情報奪還
「なら、私達と共同戦線を張ってくれるって事で良いのかな?」
「私は問題無いと認識しましたが、スティール様はいかがでしょう?」
「あなたが良いと言うなら、私はあなたを信用するわ」
「それは良かった…でも、もう1人の交渉相手であるリオ…
君は私の事を信用してくれるのかな?」
「…そうだな」
メイルが信頼するというなら、こいつは信頼に足る人物だろう。
俺はこの子の考えはあまり読めないけど、覚悟は読める。
実際、彼女の行動力は素晴らしい物があるし
本気でミリターク国に喧嘩を売るつもりなのも分かる。
さっきだって、裏があるなら大人しく薄情するだろうが
彼女は自分の足が奪われると覚悟していたのに何も言わなかった。
ただの子供に調教だけでそこまでの覚悟を植え付けるのは難しいだろう。
感情とかを奪えば、まだあり得るかも知れないが
彼女にはあの時、確かな感情という物が存在していた。
恐怖を抱いていた、涙も流していた…調教や洗脳とは思えないな。
「…良いだろう、信用してやる」
「本当かい!?」
「あぁ、泣きべそかいてたし調教とか洗脳じゃ無いんだろうしな」
「は、恥ずかしいな…泣き顔を見せちゃうなんて…
あの子達にも見せたこと無いんだよ?
私、指揮官だからさ、あの子達の前で弱気にはなれないんだ」
「そりゃ随分と貴重な物が見られたんだな」
「まぁ、そうなるね」
「そう言えば、あなたの泣き顔を見たことありませんね」
「そりゃそうだろ、そう簡単に泣くかよ」
「泣かせてあげましょう」
「ふざけるな」
「冗談ですよ、3割くらいは」
「殆ど本気じゃねぇか!」
ったく、俺が泣く事なんて早々ねぇよ。
ま、流石に感情が無いわけじゃ無いから泣くときゃ泣くがな。
「リオさんが涙を流すことは早々ありませんよ」
「げ! アルル!」
「ふーん、長く一緒にいるあなたもみたことがないと言う事ですか?」
「いえ、みたくはありませんが1度は見たことがあります」
「1度?」
「アルル! 言うなよ!」
「何それ気になるね」
「うん、気になるわ」
「正直、楽しい話ではありませんよ? からかえる話しでもありません」
「からかえない話なら必要ありませんね」
「よっぽどの事があったんだね、知られたくないことが」
「それなら良いわ、あまり傷口は抉りたくないし」
け、結構すんなりと退いてくれたな。
まぁ、俺としてはありがたいんだけども。
あの話はしてもいい話って訳じゃ無いからさ。
だがまぁ…うん…クリークの過去に比べれば、まだ優しい方なのかな。
あれは俺で例えれば、折角護った国が崩壊する上に
カナン先生達や皆が死ぬような物だろう。
それに比べれば、あの事件は不幸の中でも幸運を引寄せられたからな。
…だが、今考えても、なんで俺達が街から離れたタイミングで?
普通なら、もっと早い段階で爆発が起ってもおかしくは無かったはず。
無線が来て、その無線に拠点制圧後に調査をしていた兵士達が答え。
制圧されたと判断されての起爆…だが、それが無かった。
……今更だが、それは多分…フレイのお陰だ。
あの時、フレイが破壊した機械が無線機だった。
だから、3回の連絡後に起爆された。
その時、俺達は既にその場から離れようとしていたから辛うじて助かったと。
「……」
「まぁ、色々とあったのは分かったわ。
だから、あなたが強いと言うことも改めて理解できた。
あなたが弱かったら、辛い過去を乗り越えられていないでしょうしね」
「乗り越えてはいないけどな、受入れてるだけだ」
「それが強さなんでしょうね」
「あ、本気の涙以外に涙を見たのは、激辛ラーメンを食べたときです!」
「おま!」
「…は? 激辛ラーメン?」
「あぁ、そう言えばあの時泣いてましたね、忘れてました」
「てめぇ! 人に散々な思いをさせておきながら忘れてやがったのか!?」
「はい、もがき苦しんでる姿は覚えてます」
「いい加減にしやがれやぁ!」
「うへへうへへ、思い出しただけでも涎が」
「黙れ!」
「痛い!」
クソ…さっきまで真面目な話だったのに台無しじゃねぇか!
こいつは本当にギャグキャラだよな! シリアスブレイカーかよ!
「き、君達って、戦ってる時と普段で大分雰囲気違うね…
同一人物とは思えないくらいに」
「大体こいつが悪い!」
「ま、まぁ、確かに殆どの発端はアルルね…」
「愛は暴走する物なのです!」
「黙れ!」
「ありがとうございます!」
「…こ、これが俗に言うドMって奴か、実際見ると気持ち悪いね」
「因みにリオさん以外にこんな事されても嬉しくないので
Mって訳じゃありませんよ? 強いて言えばLです」
「なんだよ、Lって」
「リオさんのLです!」
「……あっそ」
いや、どう言う反応を求めているんだろうか、こいつは。
「ま、まぁ! リオさんが大事と言う事です!」
「…そういう事にしておいてやる」
全く、こいつは本当、こう言う場面でもぶれないんだな。
「…とりあえずだよ、えっと、君達は私達と共闘してくれると言う事だよね。
だったら、一応、私達の目的を話しておきたいんだけど」
「そうだな、それは少し気になる」
「えっとね、私の狙いは国王だよ」
「国王?」
国を手に入れたいとか、子供達を解放したいとか
そう言う理由じゃ無く、国王をどんぴしゃで狙ってるのか?
