恐い夢
「おやおや? 私が眠ってる間に、随分と良い雰囲気に…」
俺達の会話を何処かで聞いていたのか、アルルが扉の影から顔を覗かせた。
さっきまで何処にも居なかったのに、何処から湧いたし。
「お、アルルおはよう! 早いね」
「いやぁ、やっぱりあまり眠ってられなくてね。
考えてみれば、リオさんが起きてるときは起きてるし。
つまり私はリオさんと共に起きて、リオさんと共に寝るみたいな」
「俺を太陽みたいに使うな」
「リオさんは太陽です! 真夏の太陽! 私達の道標です!」
「うっせ、騒ぐな」
「はい、ウィンさんを起すといけませんしね」
随分とすんなり引き下がってくれるな、別に良いんだけど。
「で、なんで出て来たし」
「いやぁ、何だかリリスちゃんとリオさんが良い雰囲気だったので。
なんか、このままだとリリスちゃんにリオさんを取られそうな気がして」
「何言ってるの? リオちゃんはアルルのお婿さんなんでしょ?
そんな子を私は取らないよ、大事な親友を裏切りたくないしね」
「いや、それはあいつの戯れ言ですよ?」
「いえ、私は本気です!」
「誰がお前なんぞを嫁に貰うかよ、変態女」
「ふふふ、私の女子力は圧倒的ですよ?」
「お前の女子力はリリスさんと互角くらいだろ?
それなら、性格の面で考えてもリリスさんの方が格上だろ」
「なぁ!」
「あはは! アルルの方が色々と凄いよ?」
「いえ、女子力以外の面でもリリスさんの方が上ですよ」
うん、だってほら…性格も良いし、後アルルより胸あるし。
「く! 越えられない壁が見えた気がします!」
「壁はむしろお前の方だな~」
「がふぁ!」
やっぱりアルルを弄るのって楽しいな、
ついつい悪い笑みが浮かんでくる。
「うぅ…私は絶壁…」
「認めたか」
「否! 私は大きくなります!」
「えっと…さっきっからなんの話をしてるのかな?
ちょくちょく私の名前が出ているようだけど。
何だか全然付いていけないというか…」
「胸だよ!」
「胸!?」
「ハッキリ言うなよ!」
「くぅ! リリスちゃん! どうしたら胸は大きくなるの!?」
「え? いや、普通に生活してたら大きくなる物なんじゃ」
「だったらなんで私は大きくないの!? このこの!」
「ちょっと待って! 私の胸を揉まないで!」
「ぐぬぬ! なんで私はこんなに小さいのに…むむむ!」
「いやいやいや! 少なくとも私の胸を触っても大きくはならないよ!」
「うおぉおお!」
「止めてぇー!」
「ん? 何? 何かあったの?」
「……ウィン、部屋で寝ようか」
「え? あ、うん」
「ぬおぉぉおお!」
「いやぁー!!」
あの2人はあのままで良いか、なんかお互い楽しそうだしな。
とりあえず、あの2人の声で起きちまったウィンを部屋に連れて行くかな。
「ふぅ、これで静かになった」
「…あのね、お姉ちゃん」
「なんだ? って、なんで少し泣いてる? 怪我でも」
「いや、違うの…少し恐い夢見ちゃって」
「恐い夢?」
「うん…独りぼっちになる夢」
なんでそんな夢を…いや、夢なんて意図して見れる物じゃ無いか。
「そうか、それは恐かったな」
「うん…きっと、もしもお姉ちゃんが私の事を妹にしてくれなかったら。
そんな事になってたんじゃ無いかなって…」
「…どうかな、意外と今より幸せに過ごしてるかも知れないぜ?」
「それは無いよ、だって、今が1番幸せなんだから」
「……そう思ってくれてるなら、良かった」
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なんだ?」
「またあの恐い夢を見ないように…一緒に寝て欲しいんだ」
「……まぁ、良いだろう、眠くは無いけど添い寝はしてやる」
「ありがとう!」
ウィンと同じ布団に入り、お互いに抱き合って静かに目を瞑った。
