安否への不安
「お前ら! 無事か!?」
「あぁ、リオちゃん」
急いでフレイ達が落下した場所から下を覗いた。
その場には何カ所にもかすり傷を負いながらも
まだまだ余力がありそうなフレイ達の姿があった。
「…大丈夫か? かすり傷がかなり多いぞ
服もズタボロだし…特にアルル達とかは」
「まぁ、私達の戦闘スタイルだとあまり力任せは出来ませんしね。
人形の力も相当怪力だったので」
「捌いても無理矢理攻撃を当てようとして来ましたから…」
「でも、マナ先輩は無傷ですよね…流石」
「マナさんは私たちの中でも格闘術が最も強いですしね」
「私は何も出来なかった、人形相手だとちょっと不利かも」
「…でも、怪我をしたのはフレイとアルル達だけなんだな
マナやメルは無傷か」
「ニィ! ちゃんと守ったよ!」
フレイが満面の笑みを見せ、俺に向って親指を立てた。
綺麗な歯がハッキリと見えるな、本気の笑顔だ。
「…ありがとな、フレイ」
「あはは! もっと褒めてよ!」
「良くやったな、フレイ」
「エッヘン!」
「…まぁ、それは良いとして、次はミロル達の安否だな」
「うん、確かに気になるね、急ごう!」
俺達はすぐに下層へ移動し、ミロル達の安否を確認しに行った。
いざ、ミロル達と分かれた場所に移動すると、そこには
10体の人形が転がっているだけだった。
「全部倒したって事でしょうね」
「流石だな、足止めとか行っておきながら殲滅とはね」
「そりゃね、全方向からの剣攻撃なんて
どんな手を使おうと避けようとする人形でも回避不可でしょ」
俺達がぶっ倒れてた人形を見ていると、崩れかかってた天井が壊れ
そこからミロル達が姿を見せた。
「埃まみれだな、もう少しましな登場をすればよかったんじゃねぇの?」
「いやね、下からあなた達の会話が聞こえてきて胸をなで下ろしたら
ついでに地面も抜けたのよ、仕方ないでしょ」
「あっそ、お前の胸、馬鹿みたいに重かったのな」
「こんなぺったんこな胸に重さも何も無いわよ! セクハラで訴えるわよ!?」
「お前の言い回しが悪いんだよ…」
あの流れでこの返し以外に一体どうやって返すってんだよ。
「まぁ、正直この世界にセクハラとか無いでしょうし
そもそもパワハラとかも無いと言うか、仮にセクハラがあったら
最初に訴えられるのはアルルなのよね」
「え? そもそもセクハラってなんです!? なんで私訴えられるのですか!?」
「セクハラは無理矢理嫌がる相手にちょっかい出したりする事よ
後はパワハラもあるけど、これは権力がある人が上から誰かに無理矢理何かをしたり
強引な事をしたりする場合にこれになるわ」
「ん? いや、セクハラは分かりますけど
パワハラってどう言う意味です? 人の下に付いている以上
権力を持っている相手の指示に従うのは仕方のない事じゃ?
それが嫌なら下剋上を目指せば良いって言う簡単な話ですし
どうしても嫌ならその仕事を辞めれば良いだけの簡単な事じゃ」
「さ、流石戦争ばかりの世界ね…私たちの世界じゃ考えられない返し」
「そもそも、上下関係に絶対従順は生き残る為には仕方ないことですわ
生き残る事が最優先ですしね」
「うん、戦争国家恐いわ」
まぁ、うん、生きる事に必死だから人間関係はどうでも良いのかも知れないな。
意外と人間関係に困ることが出来るって、平和だからなんだろうな
側面に命の危機が無いから別の事で頭を使えるって感じか。
「正直、そんな事はどうでも良いかな、殺人だって当たり前の世界だし」
「そうね…うん、まぁ良いわ、今は勝利を喜んだ方が良いわね」
「だな、さて、さっさと仕留めたあの子供を捕獲しに行くか」
「殺したの?」
「非殺傷だよ、殺しちゃいない」
流石に子供の頭を吹っ飛ばすのは無理だからな。
殺しが当たり前の世界だろうと、可能な限り命は取らない。
「そうだ、ここで気絶してる子供達は
お前達で拘束しておいてくれ、俺とアルルは向こうに行く」
「はいはいっと」
俺達はこの場の子供達の拘束をミロル達に任せ
さっき倒した人形を操る子供の場所へ移動した。
「っと、確かここら辺に、うん捕獲だ」
「うぅ…」
「意識はまだあるみたいですね」
「とりあえず拘束だ、アルル」
「はい」
アルルは手慣れた感じにこの子供を拘束した。
何度か捕獲の為にアルルに指示をしてたからな。
やっぱり拘束はお手の物か。
(リオ、移動してた人間の兵士達の拘束が完了したわ。
後、いきなり人形が動かなくなったり、訳の分からない動きをする
気持ち悪い人形も動かなくなったけど、制圧が終わったって事で良いのね?)
