負傷させた子供の保護
この数の子供達を捕獲できたのは大きいな。
戦力の増強にあてるのは無理だろうが、向こうには結構な打撃だろう。
魔法使いの数はあまり揃っては居ないみたいだしな。
それなのに、魔法使いを70人程奪えたのは大きいだろう。
後は後方に配置されていた子供を回収すれば80人位かな。
一応は探索に来てみてはいるが…目を覚まして逃げたりしたのかな。
「誰も居ませんわね」
「うん、本当にここ?」
「あぁ、後方からの攻撃を行なってた奴らはここにいたはずだ。
1人の子には殺傷でダメージを与えちまったからな
さっさと回収しないと…」
片方の子に精神的打撃を与えるためとは言え
傷付けてしまったのはかなり悪い事をしたと思う。
可能な限りダメージを与えないで動けなくしたはずだから
遠くには行けてないとは思うが、念の為に急がないと。
「悪い事をしたとは思うが、逃がさないためにはあれが1番だったんだよな。
ここは少し逃げれば俺達の手が届く範囲から出るだろうしよ」
「確実に捕獲するためにダメージを与えたと?」
「そうだよ、奇襲の方には周りに精神的ダメージを与えるために
何人かを殺傷で怪我させた…仕方ないとは言え、結構答えるもんだ」
「精神的ダメージはやはり重要なのですね」
「あぁ、戦意を奪うためにもな、後は反乱の意思を砕くためにも必須だ。
漫画やアニメ、いや、こっちだと小説かな。
その中だと周りが傷付けられて怒りに燃える主人公とかは多いが
実際に命のやり取りをする場面じゃ、そうは行かないだろう。
ましてや子供だ、心が挫ければ反乱の意思は抱けないさ。
精神を砕くのはより確実に安心して捕獲や保護をするための有効手段だ」
それで狙撃した奴が死んだりしたら、元も子もないんだけどな。
とにかく、急いでその子を保護して治療しないと。
「…リオさん、あちらの方から物音が」
「分かった、言ってみよう、気取られないようにゆっくりと」
「分かった」
俺達は物音を立てないように、その場へ移動した。
そこには足を怪我した仲間を必死に引きずってる子供の姿があった。
「待て、動くな」
「ひ! お、お願いします! た、助けてください!
さ、サラちゃんが怪我をして! 急いで手当てしないと!」
「うぅ…」
「ふぅ、大丈夫そうだな、シルバー」
「分かりましたわ、アルルさんほどではないにせよ、応急手当は心得ております」
シルバーは出発前にアルルの部屋から借りた救急箱を使い
サラと言われてた子の手当をする。
結構手慣れている様子だな、訓練で何度かしたんだろう。
「はい、完了ですわ」
「あ、ありがとうございます」
「よし、後もう2人、お前らの近くに配置されてただろ?」
「なんでそれを…ま、まさかあなた達は…う、うぅ!」
彼女は俺達に掌を向けてきた、なる程、そこから魔法が出るのか。
「火の玉の魔法か? だけど悪いが抵抗は止めた方が良いと思う」
「あ、あなた達がここに来たって事は…仲間の皆は」
「全員捕獲済みだ、後はお前ら2人ともう2人。
悪いけど抵抗はしない方が良いと思うぞ。
残念だがお前の魔法よりも俺達の方が早い
魔法でも格闘術でも、どっちにしてもお前には勝ち目が無い」
「………でも、捕まったら殺されるなら!」
「殺しゃしないって、殺すつもりならお前の仲間を手当はしない」
「…あ」
「抵抗するなら、お前にも怪我をさせて無理矢理捕獲するが
どうする? 痛いのは嫌だろう? 大人しく従え」
「……」
彼女は俺の言葉を聞いて、ゆっくりと両手を降ろした。
「それで良い、賢明な判断だ、小さいのに頭が良いな」
「……」
「で、もう2人は? 俺達はその子達も保護したいんだけど」
「…あっち」
「分かった、トラ、行くぞ、その子達を運んでくれ」
「分かった、抵抗はしないで、落としたら怪我をする」
トラは彼女達を魔法で浮かせた。
ただ相手が暴れたりすると落とす可能性があるみたいだな。
「っと、こっちだっけ」
「リオさん、確かに物音が」
「分かった」
俺達はシルバーに案内されて、その場所にまで移動した。
そこには2人では無く、5人の人影がある。
「5人だと! 誰だ!」
「…そっちから来るって事は、あぁ、君か」
「誰!?」
「初めましてかな、私はフェミー、よろしくね」
「…何でお前ら3人がここにいる」
「仲間を集めようと思ってさ、で、君達は…あぁ、うん」
「さっきの戦闘で怪我させちまった子供達の保護に来たんだよ」
「分かってるよ、分かってる、まぁ、僕達としても後ろの2人を手に入れたいけど
君達とは出来れば敵対したくないんでね。
その代わり、この2人は回収させて貰うけど、良いかな?
