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ちょっとした昔話

「はぁ、また負けたわ」

「失敗したな、あのやり取りは」

「ハンデにはハンデをってね、ま、結果負けたんだけど。

 あくまでフェアな条件で勝たないと勝ちとは言えないからね」

「意地でもあるのか?」

「勿論よ、それが私のプライドよ、試合に負けても勝負に負けても

 例え自分に負けようとも、プライドだけは守り通す。

 その上での敗北なら私はただひたすらに嬉しいわ。

 と言っても、状況次第じゃプライドだって捨ててやるわ。

 プライド以上に守りたい物の1つくらい無いと面白くないしね」


まぁ、確かにプライドをかなぐり捨ててでも守りたい物は欲しいよな。

正直、俺にはそこまでプライドとか無いんだけどな。


「そうだな、確かにそう言う物の1つくらいは欲しいか」

「うんうん、で、この後はどうするの?」

「私は汗をかいたので温泉に行きたいのです!」

「普通に家の風呂で良いだろ?」

「一緒に入るんですよね!?」

「んな訳あるか! 俺は1人で入る!」

「駄目ですよ! リオさんは女の子に慣れなくては!」

「だから! 慣れる必要は無い!」

「うん、私達で慣らせばいい、アルルは練習台にすらならない」

「な! どど、どう言う意味ですか!?」

「皆まで言う必要がある?」

「私の胸を見ないで!」

「ペチャパイだからアルルは男の胸板と変わらない」

「言わないでくださいよぉお! 後! 少しはあるんですからね!?

 リオさん! 試してみてくださいよ! 私のふくよかーなお胸を!」

「いや、見ただけで分かる、お前の胸は平地だ、まな板だ」

「いやぁああ! まな板じゃないですぅぅ! 試してくださいよぉお!」

「馬鹿! 抱き上げるなぁ!」

「うふふふふふ! どうです!? ありますよね!? ありますよね!?」


うーん、うーん、前にケイさんにやられた時は動揺があったけど

この状況だと…何かスゲー小さいというか…いや、はなからこんな感じか。

何か…哀れというか可哀想だというか…でもまぁ良いか、アルルだし。


「いやまぁ、少しはあるんだけどさ…やっぱり殆ど平地で」

「にゃぁあああ!」


この返答が来るのは理解していたはずなのに行動するとは。

何というか、馬鹿というか…いや、馬鹿なのか。


「自分で自分の傷口を抉ろうとするスタイル、凄いわね」

「でもまぁ、リオさんに貶されるなら私は問題無いのですが!」

「もうやだこいつ」


やっぱりぶれないんだな…流石、とは言いたくないが

アルルは本当に異常だな、畜生め。


「後! 胸を揉み揉みすれば大きくなると言います!」


確かにそんな話は聞いたことがある、聞いたことはあるんだけど。

正直、アルルにはもう手遅れだろう…年齢的にも無理じゃね?


「諦めろ、お前は末期だ」

「ぐは! ま、まぁ、私は良いのですが! リオさんを大きくしようかなと」

「せんで良いわ!」


何であの話の流れで矛先が俺に向くんだよ! 意味が分からん!


「でも、小さいままだと私みたいになるかも知れません! 

 なのでそうならないためにも揉み揉みして大きく!」

「ならねぇよ! 俺は男だって言っただろ!? 胸は無くて良いの!」

「リオがアルルみたいになったら大変だから私も揉みしごく」

「だから必要ねぇよ! 小さいままで良いんだ!」


もうそれを大義名分にして揉みたいだけだろ!? 男の胸板を揉んでも

なにも面白くないだろうが! 確かに外見は女だが! 中身は男だっての!

何でその事を告げたのにこいつらは一切変わらないの!?


「本当思うけど…リオって大変よね」

「大変だと思うならこいつらを止めてくれ!」

「それは無理な相談ね、だって私じゃどうしようも無いし」

「そうですわね、さてアルルさん」

「げ! シルバーさん…えっと」

「流石にやり過ぎではありませんの? いくら何でも」

「し、しかし、やはりリオさんが大きくならないと

 将来的にも私みたいになったら…」

「大丈夫だと思いますわよ?」

「うん、大丈夫だと思う、私の予想だと

 リオは10歳くらいでアルルを越える」

「え゛!?」

「いや、今は成長してないからこのままだぞ?」

「成長が始まって5年で越えると思う

 これは私の堪、私の堪はよく当ると思いたい」

「当るか分からないのか」

「分からないけど、多分そう」


なんだその自信は…たまにフランはよく分からない自信を持つな。


「まぁ、何だって良いが…とりあえず風呂に入るか」

「はい! さぁ! 一緒に!」

「だから俺は1人ではいるんだよ! 男が一緒ってのはおかしいだろ!

