繁盛のきっかけ
商売というのは中々に大変だと言う事がよく分かる。
あれから、3日間ほど時間が経ってるはずだが
お客さんは未だにあの小さな女の子1人だけだった。
あの子も頑張って呼び込みをしてくれているが、やはり人はあまり来ない。
小さな女の子の言葉で動く人が少ないからだろう。
そりゃあ、仕方ないと言えば仕方ないがな。
「うーん…こう、なんだかなぁ」
俺達は家で今後の対策を練る事にした。
このままだと根を張るどころか、金も殆ど手に入らない。
最悪、路頭に迷うことになるのは間違いないな。
「何とかして、ぐいぐいっと行きたいんだけど」
「きっかけが欲しいね、何か大きなきっかけが」
「このままだと路頭に迷うし…手を考えないと。
味1本じゃ食って貰えなきゃ勝負にゃならないし」
「見た目かな? 見た目を奇抜にするとか…」
「うーん、それは私のうどんへのプライドが許さないというか」
「なら、苦肉の策で1日だけ無料で1杯だけ振る舞えば良いか」
「無料で?」
「きっかけ作りだな、それで食って貰えりゃ、味1本でもいけるはず」
「でも、それって結構…」
「あぁ、在庫への打撃が…でもほら、このままだと期限切れになりそうだし」
「うーん…確かにね、それじゃあ、明日1日だけお1人様1杯無料で行ってみよう」
俺達がたどり着いた結論はそれだった。
味1本で勝負するなら、とにかく1度でも味わって貰わないとな。
「今日は特別! お1人様1杯無料だよ!」
「お?」
やはり無料という響きは何処でも魅力的な物らしい。
お1人様1杯無料として呼び込んだら、客足も増えてきた。
そして、料理を食った人は例外なく美味い美味いとうどんを食べる。
その結果、客足も増え始めた。
無料なのは1杯だけでも、美味しいからとおかわりをする人も出て来た。
この行動は大きな反響を生み、店の利益も増え始める。
そして、最も大きな反響となったのは
エマが連れてきたお客さんだった。
エマは国に滞在している子供達の担当をしている女の子を連れてきた。
この子がお店に来たことで、更に人気を後押しする結果となった。
「っと、うん! 黒字!」
「はぁ、上手く行って良かった良かった、これもエマちゃんのお陰かな」
「あ、ありがとうございます!」
「はい、一杯頑張ってくれたからお金! これで好きなものを買えば良いよ」
「お、お金がこんなに沢山!」
5000ゼル、日給が5000とは結構な物だな。
小さな子供にこれだけのお金を躊躇いなく渡すとは。
ただこの子を利用しようとしたわけじゃ無く。
支援する名目で引き入れたというのが有力だな。
エマもその5000と言う大金を見て、驚きを隠せないようだった。
そりゃあ、ちょっと前まで飯も食えないほどに貧しくて
必死に頑張ってなんとか100集めてた子が
いきなり5000と言う大金を渡されて、喜ばないわけが無い。
だが、小さな子にいきなり5000と言うのは、ちょっと不安だけど。
「沢山お金を貰ったからって、すぐに使ったら駄目だよ?
後々のことも考えて、ちゃんとお金は貯めてた方が良いよ?
例えば…エマちゃん、夢ってある? 大人になったらなりたい職業とか」
「えーっと…無いかも…あ、でも、お姉ちゃん達みたいにお料理屋さんをしたいかも」
「だったら、大きくなったときにお店を買うためにも貯めてた方が良いよ?」
「うん、分かった! 頑張って沢山貯めるよ!」
「それが良いよ!」
「でも…何処に貯めれば良いの?」
「絶対に無くさないところとかだね」
「だったら、お姉ちゃん達に預かって貰う!」
「え? いやいや、そのお金は君のお金だよ?」
「うん! だから、絶対に無くならない様にお姉ちゃん達に預かって貰うの!」
うへぇ、あれだな、普通なら子供が親にお年玉を預けるような感じだな。
あれだろ? 親は沢山お金を持ってたら駄目だとか言って
お金を子供からむしり取って、貯めるとか言っておきながら
子供が忘れるだろうと考えて、当たり前の様に預かった金を使うパターンだ。
でも、冷静に考えればこれって普通に詐欺だよな? てか、犯罪じゃね?
