まだ楽な相手
身体強化魔法使い達の数は結構な物だ。
人数はざっとみで50人かな。
結構な人数だとは思うぞ、魔法使いとしては。
敵国の魔法使いの人数は確か数百程。
正確な人数はシャンから聞き出せては居ないけど
向こうがかなり本気だと言う事は間違いないだろう。
しかしだ、ここで少し妙なのが何でこの手勢なのかだな。
周辺からの奇襲で事足りると判断したのか?
だが、周囲に展開していた魔法使い達の練度は低かった。
戦力を温存しているのか? じゃあ、ここで勝負を着けるつもりは無いのか?
しかしだ、俺達が取っている都市は2つだ。
それなら、一気に潰しに行った方が良いだろう。
となると、全部を動かせない理由があるのだろう。
魔法使いの練度が足りず、下手に攻め込んだとしても殲滅される可能性があるとか?
もしくはこの攻撃は様子見で、こっちの手の内を探ろうとしてるのか?
あるいは別の国にも攻撃を仕掛けているから、こっちにあまり戦力を割いてないのか。
「まぁ何にせよ、今は目の前の問題かな」
もしも他に国があるとするなら、アルトール国を制圧した後も少し面倒くさそうだ。
だが、どっちにしても俺達はアルトール国に勝つという選択肢しか無い。
制圧後の外交とかはスティールに任せるとしようか。
(リオ、聞こえる? まぁ、聞こえてるでしょうけど)
「聞こえてるよ、どうした?」
(一応、指示を仰ごうと思ってね、制圧方法はどうする?
正面からねじ伏せるのか、戦意を砕いて屈させるか。
もしくはまとめて蜂の巣にするか)
「最後の選択肢だけ異常なくらいに血生臭いな」
(まぁ、そんな指示が来るとは思っては居ないからね。
一応言っておくけど、まとめて潰すだけなら瞬で終わるわ
私が軽機関銃を召喚して乱射すれば、それだけで殲滅は容易。
ここには障害物も無いからね、身体強化魔法使いのみなら簡単に殲滅よ。
最短での決着ならこれが1番だと思うけど?)
「からかうような口調だな、お前無線機の向こうで笑ってるだろ?」
(流石ね、良い勘してるわ、その通り悪い笑みを浮かべてるわよ?)
「あぁそう、まぁ、乱射は無しだ最小限の犠牲で最大の結果を残すのが目的だし」
(知ってるわ、だから言ったの)
「はいはいっと、攻撃方法は戦意を砕くを選ぶ。
お前らは正面から攻撃を防いでろ、俺が後方から倒していく。
で、ある程度の時間が経った後、左右から奇襲を狙っていた
拘束した子供達を背後で待機している兵士達に持たせる。
それだけだ、あまり時間は掛からない」
(分かったわ、しかしあなたって、相手の戦意を奪う術をよく知ってるわね
もしかして、心理学とか学んでたり?)
「んな訳無いだろ、基本的に漫画とかの知恵だよ。
戦いの基本でもあるしな、精神攻撃は。
後は自分がされたら戦意が削がれる方法を考えてるだけだ」
(自分がされたら戦意が削れる方法ね、確かにそう考えるのって重要かもね)
「想像やら妄想はやり方次第で現実にも影響を与える事が出来るからな」
(それ、本当に思うわ、まぁ長話はここまでね、じゃあその作戦を皆に伝えるわ)
「頼んだ」
無線が切れて少しして、ミロル達はこちらに向かってきている魔法使い達に近付く。
向こうもミロル達の動きに反応し、1人の少女の号令と共に突撃を始めた。
周りに指示を出す子供ね、こう言う場面ではそいつを潰すのが無難だ。
「最初はお前だ、静かに眠れよ」
「あぅ!」
「メリルお姉ちゃん!」
「……何処から…」
お姉ちゃんって呼ばれてるのか、つう事は結構慕われてるんだろうな。
身長差は同じくらいなのにな。
「い、急いでメリルお姉ちゃんを運ばないと!」
「私の事より…真っ直ぐ…」
「お姉ちゃん? お姉ちゃん起きてよ!」
予想通り、子供達の動きは完璧に停止した。
子供達はどうやら彼女の事をかなり慕っているようだった。
他の子供達も彼女の心配をして集まってきている。
「ど、どうしよう! どうすれば良いの!? し、心臓マッサージ!」
「ま、待って、まだ…でも! い、急がないと!」
「よほどその子の事が好きみたいね、あんたら」
「て、敵! 敵だよ! い、急いで倒さない、あぁ!」
もう1人狙撃、何だか可哀想に感じるが、精神を少しずつ削っていく。
子供が相手なんだ、戦意を奪うのは簡単だ。
「そんな! あの人達は動いてないのに!」
「どうするの!? い、急いで逃げないと!」
「駄目! 逃げたら…」
「さぁ、どうする? 大人しく降伏をするって言うなら命は奪わないわ。
そこにぶっ倒れてる2人も死んじゃい無い。
でも、時間が経てば死ぬと思うわ」
「そんな! で、でも、うぅ! とにかく惹きつけるんだ! そうすれば!」
「うん! ま、まだ負けてない! 急いで倒せば2人を助けられるから!」
「残念だけど、3人よ」
「いあ!」
3人目狙撃、ミロルの奴、俺が会話を聞いているって把握してるな。
まぁ、狙撃魔法の特性をあいつにも話したからな。
「そん…な、どんな魔法…どうして…1人1人、ゆっくりと…
どんな攻撃かも分からない、どうすれば…お姉ちゃんも動けないし…」
やっぱり子供だけの編隊じゃ、精神的主柱が潰れれば脆いな。
俺達も主に子供で構成された部隊だけどな。
俺達の場合、精神的主柱は誰になるかな…多分俺か?
