先行調査
……戦況が動き始めたが。
こっちの戦力もある程度補充が出来たしな。
ひとまず俺達は先行調査に出ることにしよう。
「あそこが次の目的地ですか?」
「えぇ、その通りよ」
「…ハッキリ言いたいんだが」
「何?」
「なんで最高責任者であるお前がここにいるんだ!」
スティールは本当に当たり前の様に俺達に付いてきた。
と言うか、俺達が偵察ポイントに到着したら出て来た。
護衛としてかメイルも一緒に来ている。
「スティール様自らがあなた達の士気を上げるために
わざわざこうやって危険地帯に来たのです、感謝しなさい」
「お願いしてないだろ!」
「メイル、私もそんな理由で来たわけじゃ無いわよ…」
「知ってます、多少なりともこいつを馬鹿にするための嘘です」
「馬鹿にするためにわざわざ嘘付くなよ!」
あぁもう! こいつが居ると何かペースが崩れて嫌だな。
「ごめんなさいね、私が付いてきた理由は敵の布陣に興味があったからよ。
あなた達を先に行かせたのはメイルの案でね」
「えぇ、あなた達なら良い露払いでしょ?」
「お前! 俺達の事を囮みたいに言うなよ!」
「失礼しました、あなた達には囮になって貰ったとハッキリ言うべきでしたね」
「ぶっちゃけんな! まぁ、こいつがここに来るにはそれが1番だったろうしな。
だが、それならそうとハッキリ言って欲しかった」
「言ったら止めるでしょう?」
「だから言わなかったのか?」
「えぇ」
実際、そんな風に言われたら全力で止めていただろうな。
「だが、隠し事ってのは信頼を無くすぞ?」
「だから全てぶっちゃけたんじゃ無いですか。
こっちの思惑と理由の全てを。
私達には悪意は無い、むしろあなた達を信頼しているからこそ何も言わなかった。
あなた達なら全力でスティール様を止めてくれると信頼しているから言わず
あなた達なら完璧に露払いをこなしてくれると信じていたから付いてきたのです」
「言い方次第でなんとでもなるって事か」
「口は相手を丸め込むためにあるんですからね」
やれやれ、まぁ、俺も結構口八丁するから否定できないな。
「で、何が理由で来たんだ?」
「えぇ、あなた達は潜伏するんでしょう?」
「あぁ、潜伏して動きを見ようと思う」
「だから、とっさの時私達がどう動けば良いかを考えるために来たのよ」
「心配してくれるのはありがたいが、いざと言う時にはウィンが居るからな
こいつの魔法は転移魔法だ、最悪の場合、瞬時に戻ることも出来る。
最近は2人を移動できるようになりつつあるらしいからな。
まぁ、体の負担が大きくなるって事だから普段は使っちゃいないけど」
ただの日常的な移動の時はいつも通りに移動して貰っている。
何でも無いただの移動でこいつに負担を掛けるわけにはいかないからな。
「だから妹を連れてきてるのね」
「あぁ、潜入するときもこの方がやりやすいからな」
「アルルは?」
「俺達は接近戦に弱いんでね、その補充としてと
情報収集の時や潜伏時にこいつと一緒ならあまり違和感が無いんだ。
子供が2人だけで出歩くのはあり得そうではあるが、毎日だと違和感あるだろ?
