エンジョイ!
「さてと、今日は向こうに行かないとな」
「そ、そうね…最後の日は散々だったけど」
「俺もだよ、まさかアルルに抱きしめられるとは…」
「だ、だって、こ、恐かったと言いますか…」
「やっぱり誰かに手入れを頼まないと駄目かな、ここ」
しばらく開けるようになるだろうからな
誰かに手入れの依頼をしないと、帰ってきたときどうなるか。
と言っても、ここの立地条件は正直最悪なんだよな。
元々サバイバル訓練を行なう為の拠点だったし。
それがいつの間か普通に活動できる拠点になった。
静かだから良いんだけど、不便な面も多いからな。
学校行くとき、結構早めに出てたりしたし。
フレイはその方が良いって言ってたけど。
最初は苦労したが、半年くらいで慣れた。
「誰か雇えばな…っと、あむ…めんどひな」
「リオ、アイス頬ばらないでよ」
「美味いし」
「それともう一つ」
「あ-?」
「多分また寝てる間に悪戯されてるわよ? 髪型」
「髪型? あ!」
「サイドテールね、案外活発なあんたに似合ってるかもよ
髪の毛は雑に括られてるけど、そこがまたあなたらしい気もするわ」
「フレイぃい! 人の髪で遊ぶなって言ってるのに! 何処だぁ!」
「ここだよ」
「あ! コラお前! 俺のアイス食ったな!」
「うふふ~、油断してるリオちゃんが悪いのだ~」
「待てコラ! 返せ! 後髪の毛!」
「あははは! あ! あだ!」
「取った、あむ…ったふ」
「フレイが食べてたアイスを何の躊躇いも無く口に入れたわね」
「それがどうかしたのか?」
「いやぁ、仲良いなと」
「リオちゃん!」
「背中から抱きつくなぁ!」
「髪の毛どう? 気に入ってくれた?」
フレイがサイドテールの部分を揉みながらそんな事を言ってきた。
「誰が気に入るか誰が!」
「そう言えば、リオちゃん!」
「な、なんだよ!」
「リオちゃんのパンツ、動きやすいね!」
「まぁ、動きやすいことは否定しないが…ん? 待て!
なんでお前が動きやすいって事を知ってる!?」
「履いてるから!」
「人の物を履くなぁ! 後! それはお前には似合わん!」
「パンツだよ? 見えるわけじゃないんだし良いじゃんか」
「それは男物! 中身男の俺ならまだしも、純粋な女であるお前は履くな!」
「良いじゃんかぁ! あ、あむ!」
「だぁ! 人のアイスを食べるなぁ!」
「おいひぃ!」
「こらぁあ!」
「…仲が良いわね、フレイも気にしないで口に咥えてるし」
「良いからこいつを引き剥がしてくれよぉ!」
う…うぅ、け、結局アイス全部食われた…俺が好きなアイスだったのに。
「今更だけど、まだ夏なのよね」
「どうしたよ、いきなり」
「いやほら、あの騒動から殆ど経ってないから」
「確かにあまり経ってないけど…と言っても、もう夏も長くないぞ?」
「あと少しね…はぁ、結局、海で泳げなかったわ
綺麗な海だったから、もっと沢山泳ぎたかったんだけど」
「泳げたっけ? お前」
「いや、あまり泳げないけど浮き輪でぷかぷかとしたいなーと」
「駄目だって、今日向こうに帰るんだから」
「分かってるけどね…」
「それなら朗報かしらね、良い知らせでもあり、悪い知らせを持ってきたわ」
「リサ姫様!」
扉が強く開けられたと思うと、日焼けしたリサ姫様が姿を見せた。
なんで日焼けしてるの? あ、夏をエンジョイしてたのか。
「全く! ようやく見付けたわよ!」
「さ、探してたんですか?」
「そうよ! メアにあなた達が帰ってきたって聞いて、ずっと探してたのよ!
