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商売開始

「本日開店! 極上のうどんはいかが-!」

「開店セールでお安くしていますよ!

 何と今なら300ゼルが150ゼル!」


何となく、こう言う呼び込みは値段の単位をしくじることがある。

ゼルはこの国の通貨でゴールドはミストラル王国だ。

国によって通貨の名称は違うし、長く円でやってたからな。

そのせいで、結構円と言ってしまうことがある。

まぁ、アルル達はその事を知っているから、特に何も言わないけどな。


「うーん、やっぱりお客さん来ないね…もう夜だよ…」

「新天地で何かをしようってなるとこんな物だよ

 最初から人気なんて出やしないよ。

 だから、何度もやり続ければ良い、それだけだよ」


リリスさんは笑いながらアルルの言葉に応えた。

これがゼロからあそこまでの店を作り出した人の言葉か。

これ位のポジティブさが無いと、ゼロから何かを手に入れるのは無理か。


「そうだな、このまま頑張るか」

「うん、最初の1人を満足させないとね」

「すみません…」

「あ、いらっしゃいませ!」


最初のお客さんはボロボロの服を着ている女の子だった。

こんな女の子が夜の間に?


「うーん、子供が出歩いてもいい時間じゃ無いと思うよ?

 お母さんは? 1人で歩いて恐ーい人に襲われちゃっても知らないよ?」

「……いません」

「え?」

「私に…お母さんは…いません」

「お、お父さんは?」

「い、いません…」


女の子のお腹が鳴った…相当腹を空かしているみたいだ。


「えっと…その…100ゼルしか無いんですけど…お願い…します」

「んー?」

「もう…お腹が空いて…」

「ん! 分かったよ!」

「あ、ありがとうございます!」


あリリスさんは彼女から100ゼルを貰い、うどんを1杯差し出した。


「お、お金取るのね」

「そりゃあね、これでも商売なんだ、貰う物は貰わないと。

 不幸だからってルールからはみ出しちゃ駄目だからね。

 でも、普通よりも多めにしてるから、美味しく食べてね?」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


彼女は涙を流しながら、リリスさんが出したうどんを食べた。

幸せそうだった、さっきまで目には希望も何も無かった少女だったが。

リリスさんの料理を食べている時は本当に幸せそうだった。

一瞬の幸福を噛みしめ、最高の瞬間を楽しんでいるようだった。

涙も流し、それでも笑顔は止まらない。


「…でも、お金は取らない方が良かったと…思うけど」

「ウィンちゃんだったよね、うん、あのね、お金って大事なんだよ。

 それに、この子はご飯を食べたいから、頑張ってお金を集めた。

 色々な所を探したんだと思うよ、あのボロボロの服もきっとそうだ。

 ただで料理を振る舞うのはきっとその頑張りを否定することになると思うんだ。

 私は最高の気分で料理を食べて貰いたい。

 頑張りが報われて、美味しいご飯にありつけた…それがきっと1番の幸せさ。

 それに、与えるばかりってのもあまりよろしくないしね」


お金ってのはやっぱり大事なんだろうな。

お金は全部何かの対価なんだろう。

頑張りへの対価、結果への対価…それが正しい評価だけとは限らないがな。

頑張っても結果が残らなけりゃ金は貰えねぇし。

結果さえ残れば頑張ろうが頑張るまいが関係ない。

こう考えると、ただ結果への対価しか無いのかも知れないな。


「ありがとう…ございます! お、美味しかったです! 本当に美味しかったです!」

「うん、お粗末様でした、美味しい物を食べるのって良いでしょ?」

「はい!」

「んー…そうだなぁ、お嬢さん、お名前はなんて言うのかな?」

「えっと、エンニース・マーマル、皆からはエマって呼ばれてた」

「ほうほう、じゃあエマちゃん、私達の事手伝ってくれる?」

「え?」

「いやぁ、私達もお客さんがあまり来なくて困ってたんだよ。

 エマちゃんが私達のお店の第1号なんだ」

「なんで? こんなに美味しいのに…」

「誰も美味しいって知らないからね-、だからさ、エマちゃん。

