国へ戻ってやること
「兵士達の士気は上々、現状も順調に攻略は続いていると」
「はい」
メア姫達を待つまでの間にレギンス軍団長に細かい報告をする。
この報告を王家の方々にしてもあまり意味は無いしな。
そもそも、これは俺が軍団長から貰った依頼だしな。
「しかし、何故そこまで順調なんだ? 少し疑問だな。
確かに君達の存在が大きいのは分かるが
アルル達からの報告では向こうは魔法での戦闘が主らしいじゃないか。
戦力で言えば、君達の何十倍もの戦力だと言うのに」
「そうですね、真っ向から戦ってるわけじゃありませんし」
俺達の主な戦術は奇襲作戦だからな。
だからこそ、魔法を無効化する魔法が厄介なんだけど。
奇襲を仕掛けるには射程内に入るしか無いだろうし。
「だが、その戦術が何度も通用するとは思わないな」
「えぇ、それは自分も思ってます」
だから、出来れば今のうちに戦力を温存しておきたいんだよな。
この手が通用する間に戦力を温存しておけば…ま、向こうは無限に近い。
だが、有限だ…最大の急所を落とせれば戦力は激減する。
その最大の急所は人形達を操ってる魔法近い達だ。
今の所、ミリターク国は戦力を人形達に依存してる。
そこを断つことが出来れば、戦力は激減するだろう。
こっちも一応憑依魔法の魔法使い達を確保しているが
仲間になってくれれば良いが。
「それともうひとつ、現状が優勢だという理由として
ミリターク国が他の国とも交戦しているというのもありますね。
海の向こうは大陸、いくつもの国が点在しています。
ミリタークはその戦力故に最大級の戦力となっていますが
戦力が増えれば増えるほど敵は増えていく…ですが」
「一定以上増えすぎれば逆に敵が減る、と言う事だな」
「はい」
強大すぎる戦力に喧嘩を売ろうとする国はないだろう。
普通は降り、被害を可能な限り減らそうとするはずだ。
だが、今のミリタークはいくつもの国と交戦している。
それは、ミリタークの戦力をこれ以上増やさないようにと
各国が考えているからだろう。
それは、まだ戦う気力を奪いきれる程の戦力では無いと言う事だ。
各国と協力すれば辛うじて撃破の兆しは見えるだろう。
「つまり、我々とファストゲージが勝利するチャンスは今しか無いと」
「えぇ、出来ればすぐに勝負を仕掛けたいところですが
向こうの戦力はまだまだ未知数、まだ時期尚早でしょうね」
「あぁ…だが、やはり不安だな」
「えぇ、最優先殲滅対象は恐らく俺達でしょうからね」
どのタイミングでミリターク国の連中が勝負を仕掛けてくるか分からない。
本来ならのんびりと休んでる暇は無いんだろうが
俺達は一応、瞬間的に移動が出来るからな。
報告があって行動しても間に合う。
ウィンの存在はやはり逞しい。
流石は我が自慢の妹だ。
「ふむ、確かにそうだろうな、本来なら君達はここにいてはいけないんだろうが」
「自分の妹が瞬間移動を使えます」
「あぁ、報告があってからの行動でも十分に間に合うだろうな。
君達は本当に万能だ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「リオ! リオ!」
「どうやら、お迎えが来た様だな、では私はこれでさがるとしよう。
折角の休みだ、しっかりと休む事だ」
「休めるか疑問ですけどね」
レギンス軍団長と分かれ、俺を迎えに来たリサ姫と合流した。
俺はリサ姫の依頼で、すぐにテレビに出演することになった。
そして、状況の説明と自分達が優勢だと言う事を国民達に告げた。
国民達はその報告で一安心したのだろう、活気は復活した。
「ふぅ、これで良いか」
「テレビに出るときのリオさん決まってましたね」
「そりゃな、アルルに細かく見て貰ったし、髪の毛もセットして貰ったしな」
「やはりテレビに出るならきっちりとした格好ですよね!
