訓練
「昨晩はお楽しみでしたね」
朝起きて、訓練をするためにアルルの部屋に移動すると、いきなりふざけた事を抜かしやがった。
「・・・・そろそろ、殺すぞ?」
「真剣な表情で言わないでください、恐ろしいです、マジに聞えますから」
「マジだから」
俺はウィンチェスターを召喚して、アルルの眉間に銃口を突きつけた。
「いや! 本当に勘弁してください! 死にます! 死にますよ! 私!」
「はん! これで懲りろ」
どうやら、少しは反省したようだし、ウィンチェスターを戻してやるか。
「はぅ・・・・怖すぎですよ、心臓に悪いです」
「ふざけた事ばかり抜かすお前が悪い、今度は指が滑るかも知れないから気を付けろよ」
「あ、あはは、そ、そうですね、指は良く滑りますから、あはは・・・・気を付けます」
「よし、肝に銘じてろ」
「は、はいです」
さて、こいつにゾッとするような体験をさせてやることが出来たな。
「それじゃあ、訓練するから色々と指示を頼む」
「はい、分かりました、色々とお教えしますね」
「あぁ、頼むぞ」
「では、やはり外でやる方が良いですよね、部屋よりも雰囲気出ますから」
「雰囲気って、大事なのか?」
「大事ですよ、愛の告白をする場所が同じ言葉、同じ服装、同じ姿、同じ演出だとしても
そこが部屋の中か満点の星空かの違いで告白の成功と失敗は別れる場合もあるくらいです」
何で雰囲気の説明で、全く訓練と関係の無い告白の話が出て来たし。
「それは、告白の雰囲気だろう? 訓練に必要なのか?」
「はい、訓練も同じですよ、特に精神的な訓練となれば最重要です
そうですね、例えば必死に鍛えているのを応援してくれるのが
むさい男達か、可愛い幼女かの違いでもかなり変化があります!」
「・・・・まぁ、うん、否定はしない」
少なくともむさい男よりはマシだろう、本当は綺麗なお姉さんに応援されたいが。
「他にもですね、何も音が無い空間で集中するのと、環境音がする場所で集中するのじゃあ
集中の精度も違ってきます、環境音がある方が無音よりも安らぎますからね」
それはよく言うよな、環境音がある方が人間は集中できるとか聞いたことがあるし。
あくまで聞いたことがあるだけだがな。
「とまぁ、こんな感じに雰囲気とは大切なんですよ、何にしたってね
仕事をする場合でも、自分が最も過しやすいと思った雰囲気の方が
実際は同じであろうと本人のやる気はかなり変わりますから
集中して何かをこなす以上、雰囲気は大切ですからね」
「なる程な、言えてる」
こう、あれだよな、部屋でも普段同じ位置に整えておいてあるのに
それが微妙にずれていたのに気が付いたら、なんか違和感を感じるみたいな感じだな。
そんな環境でゲームしても気になって集中できないし。
「と言うわけで、雰囲気重視で行きますよ! それでは、行きましょう!」
「分かった、何処でやるのかはお前の判断に任せよう」
「お任せください! 最高の環境で訓練しましょうね!」
俺はアルルに付いていき、こいつが言う最高の環境という場所に移動した。
「はい、ここです!」
そこはフレイ達が修行をしている場所だった・・・・何でここ?
こんなの確実に集中できないだろう!? 金属と金属が打ち合ってるような音が鳴り響いてるし!
色々と壊れている、と言うか粉砕しているような音、沢山の物が同時に複数落ちているような音。
「・・・・スゲー騒がしいんだけど?」
「やっはりね、訓練は周りが訓練している場所でやった方が効果的だと私は思うのです!
