化け物人形の主
目的地までなんとか移動することが出来た。
扉の前には20体もの人形が配置されている。
スポットで中の状況も分かるが、中には100の影がある。
この場に何体もの人形と魔法使いと警備がいると言うことか。
追いかけてきた人形の数は軽く見た感じ30体だったからな。
追いかけてきたのは20体…で、中には100体の人形と扉の前には20の人形。
今、視認した感じあの人形は70…中に何体潜んでいるか分からないが
魔法使いの数を最低の30とすれば、70…うち、人の兵士は何人か分からない。
だが、最高で70体のあの人形が中に配置されていると言う事か。
扉の前で待機している人形を合せると90…ヤバいな。
「リオさん…どうします?」
「下層からの不意打ち…と言うのが無難だが」
残念な事に階段は完全に塞がっている。
そっちに行くとすれば魔道兵と共闘し20体の人形を倒す必要がある。
…だが、正面からあの数を相手にするよりはましかな。
「…よし、下層から行くか、少し距離を取って足下砕いて行くぞ」
「確かに私達なら可能でしょうね」
「あぁ、そうだ」
俺達は一時的にその場から離れ、足場を砕き下層へ移動した。
「よし、メルト」
「分かったよ」
「俺達は距離を取るぞ、マーシャも準備」
「分かりました!」
メルトは足を魔道兵に変化させ、身長を伸ばし
腕を変化させ天井を粉砕した。
「きゃぁああ!!」
天井を派手に砕くと、そこから沢山の子供達が落下してきた。
それと同時にマーシャは魔法を発動させ、メルトを引き寄せた。
マーシャの魔法は距離操作、一定の距離なら引き寄せたり離したり出来る。
今回は天井を粉砕すると落下してくるであろう子供達から
メルトを潰さないよいに距離を操って貰った。
「よし、これで」
落下してきた子供達は落下の衝撃で全員気絶をしていた。
この中に人形を操って居る魔法使いがいれば解決だが。
「うわ! 人形がこっち来たよ!」
落下してきた人形はすぐに俺達へ向って攻撃を仕掛けてきた。
どうやら、この中に人形を操って居た子供はいなかったみたいだ。
となると、まだ落下してない子供の中に居るって事か。
上層で残っていた人影の一つが動くと、他も動き出した。
恐らくだが、その周囲に一緒に動いているのは人形で
その移動して居る奴は本丸だ。
「急いであの影をおうぞ!」
「でも、あの人形は!?」
「あの人形達の狙いが魔法使い達の防衛だとすれば、距離を取れば追ってこない」
真面目すぎる故にそう言う応用が利かないのが弱点だ。
だから、この場は急いで距離を取れば安全だ。
でも、どうやらもうすでに指示を変えていたみたいだな。
あの人形達は俺達への追撃を始めた。
「ち、指示をあの間に変えていたって事か」
「どうする? あんなのが10体も同時は流石に厄介よ」
「上さえ潰せればなんとか…だが、足が速いな」
「メルトの魔法でまとめてやるか」
「でも、ここはちょっと広いし、もしかしたら避けられるかも知れないよ?」
「…確かに」
どうするかな、この場は少し廊下が広いから避ける範囲はある。
「ちょっと足止めって感じで行きましょうか
私がこいつらの足止めをするからあんたらは先に」
「いや、私もやる、1人だと不安でしょ?」
「じゃあ、私も…フレイちゃんとリオちゃんは上に行って!」
「おいおい、分かってんのか?」
「えぇ、大丈夫よ」
「仕方ありませんわね、私もお付き合いしましょう」
「私も、私の役目はウィングさんの護衛だしね」
「…そうか、頼んだ」
俺達は5人を残し、急いで上の階層へ移動した。
上の方が人数も多いし仕方ないだろう。
多分、あの5人なら大丈夫だ、ミロルもいるしな。
やっぱり問題は俺達の方だろう、人数も多いし。
「よし、追いついたぞ!」
「……なんか裏切られた、まさか君達は敵だったなんて」
逃げていた人物はうどん屋に来ていたあの女の子だった。
あの子が言っていた事は本当だったんだな。
「悪い事をしたな、でも、うどんは美味しかったろ?
