優しい説得
魔法使いの捕獲、今回、結構な結果を残せたな。
しかし、病を操る魔法使いか…流石は魔法国家だな。
現状、出会った魔法使いは4人。
完全コピー魔法使い、身体強化魔法使い。
防御、転移魔法使い…そして病を操る魔法使い。
もう少し情報が知りたいな。
「……と言う訳でだ、聞けないだろうけど情報を聞き出さないとな」
「……」
「随分とゲッソリしてるな、まぁ、何日間も拘束されてたらそうなるか
と言うか、また飯を食べてないのか…死ぬぞ?」
「食べたくない」
なんと言うか、子供だとは思えない位に強情だな。
そこまでして国の秘密を守りたいのか。
「死ぬ気か? 死んでも意味は無いと思うがな」
「…私に、優しくしないで」
「あー?」
「もっと私をいたぶってよ、拷問してよ。
捕虜はそうされるんでしょう? だったら、そうしてよ
私に…優しくしないで…私に……」
「何だ? 痛い目に遭いたいって? 変わり者だな」
「私は…優しくして欲しくないだけ、ご飯もいらない。
お水もいらない…お風呂に入れて貰う必要も無い。
わざわざ…拘束を解いて貰う必要も無い…
何で…私に優しくするの!? 私はあなた達の敵!
それに…皆を苦しめる魔法使いよ!」
「お前の事はスティール達に任せてるんだ。
俺に言われてもな、そう言うのはスティールに頼め」
「だって! 私なんて!」
「お前がなんと言おうと、あいつらはお前の境遇は変えたりしねぇ。
そう言う連中だからな。
同情するような境遇の持ち主を酷い目には遭わせないんだろう。
全く甘ちゃんだ、拷問すりゃあ、随分とすんなり情報を吐かせられるのに。
それをしないで、説得で何とか情報を引き出そうとするなんてな」
「だったら、あなたは私を拷問すれば良い!」
「悪いがそれは出来ないね、あいつらに申し訳が立たないからよ。
俺はあいつらの兄みたいな立場でね、あいつらの見本にならないと駄目なんだ。
親の背を見て育つことが出来なかったあいつらが見る背中は多分俺の背中だ。
自惚れだろうが、そう考えて行動しないと面白くないからな」
「面白い? ふざけ!」
「お前、面白くない人生に何の価値があると思うんだ?
誰かの為にばっかり生きてたら自分を見失うだろう?
辛い事ばかりあれば、先に希望は抱けないんじゃないか?
辛い事も経験して、でも、楽しい事も作っていく。
俺はあいつらの将来って言うのが本気で楽しみなんだ。
将来、あいつらがデカくなったらどうなってるかって考えるのが本気で好きだ。
あいつは運動が得意だから、スポーツ選手とかになってるかもな、とか
あいつは頭も良いから、何処かのリーダー格になってるかも、とか
あいつは引っ込み思案だが、周りの事を良く見てるし
将来、立派なサポート役になってるかもな、とかね。
後、高校生なったらどんな風になってるかな、って考えるのも好きだ。
そんな輝かしい将来を守ってやるためにも、作ってやるためにも
俺はあいつらの見本にならないといけないし、この戦争を止めないといけない。
あいつらが抱えてる魔法という呪いも解いてやらないといけない。
やることが多くて大変だよ、兄って言うのは」
「……」
本来なら親が抱くであろう感情なんだろうけどな。
そして、絶対に先生はそれ以上の事を考えてくれているんだろう。
当然、俺の事も含めて…嬉しいもんだね。
「そして当然、お前の事も気になるんだ。
同じ子供だからな、どうしても気になっちまう」
「私はあなたとは関係が」
「関係は無いね、だが俺は知ってるんだよ。
自分の行動が自分に関係ない赤の他人にどれだけの影響を与えるのかを。
俺の意思1つで1つの一生を終わらせることだって出来ちまう。
それは簡単なんだ、本当に簡単な事なんだ。
指先の1つを動かせば、それだけで簡単に奪える。