だから、こいつを保護者枠として置いている、後は監視要員としてもな」
「へぇ、何だかんだで信頼してるのね」
「日常生活以外ではな」
「日常生活の時も信頼してください!」
「だったら性格を改めろ、変態女」
「そう、余計な心配だったのかしらね。
でも一応、私達も敵の地形や布陣を監視しておきたいとも思っててね」
「そこは俺達が随時報告していくつもりだったが、まぁ、直接見たいって言うなら」
メイルもいるし、敵影も無いから大丈夫かな。
「後、もうちょっと近付かないの? この距離だと全然見えないわよ」
「見えますよ? 今の所分かっているのは、正面の門には4人の警備がいること。
表面上は2人としていますが、木の陰に1人、城門の裏に1人待機してます。
城壁内にも確認できる数で10人、上には弓を構えている兵士ですね。
前線の国では人形兵しかいないみたいでしたが、ここには一般の兵ばかりです。
恐らく重要拠点だからと言う点、もう一つは子供の目では
人を見抜けない恐れがあるから、と言う感じでしょうね。
つまり、侵入者を警戒していると考えるべきでしょうか」
「……よく見えるわね」
「私、目は良いんで」
「目が良いとかそう言うレベルじゃ無いと思いますけど」
「で、だ、どうやらこのままでの潜入は難しいみたいだな」
「なんで?」
「子供に対してかなり警戒しているのが分かる。
何か道具を使って子供を見ている、あくまで門をくぐる子供だけみたいだ。
国内でそんな道具を使って調査をしている奴は見えないし。
…多分、あの道具は魔法使いかどうかを識別出来るんだろうな、面倒だ」
そんな道具があるとは思わなかったな、中々に面倒だ。
そりゃあ、魔法に関しての研究をしていたという国らしいし
そう言う道具があってもおかしくは無いだろう。
俺達の国でも魔法使いかどうかを識別出来る道具はあったんだからな。
あれは大型で、携帯にはあまりにも不便だと思うが。
だが、こっちはミストラル王国よりも技術があるのだろう。
そりゃあ、研究をひたすらに出来る環境だったんだ。
当然、識別道具の小型化くらいは出来ただろう。
「そんな道具が…私達も欲しいわね、そんな道具」
「あそこを制圧した後に道具奪って研究すりゃ良いだろう」
「でもね、銃器の改良もしてるし、手一杯なのよね」
「あぁそうだ、銃器は何処まで行った?」
「まだまだよ」
「と言うか、あなた方の仲間であるミロルさんでしたか。
彼女は色々と召喚出来るようですし、私達に使わせてくれれば」
「あいつ、色々あってな、絶対的に信頼できる奴にしか武器は渡してくれないんだ」
「私達の事を信頼してないと?」
「お前らの事は信頼してるかも知れない、だが、他の兵士達の事はどうかな。
そればかりは本人に聞いてみないと分からないだろう。
多分、あいつは装備を量産して渡すって事はもうしないと思う。
昔、そんな事をしたせいで大事な人達を沢山殺めちまったって過去がある。
それはあいつが意図して起したことで無いが
そう言う結果に繋がってしまった…あいつはそれがトラウマなんだ。
だから、多数の武器を多数に渡すって言うのはあいつにとってはかなり酷な事だ」
「どんな事があったかは深く詮索しないけど…それなら強制は出来ないわね」
あの過去はあいつにとっては大きな事だ。
当然、俺にとっても…アルル達にとってもだろう。
あの事件以降、俺は思い上がりが止まったと感じている。
自分1人で戦況を覆してきていたからな。
それで少し思い上がってたのかもしれない…
あの事件でその思い上がりは止まった気がする。
俺1人でどうこうできるわけが無いんだ、そりゃそうだ。
今思えば当たり前の事だが…な。
「とにかくだ、武器に関してはそっちで何とかしてくれ」
「分かったわ、無理言ってごめんなさいね」
「お前らは何も知らなかったんだ、謝ることは無い」
だが、今回は銃器無しで攻略することになりそうだな。
「アルル、見張りにバレないように潜入する方法って考えられるか?」
「うーん、現状では見張りを制圧した後に侵入が無難でしょうが。
それだと警戒があがってしまいますね。
今は城内の子供達を調べる、なんて行動はしてないようですが。
そんな行動をしてしまえば、国は間違いなく内部も調査を始めます」