私としては軍服よりも可愛い系の服が良かったんですけど
今回は英雄としてのテレビ出演ですからね、可愛い系では締まりません」
「だから英雄言うなよ、せめてお前らの前で位、ただの仲間で居たいし」
「あれ? これはデレと捉えて良いのかしら」
「捉えるな!」
「いやぁ、私からして見ればリオさんはいつでも恋人です!」
「一方的な恋人だろうが」
「恋は常に一方通行!」
「黙れ!」
はぁ…緊張した後からかしら無いが、この会話が本当に楽で良いよ。
「さて、これで私からの依頼は完了…それじゃあ仕事はここまでよ!
さぁさぁ! いつもの家に行きなさい! 今日からはナナちゃんも
そっちで生活するようになるんだから!」
「そうなのか?」
「えぇ、ナナちゃんのお世話をしてくれる人も出来たわけだしね」
「そう言えば、人財がどうのこうのって」
「えぇ! 楽しみにしてなさい! 最高の人財よ!」
「ほぅ、それは楽しみだな」
リサ姫がここまで自身を持って言うって事は、よっぽどなんだろう。
どんな人なんだろうな、スゲー気になる。
「さて、ひとまずはその人達の特徴を教えるわ」
「出会った後で良いんじゃ…」
「やっぱり事前情報があると大分違うと思うの」
「いや確かにそうだけど」
「と言う訳で! プロフィール公開よ!」
プロフィール公開って…資料とか無く口で言うだけだろうに。
「まずは1人、この子はなんと女の子なのよ!」
「いや、そこは普通じゃ?」
「まぁ、男が女の子ばかりの家を徘徊ってのは不安だしね。
正直、リオ達は大丈夫でしょうけど、アルル達がね。
その男と恋に落ちたりとかしたら」
「あ、あり得ませんよ? だって私にはリオさんが居ます」
「…まぁ、あなたは大丈夫でしょうけど、他が不安って言うね。
シルバーとか相当美人だし、と言うか、考えてみれば
小さな戦士達の世話係は全員美人なのよね。
もし男の子が来たらハーレム空間待ったなしかしら」
「何か嫌だな、それ」
「そうですそうです! ハーレム空間にいるのはリオさんだけで十分です!」
「俺の何処がハーレムなんだよ!」
「可愛い妹たちが沢山居て、恋愛感情を抱いてる姉が1人。
他の姉達もあなたの事を可愛がってる、ハーレムね」
「中身は違うが外見は女だ、ハーレムとはなんか違うだろ」
「まぁ、実際は振り回されてるだけだからね、主にアルルに」
「フレイとフランもいるぞ?」
「あはは…ハーレムってのも大変ね」
「ハーレムとは違うだろ」
「まぁ、ハーレムだとかそうじゃ無いとかどうでも良いじゃ無いの。
それに、ハーレムって不特定多数が1人にだけ好意を抱いてる奴よ?
あなた達はお互いに全員信頼し合ってるわけだし、何処か違うでしょ」
「確かにそうかもね」
そもそも、性別同じなのにハーレムなのか? いや、中身は違うけどさ。
「まぁ、そんな訳で、1人目の話しに戻るわよ。
えっと、その子は元は兵士よ」
「兵士?」
「えぇ、ミストラル王国に所属している兵士の1人よ」
なんで兵士が? 普通はそう言うのに向いて無いんじゃ…
もしかして、アルルとかシルバー達みたいに
特別に鍛えられた特待生とかなのかもな。
「その子の所属はクリークが指揮する特殊強襲部隊」
「な! クリークの指揮下にいるのに生きてんのか!?」
「そこに驚くのね、まぁ、実際相当よ。
でも、彼女が生き残ってるのはあまり戦線に出ないからでしょうね。
だから、主には雑務とかをして過してたみたいよ」
「ざ、雑務…ですか」
「えぇ、だから、スカウトしたのよ。
彼女は嫌がってたけど、クリークが許可をくれたわ。
どうせ役にも立たない無能だからな、そっちで使ってやってくれってね」
「無能って…」
「まぁ、クリークなりの優しさよ。
自分の近くに居たらいつかあの子も死ぬかも知れないとか思ったんでしょうね」
…あまりあいつに良いイメージは無いが、そう言う事なら…少しは好感持てるかも?