 私達の料理が美味しいって色々な人に話して欲しいんだよ。

 それでお客さんが沢山来るようになったらお金を上げよう」

「本当!?」

「うん、で、お客さんが来ない場合でもエマちゃんの為にお料理を作ってあげるよ。

 お金も少し上げるけど、あまり沢山は無理かな」

「お客さんが増えたら、お金が沢山貰えるの?」

「そうだね、エマちゃんの頑張りに対するお礼だよ。

 この時もお料理は作ってあげるよ、どうかな?」

「私! 頑張る!」

「おぉ! お姉さん嬉しいなぁ、あ、お家が無いならお家も」

「本当!?」

「うん! でも私達と一緒になっちゃうけどね」

「大丈夫!」

「本当? あはは、嬉しいよ」


ほぅ、まさかこの子を呼び込みとして利用するつもりなのか。

利用というか協力して貰うって方が近いかも知れないけどな。

確かに俺達だとあまり呼び込みには向いていないと思う。

確かに発声言語は同じだが、アクセントが違うかも知れないしな。

一応、文字も違うみたいだが、そこはちゃんと勉強してるから問題無い。

アルルも把握してるし、俺も把握しているからな。

一応、注文票は俺とアルルがこの国の字で書いているから大丈夫だがな。


「でも、今日はもう遅いし休もっか、明日お願いできるかな?」

「うん!」

「よーし、じゃあこっちだよ」


そう言えば、寝床なんてあったっけ。


「はい、ここ」

「…こりゃまた、随分とボロボロですね」


リリスさんに付いていくと、そこにはかなり老朽化をしている

少し大きめの家に案内された。

誰かが住んでいたような痕跡はあるが。

…少なくともこの状態で人は住めないだろうな。

窓から見た感じ、家具もあるが…埃だらけだな。


「最初はこんな物だよ、いやぁ、ボロボロ」

「と言うか、何処で?」

「この家の持ち主を説得してただで譲って貰ったよ」

「説得って…良く出来ましたね」

「向こうもこの建物を煩わしく思ってたみたいでね。

 一時的に貸して欲しいってお願いしたんだ。

 しばらくの間貸して貰えば、中の施設も充実させて返すってね。

 向こうもそれなら後で再利用も出来からと了承してくれたよ。

 私の思惑通りの反応で良かった良かった」

「……なぁ、アルル」

「はい、何でしょう?」

「リリスさんって、実はかなり商売上手?」

「そうでしょうね」

「どったの?」


な、何か…最初に会ったときの性格から商売は得意じゃ無さそうに見えたが。

なる程な、あれほどの店を作り出したのは料理の腕だけじゃ無かったと言う事か。

料理の腕も当然ながら、商才もかなりあったからこそあそこまで。

なら、あの子から貰った100ゼルも元が取れるだけはあったんだろう。


「まぁ、こんな感じだけど…えっと、どうかな?」

「うん、大丈夫、雨風を凌ぐ事が出来るなら私は何処でも」

「大変だね、それじゃあ、入ろうか」

「うん!」


しかし、埃っぽいな…まぁ、ボロボロの家だし当然か。

まぁ、野宿になるよりはマシだな。


「まずは掃除だね、いやぁ、気が遠くなりそうだよ」

「アルル、お前が掃除の指示をしてくれ、俺は掃除はあまり得意じゃ無いし」

「分かりました、では、指示を行ないましょう」


俺達はアルルの指示に従い、この家の掃除を始めた。

ちょっと動く度に埃が…


「ケホケホ、あぁもう、埃が煩わしい、ミロル、マスク出せる?」

「出せないわ…試したけど出ないし」

「試したんだな…と言うか、出ない物があるとは意外だ」

「どう言う物が出せて、どう言う物が出せないのか…未だに分からないわ」


うーん、じゃあ、この埃を我慢しながら掃除をしないと駄目なのか。

何か面倒だよな、こう言う埃っぽい場所って。


「リオさん、はいこれを」

「ん? お、なんだこの布」

「流石に埃まみれの部屋で何も無いのはキツいでしょう?

 なので、頑張って作りました」

「いつの間に…と言うか、どうやって?」

「服の布を使いました、ちょっとだけ裸けましたよ?」

「知らん、まぁ、埃がウザいと感じてたのは確かだから貰っとく」

「あはは…ちょっとは心配とかしてくれても良いと思うんですけどね」

「なんで心配しないといけないんだよ」

「だってほら、私の様な若い女の子が少し裸けているんですよ?

