのかしら…じゃあ、アルトール国を制圧しても」
「最悪戦争は続くだろうな」
まぁ、大陸なんだし、アルトール国にも分断されてたわけだからな。
情報が寸断されていたとしても不思議では無いだろう。
それはスティール達も理解してたことなんだろうな。
だから、他国との交戦が終わったという話を聞いても驚かなかったんだろう。
「例え戦争が続こうと続かなくても、このままではファストゲージは壊滅です。
そんな先の事を考えたって、どうせ何も変わらないのですから。
今は眼前の火の粉から振り払うべきでしょう」
「…確かにそうね、じゃあ、襲撃対策の為にも
そろそろあれをやりましょうか」
「あれ?」
「えぇ、今回の戦闘は恐らく大規模な物になるでしょう。
当然、部隊の指揮を誰かに執って貰わないといけなくなる。
だから、あなた達ミストラル王国の兵士達に階級を与えないと」
「階級?」
「いや、私達がそんな物を与えられるような立場じゃないことは分かってる。
でも、これをやらないと流石に国民に示しがつかないからね。
現状、最高の階級は大佐。
その階級をあなた達ミストラル王国の最高権力者の方々に付与するわ」
「おい、現状の最高階級はメイルの大尉じゃ無いのか?」
「ファストゲージ側の最高権力者がメイルと言う事よ。
私達は元々あなた達に降るような立場よ?
あなた達、ミストラル王国最高権力者より上や対等の階級は流石にね。
とは言え、あなた達の兵士は下の方に付いて貰うけど…悪いかしらね?」
「いや、無駄に威張り腐る奴が出て来たら困るし、それで良いだろう」
そこから不満が爆発して、内戦になったら洒落にならない。
そうなれば、アルトール国を倒すとかそんなレベルじゃ無いぞ。
「で、フレイ達にはどんな階級が良いかしら?」
「…そうだな、二等兵とかで良いんじゃね?」
「あなたの直属の部下よ? もっと上の方が」
「あいつが指揮なんて出来ないだろうからな。
でも、トラの階級は少しくらい上で良いと思う。
それと、出来れば子供達と大人達で分けた方が良いと思うな。
アルルとかはこっちの部下だから特別扱いとかで」
「まぁ、確かに子供に大人が指揮されるって言うのも不満が出るのかしら」
「多分な、ミストラル王国の兵士達なら問題は無いだろうが
ファストゲージ国の兵士達は不満が出るかも知れない」
「ミストラル王国の兵士達なら問題無いって言うのは。
あなた達の事をよく知ってるから、って事かしら?」
「あぁ、そうだ」
俺達は一応向こうでは英雄扱いだからな。
不本意なんだけど、まぁ、色々と発言権も手に入るし、マイナスばかりでは無いか。
「まぁ、確かにそうでしょうね、ミストラル王国の兵士達から
あなた達の話を聞いていても、実際を知らないと実感も湧きにくいでしょうしね」
「あぁ」
「でも、やっぱりあなた達には階級は付けないとね。
子供大佐って言うのもなんか違う気もするし。
あなたは普通に大佐って事の方がいい気がするわ」
「…まぁ、お前がそれで良いなら別にそれ以上の言及はしないが」
スティールの判断に任せるとしよう。
この問題はどちらかと言えばファストゲージ国の問題だからな。
そこまで深く入るとやはり不満や不安が生じかねないか。
「と言う訳で、今から3週間後に授与式をしようと思うから
あなたはミストラル王国の最高権力者達にこの話を」
「分かったよ…でも、3週間も時間があるか?」
「無いかも知れないけど、3週間は掛かるから…」
「そうか、じゃぁ、3週間の間に襲撃が無い事を祈ろうか」
「そうね」
俺はさっさと最高権力者のメンバーにこの事を話した。
全員反論や文句は無いようで、大人しく受入れてくれた。
こう言う場面で一番反感のを抱きそうなマーギルがいないからな。
あいつは近衛の最高権力者、国で待機してるからな。
レギンス軍団長も向こうで総管理をしてるし。
と言っても、こっちに最高戦力の殆どを移動させてるのは間違いない。
何てったってマーギルとレギンス軍団長を除いた
ミストラル王国最高権力者をこっちに移動させてるんだから。
それから3週間、襲撃は無く、無事に最高権力者のメンバーに
大佐の階級が与えられた。
アルル達には中尉ほどの階級が与えられている。
「後は襲撃の時間だな…いつ、襲撃が来るか分からない」
「じゃあ、そこは私が教えてあげよう」
何処からか出て来たフェミーが俺達の前に姿を見せた。
だが、転移魔法で移動してきたわけでは無く、普通に歩いての登場だ。
「転移魔法で移動してくれば良いのに、わざわざ歩いて登場か?」
「あのね、転移魔法ってそんなに万能じゃ無いんだよ?