それも、皆さんはリオさんのお友達! 皆さんが訓練して成長している音を聞きながら
成長をしている姿を想像して、負けじとやる気になると思うのです!」
つまり、あいつらが必死に鍛えている音だけを聞きながら、その状況を想像して
自分の頭の中でそいつらと切磋琢磨しろと? いくら何でも高度すぎる気がするんだが。
でも、確かに周りが鍛えている環境音を聞きながら鍛えるのも面白いかもな。
「分かった、じゃあここでやるか、戦闘中に集中する訓練にもなりそうだし」
「そうでしょう? 戦ってる最中に静か、何てことはあり得ませんからね」
「確かにな、と言うわけでだ、さっさと始めよう」
「はい、それでは前にやったときのように構えてくださいね」
俺は前の訓練でやったように座り、精神統一と手元への魔力集中を行なった。
今回はあの時とは違い、荒い鼻息は聞えない、その代わりに激しい環境音が響く。
「はい、そうです、ゆっくりと精神を集中させてください」
「・・・・・・」
アルルのその案内に従い、俺はゆっくりとゆっくりと精神を集中させていった。
すると、不思議なことに周りの音が大きく聞えるようになってくる。
精神を統一すると、音まで大きく聞えてくるんだろうか。
激しい剣同士のぶつかり合い、木製の何かを破壊するような音
金属、木材、石などを落とす音、ゆっくりとその音がなんなのか理解できるようになっていく。
それ程鮮明にその音が何か分かり、分析することも出来る。
「・・・・・・」
「ふーむ」
ん? アルルの心音が聞える気がする、少し鼓動が早いな。
少し興奮してる? いや、そうじゃないか、どっちかと言えば、焦って。
「リオさん、止めてください」
「・・・・え?」
不意に聞えた言葉、何でだ? 今回は一切無理はしていないはずだ。
まだ精神統一は出来る、まだ集中すれば色んな音が聞き取れただろうに。
「はぁ、はぁ、な、なんだ?」
集中していた状態を解除すると、ものすごい息苦しさが俺を襲ってきた。
急すぎる謎の呼吸困難、な、何があったんだよ。
「やっぱり、呼吸してませんでしたからね」
「はぁ、はぁ、はぁ? ど、どういうことだ?」
「リオさんが精神統一をしていると事を見ていると、ゆっくりと呼吸が弱くなっていました
そして、さっき止めたのはリオさんの呼吸が完全に停止して1分以上経ったのに
一切苦しそうな表情をしていなかったからです」
「はぁ?」
どういうことだ? 完全に呼吸が停止してた? 俺にはそんな感覚は無かった。
完全に精神を統一して、音以外に意識が・・・・あ、そう言えば、あるべき筈の音が無かった。
呼吸音、あそこまで精神を統一していたのに、自分の呼吸の音も、し、心臓の音も聞えてなかった!
「これは」
その事を思い出し、自分の胸に手を当てて気が付いた、異常な程に鼓動が早い。
呼吸を止めていたからなのだろうが、ここまで心拍数が上がるなんて。
「どうやら、リオさんは極限まで集中すると呼吸が止まるようですね」
「マジかよ」
「はい、自壊する事は無いでしょうけど、私が止めてなければ回復したときに動けなくなってた
可能性があります」
「全く妙な能力だな、なんだよそれ」
「そうですね、リオさんは精神を極限過ぎるほどにまで集中できるようです
その結果、邪魔だった呼吸が止まったのだと思います、最悪の場合、心臓も止まってた可能性も」
「あー、多分心臓も止まってたぞ」
「へ?」
「今、スゲー胸が痛いからな」
集中しすぎると俺は呼吸も心臓も止めるとは・・・・あー、集中力が上がりすぎるのも怖い物だな。
「つまり、心臓が停止してもリオさんは1分以上行動できるんですか・・・・ゾンビですかね?」
「いや、多分あれだ、鼓動が聞えないほどに小さく動いてるんだよ、多分な」
流石に完全に停止までしたら、確実に死んでいただろうしな。
でも、小さな鼓動が長く続きすぎると停止する可能性が出てくる。
そうなれば俺はお陀仏、精神統一しすぎて死ぬとか洒落にならないな。
「あぁ、全くなんだよ、面倒な・・・・適性SSとか聞いたが、欠点だらけじゃ無いか
