お風呂場での勉強会
「で、なんで当たり前の様にお前らまで入ってくるんだ?」
「いつも一緒に入ってたんだし、今更じゃんかぁ」
「あのなぁ、最初に言ったが俺は中身男なんだよ。
そんな奴に裸見せるだけでもあれなのに抱きついてくるな」
「んー? リオちゃんは女の子じゃん」
「やっぱり理解してないんだな」
「中身が男の子って聞いたけど、どういうことかさっぱりなんだ~
どういうことなの? 中身って男の子だったり女の子だったりするの?
じゃあ、私は女の子? 男の子? うん、多分女の子!」
「そりゃお前の中身は女だよ、お前は正真正銘女の子だ。
俺は違うんだよ、半分男で半分女、リオ2分の1的な」
「2分の1ってどう言う意味なの?」
「…あぁそうか、分数とか教えてなかったな」
「分数って何!?」
「えっと、数式の1つで、基本的に確率計算で使う…俺は」
「確率計算って何!?」
「かなり嬉しそうに食い付いてくるな。
知らないことを知るのがそんなに好きなのか?」
「だって、そう言うの知っていけば皆ともっと話せるじゃん!」
「まぁ、それはそうだけど…分かったよ、教えるよ」
「お願い!」
はぁ、何というかこいつは将来頭がよくなりそうなタイプだな。
でもなぁ、こいつが知的になった姿がまるでイメージ出来ない。
その内、勉強面倒くさーいとか言い始めて
スポーツばっかりする様になりそう。
「あっと、分数って言うのは、小数点よりも下を計算するときに主に使う」
「先生! 小数点って何ですか!?」
「…えっと、そうだな…こんなのだ」
俺は風呂場の曇った鏡に0.1と書いて見せた。
「これが小数点?」
「そうだ、じゃあフレイ、1番小さな数字って知ってるか?」
「うん! 0だね!」
「そうなんだけど…いや、小さいとかじゃ無いと思うんだけど…まぁその1つ上だ」
「分かった! 1番!」
「そうそれ、この小数点はそれよりも下の数字だ」
「0だね!」
「いや、0よりは大きい、0が1番小さな数字だからな」
「へぇ、そうなんだ!」
「まぁ、小さいとかそこら辺じゃ無く、そもそも無い数字が0なんだけど」
「意味わかんない! 無い数字ってどういうことかな?」
「えっと、完全にその場に存在しないという感じだな。
例えばリンゴだ、リンゴが1つありましたってあるだろ?」
「うん」
「その場合は確かにそこにリンゴはあるけど、0の場合はそこには無い。
完全に無い、散りも無い、カスもない、何処まで行っても存在しない。
それが0だ」
「意味わかんない!」
「あー、うん、自分で言っても意味が分からない」
数字って…突き詰めれば突き詰めるほど訳が分からなくなってくるな。
「ま、まぁ、0はどう頑張っても存在しない数字だ。
確率で言えば、どう頑張ってもそれを引き当てることが出来ない数字だ」
「確率ってなーに?」
「うん、それを教える為に話してるんだったな、分かるわけ無いか」
「リオ、私も色々と知りたい」
「わ、私も…」
「お姉ちゃん、私にも教えて!」
「フレイに教えるついでに教えるから引っ付くな! 抱きつくな!」
「うん」
「私はこのまま~」
「私も抱きつくもん!」
「離れろよ…もう諦めたけど。
でもな、中身男に大事な部分を擦りつけるな、自覚は無いだろうが」
「リオちゃん2分の1~」
「その話が最初だったな、うん…まぁ順を追って説明するから」
はぁ…フレイは本当に人懐っこいな、やんちゃな妹って感じだ。
本来の妹だって抱きついてきてるけど…
でもあれなんだな、死ぬ前は妹とか欲しいと思ってたり
妹が居たら色々出来る! とか思ってたけど
実際妹が出来たら、そう言う感情は微塵も湧いてこない物だな。
むしろ妹の事が心配で心配で…うぅ、これが兄の気持ちという奴か。
何か本当に心配なんだよな、小さいしあり得ないって事は理解してるのに
何か…心配で…兄って言うのも大変だと自覚したよ。
「えっとまぁ、説明するから離れてくれよ、これじゃあ説明が難しい」
「分かったよ」
「えい!」
「あ! ウィンちゃん! 背中に抱きついた! 私は離したのに!」
「お、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだから、私がこうするのは良いの!
お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなの! 私の大事なお姉ちゃんなの!
私の物なの!」
「だから、俺は誰の物でも無いんだってば」
「むぅう! リオちゃんは私と一杯遊んでくれるんだから! 離してよぉ!」
「やだ! お姉ちゃんは渡さないもん!」
「だぁ! 説明できねぇ! 人の背中を取り合うな! 説明必要無いならしないぞ!
