元凶の捕獲
原因捜索を始めて2日は経過したが、未だに特徴は分からなかった。
俺達3人とフレイを比べてみたが、やはり分からない。
出生は同じで年齢も同じだからな、魔法使いって言うのも同じだ。
ずっと一緒に育ってきて、違いなんてある物なのか?
しかも、病気の進行度合いも結構不味いレベルまで進んでいる。
敵の侵攻も発生し、かなり不味い状況であるのは間違いない。
敵が侵攻してきたのは前に俺達が制圧した前線地方だ。
どういう風に言うべきか? 街か市か、まぁ街だろうな。
何とかそこはトラのお陰で防衛は出来ている。
護衛として配置していたウィングも向こうに行って貰った。
仕方なくだが、スティール達の護衛はメイルに任せることにした。
しかしだ、なんで最初にこっちを攻め込んでこなかったんだろうな。
病気が移るからと言うのが普通の考えだけど
敵が使うのは魔法で動く魔法人形だ。
それなら、こっちに攻め込んでも問題は無いと思うが…
もしかしたら、魔法越しでも移るとかか? 魔法の病ならあり得るのか。
しかし、魔法越しでも病気の対象なら掛かるとすれば、スゲー不便だよな。
だが、攻める必要はそもそも無いだろうけどな。
病の進行速度はあまり速くはないにせよ、原因を突き止めない限り
確実に死に至る…俺達という例外を除けば全ての対象に病を振りまくことが出来る。
そうすれば、原因を究明することは出来ず、全滅しかあり得ない。
動けるのは俺達以外で言えば、小さな子供達だけ。
そんな子供達に原因を究明できるとは思えないしな。
「……ち、早くしないと不味いんだが」
まだ特徴が分かっていない…2日間も掛けて探したのに
未だに俺達3人と動ける子供達の特徴が分からない。
数少ない攻略方法だと考えていた迎え撃つ手も不可能みたいだ。
2日間も城への攻撃はない…もしも城に向う子供が居れば
そいつが元凶だというのが分かるわけだが、そんな子供は1人も居ない。
恐らく、いや間違いなくこの攻撃の元凶は頭が良い。
いや、子供だからこそ厄介なのかも知れない。
大人だと功に焦って大将首を取ろうとするかも知れないが
子供にそこら辺の固執はないだろうからな。
「やっぱり特徴を見付けるしかないのか…」
だが、特徴を見付けてどうする? 仮に見付かったとしても
その情報を元にどう動けば良い? どうすれば黒を見付けられる?
少なくとも黒だと思えるのは動ける子供だけだろう。
もうすでに的は絞られてるから…特徴を見付けても意味は無いんじゃ?
「…………」
1番確実な方法は…動いている子供を1人残らず狙撃すること。
その中に黒幕が居るとすれば、そいつを殺せば問題は解決する。
だが! そんな事…出来る訳がない!
とにかく、その方法以外を何とか模索するためにも共通点を見付けるしかない!
何なんだよ! 頭を全力で動かせ…特徴は何だ? 共通点は?
あの子供達と俺達の特徴……
(リオ、何とか撃退出来た)
「そうか……」
(そっちはどう?)
「まだ分からない」
(……何なんだろう、私達とフレイ達の違いって。
だって、私達とフレイはずっと一緒に居た。
同じじゃ無い所なんて無い筈なのに…)
「あぁ、何なんだよ…」
(…私達とフレイの違い…うーん、フレイは昔から食いしん坊だったって事くらい?)
「そうだな、あいつは孤児院にいるときから沢山食べてたからな」
(あれでも我慢してたって聞いたよ?
でも、私達の中で1番食べてたのは間違いないけど
逆にリオは殆ど食べてなかったけどね)
「お前だって我慢してたじゃないか」
(リオ程じゃないよ、少なくともリオよりは私大きいから」
「そうだな、俺って1番小さいし、でもお前もウィングも小さい方……」
小さい…?
(どうしたの?)
「……小さい、そうだ!」
(え?)
「ありがとう! トラ!」
(え!? な、何? 何の事!?)
「後で連絡する!」
俺は急いで城の中に戻り、すぐにアルルの布団を剥いだ。
「ひゃぁあ! ケホケホ! り、りり、リオさん!? どうしました!?
夜這い…いや、昼這いですか!? 待ってください私はまだ!」
「くだらない事を言う余裕があるなら教えろ! 俺達の身長!」
「身長?」
「あぁ、管理してるだろ!?」
「皆さんの健康状態は…確かに…まとめて管理してます…ケホ!」
「何処にある! その資料!」
「えっと…管理は私が担当ですから…私の机に」
「分かった!」
俺は急いでアルルが使っている机を探った。
「よし、あった!」
身体測定の資料だ! そこには事細かに身長、体重の増減が書いてあった。
俺達の体重は若干増えてはいるが、身長は一切増減がない!