親子だから問題無いって感じ? でも、それだと
親子だから別に殺しちゃっても良いよね? 的な感じになるんじゃね?
親子なら罪じゃ無いなら、殺人も罪じゃ無い…って、事だよな?
「あはは…」
「あ、もしかしてあなたもお年玉の事考えた?」
「お前もか?」
「えぇ、あれって普通に…犯罪よね」
「親子間であれが許されるなら、殺人も許されるって事になりそうだよな」
「あ、確かに、やっぱり親しき仲にも礼儀ありって考えないとね。
あれじゃあ、子供がただの奴隷みたいに感じるわ」
「本当に貯金してあげてる親も中にはいるんだろうけどな」
「そうでしょうけど、証明する手段が無いわよ」
「それを言ったら、親が使ったって証明する手段も」
「そっちはあるわ」
「え?」
「私のお母さん、私のお年玉使ったから」
「まさかの実体験!?」
「忘れてると思ったんでしょうね、小さい頃に欲しい物が出来て
お年玉返してっていったら我慢しなさいって返ってきたのよ。
で、私はお年玉は私が貰ったお金だから私の物でしょ?
だったら、私が何に使っても良いじゃん! ていったら、青ざめてたわ。
結局、使ったって言われて、本気で怒ったら本気で謝罪されたわ」
「お前、本当にその時子供だったのかよ」
「お金の漫画を読んでたから」
「何でだよ!」
「お父さんの影響」
「娘になんてもの読ませてるんだよ!」
そりゃぁ…随分とガメツイ子供に育ちそうだな…
いや待て、そもそも子供にお金とかそう言う難しいのが分かるのだろうか。
「ま、まぁ、多分リリスさんはそんな事しないだろうけど」
「する様なタイプじゃ無いでしょ」
「うん、じゃあ、預かっておくよ、でもはい」
リリスさんは預かった5000ゼルから1000ゼルをエマに渡した。
「え?」
「これ位はあった方が色々と出来るでしょ?
貯金するのも良いけど、使うのも大事だよ?」
「でも…私、欲しい物は…」
「じゃあ、服を買ったらどうかな? 女の子なんだし」
「でも…私の服はこのままでも」
「でも、その服って…男の子っぽい気がするなぁ」
「まぁ、俺の服だからな」
身長的に1番近かったのが俺だったからな。
確かにエマには似合わない気がするけど。
「そう言えば、リオちゃんも男の子っぽい服だね。
アルル、リオちゃんに服とか買ってあげてるの?」
「勿論! 私のお給料から何着も買ってるよ!」
「え? でも、あの服のままだけど」
「着てくれないんだよ! 今回は持ってきてくれてもないし!」
「あんな服、誰が着るかよ」
「可愛いじゃないですか! 犬耳フード!」
「俺は犬が嫌いなんだ!」
「可愛いものに可愛いものを足せば超可愛いに違いないのに!」
「犬は化け物だ! 犬は死神なんだよ!」
「見えない死神に死神呼ばわりされる犬って、相当よね~」
「犬ほど恐ろしい物は存在しない!」
「幽霊は?」
「犬と比べりゃ可愛いだろ」
「重傷ね、でも、ナナちゃんとは普通に接してるのに」
「あいつは大丈夫だ…流石にいきなり来たらビクッとなるけど」
「可愛いワンちゃんに怯えるリオさんも可愛いんですけどね!」
「あれと比べたら?」
「あれと比べるとナナの方がマシかなって」
「まぁ、ナナちゃんは可愛いですししょうが無いです」
犬以下でも別に良いのかよ、あいつ。
「あはは、犬が嫌いなのは珍しいね」
「色々あるんですよ、色々」
「でも、なんでそんなに可愛い服があるのにそんな服を?」
「あんなひらひらした服とか服じゃ無いでしょ」
「服だよ、それが服じゃなかったら女の子は皆裸だよ」
でも、スカートとかひらひらしてるし
女物の服って、結構頼りないし。
男物の方が動きやすいし頼り甲斐がある。
ズボンとスカートだと防衛力が雲泥の差だしな。
ズボンは鉄壁、スカートは風でやられる貧弱装備。
まぁ、見る側としては、絶対領域ってスゲー魅了されるけどな。
あの見せそうで見えない絶妙な防御力は凄まじい。
「はぁ…ただ! 100歩、いえ、10000歩譲ってズボンは良いですよ!
