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帰る場所

かなり久し振りに孤児院に戻り、遊びに付き合っていると

気が付いたら夕暮れになっていた。

やっぱりここだと時間が流れるのが早く感じる気がするな、過しやすいし。

どうせならこのまま泊りたいが、流石に泊るわけにはいかないよな、食事的に。


「それじゃあ、俺達は行くよ」

「えー!? もうちょっと居てよ!」

「悪いな、流石に食事まで世話になるわけにはいかないんだ」

「うー・…」


俺は少しだけ涙が出そうになったが、必死に堪える事にした。

俺に涙は似合わないしな。


「それじゃあな、行くぞアルル」

「良いんですか?」

「良いんだよ」


心配そうにしているアルルにも顔は見せないように気を付けた。

そして、そのままアルルと一緒に孤児院の外に出て行った。


「リオちゃん、忘れ物はありませんか? ハンカチは?

  手洗いうがいはしてますか?

 健康には気を付けないといけませんよ? 

 自分を大切にしてくださいね」

「先生…それ、今言うのかよ」

「はい、いつかもう一度、帰ってきてくれると分かったんですからね

 死なないでくださいよ、フレイちゃん達にも言ってください

 それでは、また帰ってきてくださいね?

 ここは、あなたのお家なんですから」

「……分かったよ、先生、今度はフレイ達と一緒に来るさ」


俺は涙が流れている顔を見せて、先生の言葉に元気よく答えた。

ほんの1週間程度、ほんの5年だけ一緒に居た奴らと別れてただけなのに

こんな風に泣いちまうなんてな…どうやら、感情まで幼稚になっちまってるようだ。

…何で、何で中途半端に大きくなると薄情になるのかね。


「うふふ、それではまた帰ってきてくださいね、待ってますよ」

「リオちゃんが初めて泣いたよ! あはは! 似合わないね!」

「やっぱり似合わないか?」

「うん! 可愛くなっちゃってリオちゃんっぽく無いや!」

「可愛いとか言うな! ほらアルル! 行くぞ!」

「はい~、うふふ~、素直じゃ無いですね、全く」

「そう言う性格だっての」

「それじゃーね! ま、また…また帰ってきてよ!」

「待ってる・・から!」


振り向かない! 絶対に振り向かないぞ

泣いてるあいつらを見たら行き辛くなるからな。

俺はその決心をしながら、後ろを振り向かずに前だけを見て歩き続けた。

あいつらの声が聞えなくなるまで、ずっとひたすらに。

そして、しばらくして声が聞えなくなったとき…俺は少しだけ後ろを向いた。


「あいつら、まだ」


見えたのはかなり遠くで小さな手を振ってるあいつらの姿だった。

俺の目が良いから見えたんだろうが、あいつらには見えてないだろうに。


「リオさん、やっぱり帰りたくないんじゃ?」

「そうだな、行きたくないな

 でも、俺が居なかったらあいつらが寂しがるだろ?」

「意外と自信家ですね、まぁ、実際そうでしょうけどね」

「多少は自信を持ってないとな、自信が無い人間は何も出来ないからよ」

「そうでしょうね、さて、戻りましょう

 私がエスコートいたします、リオお嬢様」

「はん、テメェにエスコートされてたら攫われっちまうわ、変態」

「おぉ、手厳しい」

「でも、今はちょっと足下が霞んで見えにくいし

 少し案内してくれ、攫うんじゃ無いぞ?」

「お任せあれ、リオお嬢様」


俺はアルルの手を掴み、こいつに引っ張って貰う事にした。

そうしないと逆走しそうだし、前も見えにくいからな。

…涙を流したのは何年ぶりかね

やっぱり目の前が霞むから涙なんて流したくないや。



「着きましたよ、リオさん、怪我はしてませんか?」

「大丈夫だ、怪我はしてない」

「それは良かった、それではお部屋に行きましょう」

「そうだな」


城壁の内側に戻り、俺とアルルはゆっくりと部屋に戻った。

部屋に入ると、そこには疲れた表情のフレイ達がグデーっと倒れている。

今回の訓練はよっぽど厳しかったのだろ。


「大変だったようですね、フレイさん達の方は」

「そうだな、と言うかアルル、こいつらの姿を見て思ったんだが」

「なんですか?」

「俺の訓練って、体を酷使しないよな?」

「…そうですね」

「なら、訓練しても良くない?」

「いや、でも休養をしろと言われてるんですけど?」

「休養は要するにあれだろ? 自由な時間だろ? なら、訓練をしたい」


何でこいつらのこのキツそうな姿を見てそう思ったのかは自分でも分からないがな。


「何でですか? 何でフレイさん達を見てそう思ったんです?