「子供達の解放じゃないのか?」
「勿論、それは最優先項目ではあるんだけどね。
やっぱり国王をどうにかしないといけないと思うんだ」
「ふーん」
国王をどうにかしないと、根本は解決しないのか?
国王に取って代わってこいつらが指揮をすれば…
でも、それだと付き従う国民も減るかも知れないと
そもそも、そこまで接近すれば俺達が国王の座を奪うはずだ。
「…でも待って、気になるんだけど、共闘して国を奪えたとして
私達とあなた達の関係はどう動くのかしら?」
「そうだね、君達が悪行を成さないなら牙は剥かないけど
それをやらかすなら私達は君達に牙を向ける、と言う事だね」
「…だけど、やっぱりそれはお前らにかなり不利に働くんじゃ無いか?
冷静に考えて、国を制圧した後、お前達が排除される可能性もある」
「その可能性が無いと踏んで君達に接触してるんだよ」
「希望的観測でしか無いだろう?
俺が思うに、お前らの目的はそれでは無く別にあるな。
だから、子供達開放かも知れないと俺は思ったんだが
お前らの狙いは国王だという…どう言う意味だよ」
「……えっと」
おっと、明らかに分が悪そうな表情に変わったな。
確かに判断力もかなりの物だし、トーク力もある。
相手を納得させようとする行動も子供とはかけ離れている。
だが、やはり子供…何処かでボロが出てくるって感じだな。
恐らくだが俺は今、フェミーが隠そうとしている所を突いている。
「そ、その…あれだよ、子供達を解放して君達が撤退するのを防ごうかと」
「そこまで行ってて俺達が撤退する要素が何処にある?」
「……えっと、子供解放だと…その…」
「…やっぱり何か隠してるな?」
「いや…それは無いけど、そ、それよりもほら
き、君達の同盟関係の方が危ういんじゃ無いかな!」
「私達は元々降ってるような物だからね、もう書類もあるし
実質的には私達はミストラル王国の所属よ。
まだ公には発表してないんだけど」
「へぇ…そうなんだ」
「さて、フェミー、わざわざ話を逸らしてまで隠したいのか?
それはその秘密が相当厄介な秘密だと証明してるんじゃ?」
「…えっと、出来れば聞かないで欲しいな、今は、後で話すよ」
「裏切りに関する情報だという危険性があるが?」
「裏切らないって、裏切るかもって思うなら
裏切ったとき、私を殺す手段を用意して、例えば爆弾とか」
「ふーん、なんで爆弾だ? そんな爆弾を何故俺達が用意できると思う?」
「え!?」
「またボロが出たな…お前、もうひとつ魔法を隠してるな?」
「……け、ケミーから聞いて」
「最初の会話でも違和感は多かったんだ…
それに、今回の情報掲示でも少しだけ違和感を感じてな。
距離も結構あるだろうに、その情報をすぐに持ってきてたりな」
「そ、それは…」
一応、逃げ道はある…情報掲示は内通者から聞いたとかね。
後は自分の魔法で移動したから、とかな。
さて、その逃げ道に気付くかどうか。
「……わ、分かったよ、話すよ」
どうやら逃げ道には気付かなかったようだな、観念したようだ。
「…私の魔法は転移魔法と防御魔法、そこは分かってるよね?」
「あぁ、お前から聞いたからな」
「…それと1つ、私には他の魔法がある」
「3つも魔法を扱えるって事!?」
「そうだよ、私の場合は天然だ、貴重な例だよ間違いない」
「…で、その3つ目の魔法ってのは?」
「…情報強奪魔法、対象の知ってる情報を知る魔法」
「ほぅ、そりゃまた凄いな」
「あくまで私の魔法は対象が知ってる情報を情報として知る魔法であって
ケミーの様に感情を読み取ったりは出来ないし、心を読めるわけでも無い。
情報は大体1日位間て記録されるから、考えを読むことは出来ないんだ」
「だから俺が心の中で抱いた逃げ道も気付かなかったわけだ」
「どう言うこと?」
「お前はあの時、内通者から聞いたと言えばこの質問から逃げられたんだよ」
「あ!」
やはり気付かなかったようだな。
「…えっと、内通者から聞いたって事に今からならないかな?」
「もう遅い」
「うぅ! わ、私もまだまだ駄目駄目だなぁ…」
だが、あまり後悔をしている様子はなかったな。
その内、伝える予定だったのかも知れない。
それが少し早くなるか遅くなるかの違いでしか無いと。
「…まぁ、そう言うわけだから、じゃ!」
「おい待て!」
「せ、戦闘になったら合流するから! 君達が奪還した土地に合流するから!
地図とかも置いておくから! じゃあね!」
「待ちなさいって!」
「あ!」
ち、て、転移魔法で逃げやがったか…どうやら、目的はまだ知られたくないみたいだ。
「…そんなに隠し通したい事なのでしょうかね」
「仕方ないだろう…だが、やましい感情は無いだろうな。
どんな目的だろうと、よっぽどの覚悟が無けりゃ、あそこで耐えられないだろう」
「そうでしょうね…まぁ、我慢しますか」
その内、なんとか目的を把握しないと駄目だろうな。
向こうはその内伝えるつもりみたいだけどな。




