紅白戦
さてと、それじゃあそろそろ始めるとしようかな。
今回は紅白戦…何だか燃えてくる感じがするな。
連携方式は単純に無線機での通信だ。
通信の傍受、なんてインチキは無しだな。
流石にそんなインチキを食らえば、連携もクソも無いからな。
「よしっと、初期位置付いたな」
「うん、問題は向こうだけど」
「あ、向こうも信号弾が上がりました! 準備完了みたいです!」
「じゃあ始めるか、ウィン、ノエ、メル、準備は出来たか?」
(うん、大丈夫だよ)
「後、そっちの砲手は誰だ?」
(私だよ、お姉ちゃん)
「ウィン、大丈夫なのか?」
(大丈夫! お姉ちゃんの妹なんだもの! 出来るよ!)
…少し心配だが、信じるしか無いだろうな。
「よしっと、じゃあ行くぞ! パンツァー・フォー!」
「…え?」
「おぉ?」
あ、うん…そうだよな、そりゃそうだよな…そうか、そうだよな。
ここにミロルとか居ないもんな、うん…仕方ないよな。
でもなんだろう、この虚しい気持ち…何かポッカリ穴が開いたというか
「あはは! パンツがフォー!」
「…そこはパンツのアホーって言って欲しかったな」
せめてパンツのアホーって聞けたら、報われた気分になったんだけどな。
でもまぁ、そうだよな…仕方ないよね、フレイだし。
「分かった! パンツとフォー!」
フレイのその言葉を聞いて何だかフレイとパンツがフォー!
とかやってる様な姿をイメージしてしまった。
「…ぷ!」
「あ! リオちゃんが笑った!」
「あはは! お前とパンツが馬鹿やってる姿を想像しちまったよ!」
「フォー!」
「ふふ、フレイさんは面白いですね」
何かスタートで若干テンション下がったけど、すぐに回復したな。
たまに天然で馬鹿やるからな、フレイは。
まぁ、そこが面白いんだけどな、あいつは。
(良いなぁ、お姉ちゃんとフレイさん楽しそうで)
(うん、羨ましいよ)
(アルル先輩も居るし、楽しそうですよね)
「騒がしいだけだよ、まぁ良い、始めるぞ」
(はい!)
よしっと、とりあえず進軍を始めるとしようか。
今回の対決で最も厄介となるのはミロル率いる第2チーム。
そこさえ潰せば向こうは統率を失うだろう。
だが、自分が最大の急所だって事くらい、あいつも理解してるだろう。
で、向こうは2台の戦車がある。
最初は恐らく第4、第5チームを進軍させることだろう。
その後の動きは少し分からないが、恐らくミロルはその後ろから来る。
どの方向から来るかは分からないけどな。
俺達はどうするべきかな、2台で移動するべきか?
いや、今回は突撃をしない方が良いだろう。
接近しなければ、第4、第5チームは俺達へ攻撃を当てるのが難しいだろう。
「…いや、でもな」
ミロルにもそれは分かってるか…俺がミロルの立場なら
俺の足止めをすると予想できる。
後方から俺への攻撃を仕掛けるんだ…そうすれば俺はミロルの対処に回る事になる。
その間に第4、第5チームを接近させれば勝てるだろう。
「…やっぱりミロルが相手だとやりにくいかな…とりあえず俺達は
東方向から回って接近するぞ。
可能な限り速度を落とし、移動に感付かれない様に動け」
「はい!」
「ウィン達は俺達の後へ付いてこい……いや、先行した方が良いか
俺が言うとおりに進んでくれ、分かったか?」
(分かった! 後、東方向ってどっち?)
「…左側だ」
(分かった!)
ここはちょっと裏をかくために動かしてみるかな。
向こうは俺が先行していると考えるはずだから
最初に狙うのは先行している第3チームだろう。
俺達は1度食らえばアウト、あげく第1チームの敗北は
このチームの敗北に直結する。
壁としてウィン達を利用するのは心苦しいが
この模擬戦、あっさりと負ける訳にはいかないからな。
これは俺とミロルの真剣勝負…負けたくないんでね。
「そのまま進軍だ」
(うん、ノエ音を鳴らさないようにゆっくりとね)
(分かっています)
俺達は音を可能な限り出さないように移動をする。
とりあえずミロル達の動きを探る為にもこれは重要だ。
でも…向こうにはマルが居るんだよな。
魔法を使用すれば俺達の位置はすぐに分かる気が。
(撃て!)