 あ、まさかリオさん、そっちの気が!」

「どっちの気だよ! 単純にあれだ

 やることが無いのが嫌なだけなんだよ

 何もやることがない方が個人的には苦行だし、地獄なんだよ」

「まぁ、そうですよね、何もやることが無いとキツいですからね

 やっぱり、暇が最大の疲労なんでしょうね」

「そうだよ、多分な、だから訓練をしたい、暇の方がよっぽど体に毒だし」

「そうですね、明日聞いてきます、で、許可が下りたらやりましょうね

 ただし、もしやるとしたら私の言葉をちゃんと聞いてくださいね

 分かりました?」

「わ、分かったよ」


前、訓練したときには気絶したからな、心配してくれてるんだろう。


「でも、本当に何でですか?」

「強いて言えば、あいつらとこいつらを守りたいからだな」

「国の為とかじゃ無いのですか?」

「そんな崇高な精神を俺が持つわけ無い

 国の為だとかそんな大きな物の為に戦う訳がないじゃ無いか

 俺はただ家族を守る為に戦ってるだけだ、最初からそれは変わってない

 ま、そもそも1週間で人の精神が変わる訳ないがな」

「…私もそんな風に思える家族が居れば」


…もしかして、戦争とかで家族を失ったのか、こいつ。

ヤバいこと言ってしまったな、浅はかだったとしか言えない。


「何か、あったのか…ごめん」

「いいえ? 

 ただ単に私の両親はちょっと世界横断して来ると言って帰ってこないだけです」

「せ、世界横断!?」


え!? 何!? さっきのあの暗い感じとこの温度差! 何で世界横断!?


「はい、いやぁ、1年以上は掛りますよね、推測では10年でしたしね

 あぁ、今頃何処の山中でご飯を食べてるんでしょうか」

「山中!? な、なんで山の中に!?」

「登山家ですし、やっぱり寝泊まりも山の中かなぁって」

「あ、あぁ、そう」


強烈だ、やっぱり強烈だ! やっぱりこいつを含めて

こいつの家族は強烈すぎる!

何で世界横断という行為を行なおうと思ったんだよ! アルル両親!


「なんで世界横断を!?」

「男なら、でかい事をしたい! と、お父さんが言って

 お母さんがキャー素敵-、私も連れてって!

 と言う、軽いノリで世界横断をしようとして出て行きました

 因みに私はその頃はこのお城で鍛えてて

 手紙が来たときはギョッとしましたよ、世界横断ですからね!

 国がピンチなのに世界横断ですからね!

 発想の飛躍が我が両親ながらえげつなかったです」

「寂しくないのか?」

「大丈夫ですよ、いつもこんなノリでしたし

 あ、因みに私がロリコンなのは両親の影響です」

「はぁ!?」


え!? え!? えぇ!? 強烈すぎるだろう! こいつの両親もロリコン!?


「お父さんは生粋のロリコンで

 お母さんはロリコンとショタコンの混合種でした」

「犯罪者一家じゃ無いか!」

「いやぁ、大丈夫ですよ

 2人とも見てただけで手は出してません、紳士と淑女ですよ

 そもそも、2人はお互いに一途ですからねぇ

 今でもホカホカなんで、手は出してませんよ」

「いや! それでも駄目だろ!? 思考がよ!」

「因みに私は生粋のロリコンです! 特にワイルド系幼女が大好きなんですよ!

 そんな女の子がたまに見せる女の子の一面が、もう、可愛いったら!