うどん屋の店主は関係ないから安心しろよ。
お前に振る舞ってた料理は本当にお前の為の振る舞ってた料理だったんだ」
「それは分かるけど…やっぱりショック」
「あなたを拘束させて貰います、この国を制圧するために」
「そう簡単に行く? 私はアルトール国11人の魔法使いの1人クイック。
そう簡単には倒せない」
「それでも倒そう」
「どうせ知られても意味ないし、もうとっくに弱点もバレてそうだから言うけど
私は他の操作魔法と違って100体しか操ることは出来ない。
だって私の魔法は絶対指令魔法だから。
私は人形に対し絶対服従すべき命令を3つ与える事が出来る。
この人形達に与えた命令は私を絶対に守れ。
攻撃には当るな、危害を加えてくる相手は確実に仕留めろ。
つまり、私へ攻撃を仕掛けない限り、この人形達はあなた達を襲わない。
この道中でもうすでに体験してるだろうけど
この人形達は体がどんな状況になろうとも意地でも指示を遂行する。
だから私が同時に操作できる人形の数は100なのに
11人の魔法使いの内、1人に選ばれている」
まぁ、あの人形の動きは完全に狂ってたからな。
あんなの人じゃ出来ないし、人形がやっても気持ち悪い。
「何が言いたいかは分かった。
要約すると助かりたけりゃ攻撃すんなって事だな?」
「うん、その通り」
「でもまぁ、それは断らせて貰おう。
仲間達が大変な目に遭ってるからさ」
(人形達の動きが止まったから一気に攻め込むわ!)
「…あぁ、なる程、もう私は後が無いんだ」
「そうだ、このまま俺達が攻撃を仕掛けなくても、お前は助からない」
「なる程、だったらあなた達を倒して一矢報いてやる!
命令変更! 危害を加えてくる奴を排除から
サーチアンドデストロイ! 眼前の敵を1人残らず排除せよ!」
人形達の目が光り、俺達へ向って攻撃を仕掛けてくる。
「無駄だよ!」
メルトは自分の腕を変化さえ、天井を突き破り
目の前に拳を叩き付けた。
その一撃で床が抜け、人形達は落下した。
「くぅ!」
「諦めろ、場所も悪い」
「…まだ!」
な! 足場が! ち!
「リオちゃん!」
「フレイ!?」
「あの人を捕まえて!」
落下する最中、フレイは俺の腕を掴んで上層へ投げた。
「フレイ! 何を!」
「皆のことは任せて! でも、私達の事は任せたよ! リオちゃん!」
「投げたら痛いたいだ、いだぁ!」
て、手加減して投げろよ、いや、投げたんだろうけどもう少しさ。
天井に激突したんだけど…ちょっと痛い。
「わ、私を引っ張ってこの場から退避せよ!」
「な!」
彼女は自分の近くにいた人形に指示を出し、その場から逃げ出す。
ただ走るよりも人形に指示をした方が速く動けるからか!
くそ! 逃がすわけにはいかないんだ!
「待て!」
「命令! 私を護衛しながら迫り来る相手を排除せよ!」
ち! 落下してない人形は5体、その内、一体はあいつを引っ張って移動。
残り4体はあいつを護衛しながら近付いてくる俺への攻撃か!
攻撃を意地でも当てろという命令があるから回避は困難!
となれば、攻撃をされる前に潰すしか無いだろ!