 特にミロルとかは余計に恥ずかしいと思うし!」

「私は大丈夫よ」

「何でだよ! 俺が男だって事、よーく知ってるだろ!?」

「まぁ…でもほら、外見は女の子だし、この体は私の元々の体でも無いし…」

「あ、ミロルさんは女の子だったんですね」

「そうよ、私は死ぬ前も今も正真正銘の女の子よ

 いやまぁ、死ぬ前は根暗な女の子だったけど」

「どんな感じだったんですか? 少し気になります」

「荒唐無稽な話を容易に受入れる所、本当に凄いわ」

「いきなり来た人にそんな事を言われても信じませんけど

 リオさんがそう言うなら信じますよ」

「ふーん、本当に忠実なのね、あっと、私の容姿だっけ?」

「あ、それは俺も気になるな、声しか聞いたこと無かったから見た目気になるし」

「意味は無いと思うけどね、今の私はこの姿なんだし」

「気になるんだよ」

「そうね、じゃあ少しだけ」

「後は昔話も聞きたいです!」

「…ま、マジで言ってるの? 正直ろくな話じゃ無いわよ?」

「それでも気になります」

「…そう、じゃあ容姿の説明の後に話しましょう…」


少しだけ暗い表情になった気がする。


「なぁ、いやなら無理には」

「大丈夫よ、どうせ過去の話だしね」


うーん、無理に話を聞くって言うのはちょっと気が引けるが

本人が良いと言うなら、一応は聞いておこうか。


「そうね、私は長髪の黒髪だったわ、髪質は…おだてにも良いとは言えなかったわね。

 自分の事なんて考えてなかったし、服装だって制服以外は

 そこら辺にある適当な服で見繕ってたくらいだからね。

 化粧とかもしてなかったわ、興味も無かったし

 私はありのままの自分を受入れてくれる人と出会いたかったから」

「清純系だったのか?」

「いや、そんな事は無いと思うけど…喪女って奴よ

 恋愛経験は皆無、そもそも男と話をしたこともない。

 一応、そう言うのに憧れたりはしてたけど、私にはあり得ないと思ってた。

 誰かを好きになることも、誰かが私の事を好いてくれるとも思って無かった。

 少しは容姿に自信はあったけど、そもそも殆ど部屋から出てなかったし」

「なんで部屋から出なかったのですか?」

「…えっと、そうね…私はいじめられっ子って奴でね」

「…いやごめん、無理に話したくないなら」

「良いわよ、さっきも言ったけど過去の話よ」


…やっぱり辛い過去があるんだな、俺と違って。


「それで、私はゲームに没頭してたのよ」

「ゲーム?」

「そうよ、ゲームの中なら、私を必要としてくれる人がいる。

 それはゲームの中の私かも知れないけど、私は必要として欲しかった。

 だけど、それは建前よ、私はただゲームの中で人を殺すのが好きだったの。

 ゲームの中でストレスをぶつけてただけだったのよ、ひたすらにね。

 その内、名前も知られるくらいに有名になってね、嬉しくは無かったけど」

「……ふーむ」

「で、あなたに会ったのよ、私がゲームで勝てない唯一の相手。

 まぁ、この事は初めてこっちで出会ったときに話したけど。

 改めて話すとしましょうか、あの時は他は居なかったし。

 ゲームではただひたすらにストレスをぶつけてただけの私だったけど

 初めてあなたに負けて、ゲームで初めてイラついたわ」

「イラついたのかよ」

「そりゃね、だから何度も何度も挑んだのよ。

 だけどね、その内…楽しくなってきたのよ」

「負けたのにですか?」

「えぇ、リオに挑んで、リオに勝ちたいという一心。

 初めて向上心を覚えた、だから私はリオに挑んだ。

 でも勝てなかった、それでも楽しかったわ、必死に挑む事が。

 ただ勝ちたいという心は、いつの間にかリオと戦いたいという

 ただそれだけの心だけになってた…そして、初めて人を信じたいと思った。

 …その後は、あまり話したくは無いけどね、リオと話した時も

