海でのお遊び
「海だー!」
「海だな」
「リオちゃんテンション低いね!」
「最初の時だってあまり乗り気じゃなかったろうが」
「でも、今は水着着てるじゃん!」
「…仕方なくな」
うぅ…やっぱりこう言うのは慣れない、なんかいやな感じだ。
でもなぁ、家にあった水着…可愛い系しかなかった。
アルルにそう言うの全部任せてたからな。
…失敗した、海で水着を着るなんて考えてなかったから…
一応、1番露出が少ない水着を選んだんだけど…なぁ。
どうせなら、海パンとかの方が良かったんだがな。
でも、そんな物をアルルが買ってくるわけ無いし、仕方ないのか?
「しかしリオさん」
「なんだよ…」
「それを選んだんですね、イチゴ柄のフリフリ水着!」
「これ以外まともなのなかったからな」
「…この水着を着ればよかったのに」
フランが最初に持ってきていたスクール水着を出した。
「それはいやだ、主に名前の所がいやだ」
「頑張って作ったのに…ちょっと悲しい」
「くだらない所に力を入れるな、誰がそんな物を着るか」
「私は着た」
「前はなかったのに…?」
「用意した」
「お前…無駄に仕事早いな」
「後、ウィングも着てくれた」
「マジかよ」
「うん…お姉ちゃんが折角作ってくれたんだから、ちゃんと着ないと」
意外とウィングとフランには似合ってる気がする。
「はぁ、どうせなら海パンとかが良いんだけどな」
「女の子が男物を着るのはおかしいです! 胸とか隠せないじゃないですか!」
「だから、ガキのちっちぇー胸なんぞ誰も見ねぇし、そもそもここは人が居ない」
「それでも駄目です! と言うか、絶対にメア姫様に言われますよ?
女の子がその様な格好をしてはいけませんわ、って」
「た、確かに言いそう」
メア姫様はそこら辺妙に厳しいからな…いやまぁ
自分と瓜二つの女の子が変な事をしてるのを見るなんて
本人的にはかなり嫌だろうし…しょうが無いんだろうけどさ。
「お姉様! 海というのはやはり良いですわね!」
「そうよね! 輝く太陽! 輝く海!
そして全ての輝きよりも光りを発している周りの笑顔!
うん! 最高よね! いつも貸し切りだから嫌だけど
今回は複数人だからね!」
「私達が赴けば、何処であろうと貸し切りだからね。
でも、今回は小さな戦士達の皆様も居るし、賑やかになりそうね」
「えぇ! と言う訳でリオ!」
「は、はい? え、な、なんでしょう?」
「泳ぎましょう!」
「え゛!? い、いや、自分は泳ぐのはあまり得意では」
「兵士ならば水練もしなくてはならないでしょう!?
と言う訳で来なさい! 海が待っていますわ!」
「ま、待ってくださいメア姫様! 引っ張らないで!」
「おほほ! 嫌ならば抵抗すればよいのですわ!
私の方が背も高いので、リオは私には勝てないでしょうけどね!」
いやまぁ、抵抗すれば十分倒せるだろうけど…怪我をさせるわけにはいかないし…
俺はこんななりでも一応兵士、訓練は毎日やってるから
ただのお姫様であるメア姫に負けることは無いと思うんだよな。
現に今もまるで抵抗してないし…ちょっと力を入れたらどうなるんだ?