でも! なんで大体が長ズボンなんですか!?
ホットパンツ! もしくはハーフパンツを所望します!」
「夏場はハーフだぞ? 暑いし」
「今はホットパンツでしょ!」
「嫌だよ、あれはズボンなのか? パンツ見えるぞ」
「そこが!」
「黙れ」
「はい」
「まぁ、とにかくだ、俺はスカートは着ない。
だけど、エマとウィンはスカートを履いた方が良いと思うけどな」
「お姉ちゃんと同じ服が良いから…」
「このズボン、気に入ったの」
「……」
あれ? 俺がこんな服装をして居るせいで周りに悪影響与えてる?
いや、確かに何となく感じていた事ではあるよ。
フレイがいつの間にか俺のパンツを履いてて履きやすいから
今度からこれが良いなぁ、とか言ってたり。
ウィンが俺の服装をトコトン真似てたり。
でも…え? まさか新しい子にまで影響与えてる?
な、何でだ? なんで俺の服装はこんなにリスペクトされてるんだ?
意外と小さい女の子って男物の服とか着てたりするからそれかも。
もしくは兄の服装を真似る感じとか…
「リオさんの服装は気に入られることが多いですからね。
このままだと小さな戦士達の子供達、全員がこの服装になるかも?」
「え? あ、え?」
この服装になったトラとウィングを想像してしまった。
トラは意外と似合いそうだけど、ウィンはちょっと似合わない気がする。
そりゃあ、この服は男物だ、普通は似合わない。
でも、なんか小さいのにクールなイメージが強いトラには似合う気がする。
見た目もそこそこボーイッシュだし。
で、俺と同じ服装で似合いそうなのは、後メルかな。
あいつも結構ボーイッシュだし、性格もぽいし。
後は駄目だな、似合わない気がする。
「い、いやまぁ、少なくともミロルは影響受けないだろうし」
「意外と受けるかもよ? リスペクトしてみた、的な感じで」
「いや、無いだろ」
「無いとは言い切れないわ」
「…クソ、俺にどうしろと言うんだ」
「女物の服を着なさい」
「断固拒否する!」
「ピンクのフリフリキャミソール!」
「なぁ! なんでお前!」
「ふっふっふ、私はリオさんが私の服を持ってこないのは想定済みです。
なので! リオさん様の服を私は持ってきたのです!
他にも、猫耳の付いたパーカーに、肉球が付いた手袋。
この悪魔の翼が映えた小悪魔系ファッション!
この水色のブラウスとミニスカート!
大人めに灰色と白のアンサンブルを着せて白っぽいロングスカート!
灰色のシャツを下に着せて、オーバーオールを着せるボーイスタイル!
後はこの腋見せの」
「誰が着るかよ! 絶対着ない! 断固拒否する!」
「何でですかぁ!? 可愛いですよ!?
と言うか正直、リオさんなら何着ても可愛い気がしますけど」
「絶対に着ない! 着てたまるか! 着るわけが無い!」
「でも、猫耳と肉球のリオを見てみたい気はするわ」
「なんで!?」
「コスプレ」
「ふっざけんな! 人を着せ替え人形か何かと勘違いしてんのか!?」
「いえ! 可愛いリオさんを見てみたいだけです!」
「寄るな!」
「あはは、いやぁ、アルルの意外な一面を見た気がするよ。
まぁ、楽しそうだし、私は別に何も言わないけどね」
「止めてくださいよ!」
「あはは! 楽しい事は全力でやるべきだよ」
「俺は全然楽しくなーい!」
アルルの奴め! 無駄に用意周到なのが余計にイラつく!




