連続攻撃
…どうやら向こうも結構焦りの色が見えてきたっぽいな。
先の襲撃から、また襲撃を仕掛けてくるとはね。
狙いは何だ? こいつの奪還か…あるいは追撃か。
シャンの襲撃でファストゲージは結構な打撃を受けた。
幸い大事に至らなかったが
その影響で経済は結構麻痺をしているからな。
大半は病から復帰しているが、一部はまだとか。
シャンの魔法による病では無く。
あの病を患った事で免疫が下がり、別の病にかかった人も居るだろう。
その影響でこっちの兵力もそこそこ減っているからな。
「…勝負を仕掛ける気だな、短期決戦に臨むって所か」
「うん…結構面倒だね」
「それに…どうやら魔法使いまで投入してきた感じだな。
今までは人形だけだったが…ちょっと面倒だな」
「普通の魔法使いまで入れてきたのは私達には不利ね。
向こうにそんな狙いは無いでしょうけど
あんな子供達が参加してしまったら、私達は派手に暴れられない。
軽機関銃の乱射で殲滅、何て出来ないわね」
その攻撃で魔法使いまで巻き込んでしまうかも知れないからな。
「さてマーシャ」
「はい!」
「今回の戦いはお前が俺の指揮下に正式に参加して初めての実戦だ。
最初にもうすでに俺達の信条や心得は教えたかも知れないが
実戦を前に、改めてそれを再確認して貰う」
「はい!」
「まず俺達が動く上で最も重要となる信条は?」
「はい! 最小限の犠牲で最大の結果を残すことです!」
「その通りだ、それが俺達が戦う上で、最も重要視する必要がある項目。
次は仲間達を対象とした心得だ」
「はい! 仲間は意地でも救い出せ! 1人では何も出来ない!
死ぬ勇気は不要で、生き残る勇気と覚悟を持て!」
「そうだ、俺達全員はどんな手を使ってでも、仲間を守り
どんな絶望的な状況下でも生き残る術を模索しないとならない。
仲間の為なら死ねる! なんて格好いいセリフは俺達には必要無い。
俺達は仲間の為に生き残る術を探さないと行けない」
「はい!」
「ちゃんと覚えてた様で嬉しいよ、1度しか言ってないのに」
「勿論です!」
「じゃあ、今度は私が教えたことを覚えてる?」
「はい、自分の行動で何人もの一生が左右されることを忘れるな。
自分の行動には責任を持ち、自分の行動には絶対な自信を持て。
だが、それが正義だとは考えず、自らの選択でしか無いと理解せよ!」
「合格」
「そんな事を教えてたんだな、でも、なんでそんな事を教えたのか。
俺にはよく分かるよ、ミロル」
「私は自分の行動の重大さに気付けていなかったからね」
「…そうか、じゃあ始めよう。
改めて言うが、今回も最小の犠牲で最大の結果を残せ。
今回の相手は同じ子供も居るからな。
そして、そいつらは全員魔法使いだ。
油断するなよ、命あっての物種だ、死んだら意味が無いからな。
俺達が最も重要とする信条は最小限の犠牲で最大の結果を残すこと。
その最小の犠牲の中に自分達の犠牲はあってはならない。行くぞ!」
「うん!」
「指示は俺が無線で送る、俺はこの場から状況を整理しつつ
お前らに指示を与える。
最初は城門を突破しようとしている人形の排除だ。
後方からの魔法攻撃は俺が何とかする。
お前達は城門を意地でも守り切れ! 民間人の犠牲は出すなよ!」
「任せて!」
フレイが城壁から飛び降り、壁を走り城門の人形を1体踏みつぶした。
フレイの異常な登場に人形達は動揺。
すぐにフレイは1体の人形を掴んだ後、周りの人形を砕きながら殲滅する。
「ったく、ワイルドな登場ね、あんなの私達でも動揺するって」
「人間業じゃ無いからな、あれ…フレイじゃ無いと出来やしねぇよ」
「乗って、皆」
今度はウィングが召喚した大剣をトラが操り踏み台の様に集めた。
ウィング達はその踏み台に乗り、更にウィングが召喚した剣を
踏み台の周囲に展開させ、周囲の剣を回転させながらの落下。
空から巨大な電ノコが落下してきたって感じだな、怖ー。
しかし、トラも器用になった物だな、応用効きすぎだろ。
「あはは、やっぱりトラさん達は敵にしたくありませんね」
「だな、あいつらが味方で助かったよ」
「でも、私が1番敵に回したくない相手は間違いなく…リオさんですけど」
「俺が敵になると戦えないか?」
「そう言う意味ではありませんよ、確かに戦えはしないでしょうけど。
皆さんがあそこまで強くなってる理由はリオさんですしね。
そこを抜きにしても、リオさんの頭の良さや狙撃の魔法は敵にしたくありません。
知らない間に戦況がリオさん1人に覆される…恐すぎですよ」
「過大評価しすぎだよ、俺はあいつらの中じゃ、かなり弱い部類だ」
「冗談きついですね、リオさん」
さて、魔法の発生源は大体分かった、軌道を見ればすぐだな。
あそこから炎の玉を飛ばしてきてるのか。
しかし、火の玉か魔法使いらしい魔法だな、初めてかも知れねぇよ。
「あそこだな」
「えぇ、他にも1時の方向、4時の方向、8時の方向にいますね。
1時の方向には2人、恐らく正面の魔法使い達のサポートですね
4時、8時の方向は恐らくバレないように奇襲を仕掛けるつもりかと
4時の方向には15人程、8時の方向には20人です」
「マナの登場でお前の本来能力を忘れてたよ。