「因みにクリークの指揮下に入った人間で長く生き残ってた兵士は
彼女の他にも2人居たわ」
「居たって事は…今はもう」
「えぇ、不意打ちを受けて、その2人はクリークを庇って死んだわ。
細かい話は聞いてないけど、あいつも辛い思いはしてるのよ」
「そうなんだ…」
そう言う話を聞いてると、意外と悪い奴じゃ無いのかも知れないな。
「まぁ、この話は今は良いわね、彼女の事よ。
彼女の名前はテキール・V・サニーよ。
容姿は青い髪の毛に紅い瞳が特徴ね。
髪型は兵士だからなのか、団子ヘアーが多いわ。
性格は真面目で、かなりクリークの事を尊敬してるわ。
年齢はシルバーと同じくらいかしらね。
服装は鎧の姿しか見たこと無いわね、私服は見たことが無いわ。
真面目が服を着て歩いてるような子だから、きっと頼りになるわ」
「ほぅ、そりゃ良いな」
まぁ、正直真面目な奴って結構苦手なんだけども。
「さて、もう1人は歩きながら話しましょうか」
そのテキールの話を聞いた後位に馬車が家の近くに着いた。
「もう1人も当然だけど女の人よ。
ただ結構病弱で、しばらくの間寝込んでたのよ」
「そうか、病弱ってのは大変だな」
「後、未亡人でね、若い内に夫を亡くして大変な思いをしてたみたいなの」
「やっぱり戦争?」
「えぇ、そう聞いてるわ。
それに、彼女には小さな1人娘が居るの」
「まさかの娘持ち? それなのに住み込みになりそうなこの仕事を?」
「えぇ、お給料も良いしね…で、子供の方は問題無いらしいわ」
「なんで?」
「…そうね、見守るって決めたかららしいわ」
「……え?」
「で、ここで娘の帰りを待ちたいとも言ってたわ」
「……」
病弱で…未亡人で…小さな1人娘が居て…その小さな娘を見守ると決めて…
そして何より、ここでその娘の帰りを待つ…って、それって。
「さぁ、どうぞ…」
少しにやついているリサ姫が、ゆっくりと家の扉を開けた。
その扉の先に立っていたのは…
「お帰りなさい」
トラの…お母さんだった。
「…お、お母さん…なんで…」
「やっと…言えたわ」
トラは何も言わず、家の中で待っている母親に抱きついた。
トラは必死に涙を堪え、必死に喜びの声を抑えていた。
それはきっと、俺達の前だからなんだろう。
俺達の手前、喜んでる姿は見せたくないと。
きっと、俺達の家族の事を知っているからだ。
自分だけ幸せで良いのかと考えて居るんじゃないかな、トラのことだし。
だから、言っておいてやるか。
「…トラ、俺達の事は気にしないで良い、俺達は俺達で幸せだからな」
「……リオ」
「嬉しいときは喜べ、それに、先生にいっつも教わってただろう?
お帰りなさいって言われたら」
「ちゃんとただいまって言わないと!」
「……ありが…とう……」
俺達の方を見ていたトラは、目にたまっていた涙を流した後、母の方に顔を向けた。
「…ただいま…お母さん」
「お帰りなさい」
トラのお母さんはトラを強く抱きしめた。
「ふふ、我ながら気が利くわね! 流石私!」
「…空気くらい読んでください、お姉様」
「な! 私が空気が読めないですって!?」
「ここは静かにしておくべきですわ、お姉様」
「むむむ…確かにそうね」
しかし、あいつが喜んでる姿を見てると、なんだか俺も幸せに感じる。