この中で、俺、トラ、ウィングの身長を見た。
「……俺は95、トラは99、ウィングは97! フレイは…101!
フランは106、マルは107、メルは108、ウィンは101
ミロルは103……あぁ、やっと、やっと見付けたぞ…
俺達3人に共通して、病気の連中に共通する特徴…身長だったか!
3桁を越えてない子供は病気に掛かってない。
いや、まだ分からないが、少し調べるか」
何とか子供達に協力して貰い、身長を測ってみた。
測定した子供の数は10人だが、全員3桁は越えていなかった。
もう一つの特徴として、全員の年齢は4歳以下だった。
「……よし」
俺は子供の振りをして、色々な子供達に年齢を聞いた。
子供達は皆、素直に教えてくれた。俺は5歳と偽ったがな。
そして、なんでそんな事を聞くの? と質問されたとき
何だか自分達だけ動けるみたいだから、気になったんだ。
ねぇ、あなたも色々な子に聞いてみようよ、友達になれるかも!
そう答えた…結果、俺が年齢を聞いた子供達は全員動いてる子供達へ年齢を聞き始めた。
狙い通りだ…俺は城壁の上へ移動して子供達の会話を盗み聞いた。
「相手は潜伏しているだろうから探すのは苦労するだろうからな。
でも、目を増やせばきっと…」
……やっぱり5歳という単語は中々聞けないな。
子供達が全員年齢を聞いて回っていると言うなら
多少は警戒も解くと思ったが…なる程、簡単じゃないな。
「…………」
この原因不明の病が流行って3日目
ようやく捉えた…ようやく聞けた言葉…5歳という一言!
多分向こうも違和感を感じさせない為に5歳と答えるはずだと踏んでた。
予想通り5歳と答えたな、あいつがそうなのか分からないが。
とにかく鎌を掛けてみるしか無いだろう。
「こんにちは」
「こんにちは」
「ねぇ、何歳?」
「…5歳」
「そうか、じゃあ間違いかも知れないけど……お前は魔法使いか?」
「!」
彼女は俺の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべた後、逃げ出した。
「逃げるって事は…肯定って意味だな」
俺はウィンチェスターを召喚し、逃げる彼女を非殺傷で狙撃した。
「あぅ……何で…」
「逃げたのは失敗だったな」
「……何…で、私が…魔法使いだって…」
「色々と探って、共通点を見付けたんだ…身長だな」
「……」
「だが1つ分からない、なんで条件を用意したのか」
「失敗した…な、油断した…ごめんなさい…さん
まさか…見付かるなんて…まさか、バレるなんて…」
結局喋らなかったか、まぁ良い…後でフランに任せるか。
「…トラ」
(どうしたの?)
「病気の元凶を捕獲した」
(本当!? 特徴が分かったの!?)
「あぁ、身長だったよ、俺達3人は背が低かったんだ。
そのお陰で魔法の対象外だった、まさかコンプレックスに救われるとはね」
(何が良いか分からないね)
「だな」
あの魔法使いの意識を奪い、拘束して少しして国を覆っていた病が消え去った。
俺は彼女をファストゲージ国の牢にひとまずは拘束した。
病をばらまけば周りに影響を与えることは出来るが
そんな事をすればすぐに攻撃をされてしまう環境だ。
例え出来ても、そんな真似はしないだろう。
即効性の病は操れないだろうからな。
出来るなら最初の襲撃で使ってるはずだからな。
わざわざ時間がかかる手段を使いはしないだろう。
「…さて、まぁ尋問と行こうか、出来ればお前の口から聞きたい」
「……」
「まず、名前は? いつまでもお前じゃ便利が悪い」
「……シャン」
「そうか、じゃあシャン、聞きたいことは色々とある。
だが、テメェの国の事を話せ、と言っても話さないだろう?」
「話すわけがない」
「だから、今回の襲撃、なんで俺達が対象外だったのかを話してくれ」
「……私の魔法は私にだって被害が及ぶ。
前は私以外を無条件に病に冒す魔法だったけど」
「じゃあなんでお前まで対象に?」
「そのままだったら、私は誰とも一緒に居られない。
だから、何とか魔法を制御出来るようにおじさんと一緒に頑張った。
それで、私の魔法は制御出来るようになった、その代わり
魔法を使った時、自分にも被害が及ぶようになった。
でも、どうでも良い事…それで私は皆と一緒になれるんだから」