魔力の容量は少ないし、集中しすぎると呼吸が止まるし、心臓も動きが鈍る
接近戦には弱いから、近寄られたら圧倒的に不利だし、適性って何だよ」
ここまで弱点が露見してくると、どうしても自信がなくなってきてしまう。
魔力が無いから長期戦には弱いし、近寄られたら状況によるがほぼ抵抗が出来ない。
ボルトアクション以外の狙撃銃を出そうとすると召喚までのタイムラグが痛すぎるし。
体は幼いから掴まれたら抵抗は不可能、集中しすぎれば死にかけるなんてさ。
「はぁ」
「いやぁ、リオさんにも意外と女々しいところがあるんですね」
「どういうことだよ」
「いやね、すぐに自信が喪失しちゃってたりしてるとかね」
「そりゃあ喪失するっての、絶対の自信があった自分の能力にここまで弱点が露見すればな」
こうなる前は、自分の魔法はかなり万能で扱いやすく、最強とか思ってたのにな。
あれだよ、俺の魔法に弱点は無い、とか行っておきながら速効で弱点を曝かれた気分だよ。
「じゃあ、そんな時こそ私が支えましょう、えっとですねリオさん
自分の悪いところばかり見てはいけませんよ? どんな時でも片方だけを見るのはいけません」
「何が言いたいんだ?」
「自分の所ばかり見ては足下をすくわれ、悪いところばかり見ていれば自信過失や成長が出来ません
やはり、自分の悪いところを見て、良いところを見る、そう言うバランスが大事ですよ」
・・・・あれ? もしかして、これって慰めてくれてるのか?
こんな良い感じの事を言うような奴だったのか? こいつって。
ただの何も考えて居ない変態女だと思ってたのに。
「まずは自分の魔法の良い所と悪いところを出してみてください」
「あ、あぁ、分かった」
とりあえず、俺は自分の狙撃魔法の良いところと悪いところを言われたとおりに出すことにした。
狙撃魔法の良いところは多種多様の狙撃銃を扱える、完全な不意打ちが可能
弾丸の威力を決めることが出来る、どれだけ距離があろうとタイムラグ無しに攻撃出来ると
まぁ、今まで扱った中ではこれ位だな。
「やはり完全な不意打ちが出来るのと、距離が無制限なのが強いな
それに、一切の時間差も無しに攻撃出来る、これはかなり強いだろう」
「どうですか? 良いところを出せば強いところが分かるでしょう?」
「そうだな」
それじゃあ、弱点を出してみるとしようか。
弱点は魔力量が少なく複数の標的に対して攻撃が出来ない、接近戦に弱い
集中しすぎると色々と止まる、連射が出来ない、ボルトアクション意外の狙撃銃に
瞬間的に切り替えることが出来ない、とかかな。
「こんな物かな」
「こうやって弱点を出せば対策も出来ますからね
例えば魔力量が少ないのは訓練で改善できます、接近戦に弱いのは私が近くに居ればカバーできます
集中しすぎるとは集中しすぎなければ対策可能で、連射は一撃で仕留めるなら必要ありません
最後のは私には分からないので、意見は出せません」
「ふーむ」
こいつのアドバイスがどれもこれも適切でなんの反論も出来ないな。
最後のは完全に俺だけの問題だから対策出来ないか、いや、改めて出していれば問題は無いかな。
最後の弱点をカバーするのは自分の予測能力か、で、連射は魔力量が少ないのと密接に関係している。
魔力量が少ないせいで連射するとすぐに魔力が切れ、息切れしてしまうからな。
やはり魔力量を増やすのは最も優先しないといけない目標になるのか。
「・・・・あれだ、悔しいがお前の意見は凄く為になった、ありがとう」
「うふふ~、どういたしまして~、うふふ~、うふ、うふ、うふふふふ~、うふ、うふふ~」
「笑いすぎだ、なんか気持ち悪い」
「うふふ~、いやぁ~、だってお礼をして貰ったんですよ~? うふふ~」
「お前はそう言う変態気質が無ければまだマシなのにな、どうしてその弱点を克服しない」
「それは簡単ですよ、私は! この性格を! 弱点だと思ってませんから! むしろ誇りです!」
「くだらない誇りを持ってんじゃねーよ!」
「ふふふ、私は胸を張って言えます、変態で何が悪い! これを否定することは! すなわち!