だが、救うことは本気で難しい…奪うことはいつでも出来るが
救うことはその瞬間にしか出来ない。
だから、出来ればお前も救ってやりたいな、なんて思ってみてな」
本当に指を少しだけ動くだけで、鎌で刈り取るよりも簡単に命を奪える。
死神よりも簡単に命を奪える。見えない死神って2つ名は的を射ているな。
「何でそんな風に」
「格好いいから? 理由は分からないが、多分それだけだ。
後はさっきも言ったが、あいつらの見本になるためだよ。
まぁ、この話は良いだろう、お前が俺の言葉を聞いても
お前の考えが完璧に変わるわけじゃ無いんだから。
あくまで変わる切っ掛けを与えるだけでしかない。
変わるかどうかはお前の意思1つだからな。
とまぁ、長い話はここまでだ、一応色々と知ってることを話して欲しくてね」
「……」
彼女は歯を食いしばり、僅かに涙を流した。
何か変な事を言ったのか、格好をつけすぎたから怒ったか。
……いやまぁ、自分でも恥ずかしいと思ったけど。
「何が…知りたいの?」
「…話してくれるのか?」
「あなたが約束してくれるなら…私はあなたに力を貸す…」
「何を約束すれば良い?」
「おじさんを…殺さないで…そして、あの子達も殺さないで。
誰も殺さないって約束するなら、私はあなたに協力する!」
「…あの子達って言うのは、他の魔法使いか?」
「そうだよ…私を受入れてくれた11人の仲間達」
「11人?」
「それ以上は言わない、約束してくれるって言うなら話す」
「……分かった、約束してやるよ」
「その言葉、本当だよね、もしも嘘なら私はあなたを許さない。
もしもおじさんを殺したら…もしも、あの子達を殺したら。
私はあなたを一生恨む、ずっとあなたを恨み続ける」
「たたり殺されるのは勘弁して欲しいからな、そもそもだ。
それは例え俺が約束をしなくても同じだろう?」
「……じゃあ話す、私達は何百人の魔法使いがいる。
その中で特別優秀な魔法使いが11人存在する。
私はその11人のうちの1人。
その子達は全員、恐ろしく優秀であなた達じゃ勝てない。
特に1人には絶対に勝てない。
あんなインチキ魔法に勝てるわけが無い。
どれだけあなたに優秀な魔法があったとしても
あの人の前では、その魔法は大きな敵になる!」
「…コピー魔法か?」
「なんでそれを!」
「あぁ、そいつはもうすでに1度撃退しててね」
「嘘! どうやって! あんなに強い魔法使いを倒すなんて!
複数人で挑んだの!? でも、それは意味が」
「1人で撃退した。いや、3人だな、1人じゃ勝てねぇわ」
「そんな…そんなに強い魔法使いには見えないのに…」
「まぁ、見た目なんて気にするなよ、お前だって見た目はチビだし」
「私より小さい癖に…」
「まぁ、そうだけど」
やっぱりあいつは最強クラスの魔法使いだったって事か。
何とか最大の矛は撃退出来たって所なのかな。
「…でも、そうだとしても他の魔法使いだって恐ろしく強い。
全員、独特な魔法を使うんだから」
「どんな魔法を使うんだ?」
「そこまでは教えない…いや、そこまでは知らない」
「何でだ?」
「捕まったときの対策だと思う…コピーの魔法は
例えそれを知っていても、対策のしようが無いから全員に知らされてる」
「ふーん、まぁ、あいつは正攻法じゃ絶対に勝てないだろうからな
例え対策を講じても、あまり意味も無さそうだし」
俺の狙撃魔法なら、あいつの範囲外から攻撃をすれば可能だろうけど。
「だがまぁ、11人の魔法使いが居るって聞けただけで大分助かった。
その11人に警戒しないと駄目って事だな、正確には後10人か」
「…後、8人」
「何でだよ」
「ケミーとケースが姿を消したから。
私はあなた達に捕まってると考えてた。
でも、この場にはいないみたいだし…何処に行ったの?
