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1週間ぶりの帰宅

休養をとることになって、2日ほど時間が経った。

俺は部屋でのんびりとするしかないんだよな。

やっぱり、何もやることが無いのは苦痛かも知れない。

あぁ、ゲームしてぇ、部屋でのんびりと色んなゲームやりたい。

でも、この世界にそんな物は無いし、なら暇な時間はどうするかな。

やることが無いと言うことはここまで苦痛なのか。


「アルル、暇なんだけど」

「ですから、私特製の絵本を読んであげるっていってるじゃ無いですか」

「それ以外だ、読み聞かせとか子供じゃないんだから」

「あはは、リオさんは子供じゃないですか」


・・・・そう言えばそうだった、俺って今は子供だったな。

退屈すぎてその現実から目を逸らしていた気がする。


「と言うわけで読みますね、芋虫さんの冒険」


あぁ、やっぱり俺の話を聞いていないな、なんだって読み聞かせなんて。

と言うか、あいつが持ってる本、表紙に何も書いてないんだが、表紙を作ってないのか。

こいつのオリジナルの本だと言っていたしな。


「ある所に小さな芋虫さんが居ました、芋虫さんはある日壁にぶつかりました」

「は!?」


え? 何? え!? いきなりすぎる! 何で何処かの芋虫がいきなり壁にぶつかってるんだ!?

どんなことがあったよ!


「芋虫さんは、その壁を上ることにしました」

「上ってどうするよ」

「ほら、前に道がないのなら、壁を道にすれば良いじゃない的な」

「迂回とかしろよ」

「芋虫さんは頑張って壁に上りましたが、すぐに飛んできた鳥にむしゃーっとされちゃいました」

「はぁ!?」


え? いきなり壁を上って、いきなり食べられた!? どういうことなの?