少し意識を集中すれば、ウィンの小さな鼓動も聞こえてくる。
目を瞑ってても、1人じゃ無いと言う事がハッキリと分かる。
そして…下の方でドタバタしている音も聞こえてきた。
だけど、それは異音には感じない…むしろ心地よかった。
だって、それは1人じゃ無いと言う、何よりの証拠だから。
「お姉ちゃん」
軽くその音を聞いていると、ウィンの声が聞こえた。
「どうした?」
「私ね…もう一つ、不安なことがあるの」
「ん?」
「…お姉ちゃんが居なくなっちゃう事」
「お前、俺が居なくなるって」
「だって、お姉ちゃんは…いつも無茶ばっかり。
もしも…お姉ちゃんが死んじゃったらって」
「……」
ウィンの力が少しだけ増し、俺を自分の近くに引き寄せた。
それでも、ウィンの力はゆっくりと増していき、鼓動も増し始め
手の震えもドンドン激しくなっているのが背中越しでも分かった。
「私…私!」
「…大丈夫だ、お前も守ってくれるんだろ?」
俺は少しだけ力を入れ、ウィンを抱きしめた。
…ウィンの震えが少しだけ止まった。
「……うん…うん!」
涙も止まり、震えも完全に止まり。
涙ばかり流していた顔が笑顔に変わる。
「お前の事も、俺が守ってやるから安心してくれ。
俺はお前のお姉ちゃんなんだぜ? 守るのは当然だ。
だから、お前も守ってくれよ?」
「うん! 私、お姉ちゃんの事を頑張って守るから!」
「ありがとうな、お礼にチューしてやろう」
「本当!?」
ウィンがなんか唇をこっちに…いや待て、冗談だけど。
「いや、冗談だ! 冗談! 流石に兄妹でチューは不味い!」
「あ、そうか…赤ちゃん出来ちゃうから」
「そ、そうそう!」
あ、あっぶねー! 冗談で言ったのにまさか本気にするとは!
俺は絶対に嫌だって言われると思ったのに!
「でも、お姉ちゃんの赤ちゃんだったら、私は頑張って!」
「いや! 頑張らなくてもいい! 兄妹で子供を作ったら駄目なんだ!」
「そうなの?」
「そ、そうそう! あ、後、女同士でチューしても子供は」
「じゃあ、チュー出来るんだね!」
「しま!」
まず! 口が滑った! 何やってるんだよ俺!
「だったら、チューして?」
「……わ、分かったよ、ちょっと恥ずかしいけど」
俺は動揺をしながら、ウィンのおでこにキスをした。
さ、流石に唇は無理だ、妹の唇を奪うとかありえん!
「こ、これで良いだろ!?」
「えへへ、ありがとう」
「……なんかスゲー恥ずかしい」
う、うぅ…誰かに自分からキスするとか…初めてだしなぁ。
おでことかほっぺとか…何処に対してもしたことねぇし。
されたことはあるよ? 先生とかには。
だけど…自分からしたのは初めてだ。
「じゃあ、わ、私も」
「か、顔真っ赤だぞ?」
「お、お姉ちゃんだって…えい!」
ウィンはほっぺか…うーん、どっちにしても恥ずかしいな。
お母さんみたいな立場である先生にされる分には
大した抵抗はなかったけど…妹にキスされるのは…恥ずかしい。
「うぅ…凄く恥ずかしいよ」
「うん、確かにな…」
「あはは、眠れないかも…」
「だったら起きてても良いんだぞ? もう朝だしな。
まだ6時位だけど」
「それなら、もう少し眠りたい…8時位まで」
「随分寝るな」
「だって、お姉ちゃんとこうやって一緒に過ごす時間は
ちょっとでも長い方が嬉しいから」
「はは、嬉しい事言ってくれるじゃないか、じゃ、8時まで寝るか?」
「うん!」
俺も何だか眠たくなってきたしな…8時まで寝るのも良いだろう。
「いやぁ、仲が良いね、やっぱり姉妹って言うのは羨ましいよ」
「そうだね、お互いを大事に出来る関係って良いよね」
朝も抱き合って寝てて、今も抱き合って眠るなんて。
リオさん、口では色々と言っても、やっぱりウィンさんの事が大好きなんだな。
あぁ、これが姉妹愛…なんて尊い!