まぁ、俺がぶっ倒れてもミロルが指揮できるし、シルバー達も指揮できる。
大人組とミロルが動けなくなってもトラが指揮を執れる。
こう考えてみると、俺達の柔軟性ってかなり凄いんだな。
潰れれば再起不能になるような絶対的な急所が無いのは強い。
「ま、まだだよ! 倒せばまだ! うわぁああ!」
「おっとっと、それは駄目だよ!」
「何で! 私より力が強いなんて!」
「出来れば私も戦いたくないから、えっと…降伏だったっけ? それをして欲しいんだ」
「そんな事しないもん! 私達が時間を稼げば! 山に隠れた皆が!」
(リオ、山の子供達を都市に保護したって報告が届いたわ)
「じゃあ、その子達を門前にいる兵士達の所に連れて行ってくれ」
(何かあるの?)
「精神攻撃だ、何か悪役っぽいけど犠牲を出さない為にゃ悪役にもなってやろう」
(悪役の行動じゃ無いと思うけどね、まぁ指示するわ)
「頼んだ…っと、ミロル」
(ん?)
「そろそろ準備が出来る、もう少し時間を稼いでくれ」
(了解よ)
「だ、誰と話をしてるの!?」
「教える理由はないわ」
「ねぇねぇ、お願いだから降伏してよ、出来れば怪我をさせたくないし」
「け、怪我をしたくないの間違いでしょ!?」
「フレイ、少しだけ力を入れて相手の手を握って」
「分かった、えい!」
「いだだだだだ! は、離して!」
「うん」
フレイはあっさりと掴んだ手を離した。
「うぅ…凄い力…わ、私達じゃ…勝てないんじゃ…」
「そうよ、ハッキリ言うけどあなた達じゃ私達は倒せないわ。
これでもかなり手加減してるのよ? 本気を出せば
あなた達程度ならすぐに殺せるのに」
「こ、殺せるなんて嘘だ! わ、私達はこんなに居るのに!」
「トラ、ウィング」
「…可哀想なんだけど…やるの?」
「やるよ、殺さないためだから」
「うん、分かった」
ウィングが召喚した剣を、トラが操り彼女達全員に当らない様に地面に刺した。
「ひぁ!」
「……あ、あ、あぁ…」
「殺そうと思えば殺せたわ」
「……ま、負けない! 負けたら怒られる! じ、時間を稼げれば!」
(用意できたわ)
「分かった…ミロル、準備完了だ」
「……あなた達が時間を稼ぐ理由はもう無いわ。
何だか私達が悪役みたいだから、少し嫌なんだけど、あれを見なさい」
「え? あ…そんな」
彼女達の目に飛び込んだのは完全に拘束された奇襲部隊の姿だった。
スゲー悪役って感じだ、何だか心が痛むな。
アニメとかだとよくあるパターンだろ、これ。
「あなた達が時間を稼ごうとした理由は、あの奇襲部隊の為でしょ?
でも、あなた達の作戦はもうすでに破綻してたのよ。
あなた達がこの場で戦う理由はもう無いわ」
「……駄目だった、負けるなんて…」
彼女達は全員戦意を喪失したようで、その場に座り込んだ。
「大人しく降伏することをお勧めするわ」
「……降伏って言うのをしたら、皆を助けてくれる?