正直これ説明するの面倒くさいんだから!」
「それは…私も知りたいし」
「フレイ、諦めて、リオはウィンのお姉ちゃんなんだから」
「リオちゃんは私の親友だもん! 親友の方がレベルが高いもん!」
「妹の方が!」
「だから! 人の背中を取り合うなぁ! 俺が揺れるだろ!?
脳みそシャッフルされてるだろ!? 俺がぶっ倒れるぞ!」
「あ、ご、ごめんなさい」
「そう言えば、リオちゃんはすぐに倒れるし…これ以上したら」
「うへぇ、気持ち悪い…ちょっと目が回った…」
ゆ、揺さぶられるのって、結構強烈だと改めて理解したよ。
「でまぁ、説明するぞ、えっと、小数点は1より少ない数字を言う。
で、小数点は0が増えれば増えるほど数字が低くなるんだ」
俺は前の鏡に書いた消え掛けている0.1をなぞり、隣に0.01と書いた。
「この2つでどっちが小さいと思う?」
「こっち!」
フレイはあまり話を聞いてなかったのだろう、左の0.1を指差した。
「こっち?」
トラは俺の話をちゃんと聞いていたのだろう、0.01の方を指差した。
「この場合、トラが指差した0.01の方が小さいんだ」
「なんで!? 0が多い方が大きいんでしょ!? 10より100のほうが大きいって!」
「それは正の数字…まぁ、小数点、この0の後ろに付いてる点、これがない時だ」
「え!? これが付いたら0が増えた方が大きいの!?」
「そうだ」
何も知らなければそう考えるんだろうな。
「へぇ!」
「でだ、分数は主にこの点が付いた数字の計算に使う。
えっと、次はこれだ、見たことはあるか?」
俺は鏡に2分の1と書いた、分数の基本。
「…これは何?」
「これは2分の1だ」
「え? 何で数字が2つあるの? 下の数字はなーに? どっちが数字なの?」
「両方だよ、そうだな、この下の2の数字、これは分母と言って
上の数字が下の数字と同じ、もしくは上の数字が下よりも大きかった場合は
正の数字、つまり1とかそこら辺になる。
例えば2分の2、この場合は正の数字である1に変えることが出来る。
で、2分の6の場合は正の数字である3に変わるんだ」
「えっと、つまり下の数字だけ上の数字があれば、1より上になるって事?」
「そう言うこと、で、面倒なのが2分の3とかの数字だ。
この場合、出てくる数字は1.5、1と1より小さい0.5が出てくる」
「…んー?」
「あ、因みに0.5+0.5の場合は1になるんだ、1より小さい数字でも
普通に足し算や引き算が出来る。掛け算割り算は普通には出来ないけどな」
「おぉ! 足し算と引き算は出来るんだ!」
引き算足し算掛け算割り算の4つは先生から教わったからな。
流石のフレイでもそれは理解出来ているみたいだな。
「まぁ、それは良いとしてだ、次は確率計算と行こう」
「確率って何?」
「そうだな、じゃあフレイ、サイコロがあるよな」
「うん!」
「サイコロは1~6の目がある」
「うん」
「そのサイコロを回したとき、1が出るのはどれ位の可能性だと思う?」
「…か、可能性? え? どういうこと?」
「まぁ、確率は言い換えれば可能性とも考えられるしな。
でまぁ、この場合は単純にかんがえれば6回に1回はサイコロの1が出る
この場合は6分の1の確率で狙った目が出る、と言う感じだ。
と言っても、確率なんて不確定だし、計算してもあまり意味は無いけどな」
「んー?」
「で、この時は1分の1で100%だから、分子が分母を超えることは無い」
俺は書くところが少なくなってきた鏡に2分の6と書いた。
「分数の時はこんな数字が生まれるんだけど
確率を考えるときに使う場合はこんな数字はあり得ない。
ただ、下の数字はドンドン増えて行く。
どれだけ大きな数字でも確率計算の場合は1分の1を越える数字は無い」
「%って何?」
「確率を表わすときの記号、これも100%を越える事は確率計算では無い。
ただ、物によっては300%とかもあるけど
この場合は掛け算になる100%が1倍として、300%は3倍。
ステータスを300%あげると書いてあった場合、それは確率では無く倍率だ。
ステータスを3倍にする、とかよりは300%あげる、とかの方が響きが良いのかもな」
「聞いたことないや」
「まぁないだろうな。とりあえず確率の場合は100を越えることは無い。
で、0の場合はどう足掻いても引き寄せることが出来ない確率だ。
例えば1~6のサイコロの目がある」
「うん、最初のと同じだね」
「そうだ、で、そのサイコロで7の出目を引く確率は?」
「…え? 1~6でしょ? 7なんて無いじゃん!」
「そうだ、どう頑張ってもその条件では引き寄せられない確率が0だ。
じゃあフレイ、どうすれば7を出す事が出来ると思う?