 これ以上の話しはしなかった…だけど、この際だし言うわ。

 その頃ね、スマホにメールが来たのよ」

「め、メール?」

「小学生の頃の友達からね、私はメールの場所へ行った。

 今までの私なら、こんなメールは無視していたでしょうけど。

 …私はそのメールの場所へ向った。

 きっと大丈夫だって、信じてね」

「……」

「指定された場所に行ったらね、何人ものヤンキーが待ってたのよ」

「や、ヤンキー?」


な、何だか嫌な予感がする…


「その真ん中にメールの送り主が居たの、その子は私を見て笑ったわ。

 本当に来るなんてね、やっぱり馬鹿かしら。いやな言葉だったわ。

 私は動揺してね、少し後ずさり、その後彼女へヤンキーがね。

 私の事を本当に好きにして良いのか? って、聞いたのよ。

 昔の友達は許可を降ろした、ヤンキー達は私に近付いてきたわ。

 いい女じゃねぇかとか言ってたわ。好きな人に言われるなら嬉しい言葉だけど

 何処かのクソ野郎に言われると、本当にいやな言葉ね」

「…その」

「私はね、すぐに逃げ出したわ、運動神経は無駄によかったからね。

 ヤンキー達は追いかけてきたけど、私は言ったとおり運動神経が無駄によかった。

 何とかヤンキー達は振り切ったわ」

「そ、そうなのか…その、ごめん、本当にその…」

「これは悪い思い出でもあるけど、良い思い出でもあるのよ?

 これが無ければ、私はここに来ていない。

 で、最終的に意気消沈したせいかしら、私は信号が赤だと言う事に気付かずに

 横断歩道を渡って…引かれちゃった、テヘッ」

「そんなあっけらかんと!」

「まぁ、それであの神様に可哀想だからってこっちに飛ばされたのよ。

 こっちの生活はよかったわ、でもまぁ、私も魔法が使えてね。

 最初に出たのがそのセキュリティシックス、あ、これは言ったかしら」

「あ、あぁ…」

「その銃を見たとき、私はすぐにあなたを思い出して…恥ずかしながら泣いちゃったわ」

「なんで泣いたんですか?」

「そんなの、唯一味方を思い出したからよ」

「…俺は何もしてないと思うけど…」

「そう思ってるのはあなただけよ」


そんな過去があるとは思わなかった。

でも何故だろう、ミロルはこの話をしている時…何故か辛そうな表情はしていなかった。

そんな辛い過去を思い出を話すなら、もっと辛そうにしても良いのに。


「…なぁ、なんでそんなに平然と辛い過去を話したんだ?」

「さっきも言ったでしょ? これは辛い過去じゃ無い。

 今の私からして見れば幸せな過去…だって、こんな事が無かったら

 私はこの場に居ない物…憧れの人には出会えていない。

 憧れ…いや、そうね…もう言うわ!」

「な、何だよ」

「リオ! いや、光輝さん!」

「うえ!?」

「わ、私は…え、えっと…その…」

「え、えっと…」

「ごめん! やっぱ忘れて! 無理無理! 絶対無理!」

「へ? あ、え?」

「何だか笑みが…ほらミロルさん! 言うなら今ですよ!

 私の様に言うのです! ほらほら!」

「言えるかっての!」

「いだだ! り、リオさん以外に攻撃されるのは慣れてません!」

「い、いきなり」


ま、まさか…あ、いや待て、でもほら、やっぱりほら、あれだし。

多分違うし、違うだろ? だって姿見てねぇし、そんな訳無いよ。

そもそも俺はただのゲーマーだし! 自惚れるな!


「うーん、まだ心の準備が必要なのですね、無理もありません」

「えっと、み」

「もう! リオ!」

「え? あ、ど、どうした?」

「私は私の昔話をしたわ! あんたもしなさい!」

「え!? この流れで!?」

「そうよ! しなさい!」


マジで!? この流れで!? 俺は別に大した昔話なんて無いぞ!?


「いやぁ、正直俺の話を聞いても何も面白くないぞ?