大丈夫だよ、ちゃんと手当はするよ」
「……リオさん、どうしますの?」
「私達なら勝てると思うけど…無理矢理奪還するなら」
「止めろ、俺達だけじゃ勝つのは難しい」
「なんで? だって、相手は3人だけ」
「あいつ、ケミーって奴が居るんだ。
あいつがいる限り正面からやっても俺達に勝算はないぞ」
「1度勝ったのに?」
「あれは結構運が良かった面が大きいからな
だが、少なくともこの場面でやり合いたいとは思えないね」
「そう」
「じゃあ、そう言うことだから、私達はこの2人を回収させて貰うよ。
君達に攻撃はしない、そっちが攻撃をしてこない限りね」
「分かったよ、同じ子供相手だ変な事をするとは思えない」
「それは保証するよ、この子達に変な事はしないよ
君達も…その子供達に変な事はしないでね?」
「しないっての」
「まぁ、分かってるけどね、君の事は非常に信頼してるからさ
見えない死神さん」
「なんでリオさんの2つ名を!?」
「さて、何ででしょう、まぁ、とにかく私達は行くよ。
後、魔法を使えなくする方法だけど、残念ながらまだ分からないんだ」
「俺達も収獲ゼロだよ」
「そうか、それは残念だね…じゃあ、お互いに頑張ろうか、色々とね
そうそう、気が変わったら私達の仲間になってよ。
特にリオ、君の事は歓迎するよ、君ほどの実力者ならいつでもね。
と言っても、仲間になろうとなるまいと
君達は私達の仲間って立ち位置であることには変わりないけどね」
そう言い残し、フェミー達は姿を消した。
彼女達の姿が消えた後に、負傷していた魔法使いの子の姿も無かった。
「……リオ、あれは誰? 私達じゃ勝てないってどういうこと?
リオがそんな事を言うなんて…それともう一つ、魔法を使えなくする方法って?」
「…ケミー、あいつの魔法は完全コピー魔法だ
あいつは範囲にいる奴の魔法と経験をコピーする。
もう1人のケースは身体強化魔法、しかもフレイ以上の身体強化だ」
「フレイ以上の!? それに完全コピーって!」
「簡単に言えば、あの子が1人居れば俺達全員が向こうにいるって事だ。
それと、身体強化魔法のケースが更に厄介でな。
あいつが範囲内にいるって事は、あいつも身体強化魔法を扱える。
フレイ以上の…で、あいつのコピーは魔法だけじゃ無く経験もだ。
つまり、シルバーの経験もコピーしてるから
接近戦の技術はシルバーと同じ。
正し体格とか筋力はコピーできないみたいだ。
だが、ケースの身体強化魔法を扱えるって事は。
向こうはシルバーの接近戦闘技術と圧倒的な怪力を扱えるって事になる」
「…そんな魔法が…勝てるのですか!?」
「さっきも言ったが、体格や筋力はコピーできない。
攻略法とすればケースをあいつの範囲内から引き剥がし
魔法を使えない実力のある兵士があいつを潰すか
あいつがコピーできない所有物を利用して倒すかのどちらかだ。
因みに俺は1度、後者の方法であいつを撃破できてるが
2度目は相当苦労すると思うぞ。
だから、今回は戦いを避けた、絶対にやらないと行けないって訳でも無かったしな」
「……その様な相手が」
「あぁ、だからここは下がるぞ、急いでこの子達を保護しないと」
「でも待ってください、じゃあ、何故彼女達は姿を消したのですか?