そう言えばお前、異常な程に目がよかったな」
「視力には自信がありますよ」
「この距離で人数まで正確に見抜くのはおかしいと思う。
しかも4つの方向を瞬時に見抜くなんて異常だろ」
「最大の武器ですから」
「俺としては、お前が敵に居る方がゾッとするね。
何処に隠れても見付かりそうだ」
「攻撃する手段はありませんけどね」
「狙撃手の位置が敵に伝わるのは致命的だ
今回みたいな場面ならまだしも、潜伏してるときとかだとな」
本当、こいつが味方で助かったよ。
「よし、行くか…そこそこ痛いだろうが我慢しなよ」
俺は正面の魔法使いの足を狙撃した。
「うぁ!」
「攻撃されてる!? に、人形さん!」
「意味は無いけど」
「あぁ!」
人形達が魔法使いを庇うように出て来た直後に人形の頭を撃った。
人形の顔は汚く潰れ、背後に吹き飛んでいった。
彼女はその瞬間を見たのだ、その場にへたれ込み、顔を真っ青にして動かない。
精神的ショックを与える方法…命を奪わないなら戦意を奪うまでだ。
「あ…あぁ…次は…私だ…私が…あのお人形さんみたいに…死にたくない…」
「なぁアルル、ちょっと心が痛むんだけど」
「命を奪わないためならしょうが無いんじゃ…」
「漏らしてるぞ、あの子…」
「そりゃあ、恐怖しますよ、生き残れない絶望ですね。
向こうにこっちの意図は届かないでしょうし」
「…はぁ、仕方ない、気絶して貰うか」
「あ…痛い…」
非殺傷に切り替え、彼女を狙撃した。
彼女は自分に走る痛みを誤解したのか、泣きながらその場に倒れた。
…あまり恐怖を与えすぎない方が良いのか?
「一撃で気絶させた方が良いのかも知れないが
やっぱりトラウマを植え付けた方が後々良いからな」
「そうですね、戦う気力を完全にそげれば」
「でも、戦えない兵士をアルトールの王が生かしておくとは思えないか。
とりあえず、撃退した魔法使いは捕虜として捕まえよう。
アルル、撃退した子供達の位置を覚えておく自信は?」
「至極簡単です」
「これからダウンをさせていくから、絶対に忘れんなよ?」
「任せてください、気絶した子供が動き出したりしたら伝えます」
「分かった、頼りにしてるぞ?」
「うふふ、リオさんも柔らかくなりましたね、私に対して」
「前も言ったが、俺はお前の事、戦場では信用してるんだ。
日常生活のお前は一切信用出来ないけどな」
「手厳しいです」
俺はアルルが指示をしてくれた場所に居る魔法使いを皆ダウンさせた。
全員に絶大なトラウマを与えた後にな。
こうすることで逃げ出そうという気を削ぐ。
捕虜として大人しくしてる間は何もしない。
と、告げれば彼女達は逃げ出そうとはしないだろう。
もしも逃げ出せば、自分達がどうなるか想像するからだ。
子供は想像力豊かだからな、この事が将来のトラウマになるかも知れないが
より確実に安全に彼女達を保護するためだ、必要悪だろう。
「これで魔法使いは全部か?」
「はい」
「じゃあ次は人形達の撃退を」
「リオ、城門へ攻撃をしていた人形達は全滅させたわ」
「OK、じゃあ、第2陣が来るだろうから待機だ。
俺はその第2陣へ先制攻撃を仕掛けておく。
俺の予想だと、第2陣は身体強化魔法の魔法使いだろう」
「それは厄介ね、OK、警戒するわ」
「そっちの細かい指示はお前に任せようと思うが、どうだ?」
「分かったわ、と言っても、何か問題があって
私だけでの判断が難しいと感じたらあなたに指示を仰ぐけど良い?」
「大丈夫だ、任せてろ」
「リオさん、第2陣が来ました。正面からですね」
「多分だけど、本来は正面の魔法使い達は陽動で
本命は8時と4時方向に配置した魔法使い達だったんだろう。
正面が俺達を惹きつけている内に左右が突破するって感じかな
アルルって言う異常に目が良いイレギュラーのせいで頓挫したが」
「そもそも私達という存在自体がイレギュラーだと思います」
「それは思う」
俺達だけで国1つ落とそうと思えば落とせるからな。
「っと、スティール、聞こえるか?」
(聞こえるわ、どうしたの?)
俺はスティールに意識を奪った魔法使いのことを告げ
周囲の魔法使いを保護するように頼んだ。
(まさか、敵の奇襲部隊を既に殲滅とは…異常な観察眼ね)
「それは俺の部下のお陰だな、とりあえず頼む。
敵に連れ戻されたら面倒だからな」
(分かったわ、その位置に兵士達を送るわ)
「頼んだ、正面の防衛は俺達が何とかするから。
それと、正面兵士達は少し下がった方が良いと思うぞ。
今度の相手は身体強化魔法使い達だろうからな。
ただの兵士じゃ手も足も出ないぞ、無駄に被害を拡大しない方が良いだろう?」
(でも、流石に正面が手薄だと)
「下がらせろって言っただけだ、手薄にはならない。
俺達が突破された場合の保険として後ろの方で待機して貰ってくれ」
(…でも、危険よ)
「あいつらは結構タフでね、俺の支援もあるから信用してくれ」
(…分かったわ)
よしっと、それじゃあ第2陣の迎撃に移りますか。
「ミロル、スティールに一般の兵士達は若干後方に下がるよう指示を出して貰った」
(無用な被害を出さないためね、分かったわ、任せて、ここは抜けさせないわ。
その代わり、あなたもちゃんと援護してよ?)
「勿論だ、任せろ」