もう、こいつの絵本とやらの道が分からない。


「そして、芋虫さんは鳥さんのお腹の中を冒険し、曲がりくねった道を抜け、脱出すると

 とんでもない高さから落下してしまい、草むらに落ちてしまいました、そこでご飯を見付けて

 美味しく食べて、食べられて良かったと思いました、おしまい」

「・・・・訳が分からん」

「はい、私も分かりません」

「お前が書いたんだろう?」

「いいえ、その場で思いついたんですよ」

「どうしてその場で思いついたのが芋虫?」

「リオさんの服の上で這ってる芋虫を見たからです」

「え?」


その言葉を聞き、自分の服を見てみると、そこにはオレンジ色とグレーのシマシマ模様をした

毛虫が這っていた・・・・・・芋虫じゃないじゃん。


「ぬぉぉお! 毛虫じゃねぇかぁ!」

「あぁ、そんなに大声出して暴れないでくださいよ、腹痛が酷い事になりますよ?」

「のんきに言ってんじゃ! あぁ上ってきてるじゃないかぁ! うぐ! 腹も痛い!」

「もう、恐がりさんですね~」

「へ?」


アルルは俺の服についている毛虫を素手で捕まえて、窓の外に投げ捨てた。


「これで大丈夫ですよ、うふふ~、惚れました?」

「おま、毛虫って毒があるんだぞ? それを素手って」

「あぁ、あの毛虫さんは毒ありませんよ? ちょっと毛が硬くて痛いだけです」

「あ、そうなの? だが、女の子が毛虫を見て素手で触って捨てるってどうなんだ?」

「おかしいんでしょうか? 毛虫さんや芋虫さんって可愛いじゃないですか、ぷにぷにしてて」

「まぁ、芋虫は、だが、毛虫はしてない!」

「触ったことがあるんですか?」

「ねーよ!」


あ、腹痛い、やっぱり怒鳴り散らすと腹が痛くなってしまう。


「なら触ってみます? さっきの毛虫落ちてないんで」

「いや! 無理だ! 止めろ!」

「もぉ、何もしないのに可愛そうな毛虫さん」


作物とか食い荒らすじゃないか、十分人間にとっては不利益な存在だろ、あいつら。

種類によっては刺してくるし、あぁ、もうやだやだ全く。


「本当にさ、気が付いたならさっさと取ってくれれば良いのによ」

「刺さない毛虫さんですし、問題ないかなって」

「そう言う問題じゃない、と言うか何で毛虫なんぞがここに入ってるんだよ」

「さぁ? 窓から侵入してきたんですかね」


はぁ、もう窓を開けっ放しで過ごせないじゃないか。


「はぁ・・・・やることが無い」

「なら、軽く外を歩きますか?」

「え? 歩いて良いの?」

「はい、歩くだけなら大丈夫ですよ、むしろ少しくらい歩かないといけませんって」

「そうだな、暇だし歩くか」


暇だし歩こう、何て発想はこの状態じゃないと出来ないだろうな、俺は超インドア派だし。


「それじゃあ、行きましょうね、キツかったら言ってくださいよ、背負います」

「だから、お前に背負われてたまるかっての」


俺達は城の入り口にいた兵士に少し散歩をしてくると伝え、城から出て行った。

外は雲がチラホラある青空で、中途半端に暖かい日差しが俺達を包み込んでくれている。


「生ぬるい日差しだねぇ、中途半端だ」

「中途半端が1番過しやすいじゃないですか」

「それもそうだな」


何事も中途半端が1番楽だ、集中しすぎるとすぐに疲れるが、逆に集中しなかったら何も出来ないしな。


「とにかく散歩だな」

「そうですね」

「・・・・なら、城壁の外に出ても良いか?」

「城壁の外? 街に行きたいんですか?」

「あぁ、そうだ」


折角暇が出来て、歩き回れるんなら当然街に行きたいからな。


「大丈夫でしょうけど、良いんですか? 危険ですよ?」

「危険? 何でだ」

「街の人達は兵士を嫌ってます、分類的に私達は勝ち組ですから」

「ど、どういう事だ?」


何で俺達みたいな兵士が勝ち組になるんだ? 命を賭ける状態なのに。


「・・・・街の人達は、リオさん見たいな幼い兵士を嫌ってるんですよ」

「だから、どうしてだよ!」

「貧困な状態なのに安定して食事が出来る、親は魔法の適性がある子供を生めば

 その子を踏み台に多額の金を貰い、城壁の中に逃げることだって出来るんですよ?