「ちょま!」
うぉ! 何処からか砲撃が飛んで来たぞ!?
しかもミロルの声まで聞こえたんだけど!
「おいミロル! 何でお前の声が聞こえる!」
(やっぱりこう言うやり取りは必須でしょ?
安心して、この通信は無線機を開けていないときに聞こえるわ
つまり、お互いの指示は分からない。
無線を受けたとき、無線を送るときは聞こえないからね
後は一定の距離にいないと通信は出来ないようにしてるわよ
それともう一つ、私達2人しか通信は出来ないわ!)
「ち! 面倒なギミックだな!」
(お姉ちゃん! 攻撃だよ攻撃!)
砲弾の着弾場所から考えて、向こうは西か…で、俺の予想通り
最初に狙ったのは第3チームの方か、予想通り先行戦車を狙ったな。
つまり向こうは先行チームが俺達だと考えて居ると言うこと。
下手な動きをして、俺達が狙われないようにしないと。
恐らく砲撃の精度で俺達が第1チームだとバレるだろうな。
「ウィン! 全速力でそのまま直進だ! で、2発目の砲撃の後
すぐにドリフトして西方向を向いて進め!」
(うん! ノエ! そのまま進んで! 2回目の攻撃が来たら
すぐに西方向だって…後、西ってどっち?)
(大丈夫です、分かってます!)
(さぁ、行くわよ! 今度は逃げられるかしら!?)
ミロルが放ったであろう砲撃はギリギリで着弾はしなかった。
その間に俺はミロルの砲撃を確認、位置を把握した。
(今だよ! ノエ!)
(了解です!)
「フレイ! 榴弾!」
「うん!」
俺はフレイに榴弾を詰めさせて、第3チームの前を狙い撃った。
「砲撃が来るが、そのまま進め!」
(分かった!)
(ち! 砂埃が鬱陶しいわね!)
「フレイ! 急いで徹甲弾!」
「分かった!」
砂埃で第3チームを隠し、俺はすぐにミロルが居るであろう場所へ砲撃を放つ。
(な!)
「当ったか?」
(やっぱり壁役にするのって、良心が痛むわね)
ち、どうやら他の2チームを壁役として砲撃をしていたのか。
砲撃の発光から位置を予測して放ったから、壁役に気付かなかったか。
(でも、今ので分かったわよ! やってくれるじゃ無いの!)
「ち! アルル! 動け!」
「了解です!」
アルルが戦車を動かすと同時に、さっきまで戦車を置いてあった場所に
砲弾が飛んでくる…あ、後ちょっと動くのが遅けりゃ当ったてたな。
「ウィン! 西南西にミロル達が居る!」
(せ、西南西ってどっち!?)
(こっちです! 見えます!)
(あ! ほ、本当だ!)
「榴弾を詰めて狙え!」
(榴弾? 榴弾を詰めて!)
(えっと、この黄色のだったかな)
(わぁ! 何で魔道兵の腕を出したの!? しかも小さいし!)
(こうしないと運べないし)
なる程な、メルは魔道兵の腕を使って砲弾を装弾するつもりだったのか。
しかも小さいサイズ、結構便利良いんだな、魔道兵の腕。
(と、とにかく狙うよ! えっと…ここだったっけ!)
(おっと、へぇ、誰が撃ったのか分からないけど割と良い位置ね
でも無駄よ!)
「アルル! ハンドルを切れ!」
「はい!」
「フレイは次弾徹甲弾だ!」
「うん!」
「うぁわ!」
あ、危ない…曲がるのが遅かったら着弾してた。
しかし、フレイの奴この揺れの中でもう装弾したのか。
「そこ!」
(うぉっと! 流石にこれ以上はキツいかしら)
(えい!)
(今度はそっち? 無茶苦茶な狙いね…ん?)
ウィンが撃った榴弾はミロル達が居るであろう近くの木を撃ち抜く。
撃ち抜かれた木はその場に倒れた。
(危ない! 後ちょっとで潰れるところだったわ)
「結構無線聞こえてるぞ? 状況モロバレだな」
(なーに、ちょっとしたハンデよ!)
「フレイ! 次弾装弾! 徹甲弾だ!」
「分かった!」
(撃て!)