自分自身を否定することと同じ事なのですから!」
「変な決めポーズを取って言うんじゃねーよ!!」
くそう! これがあの言葉を言われる前なら非殺傷の弾丸を撃ち込んでやったのにぃ!
何で俺に恩を売った後にこんな変態発言を! 畜生! 狙ってやったのかよ!
「ぐぬぬ!」
「さぁ! リオさんもご一緒に! 変態で何が!」
アルルが高らかにふざけきった事を抜かそうとしている時に一瞬だけ光る物が見えた。
「あ」
「ぐへあぁ!」
アルルはその一瞬だけ光った棒に後頭部を思いっきり強打され、小さく鈍い音が聞えた。
その棒は金属だった、後方からすごい勢いで飛んできた金属の棒。
「あぁあ! やってしまった! アルル!」
アルルに激突した金属が地面に転がり高い音を響かせ始めた時に
あいつの後ろの方から、トラが顔面蒼白で走ってきた。
どうやら、トラが訓練していた時にミスって飛んできた棒だったようだ。
結構な威力だな、あのアルルが一撃で気絶するほどだし。
「ごめんなさい! 大丈夫? 生きてる! 生きてるよね!」
「あーっと」
俺は半分死んでるんじゃ無いかと思いながら、アルルの脈を測った見てた。
「生きてるな」
アルルの脈は確実にあった、あそこまで強打されたのに頑丈な奴だ。
アニメやゲームとかでもそうなのだが、変態キャラって頑丈な気がする。
「良かった~、本当に良かった」
「トラさんの魔法は強力なのですが、精度がまだで、それにしてもアルルさんは頑丈ですわね
まさかトラさんの暴発した魔法の威力で後頭部を強打したのに、たんこぶだけで済むとは」
「たんこぶだけじゃありませんよ、テンションも消し飛びましたから」
はぁ!? 後頭部を強打したってのに、なんでこいつは起き上がってんだよ!?
「おま! はぁ!? 気絶してたのに!?」
「私は頑丈ですから」
「が、頑丈と言うレベルではありませんわね、トラさんの暴発魔法をモロに受けてこれとは」
「あはは、でも、痛いのは変わりないんですよ」
「あぁ、無事で良かった、ほ、本当に、よが、よがったよぉ!!」
あぁ、トラの奴がまた泣き始めた。
「ほらほら、トラ、そんなに泣くな、この変態馬鹿女は妙に頑丈だから、もっと殴っても良いって」
「あれ~? その慰め方はちょっとおかしい気がするんですけど~?」
「むしろ、殴られた方が喜びそうだし、大丈夫だって泣くなよ」
「もしもーし、殴られた方が喜びそうってどういう意味ですかね~?」
「うん、ありがとう、リオ」
「ちょっと! トラさんも納得しないでください!」
「・・・・・・」
「シルバーさん!? 何で無言のままで1歩引いているんですか!?
違いますよ! 私にそんな趣味はありませんからね!? でも・・・・あ、ありませんよ!?」
全く、トラの奴も普段は冷静なのに、やらかしたら泣くんだからな。
まぁ、反省をしない奴よりはマシだろう、俺はトラが完全に泣き止むまで頭を撫でてやることにした。