 男の人に見付かったら襲われちゃいますよ~」

「ここは家の中だぞ? そもそも、お前の事だ。

 別に襲われようとも返り討ちだろ? 心配も何もねぇよ」

「ある意味信頼されているという感じでしょうか。

 信頼されるのは嬉しいので良いんですけどね」


こいつの格闘技術は相当だからな。

ただの一般人に組み付かれたところで容易に返り討ちだろう。

意外と男って女の子とを侮ることが多いからな。

不意打ち仕掛けて力尽くで勝てる、とか考えるケースが多いだろうしな。

それならアルルの技術だと簡単に返り討ちだろう。

例え後ろから組み付かれようと簡単に抜け出せるだろうし

正面からなら組み付かれる前に返り討ちに出来るだろうしな。

スタンガンとかあっても、こいつならケロッとしてそうだし。

よくある睡眠薬を食らっても、眠る前に逃げ出しそうだしよ。

複数人で囲まれても全部返り討ちだろう。


「うん、やっぱお前は別に襲われても全部返り討ちだな。

 スタンガン食らっても睡眠薬嗅がされても

 例え包囲されようとも、後ろから組み付かれようとも」

「まぁ、全部簡単に返り討ちでしょうね。

 ただの一般人相手なら容易ですよえぇ」

「襲ってきたのがリオだったらどうなるの?」

「勿論全てを受入れますとも!」

「襲わねぇよ、お前みたいな変態女」

「襲ってくださいよぉ!」

「そもそも、お前は襲わなくても胸を揉ませろ、とか言えば」

「勿論! 今からでも揉み揉みしますか?」

「たとえ話だボケ! 誰がそんなお粗末な胸を揉むか!

 と言うか、揉めるような胸無いだろうが!」

「がは! い、いえ、あ、ありますよ! 一応ありますよ!」


無いだろうなぁ…限り無く無いだろうなぁ。

着てるから小さいって訳でも無いしなぁ。


「そんな哀れむような目で見ないでくださいお願いします!」

「まぁ、あれだ…何度も言うが需要はあるだろうから頑張れ」

「リオさんに求められなければ意味がありませんよぉ!」

「はぁ…胸の話はそこまでにして、そろそろ掃除を始めない?

 このままだとドンドン遅くなるわよ?」

「あ、そうですね、頑張りましょう!」


ひとまず俺達はアルルの指示通りに周りの掃除を始めた。


「人数が多いと少し早いかな」


俺はアルルに指示されたとおり、ベットルームを掃除していた。

このベットは叩けば叩くほど埃が出て来て全部取るのは面倒すぎる。


「はぁ…ったく…ん?」


俺が少し疲れて一息吐い時、ベットの下に本があるのに気付いた。

どうせ少し退屈してたし、ちょっと見てみようかな。


「ん…本とか全部持って帰れば良いのに、こう言うの、どうすれば良いか

 正直俺達だけでの判断って難しいから嫌なん…」


……え、エロ本!? 馬鹿な! エロ本だと!?

ベットルームだしそう言う奴か!? そう言う本か!?

こ、これは…まさかの無修正…だと。

お、落ち着け俺! こっちに来てからそう言うのご無沙汰だったとは言え!

そうだ! 冷静に考えるんだ! おち、お、落ち着けME!

こう言うのは駄目だ! 駄目駄目! 駄目だって!


「……」


で、でも、ここには俺しかいないし…ど、どんな内容かを見てみるのも…

そうだ! もしかしたらここら辺の情報を仕入れる何かがあるかも知れない!

こう、あれだ、地図とかがはせてあったりするかも知れない!

そ、そう言うのを探す為だ、それを探す為に俺は仕方なーく読むのだ!

け、けけ、決してやましい気持ちがあるからって訳じゃ無い!


「…うぉ」


あぁ、デカいぞこれ! スゲーデカいぞ! 超デカい!

シルバーよりデカい! うへへうへへ、は! 駄目駄目駄目!

やましい気持ちがあるわけじゃ無いんだ! ち、地図かあるかもで探してて!

むぐぐ…男だったら絶対に下の方がむくっとなる奴だ!

でも、女だとどうなるんだ? 女の子がエロ本を読むってあるのか?

読んだらどうなるんかな? …何か嫌な予感がするなぁ。


「だ、駄目だ、じ、時間を無駄にする事になっちまう…

 よし! 掃除を再開!」

「……リオさん、やる気回復しましたか?」

「ひゃへ!?」


後ろの方から…聞き慣れた声が聞こえて……そ、そんな馬鹿な。

何でよりにもよってこいつが…いや、そ、そんなはず!


「あ、あ、あぇ、えっと、あ、あ、アルル」

「そんな震え声で反応しなくても」


ば、馬鹿な! アルルだ! 何でそんな!


「い、いや、え、えっと」

「冷や汗凄いですよ?」

「こ、これはち、違うんだ! 何か情報があるかなって!」

「いえ、分かりますよ? リオさんは男の子らしいですしね

 そう言う本を読むのは至って自然なことで」

「ちがーう! やましい気持ちがあったとかそう言うのじゃ無いんだ!

 じょ、情報収集! 情報収集! そう! じょ、情報収集なんだ!」

「でもリオさん、そう言うのを読まなくても、私が!」

「だから違うってのー! これは情報収集だったんだぁ!」


……もう立ち直れない気がする。

でもまぁ、ミロルやウィンに見られたわけじゃ無いから…まだ良いか。

ウィンに見られて、変な知識でも付いたら大変だし。

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