試してみるか…少しだけ踏ん張ってみて。
「ぐ! ぐぬぬ! い、意外と力があるのですね、リオ!」
「ま、まぁ、兵士ですし」
「しかし! 私も負けていませんわよ!」
うん、俺の方が力強いな、間違いない。
やっぱりこんなんでも兵士なんだと自覚できた。
…まぁ、ここはメア姫に花を持たせてあげた方が良いかな。
だが、その場合、俺は苦手な海に入る事になるけど…
まぁ、アルル達も居るし、万が一が起きても大丈夫かな…ちょっと嫌だけど。
「わぁ、姫様力強いです-」
「わ、私の方が大きいですからね、当然ですわ!」
「……リオ、かなりの棒読みね」
「演技力凄い筈なんですけどね」
「リサ、私はあの演技力を見抜けなかったと言う事かしら」
「本気で演技してないだけだと思いうから、大丈夫だと思うわ、お姉様」
「奴隷商人を騙せるくらいの演技力が嘘みたいですね~」
…本気で演技した方が良いのだろうか、必要性は感じないけど。
と言うか、演技するのしんどいから嫌なんだよなぁ。
「さぁ! 海ですわ!」
「ぬぬぬぅう! 海は絶対に嫌です!」
「あ、演技を始めた」
「迫真の演技ね」
「リオさん流石です!」
「変な所褒めるなぁ!」
「む? もしやリオ、力を入れていないと言う事ですの!?」
「え?」
が、外野がチャチャを入れてきたからバレちまった…
「え、えっと…」
「お姉様達の話を聞く限り、そう言うことですわね!」
「いやまぁ…その…」
「ぐぬぬ! リオ! あなたの本気を見せなさい!」
「いや、最悪怪我しますよ?」
「負ける訳ありませんから大丈夫ですわ!」
「じゃ、じゃあ、少しだけ」
ちょっとだけ力を入れて、メア姫を引っ張ってみた。
「うわぁ!」
「えっと…大丈夫ですか?」
「な、なんと言う…リオにここまでの力が…」
「一応兵士ですし…毎日トレーニングしてますから」
「負けたくありませんわ…今度から私もトレーニングをせねば!」
「メア、変な所で意地を張らない」
「リサお姉様には関係ありませんわ!」
「なぁ! どういうことよそれ! お姉ちゃんが心配してあげてるのに!」
「メアもリサも喧嘩しないの、全く、折角なんだし仲良く遊びなさいよ」
「でも…いや、そうね、ありがとうお姉様、また前みたいになったら大変だし」
「リオ! 今は勝てずとも、必ずリオよりも強くなって見せますわ!
でも今は海ですわよ! 海!」
「かなり楽しみだったんですね」
「勿論ですわ!」
俺を引っ張ったままメア姫は海に足をつけた。
「つ、冷たい!」
「まぁ、冷たいでしょうね」
「こ、こんなに冷たいとは…ぉ、お、とと…ゆ、ゆっくり…」
「そんなにビクビクせずとも」
「あ、気持ちいいですわ! リオも入るのです!」
「はい、分かりました…あ、確かに冷たい」
「リオちゃん! 早く入ろうよ!」
「そんなに急がなくても海は逃げ、うわぁあ!」
フレイが飛びついてきた! 冷たい! 超冷たい!
「冷てぇ!」
「おぉ! 冷たい! これでこそ海! あはははは!」
「うわぁ! ふ、フレイ! 私の顔に掛かってしまいましたわ!
反撃してやりますの!」
「わぁ! お姫様に海の水を掛けられた! 私も反撃しちゃうもんね!」
「うわっぷ! や、やってくれましたわね! えいえい!
「えいえい! あはは!」
「はは、流石フレイ、お姫様相手でも容赦なしか」
「そして」
「え?」
2人が息を合わせたように動きを変えて、同時に俺へ海水を掛けてきた。
「冷たぁあ!」
「あはは! リオちゃん油断したね!」
「今度はリオをべちゃべちゃにしてあげますわ!」
「ま、待った! この体勢で海水を掛けられたら、うわっぷ! しょっぺ!」
「ほれほれ! 反撃してみなさい!」
「えいえいえい! あはは!」
「こ、この! こっちだってやられっぱなしはごめんだ!」
こっちも向こうの顔に海水を引っかけた。
「うわぁあ! しょっぱいぃい!」
「しょっぱいですわぁ!」
「ふはは! 狙いが正確な俺の反撃を舐めるなよ!