「っとと!」
アルルが自主的に飛んで来た砲弾を回避した。
(アルルの運転ね、流石)
「そこだ!」
(ち!)
ミロルの部隊は撤退を開始したようだった。
ちょっとだけ状況が不利だと判断したのだろう。
(う、うぉおお! 追いかけるよ!)
(了解です!)
ウィン達はすぐに撤退を始めたミロル達の追撃を始めた。
ちょっと無茶しすぎだろう…いや、ある意味効果的かも知れない。
向こうは俺ばかりに気を取られていたからな。
恐らくウィン達の接近には気付いては居なかった。
そして何より、向こうは俺がこんな指示をするとは思わないだろう。
「…よし! 俺達も追撃を仕掛けるぞ!」
「了解です!」
俺達もウィン達の後に追撃を開始する。
(追撃か…正直あなたらしくないわね、あまりにも愚策よ!)
(うわぁあ! ほ、砲撃を食らいました! 側面です!)
「まさか! 仕込んでたか!」
(そうよ、2発着弾したのは第4チームだけ!
第5チームは側面に待機させてたわ!)
マズった! やっぱり一台多いってのは厄介な部分だな。
(う、うりゃぁあ!)
(な! ち、反撃したっての!?)
恐らく砲撃を受けたウィンが急いで砲撃を食らった場所に攻撃を仕掛けた。
向こうが攻撃を当てられる距離なら、ウィンも当てられる。
だが、最初に砲撃を当てたのは第5チーム、このままだとウィン達はやられる。
えーい! こうなれば賭けるしかないだろ! さっきの砲撃
ウィンがぶっ放した砲弾の先に一撃をぶち込むしか無い!
「当ってくれよ!」
(あ! 敵戦車に弾が当った!)
「そっちは倒したか!?」
(う、うん! 私の弾が当ったとに…弾が飛んできた!)
「よし! 賭けは俺の勝ちだな!」
(く…やっぱりあなたの能力は侮れないわね! でも!)
「アルル! ウィンの戦車に突っ込め!」
「は、はい!」
アルルに指示を出し、第3チームの尻に体当たりをした。
(うわぁああ!)
(げ!)
体当たりをして、第3チームの戦車は前へ逃げ、辛うじて砲撃は外れる。
「ウィン! そのままミロルに仕掛けろ!」
(わ、分かった! ノエ!)
(了解です!)
「俺達も行くぞ! フレイ! 装弾急げ!」
「分かってる! グレーの弾だよね?」
「そうだ!」
ここで一気に勝負を着けてやる!
(まだよ…そこ!)
(わぁあああ!)
ウィン達がやられた! だが、このまま勝負を仕掛けてやるよ!
「アルル! 側面に回り込め!」
「了解です!」
(させないわよ! 捉えた!)
「この!」
砲撃は同時に放たれ、お互いの砲弾は空中で衝突した。
(な!)
「本気でやり合った時みたいだな、弾丸衝突ってのは」
(そうね、でも! 今回は私が勝つわ!)
「今回も俺の勝ちだ! フレイ! グレーだ!」
「うん!」
(トラ! 徹甲弾!)
(分かった)
「そのまま側面! いっけぇ!」
「はい!」
(迎撃してやるわ!)
「そこだぁ!」
(何度も負けてはあげないわよ!)
同時に砲撃が放たれた…ミロルの砲弾は外れ、俺の砲撃は着弾した。
一瞬の間で照準を動かすしか無かったミロルと
もうすでにどう動くか分かっていて、先に砲塔を移動させていた俺の差だった。
俺のこの手はかなりの賭けだった、予想しての先置きだからな。
だが、アルルは俺が予想したとおりの位置に戦車を着けてくれていた。
フレイは短期間で砲弾を装弾していた。
その微妙な差だった…
(……はぁ、まさか最後の最後にやらかすなんて)
「俺が賭に勝ったってだけだ、アルルの事を信用して助かったよ」
(アルルとあんたの連携って、何でそんなに凄まじいのよ。
いや、アルルがあなたに合せてるのが正しいんでしょうけどね
本当優秀な部下よ、あんたの相棒は)
「こんな奴が相棒とかいやだな」
かなり楽しかった…ミロルとの本気の心理戦。
最高に楽しいよ、やっぱりライバルって奴は必須だね。