特に制限は無いが、1~6のサイコロを使うのは絶対条件だ」
「え? 何回やっても1~6しかないなら無理じゃん!」
「ちょっと考えろ、俺の言葉を良く聞いて。
特に制限は無いが、1~6のサイコロを使え」
「え? だ、だって…出ないじゃんか!」
「……1~6のサイコロをもう一つ持ってきて回す」
「正解!」
「え!?」
「俺が言った条件はあくまで1~6のサイコロを使えってだけだ。
俺は決して、1~6のサイコロを1つだけ使って7を出せ、とは言ってない。
色々な手を考えれば0を引き寄せる事も可能だと言う事だ。
後は条件を良く聞いてな、でも、0を引き寄せるのは正攻法では不可能だと考えろ」
「リオ、この問題に何の意図があったの?」
「まぁ、簡単に言えばだな、絶対に勝ち目のない戦いの時はいつか来るかも知れないだろ?
その時に勝てないと諦めたら勝つことは出来ないが
あの手この手を考えれば勝つことは出来る。でも、無い物ねだりは出来ないから
今ある状況下、条件下でどうすれば良いか考えろってね。
一応ほら、俺って指揮官だしそう言うことを言っておこうかなって」
あの手この手を考えて、勝利への道を見つけ出す。
出来なきゃ死ぬだけだし、こういうことを言うのも良いだろう。
「まぁ、こんな感じだな」
「よく分かんなかったよ…でもリオちゃん!」
「何だ?」
「結局、リオちゃん2分の1ってどう言う意味なの?」
「男と女が半々だって事だよ。0.5と0.5で出来てる。見たいなね」
「……やっぱりわかんない!」
「まぁ、うん…そうだよな…」
「私は分かったよ、おねいちゃん!」
「おねいちゃんってどう言う意味だ? 噛んだのか?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんでおねいちゃん!
あ、おにえちゃんのほうが良いのかな?」
「言いにくいだろ!? どっちでも良いから!
お兄ちゃん呼びでもお姉ちゃん呼びでも良いから合せるな!」
「ねーにとか?」
「だから合せんなよ! どっちかにしろって!」
「じゃあ、やっぱりお姉ちゃんだね」
「もうそれで良いよ」
「…所であの…リオちゃん」
「ウィング、どうしたんだ?」
「そ、そろそろお風呂入らない? 何だか寒くなってきて」
「……そう言えば風呂に入ってたっけ、裸なの忘れてた」
「あはは! だいじょ、くしゅん!」
「…人の顔に唾を掛けるなぁ!」
「ご、ごめんねリオちゃん!」
「鼻水までかかったぞ!? くぅう!」
「あ、洗うから!」
「こ、くちゅん!」
「リオちゃんのくしゃみ可愛い! 風邪を引いたときより可愛い!」
「うっせ! くぅ! 風邪引いたときってこんなくしゃみじゃ無かったのに!
もう良い! さっさと風呂入るぞ! 寒いわ!」
「はーい!」
…でもまぁ、こう言うのも悪くないと思える俺が居る。
アルルが居ないだけで相当平和だな。
「くぅう! リオさん! 何で私を入れてくれないんですかぁ!?」
「私も一緒に入りたかった! ウィングも入ってるんだし
丁度よさげだし、今から入りにいこう!」
「落ち着いてください、あなたは後ですわ
で、アルルさんは最後です」
「なんでジャンケンで!」
「グッパだったし仕方ないわね」
「なんで大人と子供で分けたんですかぁあ!!」
「人数的にも丁度良いでしょう? 5人ですからね」
「何の癒やしがあるんですかぁ!?」
「私達の柔肌でも堪能してください、アルル先輩」
「私はリオさんのろりぼでぃと触れ合いたいんですよぉぉ!!」
「救いようがありませんわね、そもそも人の事をそんな目で見ないでくださいませ」
「まぁ、アルルだしね、最近欲望に忠実になって来た気がするけど」
「前はここまで酷くなかったのに…」
「確かに私たちの前でこんな行動はあまりしなかった記憶がありますわ
まぁ、とにかく」
「あぶし!」
「覗きはよくありませんわ」
「シルバー先輩、アルル先輩に容赦ありませんね、まさか一撃で落とすとは」
「うへぇ、頭痛そうだなぁ」
「無駄に頑丈ですし、大丈夫でしょう」
…外のやり取りが聞こえてきたが…色々と言いたいことはあるけど
とりあえずこれだな、シルバー、グッジョブ。