酷い事しない? 痛いのは嫌だ…」
「えぇ、助けてあげるわ、酷い事も痛いこともしないと約束してあげる。
と言っても、あの子達みたいに拘束はさせて貰うけどね。
暴れられたりしたら、私達まで大怪我をするしね」
「…痛いことはしない?」
「しないわよ」
「よかった…このまま帰ったら凄く痛いことされるから」
「そうなの? 親に怒られたりするわけ?」
「お父さんもお母さんも知らないよ。
私達はいつの間にか兵士の人達に育てられてたから」
「ふーん、捨てられたって感じなのかしら、心当たりも無いの? 全員」
「全員、お父さんお母さんの心当たりは無いよ。
皆に話したら、皆同じだって言ってた」
「ふーん、まぁ、詳しい話は後で聞くわ、今は大人しく両手を前に出しなさい」
「…うん」
ミロルは戦意を喪失した子供達の手に手錠を掛けていった。
あんな物も召喚出来るのか、便利が良いな。
「はい、これでお終いよ、付いてきなさい」
「動けない子達は!?」
「私達が運ぶわ」
「ありがとう」
彼女達を引き連れ、ミロルは城の方へ移動して行った。
俺が倒した子供達はシルバー達大人組が運んだ。
そして、子供達を全員大きい牢屋の中に入れる。
子供達は少しこの場所に恐怖を覚えたようだ。
どうやら、牢屋にトラウマがあるみたいだな。
「これは、牢屋以外の場所を用意した方が良いかも知れないわね」
「だな、でも自由にすると暴れる可能性があるからな」
「集団で暴動を起されたら、私達兵士だけじゃ鎮圧も難しいのよね」
「……お願い、ここは嫌だ」
子供達は牢屋の中から出して欲しいと懇願している。
「…どうしてここが嫌なんだ? まぁ、薄暗いし分かるけど」
「…ずっと、こんな場所で育てられてたの。
今回私達はやっとこんな場所から出られて。
本当に嬉しかった…ちゃんと制圧できたらずっと外に出してくれるって。
でも、もしも失敗したら、また同じ様に…そう言われて」
「アルトール国は子供達を監禁して育ててたのか」
「お願いします…ここは嫌だ」
「流石にそんな話を聞かされると、可哀想だと感じるわね。
でも、あなた達は約束できるの? 国から出ないと。
この国から逃げ出さないと、国民を傷付けないと」
「約束します! だから!」
「じゃあ、約束を破ったら…」
「分かってます! 分かってますから…お願いします…」
よっぽど嫌なんだな、仕方ないだろう。
「…どうする?」
「そうね、子供達のお世話をする施設を作りましょうか。
でも、それが完成するまでの間、この子達は何処に…
お世話が出来そうな施設の数はあまり無いし。
監視の目も欲しい…1番なのがこの城内なのよね。
開いてる部屋はいくつもあるから出来るけど、監視はどうしましょうか。
内部を監視できる兵士と外部の兵士…暴走したときすぐに鎮圧できる兵士も欲しい
だから、あなた達に任せたいんだけど」
「別に構わないけど、長期間って言うのは無理だぞ?
短期的に監視なら問題は無いけど、長期的は無理だ。
自分で言うのは何だが、俺達の戦力はかなり大きいだろう?
俺達が長期的に抜けるって言うのは不味いだろ」
「えぇ、だから、監視している間に出来れば彼女達の敵対心を削いで欲しいと思うの」
「難しい課題をさらっと課してくるな、報酬とかあんの?」
「うぇ! ほ、報酬を頼まれるとは…そうね、どうしましょうか…」
「冗談だよ、俺達としてもお前らが協力してくれるのはありがたいしな」
「いえ! ずっと借りを作るのは不味いから…うーん、時間を掛けて考えるわ
報酬は出すわよ、えぇ」
「いや、冗談で言っただけで」
「駄目よ! お礼もしたいし、考えさせて」
「まぁ、そこまで言うなら…とりあえず監視も敵対心を削ぐのも任せてくれ」
「ありがとう」
俺達は彼女達を城内の空き部屋に連れて行った。
「わぁ! 広い!」
「凄い…凄い!」
「まぁ、監視はするぞ、下手な事をしたら容赦しないからな」
「う、うん…」
「しかしアルル」
「はい、何でしょう?」
「この子達に変な事するなよ?」
「あはは! 私はリオさん一筋なのでご安心を!」
「安心出来ねぇ…とりあえずこの子達の食事はお前担当だな」
「…え゛!?」
「毎日大変になるな」
「いやいやいや! 当番制とかにしましょうよ!
流石に毎日この人数の食事を用意するのは大変です!
だって! リオさん達の食事も用意しないといけませんし!
毎日の様に100人分近くを作るのは無茶ですって!」
「理想を言っただけだ、無茶なのは分かってるよ。
お前が子供達の料理を作ってくれれば、健康面も安心出来るし
味も十分保証できるからな、だから
出来れば1番安心出来る奴に作って貰おうと思ったんだがな。
まぁ、流石に無理か、もしもそこまで出来たら惚れるかもって思ったが」
「お任せください! 必ずやリオさんのご期待に応えましょう!」
チョロいな、と言っても、流石に1人は無茶か。
スティールにも相談した方が良いだろう。
「それで1人なのね、いつもはアルルが居るのに」
「あいつはハイテンションで材料を買いに行ったよ、本気で1人でやるつもりだ」
「よっぽどあなたに好かれたいのね…」
「ったく、まぁ、流石に無茶なのは分かってるから相談しに来たんだ」
「えぇ、材料の確保と料理人も任せて頂戴」
「あぁ、頼む」
やれやれ、しばらくは賑やかになりそうだな。