私の場合はある一点に転移地点をセットして、そこに移動するんだから」
「へぇ、じゃあ、転移魔法の質としてはうちのウィンの方が上なんだな」
「かもね、でも私はその事違って一緒に移動する必要が無いんだ。
接触した相手をその場に移動させることが出来る。
当然、自分自身も移動が出来るよ」
「ほぅ、多数の移動となればお前の方が有利と。
で、ウィンの魔法を知ってるって事は、俺達から情報を取ったな?」
「まぁね、君達の魔法は大体把握してるよ」
敵に回したら、結構厄介な相手だったかも知れないな。
まぁ、心が読めるわけじゃ無いらしいし、そこまでか。
「当然、君達の魔法の弱点も、正直突けそうに無いけどね。
と言うか、魔法の弱点が分かるって結構珍しいよ。
11人の魔法使い達は魔法の弱点よく分からなかったし」
「何でだよ、俺達の魔法が弱いと?」
「いや、私の場合情報を奪うだけだ、だから、弱点までは分からない。
だけど、君達から得た情報からは弱点が分かっている。
それはつまり、君達が…いや、君が全員の魔法を把握して
その魔法の弱点を知っていると言う事だと思うんだ」
まぁ、確かに俺は全員の魔法を知ってるし、その魔法の弱点も考えた。
フレイは攻撃力は高くとも、遠距離戦には弱い。
だが、接近戦では圧倒的で対策無しの兵器なら圧倒できる。
トラの場合は周囲に浮かせる道具が無ければ攻撃は難しいが。
周囲に浮かせる物があれば自在に操り、攻撃も防御も可能だ。
ウィングは筋力や身長の関係で剣だけでの戦闘では不利だが。
いくらでも道具を召喚出来るから、その場になんでも出せる。
だから、トラとウィングの組み合わせは最高に相性が良い。
「その弱点に対する対策も分かるし、お互いのカバーのしかたも分かってる。
本当に君は仲間の事を良く分かってるね」
「そりゃそうだろ、仲間の事を分かってないと指揮なんて出来やしない」
「確かに」
仲間の相性と仲間の戦い方を考えて行動しないと戦いにくいからな。
当然、俺の指示が曖昧だったり不適格だったりすると
あいつらの命まで怪しくなってしまう。
それだけはごめんだ、絶対にそれだけは阻止しないとな。
俺のせいであいつらが死んじまった、なんて洒落にならん。
仲間の命を握ってる以上、仲間は意地でも護る。
それが指揮官って奴だろうしよ。
「やっぱり君に協力することは素晴らしいことだろうね。
ケミーが憧れるだけはあるよ」
「あっそ、でだ、本題に移って欲しいんだけど?」
「せっかちだなぁ、まぁ良いけどね。
えっとね、私が知った情報によるとだね
今から2週間後に襲撃を始める予定みたいだよ」
「そうなのか?」
「あぁ、前線の街にそう指示があったみたいだ。
私はその情報を奪ったんだよ、魔法でね」
「その魔法の射程が気になるな」
「情報を奪いたいと思った相手を見続ければ奪えるのさ
瞬時にでは無いけどね、距離に比例して時間が延びるんだよ」
「じゃあ、俺達から情報を奪おうとしたらすぐか」
「あまり時間は掛からないだろうけど、いきなり沈黙するから分かりやすいだろうね」
「沈黙するんだな」
「うん、その相手から情報を奪うことに集中してるからね。
多分だけど、この距離なら20秒は掛かる」
「こんなに近くてもそれだけ掛かるんだな」
「あぁ、私がその相手から情報を奪ったときは1時間だったよ」
「良く堪えた物だ」
「なれてるからね、相手も昼寝してたし」
「ふーん」
勤務中に昼寝をする指揮官ってなんだよ、間抜けすぎるだろ。
「その話を聞いたら、間抜けすぎると思うかも知れないけど
私が奪ったのは子供からだから、当たり前と言えば当たり前かな」
「11人の魔法使いからか?」
「そうだね、因みにその子の魔法は洗脳魔法だよ。
触れた相手を洗脳する、と言っても、時間は掛かるみたいだけどね。
10分間触れないと洗脳が出来ないから
捕虜を洗脳する位しか出来ないかもね」
「はぁ…そりゃ厄介だな」
危ない危ない、次に制圧するとしたら、捕虜としての方が良いかも?
とか思ってたから、本当に危なかった。
まぁ、いざ決行、となっても、その選択は流石にしないと思うけど。
だって、この作戦にはウィンも参加して貰わないといけないからな。
流石に大事な妹にそんな危険な役目をして貰うわけにはいかないだろう。
まぁ、前に1度やったけど…あの時は運が良かったけどさ。
出来れば、あの時と同じ様な事はしたくないし。
痛みに多少強いとは言え、痛い物は痛いんだから…
「まぁ、その子から情報を奪ったって事か」
「そうそう、で、そこから知り得たのは2週間後って訳」
「と言うか、眠ってても奪えるんだな」
「勿論だよ、むしろ眠ってる方が好都合だね」
「ふーん」
じゃあ、残り2週間の内にこっちも軍の整理をしないと駄目なのか。
「そうですか、では、あなたはこの場にいて貰いますが?」
「え? あぁ、良いけど…どうして?」
「内通者という可能性もゼロではありませんからね。
信頼したとしても、100%信用するのは流石にね。
ですので、その2週間であなたがこの場から消えた場合。
私はあなたの事を内通者と見なし、信用はしません」
「構わないよ、別に拷問されるわけでも無いなら軽い物だ」
「でも、それだと情報収集が滞りそうだが」
「確かにそうですね、しかしながら誰か1人を連れて行くのは危険でしょう
敵地の真ん中に連れて行かれる可能性だってありますからね」
「信用無いなぁ」
「なので、情報収集の時は馬車での移動にしましょうか。
それならすぐに敵地に連れて行かれることも無いでしょう?」
「じゃあ、その時はウィンと俺が行こうか」
「なる程ね、私達からの襲撃があった場合はウィンちゃんの魔法で逃げると」
「そうだ、あいつの魔法はかなり速いからな、簡単に逃げられる」
「で、ウィンちゃんは君が護ると、うん、確かに鉄壁だね」
「だろ? 変な事はしない方が良いぞ?」
「分かってるよ、そうなれば、君に殺されてしまう可能性も分かってる。
だから、安心して」
「そうか、分かってくれたなら良かった」
お互いがお互いを牽制している関係だが、これ位が良いのかも知れないな。
密着しすぎて裏をかかれたら困るからよ。