「はぁ、私も妹が欲しかったよ、アルルもそう思わない?」
「ふふふ、いやぁ、それが私には妹が出来るんだよ」
「え!?」
「20歳も歳の差がある妹が!」
「ほえぇ…凄いね、アルルの父さん母さん。
もう結構な歳なのに」
「いや、まだ36位だよ? 2人とも」
「え!? と言う事は…16歳でアルルを生んだんだ!」
「そうなるね、まだまだ現役! って感じかも」
でも、もしも私がリオさんと結婚したら…リオさん5歳で
私は20歳という、圧倒的な歳の差が!
で、娘が5歳の時、リオさんは10歳。
親子じゃ無くてどう考えても姉妹だ!
でも、娘はリオさんの事をお父さんと呼んで…間違いなく噂になりますね。
「いやぁ、流石だね」
「うん、本当に異常だよ…」
「あはは、あ、そうだアルル」
「どうしたの?」
「私達はどうする? 寝るって訳にもいかないし」
「ベットルームの掃除をした後にうどん屋さんの準備だね。
もしくは手分けして、私が掃除、リリスちゃんはうどんの準備とか」
「じゃあ、そうしようかな、私はうどんの準備をするよ」
「じゃあ、私はお掃除だね」
リオさんが言うには8時には起きるつもりみたいですし
それまでにベットルームの掃除を終わらせて、うどんの用意をして。
あ、朝ご飯も用意しないと…うどんの方がリリスちゃんに任せて
私は掃除と朝食の準備ですかね。
ふふふ、腕が鳴りますよ、リリスちゃんに負けないように
リオさんの胃袋をがっちり掴まねば!
「でも、胃袋を掴むって痛そうですね」
「胃袋を物理的に掴んだら痛いだろうね」
「ハートを撃ち抜くって言うのも相当だね」
「ハートが心臓だとすると…あはは、確かにね」
「胸をなで下ろすとかも変だよね」
お前にはなで下ろす胸なんて無いがな…と、リオさんなら言いそうですけど。
「ほっぺが落ちるとかも!」
「目から鱗も!」
「ことわざって、冷静に考えるとあり得ない事ばかりだよね」
「うん、まぁ、ことわざって大体例え言葉だから当たり前だけど」
「確かに、でも、たまに考えてツッコみ入れるのも面白いかもね」
「1人でやっても寂しいだけだろうけどね」
「うん、それは間違いないよ、と言うか大体の事がそうでしょ」
「確かに」
1人で勉強するよりも複数人で勉強する方が楽しかったり。
1人で体を動かすよりも、何人かで一緒に動かした方が楽しいし。
1人で戦うよりも、何人かで戦った方が心強いし
何より生き残ったときの喜びは凄いだろうしね。
だけど、どうしても1人になる事はあるだろうけど。
「でも、そう考えると2人で1つの事をやった方が楽しいかも!」
「確かにそうかも知れないね」
「じゃあ、仕事を分けるのは無しで、2人で1つの事をしてみようか」
「効率は悪いかもだけど、確かにそっちの方が楽しそうだね」
「じゃ、やろうよ! くぅ! アルルと料理を作るの何年ぶりかな!」
「あはは! 昨日一緒に作ったじゃん」
「いやぁ、確かにそうだけど、今日はなんて言うか特別って言うか!」
「リリスちゃんはどんな時でも特別でしょ?」
「言われてみればそうだったね! 昨日と同じ今日は無いし」
「じゃあ、今日は今日でしか作れない料理を作っちゃおうか」
「うん! さぁ、美味い物作っちゃうよ! 目指せ! 商売繁盛!
笑顔の大盤振る舞いだ!」
「私達は振る舞って貰う立場だけどね」
「きっかけを作るのが私達の役目さ!」
「そうだね、よし! 頑張ろう!」
「オー!」
2人で料理って言うのも良いかも!