 だから、その逆恨みで嫌われるんですよ」


予想外だった、そんな事になるなんて・・・・兵士になれば嫌われるなんて。


「だが、俺達は命を賭けてるんだぞ? なのに」

「それは、城壁の外にいる人達も同じですよ、戦争が起きれば巻込まれて抵抗できず死ぬかも知れない

 でも、その緊張の中にいたとしても一切の対価もないんですから」


城壁があれば、守られているという安心感も生まれるかも知れないが

その城壁に守られていない人達にはそんな安心はないのか。


「・・・・だったら、兵士になれば良いのに」

「出来ないんですよね、国の方針で能力の無い人物は兵士になれません

 恐らく無駄死にさせないための策なんでしょうが、この状況では愚策ですね」

「・・・・冗談だろ?」

「弱者を守る為の剣と盾になれ、それが私達兵士の誇りと教え、ですが実際は弱者の疎みの対象ですよ

 格好いい事を言うだけ言っても現実はこんな状態、難しい物ですよね世の中って」


崇高な精神がむしろ邪魔になって、愚策となるか。

やはり、崇高な精神は強者か強国が持たねば意味が無いのかも知れない。


「・・・・崇高な精神が愚策を生む、なら強者になれば良いだけの話」

「どういう意味ですか?」

「崇高な精神を持ちたいのなら、強者が強国を作れば良いまでの話だ」

「夢物語ですか? 強者1人で強国は作れませんよ」

「そうだろうな、1人じゃ無理だろう、でも俺達は少数で状況を動かせる可能性がある部隊だ

 戦争において情報はいかなる武器よりも多大に状況を左右する武器だからな」

「そうなんですか?」

「ま、今は動けないし、とりあえず街に行くぞ」

「聞いてました? 危険ですよ」


・・・・アルルは俺を心配してくれているんだろうな、俺も幼い兵士、街に行けば嫌われる対象。

だとしても、だから行かない、何てことはしないし。


「多少の危険ならなんの問題も無いさ、ほら行くぞ、俺は危険だとしても行かないといけないんだから」

「分かりましたよ、ついていきます、そんなあなたを守るのが私の役目ですからね」


城壁から出ると、すぐに沢山の人達が俺の方を見た。

そして、歩いているとたまに石が飛んできたりもした。


「おっとと、物騒ですね」

「ありがとうよ」


その飛んできた石はアルルが止めてくれたりしてくれて、当たることはない。

周りの声も賑やかになって来た、早く死ねとか、そう言う言葉も聞えてくる。

消えろとか、金食い虫とか、役立たずとか、無能だとか、そんな言葉が聞える。

でも、俺にはなんの問題も無い声だ、そいつらは俺の興味にはないからだ。

どれだけ周りがほざこうと、俺には関係の無い何処から間抜けだからだ。


「酷い事を言いますね、リオさんは!」

「アルル、良いんだよ、言わせてれば」

「怒らないんですか? あんなことを言われて」

「俺には関係の無い連中だからな」


そんな風に周りを無視して歩いていると、いつの間にか周りの連中が消えていった。

石も飛んでこなくなり、どうやら飽きて来た様だった。

そして、俺は1週間ほどぶりに俺が育った孤児院に到着した。


「孤児院・・・・ですか、かなり大きいですね」

「あぁ、沢山の子供がいるからな、しかし変化無いな」


かなり多額の金を貰ったんだから、この孤児院も変わったと思ったが変化無しか。


「ただいま」


俺は孤児院の扉に入り、小さな声でそう呟いた。

そして、奥の方から足音が聞えてきてそこから先生が姿を現した。


「リオちゃん!」

「先生、久し振り? いや、1週間ぶりかな」

「良かった! 良かった! 生きてたのね、リオちゃん」

「生きてるよ、死ぬわけ無いじゃん」

「そちらの方は?」

「俺の部下になった人」

「どうも、アルル・フィートと言います、あなたがフレイさん達がよく言っていた先生ですね」

「はい、私はこの子達の母親の代わりをしていたベルと言います、彼女達からは先生と言われてました」


1週間程度しか時間が経ってないのに、何だかここには何年も来てないような感覚になるな。

相変わらず床の軋む音と同時に騒がしい足音がいくつも聞えてくる。


「先生、どうし、あー! リオちゃん!」

「よう、元気だったか?」

「リオちゃんは元気無さそうだよね、その腕どうしたの? 怪我したの?」

「まぁな、でも腕の方はまだ軽症だ」

「でも、怪我だけで済んで良かったですね、リオさん・・・・所でフレイ達はどうしたんですか?

 ・・・・もしかして、3回もあった戦争で」

「大丈夫だって、3人とも必要以上に元気だよ、だから泣きそうな顔をしないでくれ」

「そうなのですか!? 良かった!」


やっぱり先生は俺達の事を心配してくれていたんだな。


「いやっほー! 折角来たんだし! リオちゃん遊ぼ!」

「え? いや、俺はあまり激しく動けないから」

「あははー!」

「うわぁ! 引っ張るなぁ!」


やっぱりこいつらの力にはまだ勝てないな。

そもそも、力むと腹が痛くなるから力を入れられないが。


「リオさん、孤児院にいた間はいつもあんな感じだったんですか?」

「はい、そうですよ、いつも他の子達に振り回されてました」

「フレイさんにも振り回されてたんですか?」

「えぇ、それはもう、いっつも振り回されてましたよ」

「リオさんが帰ってきてくれて、嬉しいですか?」

「勿論ですよ、他の子達も嬉しそうです」

「・・・・そうですか、それともう一つ」

「はい、なんでしょう?」

「なんでここにいるんですか?」


アルルの奴、どういう意図でそんな質問をしやがった?


「リオさん達が徴兵されたんですから、あなたにも多額のお金が払われたはずです」

「ふふ、私はそのお金を使って、あの子達を城壁の内側にある孤児院に移動させようとしました

 ですけど、あの子達は私が来ないのなら行かないと、そう言いましてね、仕方ないので

 そのお金は貯金してますよ、あの子達にご飯を食べさせるために」

「城壁の内側に行けばもっと安定した食事が貰えます、仕事もあるでしょう

 だったら、それを元手にこの孤児院を移せば良い、でもしなかった、何故ですか?」


それは俺も思ったことだ、城の内側に移動すれば安全だ。

移すだけの金も恐らくある、なのにしてない。


「簡単ですよ、ここが無くなったら、城壁の外で生まれ、捨てられた子は何処に行くんですか?」

「え?」

「私は捨てられてしまった子達を救いたくて孤児院を作ったんですから」

「・・・・この国に、あなたみたいな人は珍しいですよ」

「きっと私がそうやって生きていけば、その生き方に影響される人達も出て来ますよ

 だから、私は自分の生き方を変えるわけにはいかないんです

 昔のような優しい国を取り戻すためにもね」


・・・・先生はそんな事を思ってたのか、格好いい事を言うな。

俺もいつかあんな風になりたい物だ。


「リオさん達があなたを慕ってた理由、分かりました、会えて良かった」

「私もです、アルルさん、あなたに会えて私の中にある本当の気持ち

 それを改めて確認することが出来ました、ありがとうございます」

「リオちゃん? どうしたの? ほら、おままごとの続きをしようよ!」

「え? 本当にやるの? マジで?」

「本当だよ! リオちゃんはお父さん役ね」

「・・・・分かったよ、お父さん役ならやってやるよ」


こいつらに振り回されるのは結構久々だしな、折角だし付き合ってやるか。

それから、俺はしばらくの間こいつらの遊びに付き合うことになった。

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