あのフェミーと言われていた子の魔法でしょうか?」
「…そうだ、フェミーの魔法だ、因みにあいつはもう一つ魔法が使える」
「え!?」
「防御魔法だ、やり合うとしたら完全に詰んでたろうな
あいつは転移魔法と防御魔法を扱える」
「そんな魔法使いが居ると!?」
「居るんだよ、現にあいつがそうだ」
「……あの子達の目的も分かりませんし、一筋縄ではいかない、と言う事ですか」
「だな、油断できないぞ、さて、さっさとこの2人を連れ帰ろう」
「はい」
まさかフェミー達まで動いているとは思わなかったな。
あいつらの目的は何だろうか、戦力を集めていると言ってたな。
恐らくだけど、これからも何度か会うことになるだろう。
魔法使いが動くほどの戦争となれば、まず間違いなく。
そして、あいつが言ってた通りなら、あいつらは敵じゃない。
俺達がこのままでの立ち位置でも仲間って事はな。
じゃあ、別国の兵士って可能性もあるのかもな。
「第三勢力か、何かややこしくなりそうだ」
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか城に戻っていた。
やっぱり考え事をしながらでも帰れるんだな。
「では、彼女達を城内の部屋に連れて行きますわ」
「あぁ、分かった、俺はスティールに今回の事を報告するよ」
俺はスティールの部屋へ向った。
部屋の扉を開けると、スティールは沢山の書類の中に居た。
「スティール、どうしたんだ? 忙しそうだな」
「そりゃそうよ! 病気でへたってた間に書類が山のように!」
「それなら、首都の方でやりゃ良いのに、なんでわざわざここでやる」
「敵の攻撃が発生したとき、最初に戦火に見舞われるのがここだからよ!」
「病気が流行ったときは首都にいたのに?」
「あれはあなた達が連れてくるという兵士達を受入れるためによ」
「あぁ、そりゃそうか」
「それで? 何か用事よね、出来れば仕事が増えないような用事が良いんだけど」
「どうかな、仕事が増えるか増えないかはお前の判断次第だけど。
とりあえず奥に配置されていた子供達4人のうち、2人を保護した」
「…残り2人は? まさか、敵国に戻ってたとか」
「違う、多分第三勢力であろう魔法使い達に先に取られた」
「第三勢力!? それに取られたって事はその場に居たのよね!
何で戦わなかったのよ!」
「相手が悪くてな…完全コピー魔法使いが相手だ
向こうは俺達と敵対はしてないみたいだから戦闘は避けた。
正直、あの場面での勝ち目が無かったからな」
「あ、あなたがそんなに言うって事は…相当なのね」
「あぁ、化け物だよ、あいつは」
「…そう、とにかく無事に帰ってきてくれてありがとう。
その相手が敵じゃないとすればありがたいわね」
「敵かどうかは俺達次第だと思うがな、まぁ、この報告のためによった感じだ」
「分かったわ、警戒して動くようにするわね、ありがとう」
さて、これで今日することは一通り終わったかな。
でも、これから忙しくなりそうだけどな。
恐らくだが、これからは本格的にファストゲージ国が動く。
俺達ミストラル王国の兵士達も合流したし
そろそろ次の制圧に動くだろう。
その時が来るまでひとまずは待機と行こうか。