「苦労したんだな、じゃあ、なんでお前は無事だったんだ?」
「…この魔法は1つだけ対象外を選ぶことが出来る。
その対象外に私が入るように設定しただけ」
「その条件が」
「身長100cm以下は対象外…まさか、私以外にそんなに背が低い子が居るなんて」
「割と居るけどな、まぁこの国には居なかったみたいだけど。
お陰で割り出せたんだがな、全く流石社会主義国家だ。
特別背が低い子供が居ないとはね、平等ってのは流石だ」
「…私を捕まえたのは賭け?」
「そうだよ、魔法使いかと聞いてお前が逃げ出したからな。
臆病な性格なんだな、慎重な性格は結構だが
臆病な性格は慎重になりがちだが、すぐに逃げ出す弱点もある。
そんな性格になったのはいじめられてたのが原因だったんだろう?」
「何で私が…いじめられてたって」
「そんな魔法じゃいじめられるだろう、迫害されたり仲間外れにされたりな。
最悪、両親からも無視されたりな」
「……」
「図星っぽいな、じゃあ次だ、そのおじさんって誰だ?」
「…教えない」
「…フラン」
「そこまで気になるの?」
「そりゃな、隠す理由も不思議だしな。
何で良い思い出である筈のおじさんって奴を隠すのか」
「…分かった、どうする? 心まで奪う? 完全に心を奪って
私達の支配下に置くことは出来る…リオを対象にすれば
この子はリオに絶対の忠誠を誓うと思う」
「奪えるのかよ」
「本気でやれば…記憶を完全に潰して全部書き換えることも出来ると思う」
「や、止めて…それは止めて…止めて! 私の記憶を…消さないで!」
「いい思い出も多いって事だね、そんな顔を真っ青にして泣いて」
「お前の魔法、結構ヤバいんだな」
「少なくともこの子の心を奪うことは出来る。
リオの心は奪えないと思うけど。
流石に確固たる意思を持ってる人の心は奪えない」
「ふーん」
「でも、こいつには無い…これなら容易に奪える」
「まぁ、何にせよこいつの心までは必要無い。
人を無理矢理従わせるのは趣味じゃないんでね」
「そう…まぁ良い、とにかくそのおじさんを調べる。
でも…催眠術を使えばその記憶だけを奪う事になる。
その記憶だけを抜き取り、消える」
「止めて! 止めてぇ!」
そんな反動があったか? いや、そんな反動はないはずだ。
でも、何がしたいのかは大体分かる。
「どうする? 大事な情報だろうから無理矢理にでも」
「話す! 話すから! 話すから…私から…おじさんを奪わないで」
「……じゃあ話して」
「…お、おじさんは…アルトール国の国王様…の…事です」
「何だと? スティールが国を明け渡すことを嫌がるほどの相手だぞ?
そんな奴が何でお前を保護して」
「それは違う! おじさんは酷い人じゃない! そんな人じゃない…
優しい人…優しい人…だった、優しい人なの。
苦しんでる私達を助けてくれた…助けてくれたの」
「だが、そいつは裏切り者だろう」
「それは…何か理由があるんだと思う、そこまでは分からないけど。
何であんな風になったのか分からない…何で私達を道具みたいに…」
「じゃあ、なんでそんな奴にお前は」
「今が何でも…私を助けてくれたのはあの人…だから私は!
私は…道具でも良いから…おじさんの役に立ちたいの」
「……」
結局、謎が増えただけか…原因は分からないしな。
「そうかい、扱いやすいペットだ」
「ペットでも私は良い…おじさんの役に立てるなら…」
「盲目的な奴だな、信頼は結構だが、依存は無意味だぞ?」
「関係ない…あなたには関係ない…あなたには分からない…」
「そりゃな、俺とお前じゃ違うからな」
俺で言えば先生だろう…
「俺なら、大好きだった恩人に戻そうとするからな
従うだけが恩返しじゃねぇ、恩人が間違った時は正すさ。
それで嫌われるかも知れないけど、そんなの関係ないね」
「……」
「お前はただ、嫌われたくないだけだ。
まぁ、子供のお前なら、そんな考えになるのは普通だろうが」
「…私は」
「まぁ、お前は逃がすつもりはない。厄介極まりないからな。
だが、殺すつもりはない…ま、色々と考えてろよ。
小さな脳みそじゃ、大した考えは出ねぇだろうがな」
ひとまずはこのままで放置するしかないだろう。
こんな厄介な魔法使いを野に放つなんて自殺行為だろ。
今回みたいな手がまた使えるとは思えないからな。