「あぁ、完了した、敵の大将も捕獲したぞ」
(相変わらず手際が良いわね、あなたらを敵には回したくないわ)
「前も言ったろ? 俺達がマジでやる気なら俺達だけでお前ら潰せるって」
(あの言葉がマジだって事、分かってきたわ)
まぁ、実際はやってみないと分からないけどな。
でも、その気になればミロルが核弾頭とか作れそうだから
下手したら1人で十分国1つ潰せるんだよな。
で、こっちに飛んで来た場合
なんかフレイが核弾頭を受け止めて投げ返しそうだが。
まぁ、やってみないと分からないけどやりたくないな。
「それで、人間の兵士達の処遇はどうするつもりだ?」
(そうね、少し考えるわ、全員仲間に入れるか、牢に入れるか…
仲間に入れるのは少し危険な気もするけど、牢に入れると言っても
これだけの人間を入れる事が出来る牢なんて…うーん)
「まぁ、判断はそっちに任せるよ」
(分かったわ、しばらく考えてみましょう)
さて、今回の戦闘もなんとか完了。
第二の都市を奪還というのは相当気分が良い。
第一の都市は反撃での奪還…指揮者はフェミー
結局、あいつの狙いはまだ分からないが。
この襲撃に介入してきてないって事はやはり敵では無いか。
それから、1週間後、ようやく兵士達の処遇を決めたらしい。
スティールはあの兵士達を仲間に入れるわけでは無く、牢に入れた。
子供達はシャン達、過去に保護した子供達と合流させることになった。
ただ1人を除いて。
「…まぁ、お前の魔法は危険だからな、絶対に使わないって保証も無いし
放置してたりしたら厄介なのは間違いないしな」
「……それ位は分かってる」
あの人形達の主である彼女だけは牢にぶち込まれている。
名前はリャル、フルネームはリャル・B・ファン。
拷問というか、軽く質問したら答えてくれた。
「お前が魔法を使わないという保証があれば解放もありだが
正直、そんな保証は何処にも無いし」
「……」
「しかし、奇妙なもんだよな、結構子供達は散々な扱いを受けているみたいなのに
誰1人として反乱をしようとしないなんてな。
お前ら11人の魔法使いが協力すれば転覆も可能だろう?
お前の魔法も相当だし、アルトールの戦力の大半は子供達に依存してる。
シャンの魔法で大人を弱らせて、お前ら人形部隊が反乱すりゃ余裕だろ?
対象年齢を魔法使いを対象外にすりゃあ、魔法使い達は動けるし」
「誰も反乱なんてしない…私たちが反乱をしようとする意思を抱くことは無い」
「そうか、何故かなんて聞きゃしないがな。
ったく、下手すりゃケミーとケースだけで転覆可能だろうに」
「なんでその2人を! 何処にいるか知ってるの!?」
「知らねぇ、まぁ、ファミーと一緒にいるって事は違いないが」
「……あなた達が殺したんじゃ無いの?」
「殺しちゃいねぇ、俺達がそんな事をするなら、お前は死んでるし
他の子供達も死んでる」
「……」
全く、ファミー達の狙いは分からないし
子供達が反乱をしない理由も分かりゃしない。
アルトール国は本当に謎ばっかりだなったく。
「……うーん」
もしかしたら魔法を封じる手立てがあるんじゃ無いかとか、何処かで思ってたが
戦争の度にそれは解除される…使わなきゃやっていけられないしな。
だったら、そのタイミングに反乱を起せば解決はしそうだな。
だが、それは無い…子供達はただ従順に指示に従ってる。
精神的に洗脳されているというわけでは無いのは
今まで出会ってきた子供達を見て分かってきている。
洗脳されてるとすれば、あそこまですぐに明るくにはならないだろう。
だから、反乱の意思くらいは抱いてもおかしくないんだけどな。
相当酷な扱いを受けていたみたいだし。
でも、あの子達なら仕方ないのかも知れないな。
火の魔法だけじゃ残念ながらあの状況からは抜け出せないだろうし。
11人の魔法使いが反乱を起さないというのはまともな扱いを受けていたからか?
