もしかしたらの不安
「しかし、リオさんってかなりモテてますよね」
「あー?」
「だってほら、ミロルさん、フレイさん、フランさん、私。
他にも隊の全員はリオさんの事が好きでしょうしね。
何だか、ハーレムですよ」
「…いやまぁ、嬉しいよ? 嬉しい筈なんだけど…女なんだよな、俺も」
何でかなぁ、モテるのは嬉しいんだけど、なんで体は女なんだろうな。
見た目は女、頭脳は男、どこぞの名探偵もビックリだろ。
「…なんかさ、今思ったんだけど」
「はい、何でしょう?」
「……もし、俺が男だったら、お前らって付いてきてるんだろうか。
何だかんだで、体が女だから、お前らも普通に付いてきてて。
そんな感じなんじゃね、って思ってるんだよな。
やっぱり、大事なのは」
「中身ですよ?」
「……」
「それに、不安に思う要素は無いと思いますけどね。
もう私達は全員、リオさんが中身が男だと知っています。
それでも付いてきています、それはリオさんの中身を知っているからですよ」
「アルル…」
「まぁ、私はリオさんが女の子じゃなかったら一目惚れはしてませんけど」
「台無しだ!」
「でも、一目惚れしないだけでしょうね、変態めいた行動もしないでしょうが。
きっとその場合、私は想像できないほどの乙女だったと思いますよ?
こう、扉の影からチラッと見てって感じで」
「その場合でも俺子供だからな? どう考えても危ない奴だろ」
「否定はしません」
「結局、俺が男だろうと女だろうと、お前は変態なんだな」
「そりゃねぇ、あ、そうそう、フレイさん達は絶対に今と変わらないと思いますよ。
いや、ウィングさん辺りはリオさんに惚れてたかもしれません。
意外とトラさんも表に出さずに惚れてる感じになってたかも?
フレイさんは変わらないでしょうね間違いない」
「フレイが今と変わらないのは想像に硬くないな」
「想像したら硬くなる?」
「お前、耳を取り替えてこいや、多分その耳使い物にならないから。
いっその事、耳がない方がお前は幸せかも知れないくらいに」
「いやいや! 冗談です冗談! 私は乙女なのですよ~?」
「お前みたいな乙女がいるか!」
「変態と言う名の乙女です!」
「変態はただの変態だ! 乙女じゃ無くて変態女だろ!」
「あはは! 例え男女と言われようとも私は動じないのです!」
……そうか、動じないのか…いや、絶対動じるだろこいつ。
ちょっと試してやろ。
「まぁ、お前胸無いし男女と言われても仕方ないかもな」
「がは!」
「意外と言われ慣れてるんじゃね?」
「ぐふぁ!」
「図星か?」
「ぐ! ま、まだです…まだ私の心臓は動いているのです!
激しく脈動しているのです!」
アルルが力強くしゃがんでいる状態から立ち上がった…が。
まぁ、こう言う場合、胸があれば揺れるのかも知れない。
しかし、アルルの胸は微動だにもしなかった。
なんと言うか…ここまで来ると可哀想だな。
「…ま、まぁ、うん…そうだな」
「何ですかその同情するような目は!」
「いや、何でも無いぞ? 何でも無い」
「目を逸らしながら言われても!」
「いや、マジで何でも無い」
「最初の視線が私の胸だったところでかなり嫌な予感もしますが!」
「……いやぁ、き、気にするな、あれだ、需要あるから」
「同情するなら私の胸を揉み扱いてください!」
「何でだよ! 誰がお前のお粗末な胸なんぞ揉むか!」
「お粗末! し、しかし…リオさんに毎日揉み揉みされたら大きくなると思います!
こう! 理想の女の子は自分の手で作り出しちゃえー、的なノリで!」
「確かに! お前は理想の女には近い」
「マジですか!?」
「あぁ、料理も出来るし、従順で家事も出来る。
見た目も十分可愛らしいし。
だが! 変態だ! そして! 俺は巨乳派!」
「ぐふぁぁあああ!!」
「後、お前はもう20位だろう? もう絶望的だ!」
「ぐは! あ、あぁ…は、腸を抉られた気分です…
しかも、もう20…今年で21とは…」
「そうだろう? もう詰みだろ」
「ふ、ふふ、し、しかしリオさん…私にはまだ手はあるのです」
「あー?」
「そう! 私の体が無理なら! リオさんの好みを変えれば良いのです!
リオさんを巨乳派から貧乳派に変えてしまえば良いのです!」
「馬鹿かよ、お前」
「ふふふ、革命は馬鹿で無くては起せないのです!」
思想が馬鹿じゃ無いと起せないだけであって、ただの馬鹿には起せないだろ。
完全に馬鹿な革命家が革命家のトップに居続けられるわけが無い。
馬鹿と天才は紙一重とは言うが、それは頭の良い馬鹿の事であって。
ただの馬鹿が天才と紙一重な分けがない。
天才的な発想があっても、そこに至るまでの知識が無いんじゃ意味ねーし。
「本物の馬鹿が革命を起せるわけ無いだろ」
「私が本物の馬鹿だと!?」
「お前は馬鹿以外の何者でも無いだろ」
「ありがとうございます!」
「そこは応えないのか」
「リオさんに貶して貰えるなんて光栄ですしー」
「ペチャパイ、貧乳、胸無し、まな板」
「ぐふぁぁあ!」
「…貶してやってるんだ、喜べおら」
「そ、その貶し言葉だけは…私の胸を抉ります」
「お前、胸なんて無いだろ?」
「がふぁ! 抉る所か根こそぎ取られた!」
「取るも何もねーじゃん」
「止めてください! わ、私の悲しみが暴走する前に!