「この!」
まずは目の前の人形をウィンチェスターの狙撃で撃破した。
「なん! 撃破された!? そんな! 絶対服従命令が!」
「そりゃ避けられねぇよな! それは限界以上を越えても無理だろ!」
俺の狙撃魔法は引き金を引いた瞬間相手に着弾する。
射線上に何かが存在していれば姿を見せて相手を撃ち抜く。
弾丸が姿を見せた時には既に着弾しているんだから避けようも無い。
だから俺の魔法は引き金を引いて、着弾するまでの時間差は無く
重力の影響も風の影響も受けず相手を狙撃できる。
そこが俺の魔法がミロルの魔法よりも優れている数少ない特徴の1つで
最大の長所でもある。
「俺の魔法は絶対必中、避ける事が出来ない確実な一撃だ
だから俺は死神と呼ばれてる、俺に狙われた以上は逃げられねぇぞ!」
「この!」
頭が吹っ飛んでも人形は動くのか、面倒だな。
「だったら、足を奪う!」
すぐにボルトアクションを行なった。
ウィンチェスターから薬莢が落下し、高い金属音を響かせる。
「そら!」
超集中状態を発動させ、両足を撃ち抜いた。
瞬間的に2発の弾丸を放てる超集中状態。
自分でもこの力が相当ぶっ飛んでいるというのは分かる。
ボルトアクションであるウィンチェスターの最大の弱点を潰せるしな。
何よりこの状態はウィンチェスターの場合だとより効果も増す。
この力はウィンチェスターを強化する為の力に等しい。
「逃がすか!」
「防御!」
急いでウィンチェスターを構え、彼女を狙うが人形に阻まれる。
ち! あと少し早く引き金を引いてりゃ!
「どけ!」
俺は襲いかかってきた人形の攻撃に合せてウィンチェスターを召喚。
人形は瞬時に召喚されたウィンチェスターを避ける事は出来ず直撃。
流石に人1人を殺せるだけの威力は無いが、結構な破壊力はある。
人形はその形を保ったまま少しだけ後方に飛ばされる。
同時に超集中状態を発動させ、2本のウィンチェスターで人形の両足を撃ち抜き
さっき召喚したウィンチェスターの召喚を解除した。
「逃がすかよ!」
ぶっ倒れた人形を避け、そのまま走り彼女を追いかける。
その移動の間にウィンチェスターから薬莢を排出し次弾を装弾する。
「く!」
曲がり角から飛び出すと同時に、彼女が逃走した方向に待機していた
人形が俺へ攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃をウィンチェスターで防ごうとしたが
人形の腕が気持ち悪く曲がり、ウィンチェスターを回避して攻撃が飛んで来る。
「な!」
ギリギリでその攻撃を避けるが、服は割かれ、軽く横腹から血が出る。
だが、それ以上の攻撃は仕掛けては来ない。
つまり、こいつは俺へ攻撃を当てろという指示を遂行したと言う事だ。
確かにこいつは俺へ攻撃を当てた、擦っただけだが、攻撃は当てる事が出来た。
なる程な、擦っただけでも攻撃が当ったと認識されるというのなら
攻撃を完全に避けるのでは無く、僅かに受ける方が良いのか。
「邪魔だ!」
まぁ、そんな事を考えていても時間は過ぎる。
何もしない時間でも時間は過ぎるし、全く時間ってのは面倒だ。
俺はすぐに左手にウィンチェスターを召喚させ人形を突き飛ばした。
ただの攻撃だと避けられるから、避けようのない攻撃を仕掛ける。
その一撃で少し仰け反った人形の両足を吹き飛ばす。
人形は少し後方に吹き飛び、ぶっ倒れる。
「絶対にお前を倒さにゃいけないんだ! 逃がすかよ!」
「冗談じゃ無い…私の人形達がこうも簡単に倒されるなんて!」
「残り2つ! そして壁は後1つだ!」
そのまますぐに追いかけ、残り一体の人形も排除した。
「窓から逃げて!」
彼女は人形に指示を出し、窓からの脱出を試みたようだが。
「残念だが…俺の射程は無限だ」
俺はすぐに彼女がぶち破った窓から彼女を狙い、引き金を引いた。
「あ…」
俺の狙撃を受けた彼女は人形の手から離れ、地面を転がった。
落下中に狙撃すると危険だけど、落下した後なら大丈夫だろう。
と言うか、あの人形はこの高さから落下しても大丈夫なのか。
いや、違うな、多分城の壁を何度か利用して落下を軽減したんだろう。
まぁ、そんな事をしても俺の狙撃からは逃げられなかったようだが。
「……これで終りだな」
最大の矛を折った、後は時間の問題だろう。
問題はフレイ達の安否だ!