憑依魔法の使い手達はどんな扱いを受けていたのかは分からないけども。
いや、あの子達はあの子達で大人に見張られているからどうしようも無いとか?
「…うーん」
やっぱり11人の魔法使いが問題になるんだろうな。
「まぁ良い、とりあえずしばらくはここでのんびりしてろ。
お前は別に牢獄にトラウマとかがあるわけじゃ無いんだろ?」
「…無い」
「だろうな、まぁうどんは用意してやるから」
「本当!?」
「あぁ、ちょっと待ってろ」
俺は少しだけ牢屋から出てリリスさんが用意してくれてた
うどんを持って戻ってきた。
「ほれ」
「それは!」
俺がうどんを見せると、リャルは食い付くようにうどんに視線を向ける。
口からは涎が僅かに垂れている。
「お前、うどんすきだな」
「あ! いや! うどんなんてどうでも良い!」
「そうかそうか、じゃあこのうどんは無しだな」
「え!?」
なんだろう、さっきまで真面目な話をしていたはずなのに
うどんの名前を少し出しただけで真面目な雰囲気が崩壊した。
あれだな、こいつは結構食いしん坊なんだな。
それとも、リリスさんのうどんがよっぽど美味しかったのか。
どっちにしても、流石はリリスさんだな。
食いしん坊の胃袋を掴めるって相当だろ。
しかも、11人の魔法使いとして大事にされていたこいつの胃袋を。
でも、少しだけ利用してみようかな、情報を聞き出せるかも知れないし。
「いやぁ、実は俺も腹減っててな、リリスさんのうどんは美味しいし
結構空腹なんだよな」
あ…腹の音が鳴った、狙ったわけじゃ無いけどなってしまった。
無意識だ…実際、お腹は少し空いてたが、俺もうどんが食いたいって証拠か。
「うぅ!」
「お前がうどんなんていらないって言ってくれて助かったよ」
「ま、待って! 食べる! お腹空いたから!」
「でも、うどんなんてどうでも良いんだろ?
このうどんはリリスさんが気まぐれで作ったうどんのあまりだ。
後から牢の飯は来るから、そっちを食った方が腹は満たされるぞ?」
「す、好きだから! そのうどん大好きだから! 毎日行ってたじゃん!
あなたも居たから分かるでしょ!?」
「ほぅほぅ、じゃあ、うどんが食いたきゃ俺の質問に答えろ」
「なん!」
「そりゃな、俺も腹減ってるのにこれを渡そうってんだぞ?
そりゃあ、それなりの対価が無いとなぁ」
「わ…分かった、答えるから!」
うん、チョロいな、チョロい、どれだけ食いしん坊だよ。
「じゃあ、なんで反乱の意思を抱かないのか答えろ」
さっきは聞かないとか言ったが、実はかなり気になってるんだよな。
「そ、それは…」
「楽な暮らしが出来ているからか? 別に反乱しない方が楽だからか?
国王の役に立ちたいからか? それとも何か別の理由があるのか?
辛い思いをしている子供達の事くらい、知ってるだろ?」
「……出来ない、出来ないのよ、あの子がいる限り
例えケミーだって、反乱は難しいんだから」
「誰だ? その子ってのは」
「魔法を無効化する魔法、指定範囲の魔法使いの魔法を無効化する魔法。
この魔法に対抗できるのはケミーの完全コピー魔法位。
だけど、周りが無力化されるんだから、いくらあの子でも
他の兵士達に拘束される…そう言うこと。
それに、今はケミーだっていない…あの子を止めることは出来ない」
無効化の魔法か…なる程なる程、何となく思ってはいたけど
そんな魔法もあるんだな、正面から潰すのは危険だし
かといって、内から潰そうとするのも難しいか。
「これは最高機密…だって国王様は言ってたけど」
「その最高機密をお前はうどんのために漏らしたのか」
「な! それはちが!」
「分かってる分かってる、どうせお前、何だかんだで反乱の意思があったんだろ?
でも、恩があるしすぐには決断できなかった。
で、うどんが欲しいからって言う理由で負けた振りをしてるとかそんな感じだろ?」
「違う…うどんが食べたかったからで、恨みがあるとかじゃ」
「まぁ良い、どっちでも良い、お前のお陰で俺達はその情報を手にした。
それは変わらない事実だし、ほれ、うどんだ」
「うどん!」
真剣な雰囲気だったってのにうどんにがっつくんだな。
まぁいいや、何だって良い、この情報は有意義に使わせて貰おうか。