なんで私に会いに来てくれないのよ!」
「挨拶に向おうとは思ったんですけど、何処に居るか分からず」
「くぅ! 待機していればよかったと後悔したわ! まぁ、それはさておき
良い知らせであり、悪い知らせを持ってきたわよ」
「はい、なんでしょう?」
「実はね、兵士の召集に予想以上の時間がかかってるのよ」
「なんでですか!?」
「理由は兵士達が各地に点在していたからよ。
一応、今は動いてるみたいだけどもうしばらく掛かりそうなの」
「はぁ…」
「後は兵士達の練度も少し落ちていてね、1年も暇だったからかしら
緊張感さえなかったから、余計に…」
「そ、そうですか」
なんか、自分もそんな感じだったから強く言えないな。
暇ってのはどうしようもないな、緊張感が大事だって改めて思い知らされたよ。
「だから、予定よりも5日遅くなりそうなのよ」
「その事をスティールは知っているんですか?」
「いえ、まだ伝えてないわ、なんとか方法は無い?」
「ミロル」
「はい、無線機です、向こうと通信することは出来ます」
「あら本当、便利ね、では連絡するわ」
リサ姫はミロルが出した無線機を取ったが…少しの間沈黙した。
「えっと、どうすれば良いんだっけ」
「あー…ミロル」
「え、えぇ、えっと、ここのボタンを押して、こっちのボタンを」
「こ、こう? あ、なんか聞こえてきたわ」
(これは無線? ふーん、距離がある筈なのに聞こえるのね
と言う事は、リオ達かしら? 今日戻ってくるって話だけど)
「えー、おほん、こちらミストラル王国、第2王女、リサです」
あ、第2王女なのか…あぁ、そう言えばそうだったな、うん。
第1王女はシャル姫だったか、殆ど交流がないから忘れてた。
で、確か次期当主はレイ王子だったかな、王家の関係は
メア姫とリサ姫とばかりだったからな。
(え!? だ、第2王女様!? し、失礼な物言い大変申し訳ありません!」
「いえ、我々は対等な関係です。その様に腰を低くせずとも」
(し、しかし…支援を受けている立場ですし。
更にファストゲージはもはやミストラル王国の物…
そのファストゲージの人間である私が、ミストラル王国の第2王女様と対等など!」
「落ち着いてください、我々としては対等な関係を望んでいます」
(え!? し、しかし!)
「ですので、落ち着いてください…このままでは話しも続けられませんし」
(も、申し訳ありません!)
やっぱりスティールもミストラル王国の姫君には逆らえないんだな。
そりゃそうか、王家の機嫌をもし損なえば自分達は滅ぶしかないんだし。
ミストラル王国の支援無しでは生き残る術はないし。
何せ、まだ1国取っただけだからな。
(し、して、ご、ご用件というのは…もしや、支援を断つとか、そう言う類いの)
「まさか、その様な用件ではありませんわ、ですが、支援関係です。
実はファストゲージ国へ派遣するはずの兵士達の召集が滞ってまして
本来予定していた日時に兵士達を派遣することが出来そうに無いのです」
(さ、さようですか…はぁ、よかったわ、もしも支援を断つなんて言われたら
私どうしようかと思っちゃった…うぅ、王女様とお話しするの緊張するわ。
…はぁ、でも、よかった」
モロ聞こえてる…多分安心して、つい独り言が出た感じなんだろう。
もう少し小さな声で言えば良いのに。
「よく聞こえるな」
「えぇ、補正掛けてるから小さな声もばっちりよ」
「あ、無線機の性能が凄いだけか」
「向こうには聞こえてないでしょうけどね、この会話は。
だって向こうの無線機は向こうが作った無線機だから」
ファストゲージ国の無線よりも高性能なのか。
(え、えっと…せ、正確にはどれ程)
「そうですわね、5日ほど遅れると思われますが
正確な日時はまだ…そこで1つ許可をして欲しいことがありまして」
(な、なんでしょう…)
「リオ達の帰国を5日ほど遅らせてもよいでしょうか?