まさか、殺したり」
「してねぇよ、それなら10人なんて言わない。
しかし、消えたのかあいつ…何が狙いだ?」
「……分からない、拘束されてると思ったけど違うみたいだし」
「じゃあ、今回ここに来た理由はおじさん、もといアルトールの国王が
その2人を探し出せと指示をしたからか?」
「いや、おじさんからはファストゲージ王都に病をばらまけと言われただけ。
2人の事は何も言ってない、ただついでに捜索しようとしただけで」
「仮に拘束されているとして、病を流行らせたらその2人まで巻き込んだろう?」
「うん、だから、最初に探してみたの…私、これでも潜入は得意だから」
「その時にファストゲージの姫と王を殺せば良かったんじゃないのか?」
「流石に警備が厳重なところには行けない」
まぁそうだよな、スティールにはメイルが付いているんだから。
あいつ1人で100の護衛よりも優秀だろう。
国王の方だって、相当な警備だっただろうから、近付くことは出来なかっただろう。
「そりゃそうか…まぁ、あの2人の行方も捜すか。
何が狙いかも分からないしな」
フェミーはあの2人を何処へ連れて行ったのか…わかんねぇな。
国へ戻ったわけじゃないってのは何となく分かっていたけど。
だって、あいつは明らかにアルトール側じゃ無かったからな。
「うん、色々な情報助かったよ、流石にお前を逃がすのは無理だが
厳重な監視下でなら、部屋も用意してくれると思うぞ」
「……」
「こんな殺風景な場所じゃ飽きるだろう?
一応、俺が色々と説得して、お前を監視の中で自由にすることは」
「このままで良い」
「…何でだ?」
「私はあなた達に付いたわけじゃ無いから。
私は…私は…ただおじさんを戻して欲しいから手を貸しただけ。
それなのに部屋なんて与えられたら、私は皆を完全に裏切ることに」
「厳重な監視の下だから自由の身、とは言え無いと思うけどな」
「…でも」
「ちょっと位は自分に甘くなっても良いと思うぞ?
最初の少しだけでも体験して見ろ。
お前の知らない世界が見えるかも知れないしな。
ガキなんだ、色々とその目で見やがれ、ちょっと待ってろ」
俺はスティールに今回の事を説明した。
スティールは結構すんなりとそれを受入れた。
私だってあんな小さな子が地下の冷たい壁しか見れないのは可哀想だと感じるわ。
だから、それは許可しましょう。流石に監視が無いと危険だけどね
と言い、許可をくれた。
俺はその言葉を聞いた後、ミロルに合流した。
「ミロル、GPSって出せる?」
「多分ね、えっと、位置を把握できる道具よね」
「そうそう」
「あれはゲームだと小さな道具っぽいし…あ、こんな感じ?」
「どうすれば確認できる?」
「そうね、えっと、ちょっと待って…っと、これなら」
「カーナビっぽいな」
「最初に思い浮かんだのがこれでね、出せる物ね」
「便利が良いよ、お前の魔法は」
「まぁ、召喚出来るだけだけど、でも、何でこんな物が必要なの?
あなたの事だし、意味が無いことはしないだろうけど」
「ちょっとな、取っ捕まえた奴を仮に自由に動かすために」
「…あの病気を操る魔法使いを? また随分と危ない事を」
「危険な状況に陥れないためにも必須なんだよ。
それに、この街で過ごしたらもしかしたら味方になるかも知れないし」
「でもねぇ」
「ついでにこのGPS、会話とかも聞こえたりするか?」
「可能よ、アニメとかだとよくあるしね。
録音して、後から再生する機能もあると思うわ」
あぁ、本当だ、このカーナビを弄ったら録音再生ってある。
「サンキュー」
「これ位ならドンとこいよ」
俺はこの小さなGPSを寝ていたシャンに仕掛けた。
…正直、プライベートもクソも無い状況になるが
もしもの場合、こいつが助かる為の手段でもあるからな。
仕掛けた場所はシャンの腕、埋め込む感じで仕掛けた。
これでこいつが何処に逃げても見付けることが出来るし
こいつが隠れて通信をしているとしても分かる。
逆にこいつが隠れて通信をしている、って風に
疑いを掛けられたとき、こいつの身の潔白も証明出来る。
しばらくの間、嫌な思いをさせるが…我慢してくれよ。