こ、このままでは悲しみを慰めるためにリオさんを襲わなくてはならなく!
あ、そう言う名目ならリオさんを襲えるかも知れません。
なので、もっと貶してくださいお願いします!」
「そんなゾッとする独り言を聞いた後に出来るかよ!」
「あー、リオさんに貶されてこことが痛みます-、リオさんへ復讐なのですー
服を剥いで怒りをぶつけるのですー」
「棒読み過ぎるだろ! こっち来んな!」
「くくく、このアルルダイブからは逃れられません! リオさーん!」
「リオさん、国へ申告する書類は」
「あ゛」
俺にダイブしようとしたアルルだったが。
直後に俺が逃げようとしていた扉のドアが開き、シルバーが入ってきた。
既に飛び上がっていたアルルはその状況に反応することが出来ず。
シルバーの胸の中に顔面から突っ込んだ。
「わぁ! アルルさん! 何の真似ですの!?」
「ごふぁぁあ!」
「どうしました?」
「……柔らかいです」
「胸は柔らかいのが当たり前ですわ、と言うか、さっさと離れてくださいませ」
「……いえ!」
「きゃぁ! ひ、人の胸を揉むってどう言う精神ですの!?」
「いやぁ、私もこれ位あればなーと」
「あ、アルルさ、ん、目が、恐いですわ」
「羨ましいです…交換しましょうよ」
「出来ませんわぁ! と言うか! 揉まないでください!」
「何で私はペチャパイなんですかぁ!」
「知りませんわ!」
「こ、このエネルギーを吸収して、私もビックボインに!」
「いい加減にしろ、馬鹿女」
「いだ!」
「た、助かりましたわ…リオさん」
「うぅ…大きくないと、リオさんの隣にはぁ」
「……はぁ、ったく、お前は妙な所が繊細だな」
胸の事には本当に繊細な奴だ、どうしてこぅ…
「別に俺の隣に居るだけならちっちぇーままでも良いっての。
と言うか、駄目だったら元々お前は俺のパートナーじゃねぇ」
「と言う事は! 私は小さいままでも!」
「別に良いよ」
「あぁ!」
「ただ恋愛対象とは見ないだけで」
「やっぱり大きくします! 絶対に!」
そう言い、アルルはすぐに飛び出していった。
「……いや、いくら大きくなっても、お前は恋愛対象には見ないぞ…」
「もう少し早く言えば良かったのでは?」
「言おうとしたら既に居なかったんだよ」
「はぁ…所でアルルさんと何のお話しを?」
「ん? あぁ、俺が男だったらお前らは付いて来てなかったんじゃ無いかってな」
「まさか、それなら私たちはもうすでにこの場にはいませんわよ」
「…そうだよな、それに、もしもを考えるってのも意味ないか。
少なくとも今、お前らは俺に付いてきてくれてるんだからな。
それだけで十分だ」
「えぇ、大事なのは今ですよ、もしもは不要ですわ」
「未来のもしもを考えるのは大事だが、過ぎた後にもしもを考えるのは無駄か」
「はい」
「…ありがとさん」
「いえ、私はただ自分の考えを述べただけですわ」
「…自分の考えを言ってくれる部下ってのは本当に大事だな」
「えぇ」
間違いに気付けたり、励まされたりな。
「それと、何か用があったみたいだが」
「あぁ、はい、国へ申請する書類の事でお話しをしようと」」
「申請書類は一応、アルルに色々と任せたんだが」
「資金の使用方針ですわね」
「あぁ、金を使ってないみたいだからな。
俺は孤児院と学校の建築やらに力を入れるつもりだ」
「一応、小さな戦士達の活動資金ですので、そう言うのはあまり」
「あぁ、建前は小さな戦士達に入るであろう子供達を教育するためにって感じだ」
「本音は?」
「ただ子供達に居場所を用意したいだけだよ、戦争は終わらせるからな。
小さな戦士達に新しいメンバーは不要だ」
「断言するのですね」
「断言するよ、終わらせるってな、その為にわざわざこっちに来たんだ。
やると決めた以上は完璧にだ、お前らもその気で居ろよ?
この戦争はすぐに終わらせる。可能なら今年中にな。
流石に俺の誕生日までに終わらせるってのは無理だろうが。
出来れば、来年はのんびりと祝って欲しいからな」
「確か12月22日でしたっけ」
「そうだよ、実際の誕生日は知らないんだがな。
いつ生まれて、どれだけ様子を見られて、捨てられたかは。
それはあのクソ女に聞くしか無いのかも知れねぇが。
いや、関係ないな、俺の誕生日はいつ生まれたとしても12月22日だ」
その日に、俺は先生に拾われたんだから。
「では、平和な世界でリオさんの誕生日を祝うために
私達も身を粉にして戦いましょう」
「…ありがとうな、ま、あくまでも出来ればだ。
一番大事なのは全員で生き残って戦争を終わらせることだ。
正直、誰か1人でも欠けた状態で誕生日を平和な世界で祝えても。
俺は絶対に嬉かねぇ、どうせ祝って貰えるなら、全員で祝って欲しい。
全員で祝ってくれるんなら、例え戦争のさなかだろうと俺は嬉しいよ」
「ではリオさん、その時に祝う対象が居ない、なんて事にならないように
リオさんも頑張って生き残ってください。
一番自分を軽んじているのは、他でもない、あなたなのですから」
「…肝に銘じておくよ、命大事にって」
「えぇ、祝う相手が居ないんじゃ、パーティーは何の意味もありませんわ」
「主役が居ないんじゃ締まらねぇからな、何とかやってやるよ」
生き残る事、何にせよそれが一番大事だろう。