彼女達の力を借りれば、少しは早くなる可能性もありますし
このように連絡を取ることも可能です。
しかし、彼女達が居なければ、正確な日時が分かっても
それを伝える術もありません。なので5日ほど。
そちらの事情は分かっておりますが、お願いいたします」
(は、はい、構いません、今現在は敵国の動きもありませんし
…しかし、もしもと言う事もありますし、連絡手段が欲しいのです。
現状ではこちらからそちらへ連絡する術もありませんので…
もしもが起った際、我々だけでは手の打ち様もありませんし)
「確かにそうですね…では、少々お待ちを」
(は、はい…)
リサ姫は無線を少し置いて、俺達の方へ来た。
「な、何か手とか無い? 向こうがこっちに連絡する方法…」
(はぁ…大丈夫かしら…うーん、リオ達が戻ってくるのに5日。
動きはないけど、少し不安なのよね…でも、流石に何も言えないし。
せめて連絡手段があれば…でも、あったとしてすぐに来れるのかしら。
…あぁ、リオの妹さんの魔法なら問題無いのか。
うーん、でも、うーん…1人1人になりそうよね。
その場合は誰を最初に? いや、そこは向こうに委ねた方が良いか。
戦術性も判断能力もリオの方が私よりも優れてるし。
私達には軍師とか居ないしなぁ、やっぱり居た方が良いのかしら。
1番の候補はメイルだけど、あの子は結構脳筋だし…
と言っても、私は戦術とか学んでないのよね…
基本は統治だったし…政治の事ばかりだったから」
「…全部聞こえてるけど、あれはどうすれば良いと思う?」
「無視で良いと思います」
「そうよね、知らない振りをする方が良いわよね…
それでほら、連絡手段とかを」
「向こうに私が連絡用の無線を持っていけば解決です」
「だろうな、ウィン」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「えっと、ミロルをファストゲージ国へ運んでくれ」
「分かった」
「それではリサ姫様、この事をスティールへ」
「分かったわ」
リサ姫は置いた無線を取り、スティールへ連絡をした。
そして、すぐにミロルとウィンが戻ってきて
無線を渡したことを伝えてくれた。
「休みが延長だな」
「えぇ、これで海に行けるわね」
「…と言うかさ、完全に嘘っぱちになってるけど良いのか?
連絡手段だって無線があれば余裕だし、俺達が何をすれば
兵士達の召集が早くなるんだよ」
「…私が乗り物を出せば良いのよ、うん」
「お前の魔法、1度召喚したら放置できるだろ?
わざわざ残る必要は無いんじゃ…」
「うぐ…そ、それは」
「色々と教える必要があったって事で
まぁ良いのよ! 結果を出せば良いのよ出せば!」
「でもなぁ、教えてたら」
「私達の出番ですね!」
「アルル!?」
「ミロルさんが乗り物を出して、私達が運転すれば万事解決です!
運転方法が戦車の時と同じなら、なんの問題もありません!」
「そうね! よし! 分かったわ! 今すぐ行くわよ!」
「ウィン」
「うん!」
それからしばらくして、兵士達の召集は完了した。
うん、予定では5日遅れが、まさか予定通りの日時で完了するとは。
「よし、後は兵士達をケアすれば完了ね、2日後には出発できるわ」
「スティールには連絡したか?」
「えぇ、皆の協力で2日後までには出発できそうだってね」
「向こうは何か言ってたか? 早く俺達を戻せとか」
「それなら2日後にはあなた達が戻ってくると言う事ですか!?
と、言ってたわ、かなり嬉しそうに」
「やっぱり不安だったんだな、言ってたもんな」
「私はその通りだと返したから、おやすみはあと2日ね」
「じゃあ、明日は海をエンジョイして、明後日は何をするか考えましょうか」
「明後日はこの家の問題をどうするか、だろ?」
「何か問題あるの?」
「えっと、実はしばらくこの家を空けることになると思いますから
その間、この家の管理をしてくれる人を探そうかなと」
「任せておきなさい! 実は今、丁度良い人財が2人居るわ!
お姉ちゃん、頑張っちゃうわよ-!」
「リサ姫様、随分とテンションが高いですね」
「勿論よ! 久し振りにあったからね!
全く! なんで1年間も顔を見せないのよ!」
「一般人が1国の姫様に対面、何て出来ませんし」
「もぅ! まぁ良いわ、明日はもう一度海水浴だしね! メアと一緒に!」
「あ、そうなんですね」
「あなた達の海水浴に一緒に参加するって意味よ!
珍しくシャルお姉様も乗り気だしね」
「は!?」
「うぇ!」
「ふふ、明日が楽しみね、後、私は今日、ここに泊まるから」
「何でですか!?」
「明日の為によ! メアとシャルお姉様は
明日の準備をして貰ってるわ! さっき伝えたしね」
「なん! どうやって!」
「これよこれ、無線機! あ、因みに決定事項よ!
シャルお姉様も乗り気だし、メアなんてかなり嬉しそうだったんだから!
今更やっぱりあの話は無しで、なんて言ったら大変ですもの!」
「ひ、人質!」
「ふふふ、遊びは常に全力で、息抜きだって常に全力!
仕事は遊ぶためにする! これが私の理論よ!」
「なんかリサ姫様、最初と比べると印象がかなり…」
「トロピカル地方を盛り上げるときになんか楽しくなってきてね!」
「あの時から…」
「と、言う訳だから、よろしくね! これは一応私を放置した罰でもあるわ!
さぁ! 美味しい料理を用意しなさい!」
「は、はい…わ、分かりました」
…もう逃げる事は出来ないな、はは。