口に海水が入るように反撃することは容易なのだ!」
「な、なんて卑怯なんだ! 魔王リオ! 勇者フレイがお前を倒す!」
「馬鹿な勇者め! 俺の正確無比なしょっぱい攻撃でその口を聞けなくしてやる!」
「わぁ! しょっぱい!」
「ふふ、口ほどにも無い奴め!」
「私も攻撃するのですわ! えっと…勇者のお付きかしら、私。
あ、勇者の相棒かしら、いや、ここは騎士…勇者様は騎士である私が守りますわ!」
「うわぁ! しょっぱい!」
「おぉ! 姫騎士様! 助かりました!」
「ふふふ、私、何だか気分が良いですわ!」
「この程度、どりゃぁ!」
「わぁ! しょっぱい!」
ふふふ、結構すんなりと海水って口の中に入るな。
「おのれ魔王リオ! でも! 私達は!」
「私達は負けませんわ! 協力攻撃ですわ!」
「えいやぁ! これでどうだ魔王リオ!」
「うわぁ! 両方からの集中攻撃! なんて威力だ! しかし、俺はまだ!」
「トドメだ! 同時アターック」
「え? ど、同時アターック! ですわ!」
「うわぁあああ! なんて強力な…こうげ…き…まさか、この魔王リオが…
こんなちんけな勇者共に敗北するなど…がは」
「悪は去った!」
「勝ちましたわ!」
……何やってるんだろう、俺…
「シルバーさん! 見ました!? 見ました!? リオさんがあんな事をしました!
あぁ! 可愛い! 可愛い! フレイさんの無茶振りに応えるところが可愛いです!
しかもノリノリで! あぁ! こ、これは! 今まで見たことの無い
リオさんの魅力! 鼻血出ます! 鼻血が出ます! あぁ、涎も…うへへ。
あぁ! これがリオさんの優しさ! あぁ! 私の愛が暴走します!
うへへ、うへへ! もっと色々とやって欲しいですぅ!
ドンドンリオさんの魅力が上昇しているのを感じます!
私のラブメーターが限界を振り切れてしまいます! あぁ! リオさんリオさん!
なんて素敵な方でしょう! あぁ! 結婚したいです!」
「落ち着きなさい!」
「ふべら!」
「り、リオ…結構ノリが良いのね、意外だったわ」
「孤児院の時、たまーにこんな事をしてた気がする」
「ふふふ、リオ可愛い、リオ可愛い、リオ可愛い、リオ可愛い!
フレイも可愛い! フレイも可愛い! 私は幸せ者」
「黙れやぁ!」
「あぁ! 魔王リオが復活した! もう一度倒さないと!」
「第2形態という奴ですわね! 手強そうですわ!」
「え!?」
まだやるの!? まだ終わってなかったの!?
あ、あんな異常な会話を聞いた後でまたあれをやらないと行けないの!?
どうすりゃ良いんだよこれ! こ、断るべきか? 止めるべきか?
でも、滅茶苦茶楽しそうな笑顔なんだけど! 無理だ! 俺には無理だ!
この笑顔を濁らせることは…出来ない! や、やるしか無い!
「ふ、ふふふ、勇者よ! 今度こそ我の力を見せよう! おりゃぁ!」
「わぁあ! なんて強烈な攻撃! 私達だけじゃ勝てない!」
「うぅ、つ、強すぎますわぁ…」
俺の水掛を浴びたフレイとメア姫は尻餅をついた。
が、2人は後ろの方に視線を向けた。
「助けてぇ! 私達だけじゃ勝てないよぉ!」
「え? お、お助けですわぁ!」
「一緒に魔王を倒してぇ!」
「…え? 何これ何それ、まさか私達も?」
「ふふふ、これは面白そうね、よし、行ってくるわ! お姉様もほら!」
「え? 私もやれと? あれをやれと?」
「そうよ、ほら、メアが呼んでるわ!」
「う、うーん…恥ずかしいですけど…そうね
メアがあんなに楽しそうなのは初めてだしやりましょうか」
「ふ、ふふふ! ついに来たか私の時代! 私は行きます!」
「久し振りだし、楽しそう!」
「恥ずかしい…」
「いやぁ、面白そうだしやっちゃおうか」
「温泉の時と今は結構違うんだ…でも、何だか嬉しい気がする」
「私も手伝う! 魔王リオを倒すのは私なの!」
フレイの思惑通り、砂浜の方で傍観していた全員がこっちに来た。
…俺、溺れないかなぁ、流石に全方向から引っかけられたらキツいんだけど。
「仲間達が来た! これで魔王リオを倒せる!」
「ふはは! 雑魚が何匹集まろうと! この魔王の敵ではないわ!」
「世界の平和は私が守る! 友情パワーで倒しちゃうよ!」
「ま、魔王! 覚悟するのですわ!」
「全員でこうげ、うわぁ!」
「お姉ちゃ…あ、ま、魔王様には手を出させない!」
「何! 魔王にも仲間が!」
「ふふふ、多対一で挑み、友情パワーなどとは片腹が痛いのだ!