 普段格好いいのに、やっぱり体は女の子なんだなーって思う瞬間とか!

 たまに見せる優しさとか!

 普段泣かない子が泣いちゃうところとか! 妙に我慢してるところとか!

 あ、他の女の子と遊んでる姿も良いですね! 

 もう! 責任取ってくださいよ!?」

「はぁ!? はぁ!? はぁぁあ!!??」

「私がこんな感じになったのは、全部リオさんのせいです

 昔は普通の可愛い系の子が好きだったのに

 リオさんにあって、ワイルド系幼女が好きになりました!

 可愛い! 格好いい! でも優しい! そんな感じの子が大好きです!」

「黙れやぁ! もう口を開くな! 呼吸もするな! そのまま死ね!」


俺の暴言を受け、アルルは黙って敬礼をした

そして一言も発さずに、顔を真っ青にして

そして、そのままゆっくりと倒れ

意識を失った…もしかして、呼吸してなかったのか?


「…あー、もう本当に呼吸もしない奴があるか、クソ」


はぁ、風邪でも引かれると面倒だしな、一応布団を掛けてやろう。

全く、こいつと話していると本当に頭が痛くなってくる。

あー、もうしんどいわ、訓練なんぞをするよりも、何十倍もしんどいわ

あ、ヤバい、腹痛くなってきた、怒鳴り散らしたからな。


「あ、リオちゃん、お帰りなさい、凄く大きな声で叫んでたね」

「お前、いつの間に」

「リオちゃんが怒鳴ってるとき

 どうして怒鳴ってたのかは分からないけど」

「はぁ、全部こいつが悪い、以上だ」

「ふーん、気絶してるのはリオちゃんがやったの?」

「こいつが勝手に気絶した」


俺は本気で命令したわけじゃ無いんだ、こいつが俺の言葉を勝手に真に受けて

勝手に息を止めて意識を失っただけに過ぎないし、俺は何もやっちゃいねぇ。

そもそも、こいつがあんな変態的な発言を

当たり前の様にペラペラと喋るのがいけないんだ。

何で俺と2人きりだとこいつはここまで変態的になるんだよ、畜生。


「はぁ、で、お前は何で倒れてたんだ?」

「訓練がキツかったから、今回は合同でやったんだけどね

 メルトって人が本当に厳しくって

 ウィングちゃんがいつもクタクタな理由がよく分かったよ」

「じゃあ、どうしてそのウィングもぶっ倒れてるんだ?」

「今までは肩慣らしだったらしくって、今回が本番だって言ってたから

 きっと、これからウィングちゃんは毎日大変なことになると思うよ、あはは」

「ウィングの奴、過労死しなければ良いが」

「大丈夫だって、ウィングちゃんも強いからね」


ウィングの精神力は確かに凄いところもある。

普段は引っ込み思案だが、やるときはやるし。

でも、どんな訓練だったかは知らないが、気絶する程ってのはよっぽどだろうな。


「ウィング、大丈夫だと良いがな、本当に」

「きっと大丈夫だって、ほらほら、そんな事よりも遊ぼうよ

 何して遊ぶ? 戦いごっこ? でも、リオちゃんは怪我してるから」

「…じゃあ、おままごとで良いんじゃないか?」

「リオちゃんらしからぬ発言! でも、良いよ! 

 久し振りにリオちゃんとやってみたかったんだよね

 リオちゃんすぐに嫌がるからさ、ふふふ~

 じゃあ、リオちゃんはお父さん役ね!」

「あぁ、分かったよ」

「じゃあ、トラちゃんとウィングちゃんも起こして

 久し振りに4人でおままごと!」


普段なら、幼稚な遊びだから絶対にやらないが、久々に付き合うとするかな。


「あ、そうだお前ら」

「「「何?」」」

「先生が、いつかまた帰ってきてくれってさ」

「会ったんだね! 羨ましい! 絶対にまた先生達に会いに行くもんね!」

「うん、絶対に」

「その為にも頑張らないといけないね、私達は」

「うん! 頑張ろう!」


伝えることが出来たな、さて、それじゃあ、久々に遊ぼうかね。

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