「そんな事になっちまえば、下手に動けなくなるな」
「えぇ」
それに、向こうは沢山の魔法使いを所持しているし。
案外魔法使いを見抜く魔法、とか、そんな魔法もあるかも知れない。
警戒が始まれば当然、そう言う奴も投入されるだろうから動きにくくなるか。
「潜入捜査はしばらく難しいと思いますね。
警備もかなり厳重ですからね。
沢山の人達が出入りしているから、混じってはいることも可能でしょうが」
「その場合は荷物に紛れるか? でも、確実に探られるだろうな」
「えぇ、ですのでバレずに移動する方法を考えなくてはいけません。
私達の魔法使いの中でそんな芸当が出来そうな魔法使いっていますかね」
…フレイは無理、トラも無理、ウィングも当然無理。
マルも無理で、メルも無理、フランなら使い方次第じゃ辛うじて。
ミロルがステルス迷彩を出せるなら可能かも知れない。
ウィンは1度潜入しないと使用できない、俺も当然不可能だ。
マーシャは…確か距離操作だったか、だが、効果範囲が狭すぎる。
「可能かも知れないのは…フランとミロルの2人だけか」
「2人だけですか、因みにその2人の魔法をどう扱えば?」
「ミロルの場合、姿を消せる道具を出せれば可能だろう。
フランの場合は様子を見に来た兵士に幻覚を見せれば辛うじて。
あいつ、あまり使わないが幻覚なら複数人に使えるみたいだし。
だが、どれ程正確に扱えるかは分からないな。
意図的に幻覚を見せられるなら、俺達を荷物に見せれば良い。
ランダム性が強い場合だと…ちょっと無理だな。
あるいは1人を完璧に操って、そいつを荷台を調べる役にする。
で、荷台を調べさせて、異常なしと伝えさせれば良い」
「ほうほう」
「もしくはあれだ、1度攻めて、城壁の近くに財宝を放置して撤退。
その中に俺達が入って、中に侵入! とか」
「え?」
「最後のは冗談だよ」
何かトロイの木馬って話を思い出してしまったからな。
「とにかく、催眠術か姿を消すか…どっちが可能かは
やっぱり本人に聞くしか無いだろう」
「では、今回は」
「あぁ、撤退だな」
「分かりました」
「警備が厳重だって言うのに、良く手を思いつくわね。
と言うか、ずっと見えなくて何が何だ買って感じだけど」
「ほれ」
「何これ」
「双眼鏡、見たけりゃそれを覗いてみろ」
「んー? おぉ! こりゃ遠くまで見れるわね」
「どんな感じですか?」
「……メイル、前に立ったら見えないわよ、あなたの胸元しか」
「安心してください、あまり大きくないので谷間は見えません」
「ち、因みに…何カップですか?」
「Bです」
「負けた!」
「小さい方だと思うがな…」
「そもそも、戦いに生きる物に胸など不要です」
「分かってますけどね…やっぱり運動する人って胸が小さいんでしょうか」
「何となくそんな気がするな」
「そうでしょうね、胸は脂肪の塊ですので。
運動すれば脂肪が燃焼、胸は大きくならないかと」
「あぁ、だから兵士って全体的に胸が無いのか。
最大のシルバーでもCカップだったっけ」
「うぅ…だとしても、私の場合は異常ですけどね…」
「まぁ、胸の話は良いわ、とにかくメイル、どいて頂戴」
「あぁ、すみません」
その後、スティールはしばらくの間双眼鏡を覗いていた。
「メイル、ちょっとこれ持ってて」
「はい」
「どうしたんだ?」
「一応、絵を描いておこうかと思ってね、目安程度に」
スティールが描く絵はかなり鮮明で繊細で綺麗だった。
…スゲー羨ましい! 超羨ましい!
俺は絵が絶望的に下手だから異常なくらいに羨ましい!
「まぁ、こんな感じかしらね、それじゃあ下がりましょうか」
「そうだな、ミロル達に話聞かねぇと」
「転移はしなくて大丈夫?」
「あぁ、歩いて帰ろう、流石にこの人数を転移は無理だろう?」
「う、うん…」
「私達、邪魔だったみたいね」
「あぁ、邪魔だった」
「ハッキリ言うわね、まぁ、メイルも同じ事をしてたし別に良いわ。
そもそも私達に何か文句を言う権利も無いでしょうし。
実際、邪魔だったのは間違いないでしょうからね、計画の異物でしょうし」
「そう貶むな、一応色々と話しも出来たし、悪くは無かったから」
「そう、ありがとう」
どうかあいつらにそんな芸当が出来ますように。