 だってよ、俺はただゲームしてただけだし…

 ヒキニートだぞ? 学校も行かず、友達もいない。

 で、更に駄目だったのはその環境に何の不満も不安も無かった」


正直…ね、あの環境に満足してた地点で終わってたような気がする。


「ただゲームやって、アニメ見て、エアガンを使って射的して

 跳弾の計算とかやってみて、何か上手く行ってテンション上がって

 今度は3重計算とかして見て、何か勘でやったら上手く行って

 射撃の練習も大体勘とかで鍛えてたな」

「…え? なにそれ恐い、天才系だったの?」

「ん? いや、適当にやったら色々と出来ていったというのが正解というか。

 あ、体力はあまりなかったぞ? でも、作業ゲーは好きだった。

 待ちゲーも好きだったし…後は戦略シュミレーションとかやってみたりして。

 その内、動画あげれば儲けられるとか考えてINW2を投稿しようとしたら死んだ」

「いや何があったのよ!」

「…えっと、その…あれだ、めっちゃ恥ずかしいんだけど…

 えっと…INW2を買った帰りに…犬に追いかけられて転けて死んだ」

「……トラックに轢かれたとかじゃないの?」

「転けて死んだ、犬から逃げてたら転けて死んだ、頭打って死んだ」

「……あ、え?」

「あぁ、だから犬のことが嫌いだったんですね」

「そうだよ! あんな化け物! 絶対に会いたくねぇし見たくもねぇ!」

「何というか、あれね…生前大変だったのね

 でも、それなら何であんな言葉が出てくるの?

 よっぽどの経験があったのかと思ったけど…」

「いやぁ、あれは殆どアニメの受け売りで」

「リオは私達と一緒にすごして時、散々だったから」

「ど、どんな感じなの? 気になるわ」

「…面白い話じゃ無いぞ?」


正直、あまりいい話でも無いし。


「知りたいわ、私も話すんだから話してよ」

「う、うーん…分かったよ、話すか…ちょっと恩着せがましい話しになるから

 出来ればこう言う話しはしたくないんだけど…後、重っ苦しい食う気になるし」

「今更隠し事は無しですよ、お話ししてください!」

「…そうだな、まぁ、皆知っての通り、俺達は孤児なんだ」

「えぇ、それは知ってるわ」

「俺は雪が降る日、先生が言うには12月22日だったかに拾われた。

 あまりハッキリと意識は無かったが、先生の温かい手の感覚は今でも覚えてる」

「冬に捨てられたと? そんなの死ぬんじゃ」

「先生のお陰で助かったという感じかな、危うく転生してすぐ死ぬところだった。

 まぁ、そのお陰で先生に会えたんだし、幸運だったと言えるがな

 少なくともそう言い切れるだけ幸せだ」


ハッキリと言い切れるんだ、それは幸せだっただろう。


「そしてまぁ、3歳頃か、自分が女だって気付いたの」

「リオちゃんね、ずっと沢山我慢してたの。

 ご飯を食べるときも、私達にいつも自分のご飯を分けてくれたし。

 風邪を引いても、先生のお手伝いをしようとして怒られたり。

 大きな怪我をしても、ずっと隠してたり…私達のお世話を全部してくれたり。

 先生が風邪を引いた時、ずっと先生のお世話と、私達のお世話をしてくれたり。

 お買い物をする時も荷物を沢山持ったり」

「いや待て、荷物持ちはお前がやってたじゃ無いか」

「最初はさ…全然してなかったよ。お手伝いも何もしてなかった。

 でも、リオちゃんが頑張ってる姿を見たら…私も頑張らないとって思ったの。

 だから私も頑張ってお手伝いしたの!」

「私も…リオちゃんが頑張ってる所を見たから…」

「私も…恥ずかしいけど」

「俺は転生者だ、記憶だってあるし精神的には大人なんだよ。

 だから、我慢する事は何の問題も無かった、だからやってただけで」

「それを出来る事が凄い事だと思いますけどね」

「…はん」

「あなたはこっちに来て苦労したのね…だから、そんな素敵な性格になったのね」

「俺がこんな性格になったのは先生のお陰だ、それだけだ」


先生に出会って、俺は変わったんだからな。

先生に出会ってなければ、俺はこんな風にはなっちゃ居ない。


「素敵な人なのね、やっぱり」

「そうだよ、素敵な人だ」

「ふふ、何だかスッキリしたわ、やっぱりはき出すのって大事ね」

「まだ秘めたる想いが」

「黙りなさい!」

「危危! リオさん以外に殴られるのはあまり…」

「何で俺は良いんだよ!」

「リオさんですし!」

「意味わかんねぇよ!」


…ミロルの過去、思った以上に辛い過去だった。

でもさ、その過去を笑って話せるって事は

今は幸せだって事だろう…この場にいることに

幸せを感じていると言う事だろう。

この場にいる1人として、本当に嬉しいよ。

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