魔王様の側近である、このアルルが君達を倒そう!」
「リオ様への忠誠は絶対、私も魔王様を助けよう」
なんだこのノリ…でももういいや! ここまで来たらやってやらぁ!
「主らか、我1人でも容易だったが、ふ、よいだろう」
「リオ様! 勇者共をひねり潰しましょうぞ!」
「おのれぇ! うわぁああ!」
あぁ、アルル達の攻撃で勇者一行がやられた扱いになった。
フレイの行動次第だし、何? これからどうするつもりなの?
「うぅ、強すぎる…」
「ふはは! 勇者共よ、なんと弱い事か!」
「我々魔王軍に貴様らは勝てぬのだ!」
「お、お姉ちゃん! お姉ちゃん、私だよ! 思い出して!」
「な…」
「ウィングだよお姉ちゃん!」
「ウィング……ねぇリオ、これはどうした方が良いの?」
「俺に聞くなよ、アドリブで動けよ、俺と同じ様に」
「え? あ、うん…」
「お姉ちゃん! 思い出して!」
「わ、私は…」
「このガキめ! くだらない真似をしおって! 死ねぃ!」
アルルがウィングに向って水を掛けようとする。
「さ、させ…無い!」
「何! うわぁ!」
だが、ウィングに水を掛けようとしたアルルに向ってフランが水を掛けた。
それを受けたアルルはその場に倒れる。
「アルル! おのれフラン! 貴様裏切るのか!」
「うぃ、ウィングは…私の妹…だから」
「…く、せ、洗脳が甘かったか」
アドリブってスゲー難しいって言うのが改めて分かった。
と言うか何してるんだよこれ…あぁもういいや!
「これで私達は勝てるぞ! 魔王を倒すよ! 皆!」
「うん!」
「えいやぁ!」
「不味いぞ! ウィン!」
「え? あ!」
俺はウィンを抱きしめて、全員の集中攻撃を受けた。
もしもウィンの耳とかに海水が入ると大変だし
俺はすぐにウィンの耳をふさぐ。
「うわぁああ!」
集中砲火を受けた後、俺は倒れた振りをした。
「つ、ついに魔王を倒したぞ!」
「お、お姉ちゃーん!」
「…でも、勝利には悲しみが付きものね」
「何だか悪い事をした気分」
「でも今は勝利を喜ぼう」
こ、これで終わったか? 終わったよな? もう良いよな?
あぁ、フレイの悪のりになんか乗っかるんじゃなかった。
「もう良いよな?」
「いやぁ、たまにはこう言うのも面白いですね」
「うん! 楽しかった!」
「メアが楽しそうで何よりよ」
「でも、なんであそこでウィンを庇う動きしたの?
何だかこう、後味が悪いというか」
「ウィンの耳に水が入ったら不味いだろ? 仕方なかったんだよ」
「はぁ…アドリブって大変なのね」
「お前は来ただけだろ? 後は何もしてないし。
俺なんて魔王役だぞ? めっちゃアドリブしたぞ?」
「えぇ…本当にご苦労様」
はぁ…もうこんな遊びはしたくないなぁ。
でもまぁ、TRPGやってるみたいで楽しかったけどな。




